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死闘

深呼吸したナギは周りを見る。


もうほとんどの人は競技場から避難している。



「ナギ!あれは不味い、早く逃げるよ?!」

レムが手を引くが、ナギはその手を両手でギュッと握る。


「レム、それにライカ、みんなの避難誘導…頼めるかな?」

ヘムとライカは顔を見合わせ動揺はしているが理解する。


「ナギ…あれと戦うの?」

ライカは黒い液体が蠢いているのを見ながら言う。


「やってみないとわかんないけど…浄化魔法は使える…」

ナギは2歳の時点ですでに浄化魔法は会得していた。

誰にも話していないし見せてもいない。ただ自分のやることは決まっていた。

だから風魔法の次に最優先で特訓した。


「わかった…無理はしないで。いくよライカ!!それにヴェイトも!!あんた起きてんでしょ!」

レムは怒鳴るように言う。

「け…バレてたのか…しゃーねーな!」

こんな状況でもダルそうに動くヴェイト。

ヴェイトは土魔法を巧みに操り地割れして通れない道に橋をかけ、避難を容易にした。



「さて…人もほとんどいなくなったことだし…そろそろやってみようかな…」

ナギは風魔法で暴風を身に纏い、浄化魔法を外側から散布する。

黒く蠢くモノに対して、圧縮した浄化魔法を撃ち込む…その瞬間!!


ズヴォ!!

浄化魔法を発動した瞬間、

黒く蠢くモノから無数の刃が生え、わき腹を貫通する。


「ぐぅ!!!」

浄化魔法で貫通した部分の刃を消滅させさらに上空を舞う。


「く…これは…不味い…。」

ナギは回復魔法も習得しているが、

こんな所で使っている余裕はない…何より敵の動きが早すぎて回復魔法を使っている間に殺されそうだ…。

一切動きが読めない上に瞬きする間には間合いに入られる…。

脇腹に簡単な止血魔法を施す。



ドォオオオオオオオオン!


「え!?なに?!」

ナギが慌てて競技場の端を確認すると、アーバレストが立っていた。

アーバレストの前方一直線に大きな斬撃の痕跡が残っている。

黒い液体は更に蠢きを加速させ、いよいよ成形が終了したようだ…。


醜い化け物だ…。

ナギとアーバレストの攻撃を受けたからなのか、元々そういうモノなのか…

直視できるような外形をしていない…。

人になりきれていないなにかだ…。



「ナギ!!!どこまでやれる!!!?それにその傷は大丈夫か?!!」

アーバレストが心配して声をかけてくれたので近くまで降りる。


「アーバレスト…凄く助かったよ…。」

ナギは少し辛そうに言う。


「く…その傷…深いし感染している可能性もあるぞ…」

アーバレストはナギの傷を見て時間の猶予がないことを悟る。


「時期に理事長たちも来る、それまで抑え込むぞ!」

アーバレストは言い終わるが早いか一気に突っ込む。

ナギは風魔法でアーバレストの動きを軽くする。


ナギとの一戦のときとは比べ物にならない早さと斬撃の重さ…。

みているだけで圧巻だった…しかし悪魔という敵には時間稼ぎにもならない。

切っても吹き飛ばしても即座に再生する。

しかも再生を繰り返すことで表面硬度が明らかに上昇している。

攻撃すればするほど硬くなる。



「ちぃ…ナギ!浄化魔法は?! なに!?」

アーバレストが一瞬気を逸らした瞬間、

地面から無数の影が伸びる。

尋常でない速度で叩き落しながら後方へ下がると同時にナギが前に出る。


「アーバレストへ攻撃が集中している今なら!!」

浄化魔法…それは自らの行いに比例すると言われている。

徳を多く積んだモノには最上級の浄化魔法が使用できる…なんて言われているほどだ。


確かに浄化魔法を使うモノの中で、憎しみなどの気持ちが前面に出ているものほど効力が低いのは確認されている事実だそうだ。

しかしナギはそういったことは度外視で、ただ人の役に立ちたい、転生したときのあの気持ちを忘れないように、という強い意志を持ってきた。


自分もおやっさんも殺され、彼女の泣き崩れる様子を見て、コノハナサクヤが何者かに襲われるところまで見た。

転生したら両親も祖母も早くになくし、祖父までも奪われた。

憎悪はある…でもそれ以上にこの世界で育てられたことに後悔はない!!

ただ!!感謝しかない!!!



そんな気持ちを胸に、圧縮したマナを一気に放出する。


浄化の光があたり一面を包み込む。

競技場の外からも多数の魔術師による浄化魔法が降り注ぐ。



明らかに悪魔の力は落ちてきた…。

硬直し始めた。

一瞬だ…ほんの一瞬、安堵の気持ちで口から息を漏らした程度。

影はナギに伸びた。


一瞬の判断の遅れが…ナギの心臓へ…。




ナギの心臓へ刺さるよりほんの一瞬先に

悪魔は黒い業火で焼き払われた…。


「みな…無事か?」

理事長が駆け付けていた。

息を切らしている。

魔法のせいなのかここまでの道中で息を切らしたのかは定かではない。


ナギは胸を見ると少しだけ血が滲んでいる。

確認すると、影の先端はすでに皮膚に穴をあけていたのだ。

暴風を纏い、浄化魔法を散布し続けていた身体に容易く穴を空けてくる。

ナギの中で悪魔に対する認識を改める…。

力を隠して戦おうということ自体が間違っているのだと…。

間一髪とはまさにこのことだろう…。



「はぁ…はぁ…理事長。助かりました。」

アーバレストは息を切らしながら地面に倒れこんだ。

もう余力は残っていないのだろう…。




激闘を潜り抜け、また一つ成長したナギであった。

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