表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

その金色は水面に映り、やがて泡沫に消える

作者: シロボウ

「ほら祐介、おばあちゃんに挨拶しな」

「こんにちは。よろしくおねがいします」

今年で5歳になる祐介は、田舎にある祖母の家に遊びに来ていた。

夏になると毎年こうして顔を出し、8月中はほとんどこの家で過ごす。

「そんな固い挨拶せんでもいいべ。ほれ、スイカ用意するから上がりな」

祖母が廊下を歩き始めると、母親はお辞儀をして、また車に乗った。

夏にこの家で過ごすのは、祖父と祖母と祐介だけ。それでも祐介は、この時を楽しみにしていた。

居間で待っていると、キッチンから出てきた祖母がスイカを持ってきた。スイカはきれいに切り分けられており、種も食べやすいよう取り払われている。

夏に奪われた水分を補充するように、祐介はスイカにかぶりつく。果汁の甘さが口いっぱいに広がり、やがて全身を潤していく。

次々に平らげていき、5切れ目のスイカへと手を伸ばそうとしたところで、玄関からガラガラと音がした。祖父の帰宅が知らされる。

「おお祐介、来とったか。どうだ、俺の作ったスイカは? うまいか?」

祖父が祐介の頭をワシワシと撫でる。祐介はコクコクと頷きながらスイカを食べ続けた。

「おいしいよ」

「そうかそうか。でも食べ過ぎると腹を壊しちまうからな、残りは明日にとっておいた方がいいんじゃねえか?」

祐介はハッとして立ち上がる。スイカを2切れだけ持って、玄関へ走っていく。

「今日はこれだけにしとく。これはあの子と食べてくる!」

「おう、気ぃつけてなー」

玄関を出て、そのまま少し離れた川沿いまで走った。ここにはいつもあの子がいる。

祐介はキョロキョロと辺りを見回した。この辺りは民家も人気もないため、人がいるとすればあの子だ。

少し川下の方に、膝を抱えて座る1人の女の子を見つけた。川の中にいる魚をじいっと見つめている。

祐介は女の子の元へ駆け寄り、話しかけた。

「やっぱりここにいたんだ。ね、スイカあるんだけど食べる?」

「ありがと。もらうね」

ふわりと風が吹き、女の子の髪がなびく。その黄金は透き通るような美しさで、意識していなくても見とれてしまう。

金髪に白いワンピースが映えて、より一層彼女を儚く可憐に見せる。背丈は同じくらいなのに、年上のお姉さんのように見えてしまうほどだ。

「おいしいね。祐介、いつもありがと」

「全然いいよ。それにしても、ポーラはなんでいつも魚を見てるの?」

「きれいだから。それに、自分まで自由に泳いでるつもりになれて楽しいよ」

2年前、1人で遊んでいた祐介は、いつの間にか帰り道がわからない場所まで来てしまう。

その時川に人影を見つけ、家の特徴を話して案内してもらった。その助けてくれた人というのがポーラだった。

ポーラはいつも、この川に一人で佇んでいる。それを知った祐介は、よくここに来ては一緒に遊んだ。

「今日はどうする? 面白い虫探しに行く? それともここで川遊びする?」

「ううん。今日はここで一緒にお喋りしよ」

「わかった。さっきね、家でスイカを5切れも食べてきたんだ。それでおじいちゃんが腹壊すぞって言うから、その前に一緒に食べたいなと思ってここに来たの」

祐介は慣れた口調で話し始める。遊び回ることもあれば、こうして動かずに話すだけということもよくあった。祐介はすっかり話し上手になっていた。

もうすぐ小学校へ通い始めるためランドセルを見に行ったこと、明日は誕生日のため親がケーキを買って家に来てくれること、今はスイカでお腹いっぱいであることなどを話した。

