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社交界(2)

…………………


「さて、晩餐会に出席することになった」


 私は宿泊している宿屋の自分の部屋でそう告げる。


「その晩餐会には冒険者ギルドでは聞けないような情報も手に入るだろう。これに出席する価値は非常に高い。これを機にシュトラウト公国の情報をいろいろと獲得しておきたいところだ」


 私が告げるのに、セリニアン、ライサ、そしてマスカレードスワームが頷く。


「問題は私たちの身元がばれる恐れがあるということだ。あのバジルという男は勝手に勘違いしてくれたが、私たちがマルーク王国の貴族であると偽るのはいろいろと苦労する。貴族にはいろいろと秘密結社染みたところがあるからな」


 そう告げて私はため息を吐く。


「家紋、モットー、親類関係。そういうものを今から偽造するのは不可能だ。ここは記憶喪失かトラウマでごまかす。その方向で構わないな?」


「はい、女王陛下。今からマルーク王国内のスワームに貴族の邸宅を調べさせるという手もありますが、下手な演技より、まるで覚えていないという方が安全性は高いでしょう。その手で行きましょう」


 やろうと思えば今からマルーク王国内で働いているスワームに、貴族の邸宅を調べさせて家紋などを調査させるという手もある。だが、下手にその貴族と知り合いの人間がいたり、うろ覚えで間違ったりするリスクを考えるとこれはなしだ。


「それで、それぞれの役割分担だ。セリニアンは私の援護。ライサは索敵。マスカレードスワームは悪いけれど脱出口の確保を頼む。いざという場合に備えて、潜伏させてあるマスカレードスワームは全て迎賓館に結集させる」


 セリニアンは私にぴったりと付いて援護し、ライサは出席者たちの中から警備兵を探し出して動向を観察する。マスカレードスワームは脱出経路の確保だ。万が一の場合は街に潜伏しているマスカレードスワームが全て援護に当たる。


 なんだろう。晩餐会に行くというより特殊作戦に行くという感じだ。


「そして、問題はまだあった。私たちは誰に喋りかければ有益な情報が手に入るか分からないということだ。手あたり次第に話しかけるのも不自然だし、ここは運試しとなる。運よく話しかけた人物が重鎮であることを祈ろう」


 私たちはシュトラウト公国の要人たちの顔を知らない。誰が話しかける価値が低めの小さな商業ギルドの主なのか。誰が重要な情報を握っている貴族なのか。そういうことはまるで分からない。


 片っ端から話しかけるというRPGみたいなことをしていたら怪しまれるのは当然だ。ここは何名か、よく観察してから仕掛けるしかない。


「そして、最後の問題だ。君たちのドレスとタキシード」


 ふうとため息をついて私はそう告げる。


「セリニアン。鎧は脱げそうか?」

「努力してみます!」


 この深紅の鎧はセリニアンの体の一部だ。それを切り離すというのは至難の業だろう。果たしてセリニアンは無事にドレスに着替えることができるのか。


「んんっ……!」


 セリニアンは精一杯念じ、鎧を脱ごうとする。そして──。


 ガランと重い金属音を立てて、鎧が地に落ちた。


「これでいいですか、女王陛下」


 そう告げるのは生まれたままの姿のセリニアン。


「……セリニアン。意外に胸大きいんだね。それにスタイル抜群じゃないか」

「凄く綺麗です、セリニアンさん!」


 私は思わずジト目になってセリニアンを見つめ、ライサは嬉しそうにそう告げる。


 私は元々貧相な体だったのが、若返りによってちんちくりんになったというのに、今まで男だと思っていたセリニアンの方が胸が大きいとは。ショックで寝込みそうだ。


「じょ、女王陛下、大丈夫ですか? 胸も削りましょうか?」

「いや。いいよ。その代わりセリニアンには色仕掛けをしてもらうから」


 集合意識で私の妬みを読み取ったセリニアンが告げるのに、私はそう告げて返した。


「ライサのそれは脱げるの?」

「はい。普通に脱げます」


 ライサは転換炉でスワームになったけれど、その時纏っていた服は体の一部に取り込まれなかったようである。


「マスカレードスワーム。君はどう?」


 女性ふたりの確認が済むと、私はマスカレードスワームに話しかける。


「これでよろしいですか」


 そう告げるとマスカレードスワームの表皮が僅かに蠢き、下着姿になった。流石は擬態を専門とするスワームだ。これぐらいは楽勝ってところだな。


「さて、これでドレスとタキシードを作る準備はできた。セリニアンにはあらかじめ私が普段着を買ってきてあげるからそれを着ていって。ライサは耳を見られないように注意。マスカレードスワームは……君は問題ないな」


