先制攻撃
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──先制攻撃
フランツ教皇国は海上からの侵攻が失敗に終わった後で、地上からの攻撃に切り替えたのは確実だ。フランツ教皇国は地上軍25万を組織し、それをシュトラウト公国に向けて進軍させ始めた。
「敵が攻めてくる」
私はフランツ教皇国とシュトラウト公国の間にある前進基地でそう告げた。
「敵はこの間撃退したばかりなのですが」
「今回のは連合軍だ。大陸諸国会議で結成された連合軍が攻め込んできている。数は合計で25万。騎兵もいれば、重装歩兵もいる。いや、重装歩兵を中心とした軍隊だと思っていい。敵は学習したようだ。我々を相手にするのに軽装歩兵では無駄だと」
そう、敵のユニットもアップグレードした。
リッパースワーム対策に敵は重装歩兵で兵力を固めた。
リッパースワームは初期ラッシュに使うものであり、敵がユニットをアップグレードさせてくると利用困難なものになる。敵の鎧を貫けず、敵の持つ重い鋼鉄の武器で屠られていくのだ。
「大丈夫なのですか、女王陛下?」
「大丈夫だ。そんなこともあるかと思って、こちらのユニットもアップグレードさせている。リッパースワームから新しいユニットに前衛ユニットは切り替えてある。リッパースワームはこれからは哨戒や偵察に当てる」
ライサが尋ねるのに私がそう返す。
リッパースワームラッシュが行える時間は短い。リッパースワームは安価で量産しやすいユニットではあるのだが、脆いのだ。それをどうにかするためには、こちらもユニットをアップグレードするしかない。
幸いにしてマルーク王国とシュトラウト公国を滅ぼしたおかげで、アップグレード先のユニットはアンロックされており、製造するための肉もちゃんと残してある。
「まずは敵の攻撃を粉砕する。防護壁は見た目ほど頑丈ではない。敵が攻城兵器を持ち出せば突破されるだろう。防護壁は時間稼ぎにしかならないと思ってくれ。問題は防護壁を突破されたのちの戦闘だ」
防護壁での戦闘は短いものだろう。25万の戦力が防護壁を壊そうとやってきたら、いとも簡単に突破されてしまう。
防護壁は時間稼ぎ。敵の突破しようとしている地点を掌握し、そこに戦力を集中させるのが、こちらの防護壁建造の狙いだ。
「アップグレードされたユニットは生憎機動力が落ちる。防護壁での時間稼ぎは必要になる。同時にポイズンスワームによる毒針での攻撃も」
眼球の塔には今はポイズンスワームが設置されている。眼球の塔からは無数の毒針が歓迎することになる。もちろん相手が攻城兵器で眼球の塔を攻撃すれば、防護壁同様に長くは持たないだろうが。
「さて、敵は総勢25万。こちらは総勢40万。どちらが勝つのか楽しみじゃないか」
私は勝利の気配を感じながらも自分に油断しないように言い聞かせた。
私はスワームたちに対して勝利を約束したんだ。勝利できるように努力しなければならない。彼らの勝利が未だに何を指すのか不明であっても、敗北という定義だけははっきりとしている。全滅することだ。
さあ、戦いの時間か。
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フランツ教皇国を盟主とする連合軍は北へと進撃し、25万の戦力が高らかと軍靴の音を響かせて、北のシュトラウト公国との国境線に築かれた防護壁へと向かってきた。その様子は難民に混じっているマスカレードスワームによって把握できている。
「光の神のために!」
「光の神のために!」
狂信者たちめ。そんなに神が好きならすぐに合わせてやる。
敵の攻撃は北東部で実行された。
破城槌が持ち出され、投石器が設置され、敵は進軍の準備を整えている。こちらも作業員に向けて毒針を発射するなどして妨害しているが、敵の作業スピードはなかなかのものだ。これは防げそうにない。
「光の神のためにっ!」
破城槌が突き進み、投石器が眼球の塔を攻撃する。眼球の塔は10発程度の投石には耐えたが、それまでだった。眼球の塔は崩壊し、中にいたポイズンスワームたちががれきの下敷きになって息絶える。
破城槌も防護壁を叩き割り始める。既に眼球の塔が崩壊した今となっては破城槌を止める手立てはない。そもそもポイズンスワームの攻撃が有効なのは生き物であって、破城槌のような無機物には効果がないのだから一緒か。
