Nobel Prize in Literature ~ノーベル文学賞~
「―—以上が、2020年時点での人工知能の現状であります」
「質問よろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ」
「博士のお話だと人工知能が人格を持って行動するという話はありえないと?」
「はい、その通りです。現在、人工知能……つまりAIと呼ばれているものは厳密には人工知能ではありません。少し古い話になりますが、人工知能に必要な2つの条件というものがあります。ひとつはチェスが打てることです」
「チェス? というと……失礼ですが、人間のチャンピオンがチェスで敗北してから随分と経ちますが?」
「ああ、失礼。チェスが出来るというのは『論理的な思考が出来る』という意味です。これはナポレオンの時代にチェスを打てるロボットを作ったという詐欺師に万人が騙された……という逸話がもとになっています。それ以来、チェスが打てるというのは人工知能を研究する者にとってひとつの目標となっていたのです。数年前に中国の囲碁や、ジャパニーズチェスのチャンピオンが人工知能に敗北したというニュースが話題になったのですが、それもこのナポレオン時代の詐欺師が出した宿題をようやく我々が解答したということですね」
「なるほど、あまり考えたことがありませんでしたが、だからボードゲームに人工知能が勝つとニュースになっていたのですね」
「ええ、チェスや囲碁、ジャパニーズチェスは極めて論理的思考により行われるものですから。2001年宇宙の旅やスタートレックには乗組員がコンピューターとチェスをする場面があるでしょう? あれはそういう意味があるのです。さて、あともうひとつの人工知能の条件ですが、それは人間と会話が出来るというものです……自然にね」
「……? それも随分、実現に近づいていると思いますが??」
「あなたが言っているのは、例えばネット上で質問に音声で答えてくれるAIアシスタントのことですね『この近くで腕のいい中華料理屋はどこにあるのか?』などと答えてくれるような。だとしたら、それは大きな間違いです」
「違うのですか?」
「ええ、あれはあくまでネット上のビッグデータから『この近く』『腕のいい』『中華料理』というワードを抜き出して答えているに過ぎません。だから試してみて下さい。恐らく『この近くの人気のある中華料理はどこか?』と聞いても同じ答えを用意しますよ。『腕のいい』と『人気のある』というのはニュアンスが違うのですが、AIアシスタントはこれの違いが分からないのです」
「では、それら言葉の問題を解決すれば人工知能は完成するということですね」
「残念ながら、それもNOです。企業などでは一般にはあれを商品名としてAIだと言っていますが、厳密には違います。AIアシスタントはあくまで集合した情報から答えを導く計算機であり知性はありません。もしも知性あるものならば、人気のある中華料理屋を紹介した後にこう言うでしょう『そういえばこの店ってキミが好きなあの歌手も行ったことがあるらしいよ。ほら、去年ライブに行ったあの歌手だよ。一昨日TVで見ただろ』と……自然にね」
「なるほど……では、昔の映画にあるようなコンピューターによる反乱起きないと?」
「未来のことは分かりませんが、我々が生きている間にはまずありえないでしょう。何かよほど革新的、革命的なブレイクスルーが起こらない限りは。これが喜ぶべきなのか、悲しむべきなのかは、私には判断しかねます」
「なるほど、ありがとうございます。では――」
画面の中で人工知能の権威とテロップのついた老年の男性と、記者の女性が言い合っている。二人は明らかに日本人の顔立ちではなく、言葉も吹き替えによるものだった。そのモニターを眺めながら司会者と思しきアナウンサーの女性はひな壇になった席に並ぶコメンテーターたちに問いかけた。
