王子様とお散歩デート
「オレオンはクルクミー侯爵の3男ですわ。ロイル様について回って、ルジンカさんの邪魔ばかりして。4月にリコピナが来てからは本当に露骨でしたわ」
「何かと理由をつけてからんできますの」
「リコピナなんかをロイル様に押し付けようとしてるんですもの。分別が無いのよ」
「お父様のクルクミー侯爵のご命令なのよ。威張っているけどお父様には逆らえないんですって」
食事の後、小乳~巨乳のおっぱいちゃん達に先ほどの大男、オレオンについて教えてもらった。
クルクミー侯爵の息子が同じクラスだったとはな。
『☆死☆の運命星』には名前がなかったから、特に気にすることもないと思うが。
しかし、あのガタイの良さは、さすが治癒の一族といったところか。
治癒魔法は消化吸収能力を代償に、自分の生命力で癒しを行う。
ベアドは次の授業が剣術だかなんだかで、着替えて移動するからと一足先に帰った。
馬術や戦闘訓練など、男子は実技の授業も多く合宿なんかもあるらしい。
親の後を継げない次男以下にとって、軍隊に入るのは比較的メジャーな進路だそうだ。
ベアドの腹が引き締まっていたのも、モテを意識して夜な夜な筋トレに励んでいたからじゃないらしい。
俺達はそのまま食堂でガールズトーク中だ。
この機に情報収集したい。
「リコピナって?」
小首をかしげて尋ねる。
今の俺めっちゃ可愛いだろうな。
「リコピナはクルクミー侯爵の庶子ですわ。オレオンと同い年で異母兄妹になるんですけど・・・母親は愛人ですらないそうですわ。口にするのも恐ろしいような職業の女ですって!」
巨乳のアーニャちゃんが眉間にシワを寄せて語る。
「ずっと娘として育てていたならまだしも、最近まで誰も存在を知らなかったそうですわ。治癒の一族で女の子は珍しいからって大騒ぎで、いきなりクラスに押し込んだんですの」
「クルクミー侯爵はリコピナをロイル様の妻にしていただくつもりなんです!ルジンカさんを差し置いて!」
「基本的な教育も礼儀作法もなってないのに!」
小~大乳ちゃん達が後に続く。
4人ともクルクミー兄妹に良い感情はなさそうだ。
ベアドの妻の座を狙うなら、ルジンカにはロイルに嫁いでもらいたいだろうからな。
「そのリコピナって娘も犬食いするかしら?」
俺の教養レベルとどっちが上かは確認しておきたい。
礼儀作法がなってないのは俺も一緒だからな。
まあ、さっきだいぶ誇張した犬食いの説明をしたからな。
もし同意されたらリコピナのポテンシャルにビビる。
その時、ふと背後に人の気配を感じた。
「またそんな話をしているのか?」
「!?」
振り返った先に立っていたのは、冷めた目で俺を見つめるロイルだった。
「さっそく日常を取り戻したようでなによりだな」
冷ややかな声。
俺もおっぱいちゃん達も固まったままだ。
「ルジンカ。次の授業まで少しいいか?」
これは質問じゃなくて命令だよな。
そう判断した俺は、ロイヤルオーラにビビりながら席を立つ。
「ロイル様!ルジンカさんも犬食いなさるんですって!」
俺の前を歩くロイルの背中に向かって、アーニャちゃんが叫ぶ。
リコピナの悪口を言っていたと思われたことへのフォローか。
でも、そこだけ聞いた周囲の生徒が、ギョッと俺を見る。
ルジンカさんの評判はどんどん下がるな。
ロイルは一瞬立ち止まってアーニャちゃんに一瞥をくれたが、すぐにそのまま歩みを進めた。
学校の敷地は広い。
巨大な公園の中に校舎があるイメージだ。
馬術の授業のための馬場や、武術の修練所に運動場などがいくつも点在しており、日当たりの良い芝生のエリアや、美しい花畑に小川やら池まであるらしい。