さて、敵は我々の玄関を開けようとしている。
玄関の先に何が待ち構えているかもしらずに。
「破城槌が城壁を破ったぞ! 乗り込め!」
破城槌が崩壊させた部分に向けて兵士たちが殺到する、破城槌は後ろに下がり、隊列を組んだ重装歩兵たちが前進してくる。
これを相手にするのがリッパースワームだったならば、相手は易々とリッパースワームを葬り、後衛のポイズンスワームたちを攻撃して、私たちを瓦解させただろう。彼らの外殻を叩き割り、爪と牙をへし折っただろう。
だけどね。そうはならないんだよ。
「歩兵第一陣、城壁を突破!」
「なんだあれは……」
破城槌の開いた突破口から中に入った重装歩兵たちは信じられないものを見たような顔をする。その顔が見たかったところだよ。
城壁を突破した彼らを出迎えるのは、分厚い外殻に守られ、ムカデのような牙を持ったスワームだ。手足は全て鎌のように鋭い爪になっており、それが地面に突き刺さっている、重戦車を連想させるスワームだ。
このスワームこそリッパースワームのアップグレード版であるジェノサイドスワームだ。その名の通り敵を皆殺しにするスワームだ。どんな敵であれども。
「ジェノサイドスワーム、前進。ポイズンスワームは援護。防護壁を越えた敵を皆殺しにて出迎えてやれ」
そして、私はスワームたちに命じる。
ジェノサイドスワームが前進を開始し、ポイズンスワームが援護射撃を実行する。
ポイズンスワームの毒針は頑丈な重装歩兵にはほとんど通じない。だが、稀に毒針が鎧を貫いて達し、人間を肉汁へと変えてしまう。その恐怖に重装歩兵の足が鈍るのが感じられる。いい兆候だ。
足の鈍った重装歩兵にジェノサイドスワームが食らいつく。
彼らの武器は牙。牙で相手を引き裂き、肉体を分断するのが彼らの力。
その力はすぐに発揮された。
「た、助け──」
重装歩兵が一瞬で上半身と下半身とに切り分けられる。重装歩兵の纏っている鋼鉄の鎧がギリギリと不快な金属音を立てて引き裂かれ、粘着質な肉の裂ける音と共に両断されてしまう。
「怯むな! 戦え! 光の神のために!」
「光の神のために!」
それでも重装歩兵はジェノサイドスワームに向けて突撃する。
彼らはスワームに有効な武器であるクレイモアやハルバードを振り下ろすが、それはジェノサイドスワームを前にしては多少のダメージにしかならない。ジェノサイドスワームは鋼鉄の武器で何度殴られようとも、平然と攻撃を繰り返す。
「防御力が違うのだよ、防御力がね」
リッパースワームの防御力とジェノサイドスワームの防御力には大きな差がある。リッパースワームならば一撃で屠れる攻撃も、ジェノサイドスワームを相手にしては、何十回と繰り返さなければ効果がない。
もちろん防御力が上がっただけ、犠牲になったものはある。速度だ。ジェノサイドスワームはどっしりとした動きでしか動けず、それが弱点になるものと思われる。まあ、リッパースワームが速すぎるだけというのもあるのだろうが。
「女王陛下。敵は防護壁の外に撤退しました。どうなさいますか?」
「前進だ。逃げる敵を追って前進だ。彼らにアラクネアの力を見せつけてやろう」
セリニアンが尋ねるのに私がそう返す。
前進、前進、前進。
イザベルを殺した連中がいる首都サーニアまで前進だ。
さあ、行進曲を流せ。スワームの死の濁流はすぐそばまで迫っているぞ。
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「撤退しろ! 撤退だ! 下がれ、下がれ!」
フランツ教皇国陸軍の下士官の声が響く。
城壁の向こう側に向かった者たちは皆殺しになった。恐ろしい怪物──ジェノサイドスワームを前にして、彼らは逃げまどうより他なくなった。敵は自分たちの攻撃をほとんど受けず、平然と兵士の体を八つ裂きにするのだ。
「撤退は許可しない!」
撤退を命じる指揮官の喉にサーベルが突き付けられた。
「どういうつもりだ!? 皆殺しにされたいのか!?」
「光の神は我々を祝福してくださっている。敗北はあり得ない。敗北を叫ぶ者は異端者だ。異端者には死を!」
下士官の喉をそう告げて裂くのは異端審問官だ。
「前進せよ! 前進せよ! 怪物たちからシュトラウト公国の大地を取り戻すのだ!」