「ああ。女王陛下に服を買っていただけるとは……光栄です」


 セリニアンは脱いだ鎧が問題になるので最初から鎧はパージして、普段着姿で服屋には行ってもらうことにした。その方が問題が起きなくていいだろう。


「じゃあ、明日には服屋に行く。各自準備しておくように。以上」


 やれやれ。服ひとつ揃えるのでも大変だ。


…………………


…………………


「ここがバジルの言っていた服屋か」


 私たちは渡されたメモの通りに通りを進み、バジルが紹介してくれた服屋についた。


「高級そうなドレスが並んでますね……」

「ここは奢りだから好きなのを選んでいいよ」


 ライサが目を丸くして店頭に並べられているドレスを見つめるのに、私はそう告げてバジルの紹介した服屋に入っていった。


「いらっしゃいませ」


 店主は女性だった。自身も軽やかなドレス姿の店員が恭しく私たちを出迎える。


「バジル・ド・ビュフォン伯爵閣下の紹介で来た。頼めるか?」

「ああ。お話は聞いております。伯爵閣下のご友人をお出迎えできて光栄です」


 別に友人じゃないけどな。


「話が通っているなら早い。よろしく頼む」

「畏まりました。どうぞこちらへ」


 私は余計なことは言わずに、セリニアンたちを前に出す。


 セリニアンは赤色のエプロンドレス姿だ。微妙に似合ってないけど、本人が気に入っているからいいか。私に服選びの才能なんてないし。


「セリニアン様。どのようなドレスをお望みですか?」

「動きやすいものがいいな。剣を振るえるようなもので頼む」


 やってきた店員が尋ねるのに、セリニアンがとんでもないことを言う。


「あの、晩餐会のドレスですよね?」

「ああ。そうだ。できれば胸と腹部に装甲を仕込んでくれると助かる。多少重くなっても構わない」


 セリニアンはドレスと鎧の区別がついていない。


「セリニアン。変なわがままを言って店員さんを困らせない。この子には大人びたドレスを頼む。胸元と背中が開けたものがいい。晩餐会の華となれるようなドレスを作ってやってくれ」


「畏まりました」


 私が頼むのに、店員はドレスを取りに行った。


「ライサ様はどのようなドレスを?」

「え、えっと。陛下が着ている奴よりも地味な奴でお願いします。私はあくまでお仕えする立場なので」


 ライサはライサで遠慮している。この子は仕方ないか。


「マスカ様。これでよろしいでしょうか」

「結構だ」


 一番早く完成したのはマスカレードスワームだった。


 彼は立派なタキシードを身に着け、鏡の前に立っている。意外に男前だな、君。


「グレビレア様には……新しいドレスは必要ないようですね」

「ああ。私の準備は出来ている」


 店主の女性が私のドレスをみて告げるのに、私はそう返す。私にはワーカースワームたちが作ってくれた立派なドレスがたくさんあるから必要ない。


「そのドレスはどこで手に入れられたのですか?」

「マルーク王国のとある服屋だ。リーンにあった」


 リーンにあった服屋は私が潰してしまったけれどね。


「縫い目もなく一枚の布のようで、質感はシルクによく似ている。意匠も大陸のドレスデザイナーたちの間では見られない大胆なもの。これだけのものを作れるマルーク王国が滅んでしまったとは残念ですね」


「全くだ」


 騎士団が余計なことをしなければ今頃もな。


「女王陛下!」


 私と店主がそんな会話を交わしていた時、セリニアンが涙目で戻ってきた。


「店員が私にこんなドレスを着せるんです! 破廉恥極まりません! これでは騎士ではなく、娼婦のようではありませんか!」


 そう告げてセリニアンが見せるのはかなり大胆なドレスだった。


 背中は大きく開けており、胸元も谷間が覗いている。そして、太ももにはスリットがあり、セリニアンの白い太ももが露わになっていた。


「似合っている、セリニアン。それにしたらどうだ?」

「似合ってなど! もっと私は騎士らしい服装を!」


 似合ってると思うけどな。私には出せない大人の魅力が出てる。


「じゃあ、もう少し露出を抑えた奴を頼むといい。だけれど、普通のドレスは許さない。セリニアンには色仕掛け要員になってもらうんだからね」

「うう。分かりました……」


 さて、かれこれドレスと選ぶこと1時間と30分。


「ライサはそれでいい?」

「はい。まるでお嬢様になった気分です」


 ライサは落ち着いた雰囲気の緑色のドレスを身に纏っていた。露出は少なめだが、煌びやかでフリルに彩られており、ライサはご機嫌という様子だ。女の子はたまにはお洒落しなくちゃな。


「セリニアン。そろそろ君も観念しなよ」


 私はセリニアンの方を向いてそう告げる。


「ですが、これは……」


 セリニアンのドレスはさっきのドレスからやや露出を引いた赤いドレスだ。胸の谷間がまぶしいし、太ももがきわどい。これを見て落ちない男がいたらそいつは男じゃないと断言していいほどに魅力的だ。


「似合ってる、セリニアン。それで晩餐会にいけば注目の的だ。その色気で男をどんどん落としてくれ」

「そのような任務はあ……」


 セリニアンを虐めているようで可哀想だが、ここは目的のためだ。


「じゃあ、ドレスも決まったし、失礼しようか。どうもありがとう」

「いえいえ。こちらこそ伯爵閣下のご友人に来店いただき光栄でした」


 私と店主はそう言葉を交わして別れた。


 晩餐会は明日。もう準備は整っている。収穫があるといいけれど。


…………………

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