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ゲームプレイヤー

…………………


 ──ゲームプレイヤー



 私たちは城塞の内部を進む。


 目的は全ての黒幕であるサマエルを仕留めるため。


 私をこの世界に連れ込み、新大陸を破壊し尽くそうとした悪魔を倒すため。


「ようこそ、────さん」

「サマエル」


 サマエルは城塞の最上階にいた。涼しい顔をして、私たちを眺めている。


「夢以外の場所で会うのは初めてだな」

「ええ。ようやく生で出会えましたね。こういうのをオフ会っていうんですっけ?」


 私が告げるのにサマエルがクスクスと笑う。


「貴様のゲームはもう終わりだ。ネクロファージは滅んだ。ヘシアンも死んだ」

「ああ。彼、死んだんですか? それは残念ですね」


 私の言葉はまるでサマエルを貫いてどこか遠くに飛んで行ってしまったかのように、サマエルには響かない。彼女は全ての出来事がどうでもいいことのように語っている。


「負けを認めて、私を解放しろ。いや、この世界を解放しろ、サマエル」

「それはできない相談です。私はこれからも末永くこの世界で遊んでいくつもりなんですからね」


 私が告げるのにサマエルが踊るようにステップを踏む。


「次はどの陣営にしましょうか? グレゴリアは面白そうでしたけど、怪獣大決戦って私の趣味じゃないんですよね。あえてマリアンヌを使うのも面白いかもしれませんけど、信仰心がパワーってのが面白くない。そうだ──」


 サマエルはステップを踏みながら独り言のようにしゃべり続ける。


「アラクネア、が面白そうなのでアラクネアにしましょうか。私も可愛いセリニアンちゃんを従えることができたら、セリニアンちゃん同士で殺し合いですよ。どっちが勝つのか楽しみですよね?」


「サマエル……!」


 こいつだけは。こいつだけは許しておけない。


「その前にお前はもう終わりだ。ハイジェノサイドスワーム、奴を八つ裂きにしてやれ。原型を留めない死体に変えてやれ」


 私は階段を上ってきたハイジェノサイドスワームに向けてそう命じる。


 ハイジェノサイドスワームたちはサマエルに突入していき──。


「はい、残念!」


 一斉に全員が吹き飛ばされた。


「そう簡単に大悪魔に勝てるとでも思ってるんですか? たかだが蟲ごときで? そんな考えしてるから親が死んだくらいで自殺するんですよ」


 サマエルは私を嘲り、城塞の最上階の部屋で踊る。


「さあ、夜は始まったばかり。踊りましょう、アラクネアの女王グレビレアちゃん?」

「その言葉、後悔するなよ」


 サマエルが月明かりに照らし出されて笑うのに、私はただただ怒りを燃やした。


「ハイジェノサイドスワーム、再攻撃! ライサ、セリニアンも攻撃を頼む! だが、気をつけろ! 何をしてくるか分からないぞ!」


 サマエルはゲームのユニットなどではない。現実の悪魔だ。


 それをどうやって倒せばいい? 普通に攻撃して倒せるのか?


 私は何ひとつ分からない状況で、セリニアンたちに攻撃を命じた。


「無駄ですよ、蟲さんたち。このサマエル様は大悪魔。ゲームとかいう仮想の代物で倒されるほど軟な存在ではないのです。何と言いますか、立っているステージが違うとでもいうべきですかね」


 サマエルはそう告げて笑うと片手を振る。


「くうっ……!」

「きゃあっ!」


 ハイジェノサイドスワームも、セリニアンも、ライサも、全員がその片手を振っただけのサマエルによって吹き飛ばされてしまった。


「あーあ。これじゃあ退屈ですね。蟲駆除スプレーでも持ってきた方が面白かったかもしれません。バタバタと神経毒で麻痺して死んでいく蟲さんたちを見たら、きっと女王陛下もいい顔をしたと思いますよ」


「ふざけ、るなっ!」


 サマエルが私たちの全てを嘲る中でセリニアンが力強く立ち上がり、長剣を振りかざしてサマエルに突撃していく。


「はい、無駄です」

「なっ……!」


 セリニアンが長剣を振り下ろしたのを、サマエルは指一本で止めていた。


「所詮、この世界のものは神に等しいこのサマエル様の被創造物。私に作られた存在が私に勝てるとでも?」


 そう告げてピンとサマエルが指を弾くとセリニアンは壁に叩きつけられる。


「サマエルッ!」


 それでもセリニアンは必死に立ち上がってサマエルに切りかかる。


「無駄だと言ったでしょう。おつむが足りない蟲さん」


 そして、またセリニアンが壁に叩きつけられる。


 何度も、何度も、何度も、セリニアンは立ち上がり続け、サマエルに切りかかる。だが、その全てが無駄に終わってしまった。


「セリニアン! もういい! やめてくれ!」


 セリニアンの鎧はもうボロボロで、体中傷だらけだ。


「サマエル。貴様の本当の望みはなんだ? それを聞いてやるからセリニアンたちを解放しろ」

「女王陛下!?」


 事実上の降伏宣言だった。


 私たちでは悪魔には勝てない。元々この世界を作った存在に、私たちが勝てるはずがなかったのだ。


「そうですね。これからも末永くゲームプレイヤーとして私の相手になってください。またアラクネアを使ってもいいですけど、リセットしてニューゲームですよ。この世界も全てリセットしてしまって、また新しい危機を起こして、山ほど人が死ぬようにするので、楽しんでくださいね?」


 サマエルの告げた言葉は絶望的なものだった。


 リセットしてまたあの惨劇を繰り返す? 新しい危機を起こす?


