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3 魔法少女とマスコット

「実況民もがんばっとるなぁ。魔法少女ベリィベリー(イチゴたん)艶姿(あですがた)が見られるとわかったら、逃げた連中も戻ってきたわ」

 スマホをポチリながら、タカアキが感心したように独り言ちる。

「なんでぇ!? 結界は!」

 マジカル・ロッドを振り回しながら、依智心(いちご)が悲痛な声を張り上げるが、タカアキは煙草代わりに取り出した棒つきキャンディーを舐めながら唸る。

「萌えブタどもの精神力で突き抜けてきたようやな。この世界の人間も侮りがたいわ」

「その情熱を別な方面に向けるべきじゃないの!?」


 ネズミ型ADB(アドブ)の群れを相手に、休む暇もなくマジカル・ロッドを繰り出しながら、真っ当なツッコミを入れる依智心。


「つーても、世の中、こういう暇人や無駄金を使う連中のお陰で経済が回っているわけやしなぁ……お、応援歌もトコトコ動画に流れとるで。『♪ラブラブマジカル、べリィ・べリィ♪ 萌える瞳にツインテール。キュートな笑顔はまじ卍♪ (はにゃ~んはにゃ~ん) ちゅきちゅきラブラブ……』」

「うわあああああっ!!」

 応援どころか、聞いているだけでSAN値をゴリゴリと削られる気がする依智心であった。

「なんだよ、その恥ずかしい歌は!?」

「いや、これ結構有名なボカロPが作ったもんやで? それにこのくらいならまだマシな部類やし、中には自分から主題歌を歌ってる魔法少女もおるで。ほれ、例えば五人組の『魔法少女隊フルーツピークス』とか……」


 わざわざスピーカーにしたらしい。少女五人が歌う能天気そうな歌声が響く。

『F・R・U・I・T・S、フルーツフルーツピークスー♪ 絆を信じて戦おう♪ 三角関係こじらせた挙句、初代レッドはチームを裏切った~♪ だけど負けないフルーツピークス~♪』

「なんかいろいろとツッコミどころ満載過ぎるーっ!」

 十匹目のADB(アドブ)を叩き潰したところで、さすがに肩で息をしながらそれでも一言物申さずにはいられない依智心であった。

 ちなみにネズミ型ADB(アドブ)は、まだまだ百匹くらいはいる上に、端のほうでは餌を食べてさらに増殖している。


「はあ……はあ、ちまちま削っていては追いつかないよ。もっとこう強力な魔法の武器とか、面で制圧できる魔法とかはないの?」

 肩で息をしながらタカアキに問いかけるも、

「う~~ん、強力なのはポイントも高いからなぁ。イチゴたん、残り156Pやろう……あんまし無駄遣いはできんで?」

「ここでケチって負けるよりはマシだよ!」

「気が進まんなぁ。そんなドンブリ勘定やと、5000Pする『性転換薬』が、いつまで経っても買えんで?」

「いらないよ、そんなもの! ――って、『ポイントを無駄遣いするな、貯めとけ貯めとけ。世の中、信じられるのは金とポイントだけやで』って言ってたのは、そんなものを購入させるためだったの!?」

 普通、正義の味方の魔法少女にマスコットが言い聞かせるポリシーとしては、愛とか信頼とか友情とかのふわふわした概念じゃないかなぁ……でも、他人の薄情さ、無関心、裏切りとか身に染みてるから、信じられるのはお金だけっていうほうが、個人的には賛同できるかも、と思えてタカアキの言い分を鵜呑みにしていた依智心。


 その上で、後々のことを考えて、ポイントを貯めてよさげな魔法武器なりスキルなりを購入させる目論見があるのだろう……と、漠然と考えていた依智心は『冗談だよね?』という含みを持たせた眼差しをタカアキに向けるも、当人はいたって真面目な表情で頷いた。


「そや。イチゴたんは男やるのは似合わんからなぁ。早めに矯正してやらないかんと思うてたんや」

「性別に似合うも似合わないもないよ!! だいたい昨日まで男子だったのが、いきなり女子になったら周りや家族がどう思うと考えてるわけ!?」

「中学デビューやろう」

「そんなデビューをする気はないよ!!」


 言い返しながら、マスコット(タカアキ)相手に聞くよりも、自分で調べたほうが早いと判断した依智心は、近くにあった二階建ての商店の屋上まで、ほんの数歩で登りきると、スマホを取り出していまのポイントで購入できる武器を検索し始めた。

「“マジカル・バースト”150P……対巨獣戦車砲? 威力は凄そうだけど。ポイントがギリギリ過ぎてちょっと躊躇するな。あ、この“マジカル・クラッカー(C4)”なら使い捨てだけど、一個5Pで買える。とりあえずこれで様子をみるか?」

「……なんでそうイロモノばかりを、ピンポイントで購入しようとするんやろうなぁ」

 ぼやき節とともに黄色いマスコットが、屋上へと壁を登ってきた。


 反射的に叩きつけられるマジカル・ロッド。

「おわ――っ!?!」

 間一髪で躱したタカアキの代わりに、屋上の手すりがへこんだ。


「なにすんねん!?」

「あ、ごめーん。てっきりADB(アドブ)が上ってきたのかと……」

「フレンドリーファイアというわりには、しっかりワシのこと認識していて、葛藤ゼロで攻撃したような気がするが……」

 ブツブツ文句を言いながら、タカアキは依智心(いちご)の肩に上って、選択しかけていた武器を凝視する。

「……なあ、イチゴたん。『鶏をさばくのに牛刀を使う』ってことわざ知っとる?」

「それくらいは知ってるけど、『大は小を兼ねる』とも言うでしょう?」

「……まあいいんやけどな。流れ弾や爆発で第三者に犠牲が出ようと」

「えっ……? 魔法って、ADB(アドブ)以外には効果がないんじゃないの???」


 なんでそうなるんや? と言いたげな表情で、物理的にへこんだ屋上の手すりを見据えながら、タカアキはため息をついた。


「世の中、敵味方を判別して外す銃弾や爆弾があれば、ワシが見てみたいわ」

 そんなわけで強力な火力によるごり押しは頓挫したのだった。

評価やご感想など、作者のやる気が持続しますのでよろしくお願いいたします。

メインの作品の更新があるので、続きはちょっと間が空く予定です(そもそも需要あるのかなぁ)。

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