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ファル・ゲルプ(2)

…………………


 迫りくるリントヴルムの群れ。破局の象徴。


 それを防ぐための頼りない城壁の上から私は群れを見る。


「腐肉砲、撃ち方始め!」


 配置されていた腐肉砲が一斉に火を噴き、腐肉をリントヴルムに叩き込む。


 目に見えた効果はない。だが、間違いなく毒は入ったはずだ。このまま毒を浴びせかけつつ敵の体力を減らして、城門に迫ったときには倒せるようにしておかなければ。


「女王陛下。間もなくファイアスワームの攻撃範囲です」

「ああ。分かってる、セリニアン」


 腐肉砲の砲撃に続いて叩き込まれるのは、ファイアスワームの自爆攻撃だ。


 自爆というのはあまりにも使い捨てという感じがでて嫌だが、今は文句を言っていられるような余裕はない。なんとしてもあの大蛇の行進を阻止しなければ。すまない、ファイアスワーム。君たちも役目を果たしてくれ。


 私はそう念じて集合意識を通じて爆破命令を発した。


 ズウンという重々しい爆音と共にファイアスワームが潜んでいた地面が吹き飛び、リントヴルムに衝撃を与える。リントヴルムはよろめき、間違いなくダメージを与えられたと断言できた。


 自爆攻撃はこの一撃に終わらず、第二撃、第三撃と繰り返され、リントヴルムをよろめかせるが、倒せるまでにはいかない。流石はゲーム中最高レベルのタフネスを持ったユニットだよ、本当に忌々しい。


 ファイアスワームも尽き、リントヴルムは城壁に向けて駆け抜けてくる。最後もの守りは城壁と、そして──。


「セリニアン。任せた」

「お任せあれ、女王陛下!」


 セリニアンだ。


 セリニアンは城壁から軽々と飛び降りると、リントヴルムに向けて突撃していく。


 リントヴルムは敵の接近を検知し、火炎放射を浴びせるがワイバーンのそれ以下の威力しかない火炎放射ではセリニアンを止めることはできない。


 セリニアンはリントヴルムの1体に飛び掛かり、長剣をその首に突き立てる。分厚いリントヴルムの装甲は一瞬セリニアンの攻撃を弾こうとしたが、最終的にはセリニアンが勝利した。


 セリニアンの長剣がリントヴルムの首を裂き、血飛沫が飛び散る。これで倒せたかのように思えるが、リントヴルムは依然として健在だ。この化け物は英雄ユニットの攻撃すら耐えきれるのだ。


 そして、セリニアンが1体のリントヴルムを相手にしている間に残りのリントヴルムは味方を援護することもなく前進していく。


「セリニアン! やれそうか!?」

「なんとかやってみます!」


 焦るな。セリニアンは強い。リントヴルムは強力とは言えど一般ユニットだ。英雄ユニットと正面から戦えば敗れるのは明白だ。リントヴルムを相手にセリニアンが負けることは絶対にありえない。


 だが、間に合うのか?


 リントヴルムの集団は既に城壁に迫っている。先頭のリントヴルムが城壁に接触するまでは残り7、8分しかないのだ。


「女王陛下! やりました!」


 私がそんなことを考えていたとき、セリニアンが歓声を上げる。


 セリニアンは1体目のリントヴルムを撃破していた。残りは59体のリントヴルムだ。


 まさに絶望的とはこのことだろう。セリニアンは次のリントヴルムに飛び掛かって首を狙って攻撃を仕掛けるが、その攻撃は一瞬弾かれ、何度か繰り返すうちにようやく肉に達した。


 リントヴルムの大軍はセリニアンが友軍のリントヴルムに苦戦している間に、悠々と進軍していく。自分たちに障害はないというように、自分たちを止めることはできないというように、リントヴルムは突き進んでくる。


 そして、衝突。


 私が立っている防護壁の向こうの城壁にリントヴルムが体当たりを加え、城壁がガラガラと音を立てて石材に戻っていく。リントヴルムの大軍が城壁を破壊しようと、その破壊力を振るう。


 ああ。ダメだ、突破される。


 ポイズンスワームたちも毒針を浴びせているが、リントヴルムのタフネスでは有効打になっていない。鱗に弾かれるか、命中しても僅かに体力を減らすのみである。


「お前ら! 準備はいいか!」

「応っ!」


 私が悲観に暮れていたとき、防護壁の下の方で声がした。


 そこではコンラードたちが即席の破城槌を作り、それを構えてリントヴルムに向かっていこうとしていた。


 彼らは死ぬだろう。リントヴルムの攻撃は城壁すら揺さぶるのだ。人間が受けたらただではすむまい。地面で赤い染みに変えられてしまうのが精一杯というところだ。こうなったら止めるべきだろうか。


 いや、彼らは自分たちにできることを精一杯やっているのだ。私も最善を突くさなければ。そうでないと彼らに恥ずかしい。アラクネアは蛇に追われるほど、そんなに虚弱な文明ではないのだ。


「ポイズンスワーム、攻撃開始」


 私の命令で二重の城壁の背後に隠れていたポイズンスワームが一斉に毒針を飛ばす。


 嵐のように降り注ぐ毒針は、リントヴルムたちに命中し、弾かれつつもその肉に達した。1発、2発の毒針ではどうにもならなかったリントヴルムもこれだけの毒針を受ければただでは済むはずがない。


 だが、倒れない。リントヴルムは依然として城壁を攻撃している。


「はあっ!」


 その間にもセリニアンが3頭目のリントヴルムに襲い掛かり、腐肉砲の毒とポイズンスワームの毒で弱った大蛇にトドメを刺していく。心なしかセリニアンがリントヴルムを屠る速度が上がっている気がする。毒が回ってきたか?