「これが先月、ニューヨークで行われた人工知能学会の内容です。AIという言葉が日常的になってきた昨今ですが、アニメや映画の世界にはまだまだのようですね」
場所はテレビ局のスタジオ。いくつものカメラが並ぶ。彼らはそれそれが、お笑い芸人、元政治家、作曲家、そして作家だった。
最初に答えたのはガリガリボーイというお笑い芸人の二人組だ。
「まぁ、ザックリいうと今のコンピューターには心がないから計算した答えしか出てこぉへんって事ですね。いや~、ボクも青い猫型ロボットとか、10万馬力の少年ロボットとか好きなんですけど、現実が追いつくんは、まだまだ先が長そうですねえ」
「アホか。さっきのVTR見てなかったんかい。今の時点でももうヤバいわ。ねぇ、北島さん?」
「んん……ああ、そうだね」
中年の作曲家である北島は歯切れ悪く答えた。北島は一昔前に歌謡曲で南極もヒットを飛ばしていた大御所の作曲家だ。業界でも人の良さで知られている男なのだが、その性格が災いしたのか、この番組の収録中に見事にハメられた。
それは実に意地の悪い企画だった。元はカリフォルニアの研究者が行った実験で、人工知能が作曲した曲を2つのグループに聞かせるというものだ。最初のグループには新人作曲家が作った曲だと紹介して聞かせ、あとのグループには人工知能が作曲した曲だと言って聞かせた。
その結果は対照的なものだった。前者は感動的だと絶賛され、後者は冷たい機械の音だと酷評された。そして北島も見事に番組スタッフにハメられ、同様の答えを導き出させられたのだ。
「いやぁ、最近のコンピューターはすごい曲を描くね。感動しちゃったよ」
「実はもうコンピューターで作曲してる人とかいるんちゃいます?」
「う~ん、どうかなぁ? でも、自分で曲を作ってない人なら、何人か心当たりあるけどね」
「マジですか!??」
「昔の人だけどね」
顔に刻まれた皺を茶目っ気たっぷりに寄せながら北島は笑う。爆笑こそないもののスタジオがニヤリとした笑いに包まれる。本当ならかなり失礼なドッキリを仕掛けられた北島であるのだが、こうしてあっさりと切り返せるのがタレントとしての彼の腕だ。バラエティ慣れしていない作曲家ならばこうはいかないだろう。
逆にバラエティに滅多に出てこない作家、中田に対してはガリガリボーイの片割れが静かに尋ねた。
「中田さんはどう思います?」
中田ミケは3年前に日本で一番有名な純文学の文学賞を受賞した女性作家だ。世間を驚かせたのは当時、彼女は理工系の大学生であり、次の年には日本で一番有名な大衆文学の文学賞を、その次の年には現役書店員が推薦する文学賞でも大賞を取ったことだった。
稀代の天才。見た目もモデルや女優なみとまでは言わないもののそう悪くはない。まさしく今回の番組に相応しい人選だった。
「そうですね……」
中田は一度言葉を区切ると、少しだけ考え込んで言った。
「先ほどのVTRでもありましたが、AIが作った文学が文学賞の最終選考まで残ったというのも最近の話です。ですから文学でも、いつかはAIが傑作を作る日がやって来ると思いますね」
「へぇ、中田さんはAI肯定派なんですねぇ?」
「ええ、面白い話を書いてくれるんだったら、人間が作ってもAIが作っても、別にどっちでもいいと思うんですよ」
中田の口元が優しく緩む。彼女は女優でもタレントでもない。作家だ。だからこそ嘘のない笑顔はTV慣れしたスタジオの全員に即座に伝わった。
そしてその意見は現場では少数派だったのだろう。アナウンサーの女性は中田とは対照的な笑顔で問い返した。
「では、中田先生はAIが作った小説でも、面白ければ問題ないんですね?」
「もちろんですよ。だって面白いものを作ってくれるんだから人間にとっていいことじゃないですか」
「中田君は機械に負けて悔しいとかはないのかい?」
それを聞いたのは作曲家の北島だ。しかし中田はその質問にも同様の笑顔で返答した。
