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0026超人類は今日も進化します

「あれは一体……まさか、帝王マーレイの仕業(しわざ)か?」


 と、そのときだった。


「よく来たな、坊主!」


 不快で(かん)(さわ)る声。俺は地上の業火(ごうか)の中に、炎の人影を発見した。


 その瞬間、ぶち切れた。


「アシュレっ!」


 火炎魔人アシュレ――親父とお袋の仇だ。俺は胸で沸き上がる憎悪を()き出しに、いきなり『無効化波動』の青い光弾を撃ちだした。魔人は軽々とかわす。外れた波動は森の炎の一部分だけを鎮火して消えた。


 アシュレはそこだけ人間のような眼球二つを細めた。


「その技なら写も使えるから知っているぞ。そうか、その力に目覚めたか。そいつは少し厄介だ」


 魔人が片手を上げた。その背後に何百何千という数の火の玉が一斉に浮かび上がる。


「なら俺様はせいぜい見物させてもらおう――お前らの奮闘(ふんとう)をな。行け、部下たちよ」


 大小様々な火の玉が、「帝王マーレイ様万歳!」と唱和しながら、一度に飛び掛かってきた。よくよく見れば、それらは一つ一つが人間の顔を有している。俺は『無効化波動』を叩き込み、正面の十数匹を(めっ)し去った。それでもかわした奴らの体当たりを太ももに受けてしまう。灼熱(しゃくねつ)が俺の皮膚(ひふ)()がし、激痛を生じせしめた。


「ぐっ……!」


 俺はうめきながら、そいつらを蹴り飛ばして上昇する。更なる攻撃はそれで回避できた。


「ミズタ! マリ!」


 神族の2人はまだ生きていた。しかし後退しながら光の矢で仕留めていくという戦法を取っているので、俺との距離は遠ざかっていく。だがそれでよかった。俺は『境界認識』を限界まで拡大し、ミズタとマリに当たらないよう細心の注意を払って手刀を振った。


 衝撃波が炎の魔族たちを斜め上から切り裂く。それらは四分五裂(しぶごれつ)して散っていった。それを第6感で確認しながら、こちらも追撃を避けつつ群れを斬り捨てる。


 おかしなことに気付いたのはその直後だった。なぜだか足の痛みが消えている。ちらりと見てみれば、火の玉に焼かれたはずの大腿部(だいたいぶ)が元通りに治っているのだ。


 何だ……? よく分からん。自然治癒力の向上――といったところか? これも超人類としての新たな進化なのだろうか。


 俺はミズタとマリをサポートしながら、同時に自分に迫る火の玉を『無効化波動』や衝撃波で蹴散らしていった。だがそれらをかいくぐり、俺の腕や背中に激突してくる連中は多数いた。ミズタとマリも(さば)き切れないようで、徐々に被弾して体の各所を怪我していく。


 アシュレが地上から哄笑した。


「くくく、なかなか頑張っているようだが、限界は近そうだな。さっさと諦めて、お前の父親や母親のように消し(ずみ)になってしまえ」


 この野郎……! 俺は鶏冠(とさか)に来たが、今は火球の相手で精一杯だ。そして一方俺の負傷箇所は迅速(じんそく)に治っていく。どうやら本当に強烈な回復力を得たようだった。


「ミズタ! マリ! いったん上昇しろ! このままじゃやられちまうっ!」


 俺の方は驚異の自己再生能力でもって大丈夫だったが、神族の2人はボロボロだ。凍氷魔人に槍で貫かれ、息も絶え絶えだったマリの無残な姿が脳裏に再生される。俺の必死の指示に、彼女らは気力で応じて真上へと飛翔した。俺は彼女らに合流すると、なお追いすがって上昇してくる炎熱魔族たちを『無効化波動』でまとめて消し去った。




