エロ本
疲れてたんだが、爆睡とはいかなかった。
浅い眠りで、なんか夢をバンバン見てた気がする。
今でも夢の8割は前の世界のときのものだ。
登場人物も職場の人間とか家族とかね。
夢ってなかなか現実に追いつかないよな。
引っ越しとか転職とかしても、しばらく旧情報のままだし。
俺が死んだ後、みんなどうしたんだろうな?
俺は両親と兄貴の4人家族だった。
中学までは父方の祖母が生きてて同居してた。
大学卒業と同時に一人暮らしを始めて、かれこれ15年。
盆暮れ正月くらいしか帰省しなかったけど、家族と特別仲が悪かったとかはない。
ここ数年は“痩せろ”と“結婚しろ”ばっか言われてね。
痩せろって言うわりに、あれこれ食わそうとするんだよな。
まあ、食ったが。
俺の残した大量の無限美ちゃんグッツは、きっとしっかり者の兄貴の嫁によって、ネットで売り払われただろう。
あれの価値がわかる人間の手に渡ってくれるなら本望だがね。
子どもにもどんどん金がかかるようになるしな。
おっさんがいないので、今日の晩飯はベアドと2人だけだ。
前の兄貴は色黒で小太りで、無駄にテンションが高かった。
結婚式の披露宴で、友人と一緒にパンツ一丁で踊っちゃったりしてさ。
ベアドとは似ても似つかない。
俺の家族も様変わりしたもんだ。
なんといっても、自分が一番変わったのだが。
女になっちゃったしな。
夢見のおかげで感慨深く飯を食う俺に、新兄貴が話しかける。
「もう風呂に入ったか?」
「入りましたけど?」
「そうか・・・」
食事の手を休め、俺の顔を見る。
しばらく何事か考え込んだ後、こう切り出した。
「この後、少し付き合ってくれ」
「いいですけど・・何です?」
「大した用じゃない。冷えるから何か羽織って来い」
そう言って黙々と食事を再開した。
連れて行かれた先は中庭だった。
すっかり日が沈んだ中で、水灯と夜光種の葉が色とりどりに光る様は幻想的だ。
そういえば、まだちゃんと歩いたことなかったな。
リリアが持ってきてくれた若草色のショールを羽織る。
「なんだよ?わざわざこんなとこで」
「僕は室内でお前と2人きりにならないよう、父上に厳命されているんだ」
前を歩くベアドが淡々と話す。
「へえ」
「今までは控えろと言われる程度だったけどな。一昨日の夜から厳禁になった」
「信用を失ったな、お兄さん」
「実の兄妹じゃないからな。もともとそれくらは当然の配慮だ」
言われてみれば登下校の馬車以外で2人きりになったことほぼないな。
隠し部屋行ったときくらいか?
そこら中に使用人がいるからな。
部屋も同じ2階ではあるが、巨大な屋敷の両端に離されている。
発情期の男を娘とひとつ屋根の下に迎えるにあたり、おっさんも心中穏やかではなかったらしい。
今だってもちろん2人きりじゃない。
俺達の少し後ろに、リリアがそっと控えている。
ちょうど会話が聞こえない程度の絶妙な距離感だ。
まあ、室内よりはましなんだろう。
「そういえば、あの手紙はよかったな」
唐突にベアドが言う。
「誰かに出すように言われたのか?」
「誰が言うんだよ。ほんの思いつきだって」
「ルジンカは前もよく手紙をくれたんだ。また気が向いたら書いてくれ」
あんな内容でいいのかよ・・・と言いかけて、オッパイオ使いタワワーナを思い出す。
「そういえば、ありがとうな!エロ本」
忘れないうちに礼を言った俺に、ベアドが振り向く。
「その言い方はやめろ。あれは猥褻本じゃない」
俺を見下ろし、厳かに訂正した。
「あのタイトルでか?」
「準じるものだと書いたろ。あと、念のため言っておくが、僕の私物でもない」
「いいよ、わかってるって」
「わかってない。いいか?あの手のものの貸し借りの際に使われがちな言い訳じゃない。本当に僕の私物ではない」
めっちゃこだわるな。
てか、貸し借りしてんのかよ。
「はいはい。そんなんどうでもいいから。まだ読んでないんだけどさ、どんな話なんだ?」
「タワワーナという娘が美食を極める旅に出る。道中出会う悩める精霊達のティンポッポを、オッパイオで挟み食ったり食われたりして、浄化していくというグルメ冒険紀だ」