緑の溢れる長い並木道をロイルについて歩く。
コルセットとドレスのせいで、ただの散歩も一苦労だよ。
周囲には食後の腹ごなしか、同じように散歩を楽しむ生徒達の姿があった。
俺とロイルのツーショットに気づくと、ヒソヒソと囁きあっている。
「新緑が美しいな」
金色の髪に木漏れ日を映したロイルが、ゆったりと呟く。
額から顎までのラインは完璧で、大変素晴らしい横顔だ。
何の心の準備もなく、いきなり連れ出された俺はチキンモード発動中だ。
どうでもいい相槌を打つ余裕も無い。
ドレスで転ばないよう注意しながら、トボトボと後ろをついていく。
ロイルが俺の死にどう関わっているかはまだ不明だ。
2人きりで散歩なんてする前に、鉢の予知を確認したかった。
俺達の仮説が正しければ、朝の謝罪とお慕いしています発言で、死期が伸びてるはずだ。
ここで下手にロイルの心証を悪くしたら、うまく死期が伸びていなかったとき、原因を絞り込むことが難しくなる。
「ルジンカが記憶喪失になった日もこうしてここへ来たな。覚えているか?」
俺の気も知らず、のんびりと話すロイル。
「いえ、さっぱり・・申し訳ございません」
本当はそれらしき記憶がうっすら夢として残っているが、面倒くさいので伏せておく。
マジでどうでもいいからな。
「謝らなくていい。オレオンとは、何を話していた?」
ロイルが話を変える。
あの時、こっち見てたよな。
「はあ、ティンポッポの話を・・・」
「・・・ティルポの実のことか?」
「いえ、ティンポッポの話です。オレオンさんが、ティンポッポで卑猥なものを連想すると言っていました」
俺は正直に話す。
「卑猥なもの?オレオンは何と?」
意外に食いついてきた。
俺に言わせる気かよ!?
「わかりませんわ。教えてくれませんでした」
「だろうな・・・あるものを想像してしまうからな」
これは聞いてくれと誘っているのか?
「・・・あるものとは?」
「さてな。オレオンに聞いてみるといい」
なんだよ。
チ〇コって言うのかと思っちゃったぜ。
「リコピナのことは覚えていたか?」
「いえ。でも、さっき友人達から聞きました」
「なんと言ってた?」
「オレオンさんと異母兄妹で、ロイル様の妻になるべく入学された方だと」
「リコピナにそんな目的意識はなさそうだけどな。そう見る人間も多い」
「はあ・・」
「できれば仲良くしてやってほしい」
「はあ・・・もちろん」
生返事をする俺。
ロイル様、いつまでダラダラとくっちゃべってるんだよ。
ボロが出る前にさっさと終わらせて帰りたいんだがな。
「私を慕ってくれていると言っていたな?」
「はあ・・・」
つい、惰性で返事をする。
いかん、ここはもっと感情をこめるとこか。
仕切り直そうと顔を上げる。
「今、楽しいか?」
背中を向け、のんびりと景色を眺めていたはずのロイルが、いつの間にかこちらに向き直っていた。
注意深く俺を観察している。
ビビるんだが・・
「もちろんですわ!」
慌てて笑顔を作るが、我ながら嘘くさい。
ロイルの探るような視線は消えないままだ。
しくじったな。
よく考えたら、大好きな王子様からのお誘いだ。
もっとはしゃぐべきだった。
以前のルジンカとの温度差が目立ったろうな。
「オレオンと話していた時の方がよほど生き生きして見えたぞ」
ヤキモチという感じは全く無い。
俺の行動の矛盾を冷静に指摘しているだけだ。
「緊張してしまって・・ロイル様にまた粗相をしたら大変なので・・」
言いながら、ゲロをぶっかけたことをようやく思い出す。
みんなの前では謝ったが、普通は2人きりになったらもう一度謝るべきだ。
惚れた相手ならなおさら。
まずいな、俺ダメダメじゃん?