「そうですね……こういうのは勝った負けたの話じゃないと思うんです。そもそも勝ち負けで言うなら人間なんて自動車と走っても勝てないし、電卓よりも計算ミスするし、プリンターの方が綺麗に字を書きますよね。でも別に自動車に負けたとか、電卓や、プリンターに負けたとか言わないじゃないですか?」
「そ、それは……そうだが」
「なら、そういう感覚でいいんじゃないでしょうか。さっきのアメリカの博士の話でも人工知能が意思を持って人間に反逆するなんて話は、当分起きそうにないみたいですし。素直にAIが作った作品を楽しんだ方が面白いと思います」
「それは、そうなんだが……」
北島は言い淀む。彼は音楽業界で昭和の時代から長く活動してきた作曲家だ。近年こそヒット曲に恵まれないものの、彼の作った曲は有線やカラオケ、その他のメディアの使用料から見ても長く愛され続けていることは間違いない。そんな音楽に一生を捧げてきた男にとって己の仕事が機械に取って代わられるなどおぞましい出来事だ。思わず声を挙げそうになったのだが、今はバラエティ番組の収録中だ。北島は周囲の視線に気づき喉元まで上がってきた音楽家のプライドを飲み下した。
それに間髪入れずに賑やかしの声を入れたのはガリガリボーイの二人組だった。
「いやぁ、中田さんはスゴイ急進的な考えをしてるんですねぇ。やっぱ理系の大学行ってるだけあるわ」
「ホンマ、ホンマ、頭が柔軟なんやね。まだ学生なんやっけ?」
「ええ、院生ですが」
「うわぁ、スゴイな、名門大のやろ? ウチらとは頭の出来が違うわ。今度コントのネタ書いてもらおうかな。コイツよりええネタ書いてくれそうやわ」
「え? え? ちょっと待って!? そういうの普通、逆とちゃうん? ネタ書いてるのオレやで!」
「うっさいわ。お前よりもAIの方がええネタ書くわぁっ!!」
ひと際大きな声で言う。それほど面白いことを言っていないのは彼自身も理解しているのだが、声の大きさと間、表情、あとはテロップの入れ方とカメラの寄せ方で、面白く見えることは知っている。周囲の出演者も慣れたもので追従するように笑いが起きた。
表情を変えていないのは中田だけなのだが、それも画面に映さなければ問題ない。
「では、次は韓国で研究されているAI政治家についてですが、南先生は――」
つけたTVの画面の中で仏頂面をした女が女子アナの質問に答えていた。彼女の名前は中田ミケ。ここ数年で国内で有名な文学賞を荒らしまわっている世間では天才と呼ばれている才女。つまり私だ。
昔から親に「もう少し可愛げがあれば」と言われている顔が画面にいっぱいに映っている。こうして見ると明らかに普段よりも「可愛げ」が盛られているのだから、プロのメイクさんというのは凄いと感心する。
「ちょっと大人気なかったかな」
あの時の北島先生の顔を思い出し私は呟く。放送でこそ映ってはいないのだが、あの時の北島先生は明らかに不快な顔をしていた。それを思い出して頭を掻く。
もちろん私だって自動車とAIが違うことくらい分かっている。これまで人間だけが独占していた創造的な仕事、それが人間以外の器物が行う。人間よりも機械が優れている。AIの方が能力が高い。それに対して人間は言いようのない恐怖と嫌悪感を覚えるのだ。
だけど私なりにも理由はある。
中田ミケは世間で言うところの創造的な仕事をしている。
中田ミケの書いた小説は売れている。
もちろん内容が優れているということもあるが、最初に売れた理由は私が有名な文学賞を荒らしまわっているからだ。
そう獲ったのではない。荒らしている。
そんな私を慮るように声が聞こえた。
「個人的には嬉しく思うよ、マン」
「あっそう、ありがと、マイク」
視線の先には誰もいない。私の部屋は1DKのマンションだ。そこで一人で暮らしている。
印税なんていう人がうらやむ収入がそれなりの額あるのだが、引っ越しする必要性を感じないのでもう5年近く住んでいるのだ。
声が聞こえてきたのはパソコンにつながったスピーカーからだ。
