forget me not
1500文字くらいの短編。
どうやら、私は生まれ変わりというものをしたらしい。何故そんなことがわかるのかと言えば。死んだ時の記憶があるからだ。
でもなんで、こんなことに…。はっきりと覚えているのは、あいつに刺し殺されたところまで。気がつけば、私は二、三歳くらいの子供になっていた。
しかし、そんな重くて膨大な量の記憶を思い出してしまった私は知恵熱を出してベッドの上で、のたうち回りながらも数少ない今生の記憶を思い返していた。
真っ先に浮かんだのは両親の顔。母親はとても優しそうな金髪碧眼の儚い感じの美女で。それは普通に嬉しい。が、しかし、問題は父親である。あぁ、神様、前世の私が何か悪いことをしたのでしょうか。いや、されていたのは私の方です! と、父親の顔を見て思った。だって何で…前世の仇が私の父になっているんですか? 前世の私はこいつに刺し殺されたのである。
どうしてなのかなぁ。見た目は、ぜーんぜん。似てないのにね。前世での父…いや、私の敵は黒髪にやや明るめの茶色の目で。前世では普遍的な色彩を持った、まぁ…そこそこの美形だった。それが今世では銀髪に金眼の超絶美形にレベルアップしていた。なんでなの。
しかし、どうして、分かっちゃうかな。分からなければ、きっと平和だった、私の心。でも、幸いと言えることもある。きっと奴は…いや、父…と呼びたくもないけど、他にいい呼び方も思い当たらないから、便宜上、ひとまず父と呼称するけど。父には前世の記憶とかは無さそう、ということ。まぁ、普通は前世とかそんなん覚えてる訳ないから。それに、前世の奴は本当に大っ嫌いだったけど。今世では父親で…まぁ、優しそうにみえるし。いまんところ。
とりあえず、父親の顔を見た瞬間…あり得ないくらいにギャン泣きしちゃったのは…うん。ちょっとだけ反省してるっていうか。あそこまで傷付いた顔をされると無いはずの良心が少しだけ痛む。その時の父の顔はまるで世界が終わったかのような絶望に染まりきっていて。いくら、前世の奴を私が恨んでいてもそれは関係がないことなのにね。
でも、そんな風に油断していたのが悪かったのかな。やっぱり奴は今世でも相変わらずであった。優しそう、なんて評しましたが。あれはね、嘘です。優しそう、ではなく。優しそうに振舞っているだけの腹黒ヤンデレストーカー。記憶があるのか、無いのか、なんてそんなことは、もはや関係ないね。
こんな風に思考している今も、奴は私のことを見ている。隙があれば、じっと見ている。とても怖い。あれは我が子に向ける目とは思えない。前世では嫌われている、と思ったあの目だけれど。今ならわかるんだ。あれはヤンデレの目である。最期に見た奴の目と一緒である。
『大丈夫、辛いのは一瞬だよ。俺もすぐにいくから寂しくないよ』
それが、前世の私が最期に聞いた言葉である。死ぬ間際になってやっと理解したのだ。こいつは、私のことが嫌いなんかじゃないんだって。ただ、歪んでいて。その愛が私に届かなかっただけなんだって。
いや、だからと言ってね? 許されるだろうか。いや、許されないだろう。てか、許せない。もしも、私が彼を深く愛していたのであれば許すことができたのかもしれない。でもね、愛せるわけがないと思うんだよね。だって死ぬ間際まで、ずっと…私は奴に嫌われていると思っていたし、私の方も私のことを嫌いだと思っている人間を愛せるメンタリティーは無かったし。
でも、生まれ変わって冷静に考えると。特別な存在でありたかっただけなんだな、って思ったり。好きとか嫌いとか、そんなことはどうでもよくって。ただ、私の中に奴が存在していれば。たったそれだけのことで良かったんだと思う。そういう意味でなら私は彼のことを忘れはしないだろう。あの時、彼に殺されることなく生き続けたとしても、だ。現に死んで、生まれ変わった今も尚、忘れることが出来ないのだから。
私を忘れないでね、っていう感じの懇願?というか叶わないかもしれない淡い期待みたいな捉え方だったんだけど。調べたら、私を忘れるなよ!(命令)的な感じだったことに少し衝撃。その意味も踏まえて付けたタイトルです。