今から言うか?
迷っていると、
「どの階段から落ちたんだ?」
唐突に聞かれた。
「・・・は?」
「フラボワーノの屋敷には何度か行ったことがある。目につく階段や廊下は全て分厚い絨毯が敷かれていた。ルジンカの部屋は2階だったか?あの中央ホールの階段を普段使っているのではないのか?」
ロイルは淀みなくしゃべった。
「あの分厚い絨毯で頭を打ったのか?」
「・・・・・」
答えられなかった。
迂闊にも、その辺を詰めていなかったからな。
「さ、さあ・・・わかりません。聞いてなくて・・」
キョドリながら答える俺を、ロイルが見据える。
「何か夢を見たか?」
「夢?」
「頭を打った衝撃で見た夢だ。もし覚えていたら、教えてくれないか?」
なんだ?
予知の魔法を使ったかどうかは不問にしてやるから、内容を教えろってことか?
「もう何日もたっているので・・・どうしてそんなことを?」
「ルジンカはどんな夢を見たのかと思ってな」
俺の目を真っ直ぐに見つめながら答える。
ロイルにのぼせ上がっていた頃のルジンカなら、簡単に口を割ってしまったかもしれない。
でも、今の俺は違う。
「もしかして、ロイル様も私を疑っているのですか?禁術を使ったと」
「そんなことはないが・・」
ロイルが俺から目を逸らす。
「禁術を使うなんて、あり得ません。発動方法がとんでもなく恥ずかしいので・・」
唇を噛んで俯く。
「恥ずかしい?」
「すごく。皆から禁術の使用を疑われていることは知っています。でも、あんな破廉恥な真似をしたと思われているなら、もうお嫁に行けません・・」
両の二の腕でおっぱいを挟み、ドレスの下のお股の部分を強調するように、重ねた両手で押さえた。
恥ずかしさに身をすくめているようにも、おしっこを我慢しているようにも見えるだろう。
せいぜい、エロい想像をしたまえよロイル君。
「私は誰にも言わない。教えてほしい」
教えてほしいのは予知のことか?
破廉恥な真似のことか?
「そんな・・・ダメです。いけません・・」
破廉恥な方だと断定し、モジモジと尻を揺らす。
「いや、そっちではなく・・・まあ、いい」
毒気を抜かれたように、引き下がった。
「ルジンカを疑ったわけじゃない。すまなかったな」
「い、いえ」
そのとき、昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。
5分後に授業開始の予鈴、さらに5分後に本鈴が鳴るはずだ。
「もう時間か。今日はこういう話をするつもりではなかったんだが・・・仕方ない、戻ろう」
言うほど残念そうでもなく、回れ右をするロイル。
助かった!
ホッとして小さく息を吐くと、こちらを振り返っていたロイルが怪訝そうな顔をしていた。
つい、気を抜いちゃったな。
だが、ロイルは何も言わず歩き出す。
ここに来るまでかなり歩いたから、10分で戻れるか微妙だ。
俺はドレスと格闘しながら、黙々と足を動かし着いていく。
なんとか本鈴の前に教室に着くと、女子しかいなかった。
そういえば、午後は男女別の授業だ。
「じゃあな」
ロイルはそう言うと、急ぎ足で今来た廊下を歩いていく。
男子の教室へ行くのだろう。
俺を送ってくれたのか。
でも、そういう優しさがあるなら、ドレスの俺を時間いっぱい歩かせるなよ。
「あの、ありがとうございます」
一応礼を言うと、ロイルが足を止める。
「さっき話した・・・・・いや、なんでもない。犬食いが直るといいな」
そう言って去って行く。
俺の長い昼休みはようやく終わった。
3/28 全体の文章を整えました。
内容は一緒です。