 受け入れられない。だけれど、受け入れなければセリニアンたちが……。


「それを飲めばセリニアンたちは解放するんだな?」

「ええ。もちろんです。私は約束を守るいい悪魔ですから」


 私が告げるのにサマエルがにんまりと笑う。


「分かった。その条件を──」

「待ってください、女王陛下!」


 私が条件を呑もうとする瞬間にセリニアンが叫んだ。


「私たちはあなたのために戦ってきたのです! 私も、ライサも、ローランも、スワームたちも! それを台無しにしてしまうのですか! 勝利を諦めてしまうのですか! それで本当にいいのですか!?」


「セリニアン……」


 私だってこんな条件は受けたくはない。けど、他に手はないじゃないか。


 私はセリニアンたちが大事だ。これまで戦ってきた戦友たちが好きだ。


 威勢が良くて、格好いいところがあるけど実は泣き虫なセリニアン。


 外で見るもの全てが珍しく、なんにでも興奮するライサ。


 故郷であるシュトラウト公国を立て直すために尽力しているローラン。


 最初の戦争では主力となって戦い抜いたリッパースワーム。


 その次に活躍を始めてくれたジェノサイドスワーム。


 終盤から大活躍だったハイジェノサイドスワーム。


 隠密作戦では必須のパラサイトスワーム。


 内部の情報を持ち出すことに長けたマスカレードスワーム。


 最初から最後まで奇策に役立ってくれたディッカースワーム。


 シーサーペントだって倒し、遠距離火力として奮闘したポイズンスワーム。


 自爆攻撃で敵のユニットに大ダメージを与えてくれたファイアスワーム。


 回復から毒まで扱えて、いろいろなところで役立ってくれたケミカルスワーム。


 自爆はもちろん火炎放射で傀儡たちを薙ぎ払ったフレイムスワーム。


 その巨体で何もかもを踏みにじっていったドレッドノートスワーム。


 ちょっと出番が少なかったけど前進拠点潰しに奮闘したヴァイスクイーンスワーム。


 拠点から仮設住宅までなんでもござれの縁の下の力持ちだったワーカースワーム。


 全て大事な仲間だ。1体、1体に愛着がある。


 これらの仲間が犠牲になるのと私自身が苦しむのとどちらかを天秤にかければ、答えはもう出ている。私が犠牲になるべきだ。


 他の結末が私は欲しいが、それを手に入れる力が私にはない。


 私は無力だ。


「そんなことはありません」


 私はサマエルの要求を呑もうとした時、優し気な声が響いた。


「サンダルフォン……?」

「ええ。そうです。私です」


 白装束の少女が私の背後に立っていた。


「────さん。諦めてはいけません。あなたはまだあの二枚舌の悪魔に勝てる。どうせあの悪魔はあなたが要求を受け入れたとしても、あなたの仲間たちを皆殺しにするでしょう」


「そんな。どうやって?」


 私にはセリニアンのような力はない。何もできない。


「あなたの腰に下げている剣については以前説明しましたね?」

「あ、ああ。セリニアンの破聖剣とは性質が異なる……」


 まさか。


「そうです。それならばサマエルを倒せます。あなたは勝てるのです。あなたが諦めさえしなければ」

「ありがとう、サンダルフォン。私、やるよ」


 サンダルフォンの励ますような声に、私は腰の破邪剣を抜いた。


「おやおや。女王陛下自らご出陣ですか? 相当追い詰められているようですね」


 サマエルは笑う。せいぜい笑っているといい。


「あなたはもっと賢いかと思いましたけれど、残念ですね。他のゲームプレイヤーを探すことにしますよ。あなたはもういらない」


 サマエルはそう告げて手を振った。


 衝撃波が駆け抜けていく。だが、私は揺るがない。


「……どういうことですか、サンダルフォン。あなた、何をしました?」

「必要とされることをしただけです」


 私は進む。サマエルへと。


 サマエルは何度も何度も腕を振るって衝撃波を発生させるが、私は止まらない。


 決して諦めない。


「まさか、それは──」

「随分と鈍いな、サマエル。そう、お前を殺せる武器だ」


 サマエルの顔が驚愕のそれに変わるのに、私は破邪剣をサマエルの胸に突き立ててた。その瞬間、破邪剣から光が輝き、その光が爆発した。


 これには私も吹き飛ばされ、地面に強く頭を打った。


「やった、のか……?」


 私は起き上がってサマエルの方を向く。


「ハハッ! ハハハハッ! これだから人間と遊ぶのは楽しいんですよ! 彼らは思わぬことをしてくれる! 長年生きてきて退屈していた私たちを楽しませることをしてくれる! 本当に、本当に愉快だ!」


 サマエルの胸にはぽっかりと大きな穴が開き、それでも彼女は笑っていた。


「お前の負けだ、サマエル。そのまま死ね」

「死にませんよ? 大悪魔たるサマエル様がこれぐらいで死ぬとでも?」


 私が起き上がって告げるのに、サマエルがニタニタと笑う。


「もっとも、これだけの傷を負ったら癒すのに数千年はかかりますけどね。それに今、腹黒い天使にこの世界の管理権を奪われてしまいました」

「サンダルフォンに?」


 サマエルが告げ、私は背後を振り返る。


「この世界は私が保護します。もう悪魔たちには関わらせません」


 サンダルフォンの手には銀色の鍵があった。


「では、皆さん。また会う日まで。ごきげんよう」


 サマエルはそう告げると、自分の影に溶けていき、完全に消滅した。


「殺せなかったのか?」

「殺したに等しいダメージを与えましたよ。あの悪魔は数千年もの間、まるで動くことができなくなります」


 私は不満だったが、サンダルフォンは満足そうだった。


 まあ、何はともああれ、元凶は退治された。もうこの世界で心配することはない。


 私はそろそろ逝かなければ。


…………………

次回、最終話です。

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