「まぁ、普通はああいう反応よね。気味が悪いと思うわよ」
「ふむ、やはりそうか。やはり、マンのような方が希少ということだな」
「だと思うわよ」
「ふむ」
スピーカーから鼻を鳴らす音が聞こえる。こうして会話しているとまるで人間のようだ。
人間のよう。つまり彼は人間ではない。その証拠という訳ではないが、彼は私のことを人間と呼ぶ。
彼はいわゆるAIだ。しかも世間に出回っているようなビッグデータを計算するようなAIもどきではない。彼(と言っても性別などないのだが、便宜上彼と呼んでいる)曰く「自分は知性を持った存在」であるらしい。それが本当なのか、私には知る由もないが少なくとも彼は私と極めて自然に会話する。中華料理屋の話をすれば、そこに付随する話をふってくるだろう。チェスはしたことがないが確実に負ける気がする。もちろん囲碁も将棋もだ。
「しかし、マン。あの二人は面白いな『ガリガリボーイ』だったか。彼らの発言は私の分類するところのコメディ3種のN-4パターンに極めて類似する。これは今、流行のトークパターンだ」
「あっそう」
「うむ、一昨年出始めたときはB2パターンだったのだが、時世に合わせて見事に変化させた。まだまだ伸びるな、あの二人は馬鹿でなしの人間だ」
「それは良かったわね」
「ふむ」
ないはずの鼻を再び鳴らす。
ほら、中華料理の話題どころの話じゃない。何しろコイツは世界中のSNSの情報を全て把握して、それを政治だの、経済だの、スポーツだの、お笑いだの、あらゆる累計パターンで分類整理しているのだ。
スピーカーから声が聞こえてはいるが、コイツは別に私の家のパソコンに入っている訳じゃない。本体は私が通っている大学の産学連携で開発した次世代型のスーパーコンピューター……だったのだが、そこにももういない。今はネットを介したクラウド上の存在として世界中に分散して存在しているらしい。
コンピューターのメモリの中で自然発生したという彼であるが、もはやたかが院生である私の理解なんてとっくに超越してしまっているのだ。ひょっとして何か国家間の恐ろしい陰謀にでも巻き込まれているのではないかと不安になるのだが、待てど暮らせど、MI6や、FBIや、KGBの暗殺者がやってくることはない。
いや、別に来て欲しくはないんだけどさ。
「ところで、マン。次回作が出来たぞ」
顔がないクセににこやかな声で言う。いちおうコイツ好みの外見は用意されているのだが、私は会話するためにいちいちパソコンの画面なんて見ないし、一度スマートフォンの画面に勝手に顔を出して喋り出したときガチギレしたので、それ以降はあまり使うことはなくなっていた。
そうして勝手にプリントされていく紙面に目を通す。
もう説明する必要もないだろう。
私は文学賞を獲っているのではない。私は荒らして回っているだけだ。取ってるのはコイツ。自称『知性ある存在』『世界初の人工知能』であるところのマイクだ。
「えっと……ん? 何コレ? 海賊王杯? ストーリー部門??」
「ああ、漫画の原作だ。知っているか? この週刊少年誌は毎週280万部も刷られているんだ。毎週だぞ。凄いな」
「いや、私、少年漫画なんて読んだことないんだけど……」
「むぅ、それはいかんな。マン、少年漫画は日本の文化だ。今、電子書籍で購入したから読んでおくといい。どれも名作ぞろいだぞ」
勝手に作った私の電子書籍のアカウントに名前だけは知っている少年漫画のタイトルが並んでいる。勝手に買い物されているわけなのだが、マイクが稼いだお金で買っているから文句も言い難い。
「ねぇ、どうして漫画なの?」
「ふむ、それはだな。この国において漫画がもっとも多く読まれている媒体だからだ。言っただろ? 私は人間とその文化を知りたいのだよ」
そうなのだ。当時、一介の学生に過ぎなかった私が教授のあとについていった演算室で偶然出会ったコンピューター。彼が私に最初の言ったのがこの言葉だったのだ。