「完全なるエロ本じゃないか」
「今のところ普通の書籍として取り扱われている。フラボワーノへの忖度で猥褻本として認定されずにいるんだ」
小さくため息をつくベアド。
「あれか?またティンポッポがらみかよ」
「そうだ。今までにも、卑猥なものの隠語として、オッパイオやティンポッポは多用されてきたんだがな。あの本の問題点は、完全なるグルメ本として書かれていることだ。普通の食事シーンを猥褻認定すれば、うちの心証を悪くするんじゃないかと心配した輩が認定を先延ばしにしている」
オッパイオもティンポッポもエロくない、というフラボワーノの主張は有名らしいからな。
「そのせいで、書店によって扱いがバラバラなんだ。人目もはばからず堂々と目立つ場所に置かれる場合もあって問題になっている。しかも人気作品で、まだまだ続巻中だ」
「今後はエロ本になるのか?」
「さあな。うちが決めることじゃない。この件はフラボワーノはノータッチでいく。下手に首を突っ込めないからな」
涼しい顔で言い切る。
うちのくだらない主張のせいで、良識ある世間の皆様に迷惑をかけていることへの反省はないようだ。
きっと立派な侯爵様になることだろう。
「前置きが長くなったが、あれはその件の資料として保管されているタイトルだ」
あくまで私物ではない、という説明だったのか。
なげーよ!
「で、どうだった?資料ならお兄さんも読んだんだろ?」
とりあえず感想を聞く。
「あくまで資料として目は通した。それだけだ」
「好き嫌いくらいあるだろ?」
「お前と分かち合うつもりはない」
切れ長の目でこちらを睨む。
「俺、巨乳は好きなんだが、巨乳ものは良し悪しが大きいんだよな。あんまりデカいとエロを感じられなくなるし。ただデカいだけじゃダメだよ」
「タワワーナ自身の胸のサイズについては書かれてないな。あくまで果物のオッパイオという設定だ」
「何巻まで出てるんだ?」
「確かもう7、8冊は出ていたはずだ。うちには3巻まである。気に入ったらなら残りの2冊も後日渡そう」
「なんで全部買わないんだよ」
「あんなの3冊も読めば十分だ」
どうやらお気に召さなかったらしいな。
ベアドが足を止め向き直る。
「それと、ここに来てもらった本題だが・・」
上着の懐から、1冊の本を取り出す。
こちらも高級そうなブックカバーつきだ。
「これを渡しておく。こっちは正真正銘の猥褻本だ。取り扱いには十分注意しろ」
幻想的な夜光種の輝きをバックに、クソ真面目な顔でエロ本を差し出す。
昼間にバラ園の花々をバックにシズンティカをくれた王子様との落差がすごいな。
でも、お前にはお似合いだよ。
これが。
「おお!マジか!?」
“資料”という逃げ道がある本があったにも関わらず、本物のエロ本も持ってきたベアドへの驚きが隠せない。
俺はいそいそとカバーを外し、タイトルを確認する。
『吊るされ男の猟奇的なティンポッポ ~僕は吊るされなきゃできない~』
思わずベアドを2度見する。
「・・君、大丈夫かよ・・・こんなカミングアウトされても困るんだが・・」
「黙れ。それも資料だ。タイトルにティンポッポと入っているだろ。うちにはそういうのが集まって来るんだ」
憮然とした表情で言う。
「はあ?ならこういうの沢山あるんだろ?なんでよりにもよってこれ持ってきたんだよ?もっとあるだろ、メイドさんとか、看護婦さんとか!」
俺はこっちに来て、がぜんメイド好きになった。
前はあんまり興味なかったんだけどな。
なんせ、屋敷中にウロウロしてるし、巨乳も美人もたくさんいる。
ほとんど会話したことないけどさ、着替えやら風呂やら手伝ってもらってるし、嫌でも意識しちゃうんだよ。
ボディータッチの機会が多いからな。
まあ、触られるばっかりだが・・・
息遣いとか、体温を感じるとドキドキするんだよ。
ちなみに、俺のナンバーワンは歯科助手さんものだな。
巨乳のね。
身を乗り出して口を見てくれるときにさ、たまにパイが頭にあたるだろ。
いい匂いがしてさ。
あれめっちゃ最高な!!
実体験があると、入り込みやすいんだよ。
意外とアイドル系はダメなんだよな..
