目覚め
3/11 全体の文章を整え、ストーリーに関係ない部分を削除しました。
サブタイトル変更しました。
「ルジンカ!?ルジンカ!!」
最初に聞こえたのは若い男の声だった。
なんかすごく懐かしい。
誰だっけ?
俺は目を開いた。
「大丈夫か!?しっかりするんだ!」
暗い視界の中で、若い男が俺をのぞき込んでいる。
歳は17、8くらいか。
サラサラした長めの黒髪で、中性的な雰囲気のイケメンだ。
切れ長の目が心配そうに見開かれている。
久しぶりだなぁ。
最初にそう思った。
こいつはさ・・・えーと・・・俺の兄・・いや、従兄弟か?
従兄弟の・・・・・・誰だ?
名前が思い出せない。
でも従兄弟だよ。
たぶん・・
確か、こいつは生クリーム食うと腹壊すんだ。
どんだけ食ったら腹壊すかチェックするっつって、毎日1匙づつ量を増やして晩飯時に生クリーム食ってたな。
4日目に腹ぶっ壊して、青い顔して便所に駆け込んでな。
覚えてるよ、あのときの君のアホ面。
・・・・・いや、やっぱりおかしい。
こんな奴いたか?
父方も母方も従兄弟はみんな30代。
子どもがいる奴もいるけど、幼稚園とかだろ。
考えながら体を動かそうとすると、男が俺を制した。
「動くな!・・・かなり出血してるぞ・・」
そう言って、着ていたシャツを脱ぎ、俺の頭にグルグルと巻きつけた。
むき出しになった上半身はぜい肉が無く、細身ながらビシッと引き締まっている。
俺、怪我してんのか?
そうだよ!忘れてた!!
トラックにぶつかったんだった!!
怪我の具合を確認したくて、再度体を起こそうとする。
「だから、動くなって・・っ」
「ウゲー!ゲロゲロゲロ・・・!!」
突然の吐き気に襲われた。
ヤベー、イケメン君にかかっちゃったよ。
「大丈夫か!?下を向いて。鼻からゆっくり息をするんだ」
俺のゲロにひるむことなく体を支え、背中をさすってくれる。
すごくいい奴だが、感謝する余裕が俺にはない。
気づけば、頭の右側がズキズキと痛む。
腹もめっちゃ気持ちわるい。
頭打ってゲロ吐くって絶対ヤバいだろ。
俺死んじゃうのか?
まだまだやり残したことたくさんある。
デブでブサでモテないからって、人生をあきらめてねーからな!
無限美ちゃんの本だってまだ読んでないし・・・
救急車はまだなのか?
頭に巻かれたシャツのすき間から血が漏れ、吐いたゲロの隣にポタポタ落ちていく。
こんな出血は人生初だ。
どんだけ流れた?
出血量を確認しようと床の血を目で追うと、陶器のでっかい皿があった。
ひとかかえ程の大きさで、深めの皿だ。
これは鉢っていうのか?わからんが。
再びゲロが込み上げてくる。
またイケメン君にぶっかけるのも悪いので、反射的にその鉢にリバースした。
「ウエップ、オフッ、グゲロゲロ~」
ゼエゼエ・・・
ヤバいわ。
めっちゃ苦しかった。
でも今のゲロで気持ち悪さはかなり治まったな。
肩で息をしながら口もとをぬぐい、ようやく周囲を確認する。
薄暗い部屋だった。
壁も床も石造りで、ロウソクの明かりが揺れている。
天井は暗くて見えない。
目立つ家具はイスが一脚のみ。あとは部屋のすみに木箱がいくつか積み上げられている。
床にはゲロの入った鉢の他に、ひっくり返ったランタンやらビンやら細々したものが散らばっていた。
ここ、なんか見覚えあるぞ。
懐かしいというか、帰ってきたというか・・・・。
いや、おかしいな。
横断歩道でトラックにはねられたんだ。
なんで室内にいるんだよ。
ここはどこなんだ?
「とにかく出よう。ここじゃ人を呼べない」
ランタンを腰に引っ掛けると、イケメンは俺の背中とヒザの下に腕をさし入れ持ち上げようとする。
無理だから。
俺100キロだぞ?
お前がいい奴なのはわかったけど、腰が砕けちゃうよ。
「ちょ、俺、ひゃく・・・っ!」
制止の言葉より速く、体がフワリと持ち上がる。
上昇する視界。
振り回した手が鉢に当たって転がり、ゲロがぶちまけられた。
スゲーな、君!!めっちゃ怪力な?
