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亡き祖父の思い

朝はミーナの…あまり美味しくない料理をごちそうになった。

美味しいとは言えないが、食べられない程ではない…。

お世辞か味覚がおかしいのか、アーバレストは美味しい美味しいと言っておかわりしている…。

これなら昼か夜はナギが料理を作ろうかと考える……居候の身だし。




準備運動を始めると、アーバレストの動き…というか剣裁きが凄いのが素人が見ても明らかだった。


「ねぇ…アーバレスト?」

「なんだい?ナギ??」


ゴクリと唾をのむ。


「もしかして…もしかしてなんだけどさ…その剣を僕に向かって振るうつもりなわけないよね?あっはっは」

「なんだそんなことか。あっはっはっは、もちろんこの剣でやらせてもらうよ?」

「ですよね~…ってじゃないよーーー!!!そんなの危ないじゃないか?!」

「あっはっは。ナギの実力はバルト様から聞いているよ。魔術の腕もさることながら、身のこなしが良いと念を押されていたよ?」


じいちゃ~~~~~~~~ん!!!!

なんかたま~に視線を感じたりしたのはじいちゃんだったのか!!

しかもアーバレストに報告していたとは…ほんとじいちゃんって何者なんだ…。


「そういえば、おじいちゃんって凄い人だったの?」

素朴な疑問だが、アーバレストの話を聞いているとどのくらい凄かったのか気になる。


「ヴェ!?し、知らないのかい?!」

「ヴェエエって…うん、おじいちゃんは自分のことあまり話さなかったから。」

アーバレストは少し考え、どこまで話そうか思案しているようだ。話せないような内容があるということなのか…。


「バルト様は元宮廷の剣星と呼ばれる人だったんだよ。魔獣の群れを精鋭隊だけで食い止めたという伝説も残されている。その時の精鋭たちは、みな口を揃えて、"剣星"と称賛したそうだよ。」

そうだったんだ…おじいちゃん、凄い人だったんだ。


「アーバレスト、ありがと。僕の知らないおじいちゃんを教えてくれて。」

ナギはにっこりと笑って返した。


「よし、じゃぁそろそろ身体も温まっただろうから…始めようか?」

アーバレストからピリピリするものが飛んでくる…知っている…これは殺気だ。

2歳の時、おばあちゃんが殺されるときに感じたものと似ている。あの時よりも弱いけど、唇は異常に乾く。


「ねぇアーバレスト…」

「なんだい?ナギ??」

「アーバレストはこの間倒した魔獣を一人で倒すことができる?」

「???まぁ…できるな。俺一人でも倒すことはできる…だが殺すことはできない。」

そう、魔獣は剣士だけでは倒せない。魔獣との闘いにおいて、剣士やハンターと言われる前衛、または中衛職がいて、バックアップを行う魔法使いがいて、しかもその魔法使いが浄化の魔法を使えることが魔獣を倒せる唯一の手段だと言われている。

