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密会 後

誤字多くて申し訳ございません。

ご指摘ありがとうございました。

俺が予知じゃない?

それはありえないだろ?


予知の代償の結果、俺はここにいる。


鉢の予知だって見えてるし、青春時代の記憶まで犠牲にした。

予知でなきゃなんだってんだよ。


「どうしてそう思われるんです?」


逆に聞き返すと、ウェイドは少し驚いたようだった。

ロイルに激似のその顔に理解の色が広がっていく。


「知らなかったのか。ベアドの方は・・心当たりが無きにしもあらず・・か?」



!?



横を見れば、すっげー難しい顔で考え込んでいるベアド。   


おいおい、悩む余地あるか?

お前の大好きなルジンカちゃんはおっさんを自称する趣味なんて無いだろ?


テンパる俺に、ウェイドがたたみかける。



「たまたま記憶を失ったタイミングで悪い夢でも見たのを予知だと勘違いしたんだろう。クラウドは私に会うことを知っているのか?」


「もちろん話しましたが・・」


「生まれた子どもが一族の魔法を受け継いでいるかどうかは必ず調べる。予知の本家の一人娘ならなおのことだ。おそらく、クラウドは私が知っているとは思わなかったんだろう。まあ、お前達を止めなかった理由にはならないが・・」



「仮にルジンカが予知でないとして、なぜウェイド様がご存じなんです?」


ベアドが問う。


おっさんが他言していたはずはない。

ベアドが知らないくらいだからな。



「王家には色々な情報が集まってくる。帰ったら父親に聞いてみるといい。それと、ロイルのことなら1人で思い悩むな。私でよければいつでも相談にのろう。ルジンカが義妹になるのは大歓迎だからな」


ホッと息をつき、人の好さそうな笑みを浮かべる。

少なくとも、俺には陰謀めいた気持ちがあったわけじゃないと判断し安心したようだ。


もう完全に終了モードだよ。




元々予知は世の中を混乱させるって理由で禁術にされたくらい信用が低い。

その魔法さえ受け継いでいないんじゃ、ただの与太話よたばなしだ。


信じてもらうには、俺が予知だと証明できなきゃ無理だろう。



大学ここ分心石ぶんしんせきはありますか?それを使えば魔法を受け継いでいるか分かるんですよね?」


勢い込んで尋ねたが、ウェイドが答える前に横からベアドが却下する。


「すぐには無理だ。あれを使うには事前の準備がいる。家にもあるから後にしろ」



なら、一旦引くのかと思わせたが、ベアドは真っ直ぐウェイドを見る。


「ルジンカの血がどうであれ、予知を行うことは可能でした。フラボワーノには別の手段があります」


「別の手段・・・?」


「はい。ウェイド様ならご存じかもしれませんが・・」


探るようにベアドの顔を見つめるウェイド。

何かに思い至ったように、背もたれから小さく身を起こした。


「まさか・・・予知薬?本当に存在していたのか?」


「残念ながら完成品とは言えません。効果も不安定ですし肝心の代償が大きいままです。研究は既に行われていませんが、試験薬が残っています。ルジンカは発見時、この予知薬を服用していました。父がルジンカの話を信じたのはそれがあってのことかと・・」


これは半ばハッタリだ。

予知薬サキミールは記憶障害しか起こさない欠陥品だと言っていた。


だが、本当に俺に予知が使えないなら、このサキミールの効果と考えるのが妥当だ。

鉢にしこたま吐いたからな。


「予知薬か・・・少なくとも、代償に関しては真実なのかもしれないな。ルジンカの記憶の失い方は少々不自然だ」


「不自然ですか?」


思わず聞き返す。

自然な記憶喪失って何だよって感じだが。



「ほとんどの記憶がないのだろう?所作も全然違うから、日常的な動作の記憶も失われているようだ。その場合、もっと空っぽというか・・大きな赤ん坊のようになるはずだが、今のルジンカは年相応かそれ以上に見える。さっきも言ったが中身が別人と入れ替わったようだ」


俺をじっと見つめたままズバリ言い当てる。



「ご指摘の通りです。ルジンカは魂の中の記憶の順番が入れ替った状態であると私達は考えています。取りつくろってはいますが、当初から現在まで本人にはルジンカである自覚がありません」