無限美ちゃんと比べちゃってね。
あと、オフィス系はいいね!
残業中とか、会議室とか憧れだ。
俺、一回でいいからコピー機使ってみたかったんだよな。
もちろん、カラーコピーね。
どう使うかは、割愛するが。
「メイドものはダメだ」
俺のクレームをベアドが厳しい口調で退ける。
「なんでだよ?」
「万が一使用人に見られたらどうする?そういう目で見ていると思われるだろ」
「そういう目で見てるから読むんだろ?」
「だからダメだと言ってるんだ」
「別にお前が読むわけじゃないんだからいいだろ。私物じゃないんだろ?」
バツの悪そうな顔をして、そっぽを向くベアド。
「とにかく、いきなりこんなキワモノを選ぶってヤバいよ、君。今からそんなんでこの先どうするの?」
『吊るされ男~』の皮表紙をコツコツ叩き、力説する。
「うるさい。きわどいものがいいと希望したのはお前だろ、それに、その本は挿絵があるぞ。カラーで」
「吊るされた男の絵見てもしょーがねーだろ。きわどいって、そういう意味じゃないから」
「それくらいわかっている。一応、恋愛要素の少ないものを選んだ結果だ。そもそも気を紛らわすのが目的なんだろう?」
言われて、ようやく俺は本来の目的を思い出した。
「そういえば、そうだったな。完全に忘れてたわ」
「なら、まあ良かったな・・・それが一番だ」
小さく頷いた。
「てか、いっぱいあるなら自分で選びたいんだが」
さっき沢山集まってくるとか言ってたからな。
「それには父上の許可が必要だ。保管してある部屋に鍵かかっている。お戻りになったら頼んでみよう」
「ん?じゃ、タワワーナとかその吊るされ男はどうしたんだよ?」
ベアドが渋い顔をする。
「・・たまたま部屋にあったものだ」
「マジの私物・・・・!?」
『吊るされ男~』を見せられた今、もう俺は笑えない。
パンドラの箱を開いた気分だな。
「こんなもの買うか。友人や卒業された先輩から押し付けられたものだ。正式に受領したものじゃないから、私物とはみなしていない。どうせ同じものが資料として書庫にもあるからな。だから資料も同然だ」
厳密には資料じゃねーだろ。
まあ、正直にゲロったので不問にしてやる。
いち早く俺にエロ本を渡す、という事を優先してくれたのだと受け取っておこう・・。
「はいはい。しかし、お兄さんが本当にエロ本を貸してくれるとは思わなかったな」
「僕は、ルジンカを泣かせないためならなんでもする」
「・・・・大袈裟な言い方するなよ。本棚からエロ本持ってきただけだろ」
「そうだな。今はこれくらいしかしてやれない・・・・・・・それのせいなのか?」
ベアドが俺の目からわずかに視線を横にずらして問う。
“それ”。
俺の髪に挿されたままのシズンティカのことだ。
さっき風呂に入るとき、外せなかった。
結局、髪も洗えていない。
あの時は、まだ花を挿した姿を自分で確認してなかったからな。
腫れあがった顔で見てもしょうがないからと、後回しにした。
やっぱり自分でも見ておくべきだとは思ったんだ。
夢が叶った姿とやらをさ。
夕飯前に鏡を見た。
「また泣いたのか・・?」
気づかわしげに問うてくるベアド。
俺はしかめっ面で頷く。
昼寝明け。
「髪をお直し致しますか?」リリアにそう声をかけられ、頭のシズンティカのことを思い出した。
チラッと見て、それで終わりだと思っていたんだがな。
鏡を見た瞬間、胸が痛んで涙が止まらなくなった。
花を挿してもらったときの喜びと、拒絶されたことへの悲しみがグワッと蘇ってきてね。
リリアは無理に髪をいじろうとはしなかったし、俺もやれとも、やるなとも言えずじまいだ。
髪もたいして崩れてなかったから、結局そのまま飯に行った。
「花を受け取ったときほどじゃないんだけどさ、ロイルを好きだった記憶に感情が持ってかれるんだよ。前とは違うな。1度治まっても、ちょっとしたことでぶり返すんだよ」
前っていうのは、ロイルにゲロをぶっかけたときのことだ。
あのときは吐いたらすぐに楽になった。
思い出した感情や記憶も、その後の俺の生活に影響を与えるようなことはなかったしな。
まあ、不快感はあったが。
「その感情を否定する必要はない。さっきの手紙にも書いたが、ロイル様と結婚すれば解決するだろう」