冒険者パーティでは必ず浄化を使えるものが1人は存在している。



「アーバレスト…僕、少し本気…出していいかな?」

「んなっ?!?!」

アーバレスト程の男があまりの集中力と敵意に一歩引いた。


…。

これがバルト様が仰っていらしたことか。






******一通の手紙*******

一通の手紙がアーバレストに届く。



バルトからの手紙

拝啓

アーバレスト殿 いかが過ごされているだろうか。

私はこの身体になってから満足に出歩くことも困難となった。



さて本題だ。

私が死んだとき、私の孫であるナギをお前に預けたい。

もう私は半年も持たぬ…。近いうちに折り入って話をしたい。

あともう一つ…ナギのことじゃ。

ナギは幼い時からあまりにも辛いことが重なっている。

子供の心では受け止めきれないほどの悲しみを背負っている。

それがどうやら、魔術や剣術へ興味を持ち、そちらに執念を燃やしているようなのだ。

クラオン(ナギの父)やトリム(ナギの母)の残した書物を漁り、わずか2歳半で言語を習得した。

尋常ではない…通常は10歳で覚えるような内容すらも吸収し、異常に成長している。

特に自然をも操ると言われている"風"魔法に特化している。

レナと何度か出かけていったときも、多くの精霊や妖精が集まったとも聞いた。

風は祝福を呼ぶと言われるが、使い方を誤れば危険なものじゃ。

一度、あの子の本気とは言わずとも、5割程度の力を見てやってほしい。

頼む。



**************************



思い出すだけでゾッとした。

たかが5歳に満たない子にそこまでさせたこの世界の摂理…。


アーバレストは心の中でナギを恐れている節があった。

レナ様(バルトの妻でナギの祖母)が亡くなられてから、バルト様もだいぶ落ち込まれていた。

しかしその悲しさを超える以上の驚異があった。

ナギ・テスタロッサ。

わずか8歳でバルト様を畏怖されるほどの子供…。


・・・・・。

アーバレストは深呼吸をする…。

…。殺さないにせよ身体を2つに切り落とす程度の覚悟を持って対峙している。

「いい敵意だ…子供とは思えないな…。」

アーバレストは苦笑する。


「…いきます。」

ナギの一言からアーバレストは一瞬で俺の懐に入る。

真横に薙ぎ払う一筋を、

辛うじて風魔法で後ろに飛び退く。


「くっ!!早い!」

ナギが構えるより早くアーバレストは後ろへ回り込んでいた。

後ろから斜めに切り落としにくる。


「くっ!!」

真後ろという絶対的な死角を感覚で掌握する。


ドォオオオオン!


地面には叩きつけたような跡が残る。

ナギの風魔法で、空気を圧縮してなりふり構わず自分の真後ろに叩きつけた。


しかしアーバレストは無傷。

叩きつけた痕跡の一歩後ろに引いていた。


「さすがにないとは思っていたが…認識できない場所に魔法を撃つことってできるんだね」

アーバレストは苦笑しながら問いかけてきた。



「…。昔一度、その死角のせいで大切な人を失いましたから…」

ナギの瞳には一遍の迷いがない。



「ナギ…私の技を一つ見せよう。剣士特有でね、代々受け継がれていたり、自分で創造したりと色々だけど…。私のこれは後者だ。」

アーバレストは剣を地面に突き刺した。


「なにを?」

ナギは疑問に思う。

剣士が剣を放棄してどう戦うというのか。

殴りかかってくるような感じではないし…。


その時、ゾクっ!!!!背筋が凍る。


ナギの身体は宙を舞った。

数10メートルという距離を吹き飛ばされる。

なにかデジャブを感じるがそれどころではない。

肩が上がらない…脱臼しているのだろうか。


「く…くっそ…。」

ナギは痛みを必死に堪え立ち上がる。

風の障壁がなければ死なないにしても致命傷になる威力だ。


「驚いたな…力を抑えたにしても、その程度では済まないんだけど…」

アーバレストの表情は真剣そのもの…死んでいても気にしないという雰囲気すら見受けられる。


「ほら、もう一度いくよ」

アーバレストが言い終わる前に、風の魔法で滑るようにアーバレストの横に移動する…はずだった。

アーバレストよりもナギの方が早かった…間違いなく早かったのに吹き飛ばされた。

ゴロゴロと転がりようやく止まる。

全身が痛くて力が思うように出せない。


「これで終わりかい?私が聞いていたナギ・テスタロッサならもう少しやる男のはずだが。」

安い挑発だ、でも負けたくない。


「っく…クッソ!」

ボワッ!

