悪魔の予兆
4色に昇格して早3日。
周りの人たちもだいぶ落ち着いてきたようで、静かに休憩時間を過ごしている。
4色の部屋に行くと、みんな本とにらめっただ。
誰も喋ることなく、授業はあってないようなもの。
誰も教官の話など聞いていない。
ただひたすらに自分のやりたいことをやっている。
不思議とサボっているわけではない、
みんな何かの勉強を自習で行っているのだ。
なぜかと言えば簡単な話だ。
教官は3色程度の実力しか持っておらず、
それ以上成長させようにもどうすれば4色から5色へと昇れるかわかっていないからだ。
誰か生徒達はただひたすら自分の高めるために知識を得ているのだ。
ナギはというと、最近は3色のクラスへ赴き、レムとライカと一緒に授業を受けている。
かといって、家に帰ってからの自主練は怠らない。
寝る前には必ずマナを消費しきってから寝る。
それを繰り返すことで確実にマナ保有量を底上げしていく。
数日前より確実にマナ保有量が向上しているのは実感できている。
あくる日、理事長直々に呼び出した宮廷魔法師団の1人が学院に来た。
この魔法学院の卒業生であり、5色まで上り詰めた男だ。
名前を"ガラエル・ホルン"と言い、周りの話では5大元素を操るとのこと。
それって滅茶苦茶すごくね??
競技場に連れてこられた4色の面々の他に、物凄いギャラリーが集まっている。
もちろんレムとライカも最前列で見ている。
ガラエルが口を開く
「さて4色をもらった諸君…どうやってそこから上を目指すかが分からずに迷っているということを聞いた。
簡単な話だ、実戦を詰め。
まずは冒険者組合へ登録をする。
依頼を受注し魔物を討伐する。
いやでも実力は底上げされ、君たちは5色、もしくわそれ以上の高みへ行けるだろう。
しかしだ…君たちをみて思ったのは…実にぬるい環境で育っているということだ…。
君たちは…自分の血を見たことがあるか?」
そういった瞬間…4色の何人かの腕が吹き飛んだ。
痛みを堪えきれず気絶する者もいれば、ギャーギャーのた打ち回る者もいる。
何人かは逃げ出した。
残ったのはナギともう1人の男子だ。
彼の名は"ヴェイト・レーベルン"
名前は名簿で見てしった。
普段は読書をしているイメージだが、この状況に臆していないようだ。
「おい…どういうつもりなんだ…」
ヴェイトが怒りを露わにしている。
「どうもこうも、強くなりたいなら実戦の経験を積む他ないと言っているのだ
少なくとも、俺はそうやってこの立場まで登り詰めた!」
ザバァァと風の太刀がヴェイトに向かって飛んでいく。
「ちいい!!」
ヴェイトは即座に"ダン!"と足で地面を踏むと、ヴェイトの目の前に土の壁が出来上がる。
しかし土の壁は簡単に砕け散り、ヴェイトは後方に吹き飛ぶ。
次の一撃はナギを標的としていたが、
アーバレストとの一戦の後、防御に対して色々と考えてきただけあって、
風の障壁によって守り切る。
「なに?」
ガラエルは舌打ち交じりに気に食わなそうな顔をする。
「ふん!!!」
さっきの一撃とは明らかにマナの質が違うのを察し、一気に横へ飛ぶ。
ナギがいた場所には大きな爪痕が残る。
「ち…鬱陶しい!!」
ガラエルは火弾と水弾、土弾を連続で発射する。
ナギは暴風を纏って全て無効化する。
「?! なんだそれは…くっそ面倒くさい!!!」
ガラエルは一気にマナを放出し、ナギの真下は一気に過熱される。
「!? まずい!?」
間一髪、ナギは暴風をキャンセルしその勢を自分にぶつけて強引にその場から離れる。
その瞬間、大きな火柱が燃え盛った。
「これは…!?」
ナギは見上げてしまう。
自分ではこんな大きな魔法を行使できない。
今できるのは些細な魔法を工夫することだけ…。
一方ガラエルは全く疲れを見せていない。
これほどのマナを消費しているのに息切れもなく落ち着いている。
これが宮廷魔法師団の実力ってことか?!
っていうか宮廷魔法師団がどのくらい強いのか知らないんですけどね??!!!
ヒュンッ!!
ガラエルが右手を横に一閃した瞬間、火柱が一気に横へ流れる。
「んな!!?」
こんな使い方って!!
一度出した火柱の形状を変えて動かすなんて!?
風の魔法じゃ防ぎきれない…!!
「ナギ!!!負けるな!!!!負けたら学食驕りだからね!」
「ナギ、頑張って~」
レムとライカが応援…?してくれてるし頑張んなきゃだ!
それに…何より…サクヤとのあの約束を破るわけにはいかない!!!!
ナギは右手で風を、左手で水を操る。
「ぇ!?ナギって水も使えたの!?」
レムの驚きを横目に火竜と化した火柱に対応する。
風と水を勢い良く混ぜ合わせ火竜と真っ向からぶつかる…。
物凄い水蒸気で会場が霧のように包まれる。
!!