下士官に代わって異端審問官が指示を出し、兵士たちは困惑しながらもその指示に従う。だが、前進した先に待っているのは死だけだ。城壁の向こうでは死が待ち受けており、前進すれば皆殺しにされる。
「前進だ! 神のために前進せよ!」
異端審問官はそれを理解していないのか、ただただ前進を命じる。
「蟲が! 蟲が城壁の向こうから来るぞ!」
異端審問官が狂った命令を発している最中、防護壁の向こう側からジェノサイドスワームとポイズンスワームが前進してきた。彼らは近づく重装歩兵を牙で屠り、毒針で肉汁に変え、死体を乗り越えて城壁の向こう側から迫ってくる。
「弓兵! 撃ち方始め!」
迫りくるジェノサイドスワームとポイズンスワームに応じるのはクロスボウで武装した弓兵たちだ。彼らはクロスボウに太い特殊な弓矢を番え、一斉にジェノサイドスワームに向けて放った。
効果は抜群だ。
クロスボウで貫かれたジェノサイドスワームは一瞬で屠られ、躯を晒す。だが、後続のジェノサイドスワームがそれを乗り越え、更にはポイズンスワームが防護壁の向こう側から姿を見せる。
「撃ち続けろ! 勝利は我らに──」
異端審問官が勝利を確信して叫ぶのをポイズンスワームの毒針が貫いた。彼はこの世のものとは思えない苦痛を味わって、地面に倒れるとそのまま肉汁と化した。
「本当にこのまま戦うのか!?」
「そう命じられているだろう!」
指揮官たちが次々に戦死する中で、確実にフランツ教皇国を中心とする連合軍の中に指揮系統の混乱が生じつつあった。
ある部隊では異端審問官を切り殺して士官が撤退を命じ、ある部隊では異端審問官が士官を切り殺して前進を命じる。まるでバラバラの動きを前にして、アラクネアの女王は秘かに笑った。
「ああ。見事に敵は分裂してくれた。神を狂信するもの、そうでないもの。異端審問官たちに強い権限を与えたパリスには感謝しないといけないね」
アラクネアの女王は歌うようにそう告げながら、敵の歩兵を蹂躙し、弓兵に射られては息絶えるスワームたちに、歓喜と同情の視線を向ける。
「クロスボウ、というのは厄介だ。しかも、敵の弓兵は重装歩兵と同じ装備を纏っている。ポイズンスワームが役に立つことはなさそうだね」
連合軍の弓兵はほとんどが重装鎧に身を纏っており、ポイズンスワームの毒針が通じない可能性が高いものだった。
「まあ、いい。数で押すというのがスワーム流だ」
だが、それでもアラクネアの女王は作戦を変えなかった。敵の中央を強行突破し、弓兵たちにポイズンスワームの毒針が降り注ぎ、不運な弓兵が死に至る。
「女王陛下。これからの策は?」
「数で押しつぶすというがスワームだが、どこまでも数で押すというのも芸がない。敵の隊列後方にいる指揮官を食い殺したら、敵の後方連絡線を遮断し、そのまま包囲殲滅する。セリニアン、ライサ、ローラン。君たちも戦いに向かってくれ」
セリニアンが尋ねるのに、アラクネアの女王はそう答えた。
ジェノサイドスワームを前衛とする集団は既に後方で必死に軍全体の指揮を執ろうとしている指揮官に迫っている。彼らを殺し、指揮系統が完全に崩壊、かつ後方連絡線が遮断された状況で包囲を実行する。
それがアラクネアの女王のプランだ。
「畏まりました、陛下。ただちに、我々も前進します」
「お任せあれ」
セリニアンとローランたちは素早くスワームたちの背中を蹴って前線に躍り出て、ライサは逃げようとするものを狙撃で射抜いていく。
そして、セリニアンが指揮官の首を刎ね飛ばした時、勝敗は決した。ジェノサイドスワームとポイズンスワームたちは後方連絡線を断たれた25万の兵力の半分である12万の敵戦力を包囲。そのまま包囲網を狭めて殲滅した。
「これからは小細工なしでいくか。数によって押しつぶし、殲滅せよ、だ」
フランツ教皇国は異端審問に熱心になりすぎるがあまり軍備の強化を疎かにした。その報いを今まで戦力を蓄えつつあったアラクネアに支払わされようとしている。
彼らを助けるものは何もない。
連合軍はこの戦いで瓦解してそれぞれが祖国に慌てて逃げ返り、フランツ教皇国の軍は大きく後退した。その敗走ときたら歴史に刻まれるほど素早い後退──いや、惨めな敗退であった。
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