ナギの身体に凄まじい風が集まる。



「まさか…動かない身体を風で?!」

アーバレストは息をのんだ。目の前にありない光景が映った。

「と‥飛んでいる…のか」

驚きのあまり見入ってしまう。魔法とは言えできることに限界はある。

限界というのも、確かに人は空を飛ぶことができる。

ただしほんの数秒だ。

地面から跳躍しその下に風魔法などを用いて一時的に飛ぶ真似事はできる。

しかしマナが足りない。

アーバレストは魔法に詳しいわけではないが、もって10秒。

だが目の前のナギは、完全に浮いているのだ。

10数秒でもなければ、根本的に別の魔法も纏っている。

同時に二つの魔法を操っている…。


「なるほど…マナの器の大きさはバルト様の予想通りだったわけか…これは…危険だ」

アーバレストから明確な殺意が伝わってくる。


「アーバレスト…ありがとう、僕の知らない力を見せてくれて。

これは僕からのお礼だよ」

そう言ってナギが腕を払った瞬間、アーバレストは500メートルほど離れた木々の中へ吹っ飛んでいった。


「くぅうう…」

マナの消耗が激しい…ナギのマナも限界が近い…頭がクラクラする…


ドーーッン

という音とともにアーバレストがすぐに戻ってくる。



「ふぅう…ここまでにしようか。」

アーバレストが剣を納めた。

その瞬間にナギの緊張はプツンと切れ、風に支えられ倒れこむ。

もう寝ているのだ。


「ふぅう…恐ろしい子だ。ミーナ…悪いが手当頼む。私のな?」

苦笑してアーバレストが言うと、ミーナが物陰から姿を現す。


「ナギの力を見てどう思った?率直な感想を教えてくれ」

ミーナは回復魔法をアーバレストにかけながらナギを見る。


「桁外れなマナの量に加え、風魔法を自分の体の一部のように操っています…まるで妖精のように…」

「妖精か。ふふ…あながち間違いではないのかもしれないぞ?」

アーバレストは笑いながらそう言った。

意識がとんだはずなのに、風はナギの周りに留まった。

術者の意識が切れたら、凝縮されたマナは雲散するはず。


「ねぇあなた…この腕…。」

ミーナは心配そうにアーバレストを見る。

「あぁ、折れているよ。防御なしで思い切り腕を持っていかれたからね。」

苦笑しながら言うが、ただの骨折ではすんでいない。

「まったく、この力の持ち主がそこでぐうスカ寝てる子供の力とは…この世もまだまだわからないことが多い。」

アーバレストはナギに微笑みを向ける。

「…。一度レナ様にお聞きしたことがあります。

妖精は人をからかったり友達になってり、子供のような存在なのだと。

しかし精霊は静かに対象を見守り、いざというときには精霊が囁くそうです。」

ミーナはアーバレストを真剣な眼差しで見て、伝説の魔法を語る。


「精霊魔法…世界を創り出したと言われる神様が、

世界に祝福をもたらす為に4体の精霊を解き放ったと言われています。

火の精霊 サラマンダー  司るは温熱

水の精霊 ウィンディーネ 司るは凍冷

風の精霊 シルフ     司るは空気

土の精霊 ノーム     司るは大地

でも…とある地域ではもう1体の精霊の神話もあると聞いたことがあります。」


「もう一体?初めて聞いたな…」

アーバレストは今まで5体目の存在など全く知らなかった。

噂すらも聞いたことがない。


「私も詳しくは知りませんが、神様、天使という存在があって、その対となる悪魔が存在する。

この世界の調和を司る神だということは覚えているのですが…名前はなぜか思い出せないのです。」


「第5の精霊か‥」

アーバレストは真剣な面持ちでナギを見るのであった。









マナの枯渇は食事と睡眠で回復することができる。

単純明快だ。

ナギが目を覚ましたのはアーバレストとの一戦の2日後だった。

身体中が軋んでいるのがわかる。


ミーナが笑顔で料理のフルコースを出してくれた。

簡単に言ってしまえば、

サラダにトマトスープに鳥肉チャーハンと言ったことろか。

この際だ…味は関係ない。

胃に物が入って消化されマナに変換されればいい。


がつがつ食べる姿を見て大喜びのミーナであった。



ナギが目を覚ます半日前…

アーバレストは魔法学院の理事長と話をしていた。


「なるほどな…バルト殿のお孫様で、しかもアーバレスト殿の推薦もあるとなれば間違いないのでしょう。

編入を認めましょう。」

魔法学院 理事長 リーディー・フォン・マウエルである。

「ありがとうございます理事長。では、これで」

アーバレストは深い礼をし去っていく。



****理事長室*****

「で、どう思ったのか、各位の意見を聞こうではないか…」

理事長に似た何かがニヤりと笑い、数多の影に問いかける。

「オモシロクナッテキタナ」




アーバレストの第一声に驚かされる。

「えぇぇ!?明日からもう学校なの?!」

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