ポーラは相槌を打ちながら、魚についての雑学を披露したり、この辺りにいたヘンテコな虫について話した。

いつも通り楽しげに話していたポーラだったが、今日はどこか心ここにあらずだ。

祐介はその異変に気付くが、原因はわからない。水面に写ったポーラの表情は、実際に見るよりも寂しげに見えた。

「ポーラ、どうかしたの?」

「……明日、6歳になるんだっけ。先に祝っちゃおうかな。おめでとっ」

ポーラの振り絞ったような笑顔に、祐介は心が締め付けられる。

しかし違和感はあれど、何もおかしなことは起こっていない。

「え? あ、ありがと。そうだ、プレゼントはゲームにしようと思ってるんだ。明日になったら一緒にやろうよ」

「そうだね、そうしよう。……ねえ、今から駄菓子屋に行かない?」

急な提案に驚くが、当然快諾する。

「いいよ。いつものとこ?」

「うん。早く行こっ」

ポーラは祐介の手を握って走り出した。祐介は少しドギマギしながらも、駄菓子屋へついていった。

そう離れていないところに馴染みの駄菓子屋がある。2人ともお小遣いを取り出し、思い思いのものを選んでいく。

「あ、ラムネ売ってるね。暑いし買っていきたいけど……ギリギリ買えないなあ」

「私はギリギリ買えるけど……うーん、私だけ買うのもなあ」

「またお小遣いもらったら一緒に飲もうよ。すみませーん、これくださーい」

祐介はお気に入りのお菓子を買い、おばちゃんを呼んだ。奥から出てきてお菓子を確認し、会計を始める。

「えーと、全部で80円ね。そっちのお嬢ちゃんは何も買わんのかい?」

何度も来ているはずなのに、一向に名前を覚えてもらえない。祐介も例外ではなく、どれだけ教えても明日には坊っちゃん嬢ちゃん呼びだ。

「もうおばちゃん、この子はポーラだって。ポーラ、何買うか決めた?」

「……やっぱり、スイカでお腹いっぱいかも」

祐介は一瞬キョトンとした顔になるが、まあそういうこともあるだろうと気には留めなかった。

支払いを済ませ、駄菓子屋を出る。ポーラとお菓子を分けっこして談笑していると、いつの間にか夕暮れ時になっていた。

「もうこんな時間かあ。じゃあまた明日ね。明日は誕生日プレゼントのゲーム持ってくるから、それで一緒に遊ぼ!」

「……うん! また明日ね!」

お互いに別れを告げ、帰路につく。祐介は気が付けばぐっすり寝ており、すぐに誕生日はやってきた。

母親が車から降りて、大きな紙袋を持ってくる。中にはケーキとプレゼントが入っており、楽しいひとときを過ごした。

ひとしきり祝ってもらった後、祐介はプレゼントのゲームを持って飛び出すように家を出る。

いつもの川へ行き、キョロキョロと辺りを見回す。

「ポーラ! ゲーム持ってきたよ! 一緒に遊ぼ!」

しかし、返答は返ってこない。いつもこの川沿いにいるのだが、今日は遅くなるのだろうか。

仕方なく祐介は待つことにした。ポーラがいつもそうしていたように、水面に映る自分と、泳ぐ魚をじいっと見つめた。

一緒にゲームをしようと約束していたこともあり、なんとなく一人でやる気分にはならなかった。

そうして1時間経ち、2時間経ち、夕暮れ時になってもポーラは来なかった。

祐介は約束をすっぽかされたのかと悲しくなったが、急用ができることだってあると言い聞かせた。

仕方なく今日は帰路についた。すると玄関に一本のラムネが置いてあることに気付く。

ラムネの下にはメモが置いてあり、『おたんじょうび おめでとう』とだけ書かれていた。

もしかして、昨日ラムネを欲しがったから買ってきてくれたんだろうか。

まだラムネが冷たいことから、まだ近くにいるだろうと思った祐介は辺りを探し回った。

しかし一向に見つかる気配はない。家でラムネを飲みながらしょんぼりしていると、祖父が話しかけてきた。

「そうだ祐介、6歳になったんだったな。この町の守護霊様の話、知ってるか?」

「なにそれ?」

「この辺りは守護霊様がみんなを守ってくれてるんだけどな、5歳くらいまでの子供はその守護霊様が見えるってよく言うんだよ。まあ最近は子供があんまりいないから聞かないが」

祐介は嫌な予感がした。ちょうど6歳になった自分と、急に会えなくなったポーラ。知りたくないのに、体が勝手に聞いてしまう。

「ねえ、それって見た目は僕と同じくらい?」

「さあ、俺は見たことないからわからねえけど……みんな揃って金髪の女の子だったって言ってた気がするな」

子供ながらに祐介は、夏の間だけ会えていた親友と二度と会えなくなったことを悟り、静かに泣き始めた。

密かに抱いていた恋心も、泡沫に消える。しかし彼女との思い出や、その日飲んだラムネの味を生涯忘れることはなかった。

月日は流れ、祐介は自分の足でこの町へ来訪した。

2本のラムネを買い、思い出の川沿いで魚を見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