表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/133

真相(2)

…………………


「ん……」


 私は目を覚ました。


 あの偽りの楽園から。


「女王陛下、ご無事で!」

「だ、大丈夫ですか!?」


 倒れていた私の頭を擬態モードのセリニアンが膝に乗せてくれていた。


 セリニアンの顔は涙の筋が残っており、ライサの目も潤んで見える。


「おはよう、諸君。私は大丈夫だ」


 私はそう告げて、上半身を起こした。


「セリニアン。君はまた泣いちゃったんだね。君は立派な騎士なんだからそんなに泣いちゃダメだよ?」


「も、申し訳ありません、女王陛下。ですが、女王陛下に万が一のことがあったらと思うとどうしても抑えられず……」


 セリニアンは泣き虫だな。だけれど、そこが可愛い。


「ところで私はどれくらい寝ていた?」

「3日です。もう目を覚まされないのではないかと……」


 3日か。


「その間、軍は前進し続けていたか?」

「はい。勝利こそ女王陛下の望まれるものであると信じて、前進を続けました」


 よし。セリニアンたちは頼りになるな。


 3日も私のせいで前進に遅れが出ていたら、この戦争に負けていたかもしれない。


「ということは、間もなく敵の首都グレイブだな」

「ええ。グレイブは目前です」


 ネクロファージ帝国首都グレイブ。


 私たちの軍勢は西部軍と東部軍が合流してひとつの軍となり、グレイブを殲滅するのだ。この世界からネクロファージを消し去って、この世界をより良いものにする。それが私の役割。


「西部軍はもう合流を?」

「いいえ。敵と交戦中とのことで合流が遅れております」


 敵との交戦で合流が遅れる?


 おかしいな。ドレッドノートスワームまで配備された西部軍が多少の敵に押されて合流が遅れることなどないはずなのに。


 私は違和感を覚えて、西部軍のドレッドノートスワームに意識を集中し、その視野を共有する。底に移った光景は──。


「首無し騎士……!」


 首のない騎士が同じく首のない馬に跨り、ドレッドノートスワームに猛攻を加えていた。その勢いはすさまじく、ドレッドノートスワームはそこら中が傷つき、今にも倒れそうになっている。


「首無し騎士ヘシアン……! ネクロファージの英雄ユニットか……!」


 首無し騎士ヘシアン。


 ネクロファージの英雄ユニット。


 その性能はセリニアンに近い。初期進化が早く、後半は進化が遅くなるが、その分の強さを備えたユニットだ。首無し騎士ヘシアンならば、単騎でもドレッドノートスワームを屠る恐れがあった。


 それに加えてドレッドノートスワームの視界にはレイスナイトの姿が多数映っている。敵の高速機動部隊というところだろう。私たちが合流して、グレイブを叩く前に各個撃破してしまうつもりだ。


「セリニアン! 前進を急ぐぞ! 西部軍がヘシアンを引き付けている間に、グレイブを攻撃して落とす! 西部軍の犠牲を無駄にするな!」

「了解しました、女王陛下!」


 私の無情な命令にセリニアンが応じる。


 ドレッドノートスワームがもう1体でもいれば、首無し騎士ヘシアンとて屠れただろうが、生憎ドレッドノートスワームは各軍に1体ずつしか存在しない。私たちにやれるのは西部軍が面倒なヘシアンを押さえてくれている間に、グレイブを叩いてしまうことだ。


 ここはグレイブの目と鼻の先。陥落させるのは容易なはずだ。


 だが、敵は機動力の高いユニットを機動部隊として使っている。グレイブを攻撃中に側面を攻撃されれば、不味いことになるかもしれない。


 それでも何もしないわけにはいかない。


 ここで蹲っていても、サマエルとのゲームには勝てない。攻撃を続け、主導権を握らなければならないのだ。


 そして、私たちは前進する。ひたすらに前進する。一心不乱に前進する。


 そして、ついに辿り着いた。


「あれがグレイブ……」


 元は城塞だったのだろう。城が聳え、その周りに城壁が張り巡らされ、その中にネクロファージの施設が建造されている。城壁は二重で警備が厳戒だ。そこら中にレイスやレイスナイトの鬼火が光っているのが見える。


「ワーカースワームは大型腐肉砲を準備。ディッカースワームは城壁の真下まで穴を。それからフレイムスワームはその穴を潜って、城壁の地下まで潜り込んでくれ」


 大型腐肉砲はその名の通り、腐肉砲を大型化させたものだ。追加効果である毒の要素はネクロファージのユニットにはほぼ効果はないが、建造物への継続ダメージは大きな要素となる。


 そして、城壁を吹き飛ばすのはフレイムスワームだ。ゲームでは実現できなかったが、城壁を足元から崩壊させてやれば、いくら二重の城壁があろうと意味はない。


 大型腐肉砲で敵の注意をこちらに引き寄せ、その隙にフレイムスワームが地下で爆破する。そして、崩れた城壁の向こうに大型腐肉砲が砲撃を続け、同時にセリニアンたちが切り込む。