今ならやれる!!!
ナギは一気に攻勢に出る。
誰にも見られないこのタイミングは外せない!!!
風を身に纏い一瞬でガラエルの真後ろに移動する。
アーバレストの時でさえ出力は抑えていたが、今回は全力の速度だ。
人の認知できるところではない。
ナギの移動の瞬間、遅れて周りの空気が動く。
ガラエルは何が起こっているかさえわかっていない…。
「これはまだ…誰にも見せていないんです…。」
ドンッ!!!!
背後から心臓へ一撃…風の力を借りて右手を思い切り前方へはじけ飛ばした。
魔獣戦で使ったものとは違い殺傷力はない…。
だが衝撃は相当のものだろう。
ガラエルは吹っ飛び、壁に叩きつけられた。
ナギが吹き飛ばした瞬間は、他の誰にも見せることなく戦いは終わった。
「え~っと…ナギが勝っちゃったってことでいいのかな?」
レムがライカに疑問を投げつけるが、
「たぶんそうなんじゃないかな?霧を利用して後ろに回り込んで風魔法を叩き込んだって感じかな?」
「んんん~!!!すっごいじゃんナギ!!!!!!」
レムがナギの元へ駆け出し思いっきり抱きしめる。
「すごい!!すごいよナギ!!!!」
「ちょ…あ、当たってる…ちょっと~///」
ナギは顔を真っ赤にしながらレナを引き離す。
「でもナギが水魔法まで使えるなんて知らなかったよ!?」
「あ~、うん、最近使えるようになってね、やっぱり使えるに越したことはないかな~って」
苦笑しながら説明する。
「ちなみにこの前の教官には風魔法の適性しかないって言われてなかった?」
レムから素朴な疑問を投げかけられる。
「あ、あ~そういえばそんなこともあったね。
今お世話になってるダイン家の奥様でミーナさんという方に教わったんだよ。」
嘘じゃない、嘘はついていない。
水魔法のことをすこ~しだけはなしをしたことはある。
「そうなんだ!よっぽどその人は優秀なのね、適性のない人を鍛えるなんて?」
レムはへぇ~といった感じで信じてくれている。
「まぁそういうことで、切り札だよ!」
ナギはこういえばなんとかなるだろうと思った。
「なるほど!切り札か~、かっこいいねぇ」
満面の笑みで言われちょっと心が痛む。
でも隙をついたとはいえ風魔法だけで勝てなかった‥。
風魔法を使うときは他の魔法を使うよりもまるで疲れを感じない。
これが適正と関係があるのかわからないけど、
なぜか風魔法は自分でもしっくり来ている気がする。
「きぃさぁぁまああああああああああ!」
ガラエルが咆哮を上げ異常な起き上がり方をする。
「!!?」
ナギも驚きを隠せない。
何日かしたら目を覚ますだろうという力で与えた一撃…。
いくら宮廷魔法師団の1人とはいえ、こんなに頑丈なのか?!
「殺す!!!!
ここにいるもの全員!!!!
一人残らず!!!!!」
ゴゴゴゴゴという地響きを立てながら地面が割れる。
「これは…こんな!?」
魔術の規模が違う!?
ナギは対策を考えるより先に身体が動いていた。
規模を考えるに本気でここにいる生徒も教官も殺すつもりなのだろう…。
風を纏って一気に上昇し、
高速回転する圧縮した風の刃をガラエル目掛けて投擲する。
「この一撃…どう出る?!」
まともにはガードできないよう回転を加えてある一撃。
数多の可能性を考えているが、その全てを裏切られる。
ズバッ!!
「ぇ!?」
ガラエルの身体は真っ二つに切り飛ばされ、半分の身体はそのまま風の刃でズタズタにされた。
「キャアアアアア」
「うわ~~~なんだあれ~~~!!!殺しちまったぞ!!!」
予想外の行動に夥しい血しぶき…
目撃したものたちの中には気絶するものも見受けられる。
「く…なぜ躱さなかった……ん?」
ナギはガラエルの肉体から何かが溢れ出すのを確認した。
ゴボォォォオ
黒い液体がガラエルの身体を飲み込み形を成形していく。
「なんだ…あれは…」
ナギの背筋は凍り付く…憎悪だ…ガラエルの肉体から凄まじい憎悪がこみ上げている…。
「ま、まさかあれは‥悪魔!?」
1人の教官が見覚えがあるようだ。
すぐにその教官の元へ向かう。
「先生!あれについて何かご存じなんですか!?」
ナギは急いで教官へ話しかける。
「知っているというか、書物で見たことがあるだけだが…
あれは悪魔と契約して体内に悪魔の子を飼うというもので、
その悪魔の子の誕生に酷似している…。」
教官はオドオドしながらもはっきりと"悪魔"といった。
「これが…悪魔…」
ナギは一度目を閉じ大きく深呼吸をする。
この後の戦いを頭の中で整理するために…。