「うう……っ」


「さすがに3人では、ちょっと厳しかったですね……」


 俺たちは火の玉が襲撃を諦めるぐらいの超高空で一息ついた。ミズタとマリは、その体のあちこちに火傷を負い、痛みに苦悶している。冷たい風がいっそ心地よさそうだった。


「あんたは何ともないのね」


 ミズタが俺に不平を漏らした。彼女ら以上に被弾しながら、俺は瞬時に怪我を自力修復している。そのことを言っているのだ。俺は一人無傷でいることに多少の引け目を感じた。


「多分、超人類としてまた進化したんだろうな。もしかしたらハンシャや京みたく、他人の怪我を治せるかもしれない。ミズタ、ちょっとその左腕の傷を見せてみろ」


 ミズタは黄金のロングヘアを風になびかせながら、痛そうに負傷箇所を差し出した。急激に加熱されたその皮膚は、肉から()がれて何とも辛そうだ。俺は「治れー治れー、治ってみせろー」と適当な文句をつぶやきながら、手の平を押し当て精神を集中した。ミズタが激痛に唇を噛む。


 やがて傷は、治――らない。


「駄目か。どうやら俺には無理のようだな」


「何よ、痛い思いだけさせて」


 ミズタは仏頂面(ぶっちょうづら)で手を引っ込めた。マリが口を開く。


「後退しましょう。このまま戦ってもレンズ様の軍勢同様、私たちが壊滅させられるだけです。ここはいったん引いて、作戦を練り直し――」


「なあマリ」


 俺は炎上する森――だんだん(みやこ)の方に近づいてくる――の更に奥、一向に消えない竜巻を指差した。


「あれは魔界の帝王マーレイが起こしているんだな? あの渦の目にマーレイがいるんだな?」


「はい、そうでしょう、恐らく。……まさか、鏡さん! それは無茶です!」


 ミズタが話についていけず目をしばたたいた。


「どうしたの。研磨、いったい何をするつもり?」


 俺はきっぱり撃ち出した。


「火炎魔人も火の玉どもも後回しだ。それより先に、俺が帝王マーレイを倒す」


 神族2人は同時に叫んだ。


「無理よ!」


「滅茶苦茶です!」


 しかし、俺はもう心に決めていた。あの火球どもとの数的差は絶対だ。俺が奮戦してもミズタやマリを守り切ることは到底出来ないし、何より火炎魔人アシュレには『無効化波動』を読まれている。このまま戦い続けても待っているのは死という名の敗北だけだ。マリの(すす)め通りに撤退するのがベストだろう。


 だが、あの竜巻が帝王の無意識の元に生み出されているなら、奴の取り巻きは一人もいないに違いない。また突風の苛烈(かれつ)さからいって、飛べないアシュレも、個体としては弱い火の玉も、マーレイのそばには入ってこれないはずだ。


 つまり俺が竜巻の渦に入り込むことさえ出来れば、帝王と一騎打ち出来る、ということになる。また帝王を倒せば、ハンシャたち神族の関係性同様、全ての魔族が絶命することも期待できた。アシュレの軍団と交戦し続けるより、まだしも勝ち目がある。


 俺はミズタとマリに告げた。


「ここから先は実力からいって俺一人だ。安心しろ、必ず戻ってくる。2人は城に戻ってハンシャ女王に怪我を治してもらえ。何、この戦争をすぐさま片付けてきてやるよ」


 俺は作り物の笑顔をこしらえ、戦友たちを納得させようと(こころ)みた。しかしミズタもマリもその(けわ)しく悲しそうな表情を崩さない。やがて2人は揃って俺に近寄り、頭を預けた。俺は彼女たちの背中に腕を回す。


 ミズタが泣き声で確認してきた。


「研磨、必ず戻ってくるのね。嘘じゃないのね」


「ああ、男に二言はねえ」


 マリが鼻をすすり上げる。


「鏡さん、嘘ついたら針千本飲ませますからね。冗談抜きで」

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