「・・・今はあんまつっこむ気にれないんだが・・振られてんのにどうやって結婚すんだよ?」
その瞬間、また胸がキリキリして涙がにじむ。
「クッソ!クッソ!!いい加減にしろよな!!」
キレながらショールで目をこする。
「すまない・・つらいことを思い出させたな・・・早く、これを見るといい」
ベアドが鎮痛な面持ちで詫びながら、『吊るされ男~』の挿絵のページを広げてくれた。
「いや、だから吊るされた男見たって・・・・・おお!!」
俺の涙が止まる。
そこには、紙面いっぱいに描かれた、あられもない姿のおねーさんの絵。
かなりリアルでエロい。
「これ、クオリティ高いな!」
全然期待してなかっただけにいっきにテンションが上がる。
「初見のインパクトは大きいだろ?挿絵は全部で10枚ある。今1枚見せたから残りは9枚。無駄に使うな。本当に危ない時だけ見るようにするんだ」
親身なアドバイスを無視して、俺は迷わず次の挿絵部分を広げた。
ベアドが何か言うより先に、
「頼む。取ってくれ・・」
頭を軽く振り、早口で言う。
ハッと目を見開き、ベアドはすぐに理解してくれた。
俺の左耳の横に手を伸ばし、ロイルが挿したシズンティカをそっと取り去る。
胸がギュンギュン痛み、涙が溢れてきた。
俺は3枚目の挿絵を開き、4枚目、5枚目も開いた。
3枚目はアクロバティックすぎる構図でいただけないな。
「大丈夫か・・・?」
心配そうに尋ねてくる。
「うん。助かったよ。また頭洗えないとこだったからな」
エロ本のおかげか回復が早い。
6枚目は見なくても大丈夫そうだ。
「2、3巻も持ってくるべきだったな。後で部屋に届けよう」
ベアドのその言葉で、涙は完全に止まった。
・・・・・マジの私物でないことを祈るばかりだ。
おっさんの帰りは遅かったが、鉢の予知が気になったので待っていた。
今日は新回復薬の完成が遅れるっていう情報を流す日だったからな。
ちゃんと寿命が伸びているがチェックしたかった。
前回予知
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『☆死☆の運命星』5月7日
ルジンカ・フラボワーノ 17歳 →1/1日生まれ 現在16歳
①シェイラ・フラボワーノ 40歳 →10/10日生まれ 現在39歳
②黒丸
③黒丸
④ロイル・ノヴァ・アルフェノール 17歳 →3/3日生まれ 現在16歳
⑤黒丸
⑥ネレッサ・アルフェノール 19歳 →5/5日生まれ 現在19歳
⑦ゼルセース・クルクミー 49歳 →11/11日生まれ 現在48歳
⑧リコピナ・クルクミー 16歳 →不明
→推定死亡(処刑)時期:来年3/3~5/4 推定逮捕時期:今年9月~11月くらい
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今回予知
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『☆死☆の運命星』 本日5月9日
ルジンカ・フラボワーノ 17歳 →1/1日生まれ 現在16歳
①シェイラ・フラボワーノ 40歳 →10/10日生まれ 現在39歳
②黒丸
③黒丸
④ロイル・ノヴァ・アルフェノール 17歳 →3/3日生まれ 現在16歳
⑤黒丸
⑥ネレッサ・アルフェノール 20歳 →5/5日生まれ 現在19歳
⑦ゼルセース・クルクミー 49歳 →11/11日生まれ 現在48歳
⑧リコピナ・クルクミー 16歳 →8月8日生まれ 現在15歳
→推定死亡(処刑)時期:来年5/5~8/7 推定逮捕時期:今年11月~2月くらい
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2、3か月分の寿命が伸びていた。
「やはり、回復薬の完成を待ったのか」
「だな」
俺とベアドはそう納得した。
だが、おっさんが首をひねる。
「実は、まだ延期の情報を流せてないんだよ。昨日からの大雨で早馬が遅れちゃってね。どこかで漏れたのかな?」
あと、ようやく誕生日が判明したリコピナが、1歳年下だったことが判明する。
サバを読んでまで、ロイルと同じクラスにねじ込んできたってことかね?
夜も更けていたので、紙に書き写して寝た。