ベアドはそのまましばし考え、俺にこう切り出した。


「ウェイド様に自己紹介を。僕や父上にした時の様に」


「え?今?ここで?」


「そうだ」



お嬢様ぶりっ子にもだいぶ慣れてきたし、急にヒロシをやれって言われてもな。

なんか、わざとらしくなっちゃいそうで気恥ずかしいんだが・・


居ずまいを正し、ボソボソと始める。


「えー・・ウェイド様。俺・・私はルジンカではありません。木村広と申します。37歳の男で、ルジンカの前世とのことです」


突然名乗り出した俺を、ウェイドが食い入るように見つめてくる。

予知の説明を聞いてるときより俄然がぜん真剣だ。


「こことは違う世界にいまして・・日本という国でSEやってました。SEとは・・つまりは普通の会社員ですね。不慮の事故で死んで、気づけばこの体に入ってました。最初は驚きましたが今は新しい生活に順応できるよう日々努力している次第であります・・」


緊張しつつ言い終える。



「キムラヒロシ・・。つまり、ルジンカとは全く別の人格ということか?」


「自分的には別ですが、家族は同じだと主張しています。実際、ルジンカの記憶が少しずつ戻ってきてるんですが、ロイル様を追いかけるのとかすごく複雑な気分です。親子ほど歳の離れている同性ですのでね。たまに乙女心みたいのが凄い暴れ方するんで、大変というか理不尽さを感じているというか・・」


俺に視線をえたまま、真剣な顔で聞き入るウェイド。


「目覚めた時は家族や屋敷の記憶がわずかにある程度でした。ウェイド様はもちろん、誰のことも覚えてなかったんですけど、身体的な特徴や絵姿などから人物を特定しました。だから、私としては予知をしたんじゃないかと思ってるんですが・・」


鉢のことを説明できないのは歯がゆい。

でも、あれを没収されたり壊されたらおしまいだ。



「・・・女の体に入るというのはどんな気分だ?」


興味津々に問われる。


「体格とか服装とか全然違うんで最初は戸惑いました。体力無いですし、腹もすぐいっぱいになるし、ドレスとかコルセットとか大変で・・・でも元の私は100キロあったんで、贅肉が取れた分を考えると今のが楽ですね。呼吸もスムーズだし、イビキで喉が痛くなることもないし。激しく踊って疲れることはあっても、膝が痛くなったりしませんし。これは若さもありますかね?」



段々調子が出てきた俺。

こういう話はおっさんもベアドもほとんど耳を貸そうとしないからな。

貴重な体験にもかかわらず、誰にも話す機会が無かった。


「股の相棒も無くなって喪失感あったんですが慣れました。無くなったというか、すごく奥に引っ込んだ感じですが。前は太ももの肉に押しつぶされないよう気を付けるのが当然だったんですけど、その必要もなくなりましたし。座るにしても、その他にしても、無意識にかなり注意を払ってたんだなって気づかされました。メンテナンスもいりませんしね」


指で股間を示しながら述べる。

ウェイドの顔に動揺が走り、ベアドが眉間に深いシワを作った。


「服装や習慣の違いに不便さを感じることも多いですが、文句なしの美少女ですし。鏡を見るのも楽しいし、羨望せんぼうの眼差しも気分がいいし、女性の友人に囲まれるのも楽しいです。金持ちのお嬢様でチヤホヤされて、総体的にはかなり満足しています。あとは予知の解決とロイル様への恋心をなんとかクリアできれば文句なしですね」


ルジンカじゃないというアピールのためにも、なるべく詳細に語ってやる。



「・・今でもロイルと結婚したいか?」


「いいえ。私としては全く思ってないはずなんですが・・ふられた時のこととか思い出すと、猛烈に泣けてきまして・・」


嘘でも演技でもなく、いつもの様に俺の目から大粒の涙が溢れ始める。

胸が痛い。



大きく唸るウェイド。



「・・・代償が本物だからといって予知まで正しいとは限らないが・・私の情報が間違っていた可能性もあるし、そもそも予知とは不確定なものだからな。それに、これは・・・」


