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お別れ

…………………


 ──お別れ



「セリニアン」

「女王陛下……」


 私は倒れているセリニアンに手を伸ばす。


「あの時、励ましてくれてありがとう。君の言葉のおかげで戦うことができたよ。諦めることなく」

「女王陛下、もったいなきお言葉……」


 私がセリニアンに手を貸して起き上がらせるのに彼女はちょっと泣いていた。


「ライサ。君も頑張ったね。ありがとう」

「いえ。、私なんてほとんどお役に立てず申し訳ないです……」


 ライサも少し涙目であった。


「スワームたちもありがとう。ここまで戦い抜けたのは君たちのおかげだ」


 私は起き上がり始めているタフなハイジェノサイドスワームたちにもお礼を言う。


「ローラン。聞こえているかい?」

『なんでしょうか、女王陛下』

「聞いてほしいことがあるから、みんなを集合意識に集めて」


 私がそう告げるのに全てのスワームたちの意識が集合意識に集った。


「みんな。これまでありがとう。私たちはついに勝利した。時間はとてもかかったけれど、私たちは全ての元凶を打ち倒して勝利を手にした。アラクネアの誇るべき勝利だ」


 私の言葉にスワームたちが万歳の声を上げる。


「これは君たちが誇るべき勝利であり、私が讃えるべき勝利だ。君たちなしでは戦い抜くことはできなかった。どんな厳しい状況でも戦い抜いた君たちには、最大限の賛辞を贈らせてもらいたい」


 私はスワームたちがいなければ凡人以下の人間だった。


「そして、この賛辞を以てして別れの言葉としたい」


 この言葉にスワームたちがうろたえるような動きを見せた。


 セリニアンは唖然としているし、ライサは状況が分かっていない。


「私は既に死んでいる人間だ。私は死者が逝くべき場所に逝く。君たちとの思い出を胸に抱いて……」


 私はそう告げて涙を拭った。


 寂しい。きっと寂しいだろうなと思ったけど、やっぱり寂しかった。


「スワーム諸君。君たちはふたつ大陸を制覇した。だが、のぼせ上ってはいけない。私たちのやれることには限界があるからね」


 スワームたちは静かに私の言葉を聞いている。


「これからは本能としての侵略は押さえ、融和を目指してほしい。ふたつの大陸の住民はどちらも君たちを受け入れてくれている。これ以上の戦争は必要ない。誰もが誇れるように平和な時代を作ってくれ。以上だ」


 私はこれで言葉を終えた。


「女王陛下。どこに行かれるというのですか……?」

「死者の逝くべき場所へ。そこの少女──サンダルフォンに案内してもらう」


 セリニアンが尋ねるのに、私はそう答えた。


「どうしてもいかなければいけないんですか?」

「ああ。ライサ。私の家族が待っているんだ。すまない」


 父さんと母さんはもう天界にいる。


 会えるといいな。


「女王陛下。どうしてもと仰るならばお止めはしません。ただ──」


 セリニアンが告げる。


「私たちのことをどうか忘れないでください……」


 そう告げるセリニアンの顔は涙で塗れていた。


「忘れないよ。とっても頼りになる泣き虫騎士のことは、決して」


 私はセリニアンを抱き締め、そう告げた。


「女王陛下、寂しくなります……」


 ライサも私に抱き着いて顔を埋めた。


「セリニアン。私の持っている集合意識の核を君に移すよ。これからは君が女王だ」


 私がいなくなってもスワームたちが混乱しないように私はセリニアンに集合意識の核を譲り渡した。


「いいえ。何があろうとも私にとっての女王はあなただけです、グレビレア様」


 セリニアンはそう告げ、跪いた。


「ありがとう、セリニアン。なら、私はそろそろ逝くよ。君たちが──」


 サンダルフォンが優しく私の手を掴み、ふわりと浮き上がる感触がする。


「いつまでの幸せに暮らせることを祈っている。それじゃあね」


 私の意識はこの世界を離れ、遥か空高くに飛んでいき、そこにある扉を潜った。


 そして、扉の先にいあるのは優し気な光に包まれた空間だった。




「ああ! 父さん、母さん!」




…………………


…………………







 人が後に語るアラクネア戦役とネクロファージ戦役は終結した。




 旧大陸では戦役後、比較的無傷だった東部商業連合が中心となって大陸に復興が行われることとなる。


 アラクネアは旧マルーク王国領を領土とし、他からは撤退。無人の地となった旧マルーク王国領ではスワームたちが酪農や工業に精を出し、大陸諸国の荒れ果てた大地を復活させる役割を果たした。


 新大陸においても、アラクネアはポートリオ共和国と連合して、避難民の帰還と生活再建に向けた努力を始めた。ポートリオ共和国首都フォトンにあった難民キャンプは次第に解体されていき、3年後には全避難民の帰還がなった。


 アラクネア。


 当初は恐れられた蟲の軍勢は、今やその猛威を振るうことなく、ふたつの大陸において平和の礎となっている。


 だが、アラクネアにはもう女王はいない。


 人々が恐れ、嫌悪し、それでいて愛した女王は姿を消した。


 それについてアラクネア側は何も語ろうとしない。


 ただ、今でもエルフの森にある洞窟には女王の部屋が残されているらしい。


 いつ、彼女が帰ってきてくれてもいいようにと。







これにて本作品は完結となります! これまでお付き合いいただきありがとうございました!

並行して連載中の作品やこれから書くだろう新作もよろしくお願いします!


それでは!

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