これってお姫様抱っこか!?
すぐに、強い違和感におそわれた。
見下ろした自分の体がおかしい。
細すぎる体。
華奢な腕。
ふくらんだ胸。
着ている服も見覚えがない。
今日はお見合いパーティーだったからな。
俺は白黒のチェックのシャツに濃紺のズボンをはいていた。
この組み合わせだと汗染みが目立ちにくいんだよ。
だが、今は白くて丈の長いワンピースのようなものを着ている。
ツヤツヤした生地は薄く、ほっそりした体のラインがよくわかる。
ひかえめに盛り上がった胸元にはフリルとリボンがあり、右肩を中心に広がる血で赤く染まっていた。
これってネグリジェか?
実物は初めて見たな。
俺は血にビビりながらも、胸元を凝視する。
女の体なのは間違いない。
それも、まだ若い女だろう。
夢か?幻覚か?
俺を抱えたイケメンは危なげなく大股で歩き、小さな入口をくぐる。
片手で俺を支えつつ扉を閉めると、鍵までかけた。
閉まる扉の向こうに、ゲロの中に転がったままの鉢が見えた。
真っ暗な部屋の中で奇妙に光る。
ランタンの明りを頼りに、暗く狭い廊下やら階段やらをクネクネと進む。
行き止まりの階段を登りきると、天井の扉を開いた。
繋がった先は、書斎のような部屋。
ホコリっぽく長い間使われていない感じだ。
書類や本が山積みの机と、たくさんの本棚。
俺らは床板にあった扉をはね上げて部屋に上がったようだ。
隠し通路だ。
ここも知ってるぞ!!
来たことある。
ガキの頃かくれんぼしたよな?
部屋を出るとまた階段を登り、広く長い廊下をスピードを上げて突っ切っていく。
ヒンヤリした空気と暗い窓で、今が夜だとわかった。
行く手には大きな扉・・
何がビックリってさ。
ここは俺の家だわ。
俺はここに住んでたんだよ。
すごい昔に。
全然忘れてたが。
なんか、急に思い出したな。
・・しかし、何歳くらいのことだろうな?
実家は木造2階建てのボロい一軒家だった。
俺が生まれる前から住んでたらしいし、こんなデカイ家にいつ住んでたんだ?
そもそも、道路でトラックにはねられた俺が屋内にいる不思議ね。
女になってる不思議ね。
こっちのが重要だ。
「お嬢様!?」
突如聞こえた女の声で、俺の思考は中断された。
扉の先に人影がある。
「静かに。声が大きい」
イケメンが軽く首を振ると、人影が小走りで近づいてきた。
声の主は60代前後の初老の女だった。
目や鼻などのパーツが大きめで、肉感的な顔立ちだ。
ひっつめにした灰色の髪に、床まで届くえんじ色の長いドレス。肩にベージュのショール。
手にしたランタンは変わったデザインで、水のような液体の中に黄色く光る石のようなものが入っている。
女はシワの刻まれた口元を強張らせ、驚きに満ちた視線を俺に注いでいた。
このオバサンも知ってる。
「手当てが必要だ。ルジンカの部屋に運ぶからリリアも来い」
「・・かしこまりました」
固い顔で頷き、ショールを俺にかけてくれる。
「父上とワークス先生も呼んでくれ」
「はい」
ルジンカってのは俺のことだな。
根拠は無いが、今の自分の名前だと確信が持てた。
こっちの廊下はかなり明るい。
壁を見上げると、リリアの持っていたランタンと同じ種類の物が、点々と設置されている。
進む先にはパラパラと人影がある。
丈の長い濃紺のドレスに、白いエプロン。
絵に描いたようなメイドさん。
あるいは、緑のジャケットに黒いズボンの男達。
「お嬢様!」
「見つかったの?」
「血だらけじゃないっ・・・!」
俺を見て口々に叫んでいる。
察するに、彼らはこの家の使用人だろう。
ルジンカお嬢様を探していたようだ。
・・まあ、夢だろうね。これは。
痛みや体の感覚がリアルだけど、そうゆう夢ってあるからな。
夢って、悪い予感が当たるよな。
試しに、ここで100キロの自分に戻る想像をしてみる。
俺を抱えたイケメンの腕がもげるかもな。
・・・・・・・・・・・・・・・
何も起こらなかった。
そうこうする間に、寝室に着いたようだ。