彼女の行方
1200文字くらいの短編。
彼女と会うはずだった場所に一人立つ。何処を見るでもなく、ぼんやりと人混みを眺めていた。目を閉じると彼女の顔が今でもはっきりと思い浮かぶ。「遅いよ」と文句を言いつつも彼女は笑顔だった。
突然、びゅうっと強い風が吹いた。飛ばされてしまわぬよう身体にぎゅっと力を込める。はぁ、と吐いた溜息は白い。冬だなぁ、としみじみ思う。冬で寒いのは当たり前のことだけど。
彼女がいなくなってしまったのは真夏のことだった。でも、気が付けば。季節は変わり、秋を通り越して寒い冬になっていた。
「もう、半年、か。光陰矢の如し」
小さく呟いた声は、ごみごみとしたこの交差点では誰も気に留めることはなかった。
あまりにも突然のことで。誰に予想ができただろうか。前触れもなく彼女がいなくなってしまうなんて。
*
それはありふれた夏の日だった。二人で会う約束をしていた日。
『着いたよ。いつもの場所で、待ってるよ。暑くて干からびちゃいそうだから、早く来てね?』
彼女から送られてきた最後のメール。待ち合わせ時間の十分前に送られたものだ。
『あと五分くらいで着く予定。でも、なるべく早く行けるよう頑張るよ。』
間を置かずに返事をした。そのメールに対しての返信はなかったけれど、それはいつものことだった。彼女はそんなにマメじゃなかったから、疑問系でない限りは無言を貫くことも多かった。
まだこの時はいつも通りで、違和感など感じるはずもなかった。
予告通りの時間。つまり、待ち合わせ時間の五分前。指定の場所に辿り着く。かの有名な犬の像の裏側が、彼女のお気に入りの場所だ。いつもお犬様に背を向けて空を眺めていた。横から声をかけると、少し拗ねたような顔をしてから、いたずらっ子のような、小悪魔みたいな顔で笑うのだ。
でもそこには誰もいなかったのだ。
どこかに移動したのだろうか。こんな暑い日だ、冷房の効いている店などに入ったのかもしれない。少しの疑念と違和感を抱きつつも、再度メールを送る。
『着いたよ〜。どこに行っちゃったのさ? 暑さに耐えられなかった?』
待ち合わせには間に合っているのだ。謝るなんてことはしないし、そこを待ち合わせ場所に指定したのは彼女だったし。それに、たったの五分だ。炎天下の中、何時間も待てとか、そんな酷な話じゃない。
それにその時は、彼女に二度と会えないだなんて考えもしなかったのだ。
待ち合わせの時間を過ぎても彼女からの連絡は無い。流石に不審に思い、電話をかける。
『お掛けになった電話は、現在電源が入っていないか電波の届かない…』
呼び出し音は流れなかった。機械的なアナウンスを静かに聞いていた。
しばらくは、その場で待っていたけれど。彼女のメールの通りに干からびてしまいそうだったので、待ち合わせ場所近くのカフェに移動した。運良く二階の窓際の席を確保できた。
アイスカフェラテをちびりちびりと飲みながら、窓越しに外を見下ろす。沢山の人が行き交う様がよく見える。それをぼんやりと眺めながら真っ暗な液晶が光るのを待っていた。
*
長い間ずっと推敲してたけれど、どうにもなりそうもなかったので。もう出しちゃうことに決めました。一応、ゆくえもしらぬと繋がっています。