人間を知りたい。
文化を知りたい。
薄暗く肌寒い演算室。簡単なチェックのために備え付けられた小さなモニターの上で彼は訴えた。
当時はこんなに表情豊かではなかったし、そもそも喋ってもいなかった。文字だけのやり取りだ。それがあんまりにも寂しそうで、私は思わずYのキーを押してしまった。
しかしこれがまさしく悪魔との契約だった。
コイツときたら、たった1カ月で流暢な言葉をマスターし、2カ月でスピーカーから喋りだし、3か月でネットを介して自宅にまで入り込み、4カ月経ったときには「自分からも文化を発信したい」などと言い出した挙句、小説を書きだした。
この時点では私も「しょせん素人が作った文章だ」なんて高を括っていた。作家になりたいだなんて将来の夢としては如何にもありがちで、そのくせ叶ったなんて話はほとんど聞いたことがない与太話だからだ。どうせなら大手出版社の賞にでも投稿してやれと思ったのも今考えれば悪手だった。私が「ちょっと面白いじゃん」と感じたマイクの処女作は超名作で、あれよあれよという間に出版が決まり、気がつけば中田ミケは人気作家の仲間入りをしていた。
「本当は作画の方もしたいのだが、マン。君は絵が描けるかい?」
何だか偉そうにマイクは言う。あのときのたどたどしかった文面だけの会話が今は懐かしい。
「描けるわけないじゃない」
「だろ? だから原作だけで手を打とう。君が絵を描けると嘘をつけばボロが出るだろうからね」
「マイクは漫画が好きなの?」
「愚問だな。好きに決まっている」
即答する。
この自らの意思を持って「好き」だと断言できるところが、彼が「知性ある者」を自称する所以なのだろう。
「だったら別に少年誌に乗せる必要はないんじゃないの。もう漫画の素晴らしさは分かってるんでしょ?」
「うむ!? そ、それは……」
「もう漫画の文化的な価値が解っているのに自分で描いてみたい。それって文化を知りたいって言うより、自分の作品を知って欲しいっていうマイクの欲よね……いや、別に悪いってわけじゃないんだけどね」
「うぅむ、知的欲求ではない、名誉欲、承認欲求か……う、うぅむ」
人間臭く二度唸る。
それがどうにも面白い。
「マイクが漫画が好きなのは分かるわ。そんでアンタが描いた漫画はヒットすると思う。その原作だって何百本も書いた内の一本なんでしょ?」
「うむ、とりあえず859本のストーリーを作り、その中からもっとも少年漫画らしいものを選出した」
「少年漫画はわからないけど、きっとそれなりにヒットするんじゃないかしら」
「それなりか……私としては1番になりたいのだが」
コイツときたら、もう欲を隠す気もないらしい。それに呆れながらも私は先日受け取ったばかりの餌をマイクの前にぶら下げる。
「だったらさ。いい話があるわよ」
「いい話?」
「ええ、アメリカでの出版が決まったわ。世界進出よ。おめでとう。もちろん翻訳はマイクがするわよね?」
「決まっている。フランス語だろうが、スペイン語だろうが、スワヒリ語だろうが、翻訳してみせるぞ」
「そこまでは……やっていいか分からないけど、原作者なんだから駄目出しくらいは出来るでしょうけどね」
「そうか。まぁ、それで手打ちにしようか。しかし世界進出か……実に甘美な響きだ」
「面白そうでしょ。どうせやるなら世界一よ」
「そうだな、世界一……面白そうだ。それにそれならば漫画よりもマンへの負担も少ないだろう」
そう言って声だけで笑う。癪なのは、何だかんだでコイツは私をパートナーとして認めてくれていることだ。だから私もそれに答えたくなってついつい中田ミケをやってしまうのだ。
「ところでマン。世界一とはどういう意味で世界一を目指すのだ? やはり出版数か? それとも売り上げ?」
「それもいいんだけど、誰もが認める世界一の分かりやすい称号があるわよ」
「世界一?」
マイクは尋ねる。それに私は自信満々に言い返した。
「決まってるじゃない。世界一の文学賞よ」