ハンカチを頬にあてる俺を見ながらぶつぶつやった後、骨張った指でポンッと膝を打つ。



「キムラヒロシといったな?ひとまず信じよう」


暗殺されるって言ってるのに、微妙に嬉しそうなウェイド。



「本当ですか!ありがとうございます」


ベアドと共に頭を下げる。


「だが、ロイルが私をどうこうするとは到底思えないんだがな」


再び椅子にもたれ、長い足を組みながら言う。


「クルクミー侯爵ならありえると?」


すかさずベアドがつっこむ。


「・・・心当たりはなくもないな・・現段階でそこまで思いきった手段に出る程ではないと思うが・・」



他言無用だと釘を刺し、ウェイドは話し始めた。


「私は将来的には回復薬の生産規模を縮小していこうと検討しているんだ」



思わずベアドと顔を見合わせる。


回復薬。


やはり、そこに繋がるのか?



「治癒の回復薬は優れている。だが、高価で物量も少なく庶民には縁の無い品だ。万能でもない。その割りに医療水準の向上を妨げる一因にもなっているし、なにより製造課程に少々キナ臭い処置が必要でね。量を増やせないのもその為だ」


「キナ臭いとは?」


俺の問いは「企業秘密だ」とかわされた。


「減産は医療の向上とのバランスを見ながらだがな。フラボワーノの新薬にも期待しているんだぞ?」


それはウェイド排除の動機となり得るだろう。


「フラボワーノの新薬は完成目前です。当初の予定では今年の秋を目処にしていました」


「そうだったな・・だが、治癒の回復薬も生産を完全にやめるわけではない。数を絞れば稀少性も上がるし価値も上がる。今までギリギリ手が届いていた者からは不満も出るだろうが・・だからこそ急激に進めるつもりもなかったが・・・」


「リコピナ嬢の存在が追い風になったのでしょう」


ベアドが控えめに口を挟む。


女が極端に生まれない治癒。

一族から王妃を出せるチャンスは滅多にない。

リコピナがもっと早く見つかっていれば、間違いなくウェイドの嫁に猛プッシュしたはずだ。


ウェイドが死ぬか、世継ぎが生まれない事態になればチャンスは再び巡ってくる。

第2王子に過ぎないロイルにゴリゴリ娘を押し付けるのはそれを見越したものだ。


「・・・かもしれないな。一応ゼルセースには動機がある。だが、フラボワーノとてそれは同じだが。クラウドの娘の偏愛ぶりは有名だ」




「ウェイド様、体調の方は変化ありませんか?ここ最近で」


気になっていたことを聞いてみる。


「通常運転の範囲内だな。この季節にしてはあまり良くない日が多い気もするが」


「お倒れになられたとか?」


「あの日は起床時から体調が悪くてね。珍しいことではない。ゼルセースのせいだと言いたいのか?」


「それは分かりませんが・・」



ウェイドが部屋の時計をチラリと見る。


「また何か新情報があれば教えてくれ。今後は協力していこう」



連絡の取り方等を簡単に打ち合わせ、お開きとなった。

時間差退出をするため、俺らはもうしばらく部屋に待機だ。



帰り際、ウェイドに聞きたいことがまだあったことを思い出す。


「あの、ロイル様にルーガ・・オーゴニー公爵と親しくしないよう言われているんですが、何かご存じですか?」


「ルーガ?・・さあな。ヤキモチじゃないか?」


「そういう感じでもなかったんですが・・」


「ロイルは色んな意味でルジンカに捕らわれているんだ。私も例外じゃないがね。素直になれない年頃なんだろう。あまり気に病むな」



少なくとも、ウェイドに心当たりはないようだ。



「ではルジンカ・・いや、ヒロシと呼ぶべきかな?また日を置かずに会おう、ヒロシ」



やっぱり少し嬉しそうに去っていく。

ヒロシはおじさんなんだが、それでもいいのかね?


にしても、面と向かって名前を呼ばれたのは久々だな。

この世界に来て以来か。


ちょっと新鮮な気分だった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 久しぶりに入ったらいっぱい更新されてて嬉しい気持ちでいっぱいです…… やっぱり面白いです。ヒロシが前との違いしゃべるところで吹きました笑。ウェイドが意外と常識人でびっくり。共有と魅了がなん…
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