「準備はいいか、諸君?」

「いつでもいけます、女王陛下」


 私の問いにセリニアンが答える。


 大型腐肉砲はあっという間に完成し、城壁への砲撃を始める。砲弾となる腐肉は辺り一面にぶちまけられ、ドロリとた粘着質な液体を振りまきながら、建物を腐食させていく。これが継続ダメージだ。


 そして、レイスナイトが大型腐肉砲に気付き、こちらに向けて進んでくる。それを迎え撃つ準備は万端だ。ハイジェノサイドスワームとセリニアン、ライサが茂みに隠れて、レイスナイトが射程圏内に入るのを息を飲んで待ち構えている。


 そして、衝突。


「はああっ!」

「てやあっ!」


 セリニアンとライサが同時に掛け声を上げて、レイスナイトに長剣を振りかざして切りかかり、同時に長弓から放った矢によって貫く。


 レイスナイトは突然の遭遇戦に混乱した様子を見せたが、果敢にも突撃した。


 それをハイジェノサイドスワームが迎撃し、馬ごとレイスナイトをかみ砕く。何体かのやられたハイジェノサイドスワームはでたものの、こちらの方が優勢だ。このまま押し返してくれ……!


 私の願いはかなった。レイスナイトはセリニアン、ライサ、そしてハイジェノサイドスワームたちに押し切られ、ほぼ壊滅すると城門に向けて撤退を始めた。


「今だ」


 私の言葉と同時にレイスナイトが城門を潜り、その城門が爆ぜた。


 フレイムスワームの自爆は成功した。自爆というのはあまりにやり方としては汚いが、今は手段を選んでいられるような状況ではない。フレイムスワームたちには申し訳ないが、ここは頑張ってもらいたい。


「城壁が崩れた!」

「突入です!」


 セリニアンとライサを先頭にハイジェノサイドスワームとフレイムスワームの軍勢が崩れ落ちた城壁に殺到する。敵には私たちを阻止するすべはないようだ。


 普通ならば城壁に防衛施設を設置したりするが、ネクロファージは勝ち続けで新大陸を制覇してきたために、そのようなものは不要だと思ったのだろう。敵の城壁には防衛施設は見当たらない。


 しかし、敵は待ち構えていた。


 大量の傀儡だ。


 リッチーに率いられたそれが、城壁内部に突入したセリニアンたちめがけて襲い掛かってくる。リッチーは攻撃魔術を放ち、炎や雷がセリニアンたちに降り注ぐ。だが、リッチーそのものは傀儡による肉の盾に隠れている。


「セリニアン、ライサ! 後方に回り込め! 城壁の上を辿れば後方に回り込める! そこからリッチーを狙って叩け! 傀儡と戦うのは時間の無駄だ!」


 グレイブ攻略戦は時間との勝負だ。


 のろのろしていると首無し騎士ヘシアン率いる敵の機動部隊が襲い掛かってくる。そうなれば、私たちは城壁内のリッチーと傀儡によって挟み撃ちにされてしまう。そうならないためにも一刻も早く、グレイブを陥落させなければ。


「くうっ……」


 だが、そう簡単にはいかない。リッチーたちはセリニアンとライサが自分たちを狙っていると気づいて、魔術を浴びせてきた。セリニアンとライサは辛うじて回避しているが、いつでまも幸運が続くとは思えない。


 急がなければ。でも、私にできることは何もないのに。


「はああっ!」


 私が葛藤を抱えているときに、セリニアンがリッチーに達した。リッチーの1体目の首を刎ね飛ばし、傀儡のうちの何割かが動かなくなる。


「これでもくらえっ!」


 ライサも城壁の上からリッチーを狙って矢を放つ。放たれた矢がリッチーの胸を貫き、リッチーはよろめくと地面に崩れ落ちていった。


 セリニアン、ライサ。頑張ってくれ。


 そして、ハイジェノサイドスワームも傀儡たちを押さえ込んでくれ。傀儡たちがリッチーを攻撃しているセリニアンたちに向かわないように。


「これで最後っ!」


 セリニアンのその叫びが聞こえ、リッチーの上半身と下半身が両断された。


 それで全ての傀儡は動かなくなった。


「よしっ! そのまま施設を破壊してくれ! 大型腐肉砲で援護する!」


 大型腐肉砲は届く範囲の施設に砲撃を浴びせていき、建物を崩し、ハイジェノサイドスワームたちも施設をかみ砕いて破壊していく。これでグレイブから新しいユニットが生み出されることはなくなる。


 チェックメイトだぞ、サマエル。


 私がそう考えたときに馬の嘶く声が響いた。


 これはレイスナイトのものではない。これは──。


「首無し騎士ヘシアン。遅い到着だったな」


 私たちの眼前に多数のレイスナイトを従えた首無し騎士ヘシアンが姿を見せた。


 首無し騎士の表情は分からないが、この悲惨なグレイブの状況を眺めて決して笑ってはいないだろう。


 さあ、最後の戦いだ。これで決着をつける。


…………………

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載連載中です! 「人を殺さない帝国最強の暗殺者 ~転生暗殺者は誰も死なせず世直ししたい!~」 応援よろしくおねがいします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