「行くぞ、お前たち!」

「トカゲの化け物をぶち殺せ!」


 更にコンラードたちが即席の破城槌で攻撃を仕掛ける。破城槌は城壁の第一層を突破したリントヴルムに衝撃を与え、その巨体を揺さぶる。致命傷にはなっていないが、時間稼ぎに放っているはずだ。


 このまま。このまま叩き切れれば……。


「ワイバーンだ!」


 見張り兵の声が響く。


 最悪だ。この状況でワイバーンとは。


「ポイズンスワーム、攻撃目標をワイバーンに変更だ。叩き落せ」

「了解です、女王陛下」


 私は即座に攻撃目標をワイバーンへと変更する。


 ここでワイバーンに火炎放射などやられた日にはセリニアンやコンラードたちが危ない。空を叩ける唯一のユニットであるポイズンスワームを残念だが、対空攻撃に向かわせるしか他に方法はない。


 ポイズンスワームの毒針が次々に空に舞い上がり、その毒針の嵐の中でワイバーンが回避行動をとりつつ地上に迫る。何体かのワイバーンは毒針の直撃で叩き落されたが、何体化は毒針の嵐を突破して地上に迫ってきた。


「撃ち続けろ! セリニアンたちを支援するんだ!」


 ポイズンスワームを私は鼓舞し、ポイズンスワームはそれに応じたように再び毒針の嵐を吹かせる。


 これまでの攻撃で飛来したワイバーンのうち3分の2は撃破できた。残り3分の1はそのまま地上に迫ってくる。ポイズンスワームの射撃も間に合わない。


 火炎放射。


 無情にもワイバーンは味方のリントヴルムごと火炎放射を地上に浴びせ、その炎によって地上のものが焼き払われる。


 やられたのは主にポイズンスワームだ。セリニアンやコンラードたちが火炎放射を浴びなくて本当によかった。だが、敵のワイバーンは第二次攻撃の準備に入っており、ポイズンスワームたちは炎の中で再度迎撃準備を整える。


 空と地で乱戦が繰り広げられているとき、地上でも動きがあった。


 セリニアンが7体目のリントヴルムを撃破した。かなり速いペースでセリニアンはリントヴルムを撃破していっている。コンラードたちの破城槌もリントヴルムを怯ませ、城壁を完全に突破させまいとしている。


 だが、それもつかの間。


 リントヴルムが首を大きく振ると、コンラードたちの破城槌が吹き飛ばされた。やはり人間で怪物の相手をするのは無茶だったのか……。


 リントヴルムはコンラードの破城槌を吹き飛ばすと、次はアラクネアの防護壁の破壊に取り掛かった。残された最後の防壁だ。


「ポイズンスワーム、後退。ジェノサイドスワーム、前へ」


 こうなればやれるところまでやってやる。


「うおおっ! 怯むな、野郎ども! 傭兵の意地を化け物に見せてやれ!」


 ここで吹き飛ばされたはずのコンラードたちの破城槌が再び起き上がり、リントヴルムのわき腹めがけて突き進んでいった。


「ギイイィィ!」


 わき腹というもっとも装甲の薄い部分を突かれたリントヴルムは雄叫びを上げ、苦痛に悶えながら周辺のものへと当たり散らす。


「古むな、怯むな! 俺たちは隻眼の黒狼団! これぐらいでへばりはしねえ!」


 コンラードはそう叫び、再びリントヴルムのわき腹に一撃を加える。


 このままならばいけるのではないか?


 私がそう思ったとき、城壁が更に破壊された。


 新たなリントヴルムが顔を出し、破城槌を目掛けて火炎放射を浴びせる。


「畜生! ここまでか!」


 ああ。惜しかった。もうちょっとだったのに。


「女王陛下! 退避なさってください! そこは危険です!」


 既に10体目のリントヴルムを屠ったセリニアンが叫ぶ。


 確かに今私が立っている場所は新しく顔を出したリントヴルムの進路上にある。


 逃げなくては。


 私は情けない気持ちになりながら防護壁の上を駆け抜け、防護壁から降りようとする。もう今の私にできるのは逃げることだけだ。


 だが、そこに衝撃が加わる。


 私の体は防護壁から投げ出され、地上に向けて落下する。落下の衝撃で一瞬息ができなくなり、体中に痛みが走った。もうこれは死んだなと思うほどに痛かった。


「だけれど」


 だけれど、間に合ったことを知った。


 私が奥の手として待機させていたユニットが間に合ったのだ。


「さあ、やってくれドレッドノートスワーム。何もかも押しつぶせ」


 私は二ッと笑ってそう告げ、巨大な黒い影に向けて命じた。


…………………

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