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なんか見た夢

「嬉しいですわ!ロイル様と2人でお散歩なんて久しぶりですもの!」


俺はニコニコと隣を歩く金髪の男に話しかける。


浮き立つ心を押さえきれない。

淑女しゅくじょたしなみも忘れ、危うくピョンピョン跳びはねそうになる。


ダメね。

あの庶民と一緒になっちゃう。


「ロイル様、新緑が素敵ですわね。私、この並木道がとても好きですの」


「ロイル様、今度のバーベキューパーティーには参加なさいます?今日のようなお天気だといいですわね」


「ロイル様、バラ園ではシズンティカが見頃ですわ。今年は綺麗な朝焼色になりましたのよ。急げば見に行けますわ」


俺は必死で話しかけているのに、ロイル様は「ああ」とか「そうだな」とか生返事ばかりだ。

あまり楽しそうじゃない。

ロイル様から誘ってきたのに。

さっき、あの庶民と話していたときの方がよっぽど・・・


「どうかなさいまして?元気がありませんのね」


「うん。ルジンカに話がある」


ロイル様がやっと口を開く。

良くない内容なのはすぐわかった。


「何です?」


純粋なデートではなかった。

胸に失望が広がっていく。


「お前のリコピナへの態度は改めるべきだと思ってな。気が合わないのは解るが、少々目に余る。」


「・・・・・・・」


リコピナ。今一番聞きたくない名前だった。


「リコピナはクルクミー侯爵の娘だ。お前と同じく私の婚約者候補でもある」


「あの庶民上がりがロイル様にふさわしいとは思えません!」


「それは、お前が決めることじゃない」


ピシャリと言われる。


「とにかく、あまり問題を起こすな。自分の評判を落とすことになるぞ。いいな?」


話は済んだとばかりに、ロイル様はきびすを返す。

バラ園はすぐそこなのに。

膨らんでいく不安と不満。


「・・・ロイル様は・・・リコピナのような女がお好きなのですか?リコピナを選ぶおつもりだから肩を持つのですか!?」


聞かない方がいいとわかっていたが、止められなかった。


「まず自分の行いを反省しろ。それに、私は婚約者を私情では決めない」


自分の顔から血の気が引いていくのがわかった。


「・・・!?し、私情で決められるなら、リコピナを選ぶと!?」


「そんなことは言っていない。なんでも色恋沙汰と結びつけるなという意味だ。そもそも、お前とリコピナの二択でもない」


「・・・父は陛下から、私とロイル様との婚約の了解を内々に頂いたようなことを申していました・・・あとは当人同士の気持ち次第だと・・・」


「・・・初耳だな」


「だから父はベアドを養子に迎えたのです。私の結婚を見据えて。なのに、もう1年もたつのに、それっきり話が進まなくなって・・・・・」


「陛下にも色々とお考えがあるのだ。1年前なら、なおさらリコピナは関係ないだろ」


だが俺にはわかった。

ロイル様の顔に、ほんの一瞬後ろめたそうな陰がさしたのを。

他の者なら気づかなかっただろう。

でも俺にはわかる。

幼い頃からずっとロイル様を見つめてきたのだから。


婚約が決まらないのは、ロイル様の意思・・・?

まさか!

胸が早鐘はやがねのように鳴り、緊張とショックで体が震えた。


もつれる舌をなんとか動かし、ずっと胸に引っかかっていたことを聞く。


「・・・リコピナとバラ園に行かれたそうですね。ロイル様からお誘いして・・教室でリコピナがシズンティカを見せびらかしておりましたわ。ロイル様からいただいたと!」


「それがどうした?」


「私が何度お誘いしても、ご一緒して下さらなかったのに」


「だから今日は声をかけたろ」


「リコピナの話をするためでしょう!?バラ園のことなどお忘れだったではないですか!」


「忘れていたわけではない。花を見ながらする話でもないだろ」


なお悪い。

やはり、リコピナのためではないか。

忘れられていた方がましだった。


「・・・バラ園のシズンティカは私が植えたものです。私の一番好きな花をロイル様にお見せしたかったから!なのに、あんな女と見に行くなんて・・・!!」


悔しさで涙が溢れ、頬を伝っていく。


幼い頃からずっと思いを寄せていた。

こちらを見て欲しくて必死だった。

なのに、たった1月前に現れた庶民上がりに、やすやすとなびいてしまった。


「口をつつしめ。私がどこに誰と行こうとお前の許可など不要だ。そんなに花が惜しければ自分の家にでも植えておけ」


怒りを押し殺そうとする低い声。

俺を面倒がっていることは隠そうともしていない。

これ以上は本当に嫌われてしまう。

だが、俺は止まらない。

憎しみにも似た感情が燃え上がり、生まれて初めて目の前の男をにらえた。


滑稽こっけいですわ!婚約者は私情では選ばないなどと言いながら、私を拒みリコピナにはえこひいきばかり!自分に思いを寄せる女が育てた花で、他の女の気を引こうとなさるなんて、恥知らずですわ!あなたが陛下のお子でなければ、どれほどの人間の尊敬を集めることができまして!?」


ロイル様の顔がみるみる怒りに歪む。

こんな態度をとる日が来るなんて。

俺はたたみかける。


「ご命令通り、リコピナへの態度は改めますわ!きっとロイル様に感謝して、しなだれかかってくれますわよ!良かったですわね!私が嫉妬深い嫌な女で!!」


すてゼリフをはき、返事も待たずに走り出す。

背中で何か聞こえたが、もう頭に入らなかった。

スカートをひっつかみ、乱暴に手足を動かして走り続ける。


たどり着いた先はバラ園だ。


後ろを振り返るのは悔しい。

ロイル様が追ってくれるはずもない。

でも、振り返ってしまった。


誰もいなかった。


涙がとめどなく溢れ、激しい感情と喪失感そうしつかんでクラクラした。

黙々と足を動かす。


朝焼け色に輝くシズンティカ。

俺の一番好きな花。

あんなに咲くのをワクワクしながら待っていたのに。

一緒に見るはずだったのに。

手折たおった花を、髪にしてもらうのが夢だったのに。


今や挫折ざせつと屈辱の象徴だ。

ロイルとリコピナに汚されてしまった。


夢中で花を引きちぎる。

花があれば、きっとまた2人は見に来る。

地面に落ちた花を1つずつみ潰していく。

「かわいそうに」なんて言いながら、いそいそと花瓶かびんに飾るリコピナの姿が想像できたからだ。


最後にシズンティカのくきを思いっきり蹴り飛ばして折る。


疲れたわ。

もう帰りたい。帰ろう、家に。

今すぐに・・・・



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