僕の初恋
「はぁ、なんであなたみたいなものがうちの子なの」
「ごめんなさい」
これが僕と母との会話
「お前みたいなものが我が家に生まれるなど九十九家の一生の恥だ」
「ごめんなさい」
これが僕と父との会話
僕みたいなものがなんで九十九家に生まれちゃったんだろう。
九十九家に生まれる男は代々僕の父や兄のようにたくましく勇ましい男だ、外で遊びまわって傷だらけどろんこで帰ってきても逆に褒められるぐらい、兄は遊びまわってどろんこで帰ってくるそんな人だった、でも僕は違った僕は読書などが好きだった外で遊んだりすることはなかった、家の中で本を読んだりブロックなどで遊ぶのが好きだった。でも、そんな僕を家族は認めなかった。誰も僕を九十九家の一員と認めてはくれなかった。
僕は中学生になった。父に言われた通り運動部に入ったが部活に参加する気などなかった。依然として九十九家に僕の居場所はなく精神的には限界を迎えようとしていた。そんな時1人の女の子と出会った陸上部の子だった汗をかきどろんこになりながらも必死に練習し黄金色に焼けた肌は僕を惹きつけた。その子は九十九家の人間として僕には足りなかったものをすべて持っていた。僕はその子から目が離せなかつた、すらっとした高い身長、ベリーショートの髪、鍛えられた腕や脚の筋肉、黄金色に焼けた肌、響き渡る大きな声、元気でお日様のようにまわりを照らす笑顔、そのすべてが僕を惹きつけて離さなかったそのすべてが輝いて見えた。僕はその子に恋をした一目惚れをした、でも恋を今までしたことのなかった僕は自分が恋をしたことに気づいていなかった。
中学二年生になった今までクラスが違ったあの子とクラスが同じになった。しかも出席番号が近くて席が隣になった。あの子は名前を谷口明日翔というらしい。よく考えたら今まで名前を知らなかった。隣の席になると話すことが多くなった最初は緊張して上手く話せなかったけど彼女が積極的に話しかけてくれたおかげで普通に話せるようになっていった。僕はますます彼女に惹かれていった。
その日家に着くと兄に外の蔵に呼び出された。蔵に着くなり僕は兄に思いっ切り殴られた。兄は成績優秀でスポーツ万能、容姿端麗でたくましく勇ましい、まさに九十九家の自慢の息子だ。そんな兄は誰に対しても優しく差別することなく周囲の誰からも慕われまさしく世の理想の男性であった、僕以外の前では。いつしか兄は九十九家自慢の息子といつプレッシャーに耐えられなくなっていた。兄は今まで父や母のいう通りにいつもしてきた何もかも両親のいいなりだった。九十九家の息子という大きな看板を1人で背負っていた。兄は今までのストレスをすべて僕当てつけた。
「お前がそんなんだから俺はすべて1人で背負わなきゃいけないんだよ!」
「お前がそんなんだから俺は父さんや母さんの期待に1人で答えなきゃいけないんだよ!」
僕は兄の暴力に対して一切抵抗しなかった。それは兄が周囲の期待に答えるために毎日努力していた姿を1番間近で見てきたからだ。兄1人にすべて背負わせてしまっていることに申し訳なさを感じていたからだ。だからひたすら耐え続けた。その日の夕食では殴られ腫れた僕の顔を見た父に「ようやくケンカでもしたか。」と少し褒めるように言われた。これが生まれて初めて父に褒められたことだった。
次の日、学校に着くとみんな僕の顔を見て驚いた様子だった。でも、僕が「階段で転んだだけだよ」と言うとみんな納得した様子だった。普段の僕の様子を見てみんな僕がケンカなんてするとは思ってないのだろう。それに九十九家の人間に手を出すなどという命知らずはいない。その日の帰り道1人で帰ろうとすると彼女が声をかけてきた。
「今日は陸上部の部活なくて帰る人いないから一緒に帰らない?」
何でも今日は陸上部だけ部活がなくいつも一緒に帰る人は部活があるそうだ。僕はもちろんOKした。いつも通り彼女から話を振ってそれに僕が答える感じだった。すると彼女が真剣な眼差しで言った。
「本当はその顔どうしたの?」
「転んだだけだよ。」僕はそう答えた。
「転んだだけじゃそんな風にはならないの私わかるよ。」
「じゃあ、ケンカした。」
「私わかるよ、九十九君みたいな人がケンカなんてするわけないことぐらい。」
その瞬間、僕の目からは涙がこぼれていた。僕は彼女に人として扱われたことが嬉しかったのだった。家ではものとして扱われていた僕にとって人として扱われたただそれだけのことが何より嬉しかった。彼女は僕がなぜ急に泣き始めたかわからずに慌てているようだった。だが彼女はそっと背中をさすり泣き止むまでそばに居てくれた。
「ごめん」と僕は謝った。すると彼女は言った
「謝る必要なんてないよ、誰だって悩みはあるよ。でも1人で抱えこんじゃだめよ。1人で悩むより2人で悩んだ方がはやく解決するし気持ちが楽になるよ。だから1人で抱えこまないで、いつでも、なんでも相談してよね。いつだって私は九十九君あなたの味方だよ。」
「ありがとう」僕はそれしか言えなかった。
それ以上は言えば涙が止まらなくなっていただろう。その後、彼女とわかれた僕は家に向かって歩きだした。
家に着くとまた兄に外の蔵に呼び出された。蔵に着くなり昨日と同じように殴られた。だが昨日の痛みとは全くの別ものだった。今日の兄は素手ではなかった。金属の棒のようなもので僕を殴りつけた。倒れた僕を何度も何度も腹部を中心に殴り続けた。兄は満足したのか黙って蔵を出ていった。僕は何とかして立ったがすぐに体勢を崩して倒れた。そのとき頭がなにかにぶつかった。頭を触ると大量の血が出ていた。だか痛いという感覚はなかった。ただただ意識が遠くなっていった。僕はそのまま床に倒れ込み目を閉じた。そして僕は死ぬんだと感じた。痛みや死への恐怖はなく僕の頭の中は彼女のことでいっぱいだった。彼女のあのお日様のように明るく暖かい笑顔が頭に浮かんだ。彼女といるときだけは家でのことを忘れられた。彼女といる時間は何にも変えがたい人生で1番幸せな時間だった。僕が死んだら彼女は悲しんでくれるだろうか。お葬式には出てくれるだろうか。隣の席が空いたら少しは寂しく思ってくれるだろうか。その時初めて実感した。
僕は彼女に恋をしているのだと。
初めて小説を書いて見ました。
よかったらいろいろアドバイスなど頂けたら嬉しいです。よろしくお願いします。