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フォトン防衛戦(2)

…………………


 マッケンジー大統領から提供されたアラクネアの拠点予定地。


 そこに私は立っていた。


「まずは受胎炉を 5つと肉臓庫、そして動力器官を作ってくれ。城壁の建造も同時に進めるぞ。急げ」

「了解しました、女王陛下」


 私はワーカースワームたちを前にして指示を出す。


 資源はゼロではなく、ある程度あるのでまだ焦って採取を始めなくともいい。今はネクロファージの軍勢に立ち向かえる規模のスワームの軍勢を作ることだ。スワームの生産を高速化するために今回は受胎炉を一気に5つ建造する。


 とにかく、時間との勝負だ。私たちの反応が遅れれば、フォトンにいる数十万の避難民がネクロマンサーの傀儡になって私たちに襲い掛かってくる。そうなれば悪夢としかいいようがない。


「それから全て終わったら飛翔肉巣を建造してくれ。あれはネクロファージには有効な戦力になる」


 飛翔肉巣は航空ユニットの生産施設だ。


 ネクロファージにはその反則的な増殖力と引き換えに、あるものが存在しない。今回はそれを突かせてもらうとしよう。


「ライサは城壁の建造現場をジェノサイドスワームとケミカルスワームを連れて見張りに行ってくれ。セリニアンはここで待機を」


「待ってください、女王陛下。建造現場の護衛なら私も動員するべきです。ライサだけでは不安が残ります」


 セリニアンが私の命令に納得できないという顔をする。


「セリニアン。君は戦略予備だ。城壁が完成する前に城壁の建造現場以外の場所が襲撃されたら、それを阻止するのは君の役目だ。そのためにはこの後方に残っておいてもらわなくてはならない」


「……そうですか。理解しました」


 セリニアンはちょっぴり寂しそうだ。


「そういえばセリニアン。海では助けてくれてありがとう。あやうくシーサーペントに丸呑みにされるところを助けてくれた」


「騎士として当然のことですから。ですが、その後女王陛下が流されてしまうということになってしまい……」


 私はお礼を言うのを忘れていたのを思い出して告げる。


「それはしょうがないことだ。あの時は嵐だったわけだし。それにしてもセリニアンはどうやって助かったんだい?」


「私は沈みかけていたところをライサが引き上げてくれました。女王陛下はその時姿が見えず私だけが救助され……」


 セリニアンはそう告げてぐすぐすと泣き始めた。


「泣かない。泣かない。セリニアンは騎士なんだから」

「それでも女王陛下が心配で心配で。集合意識でも反応がありませんでしたし、どうしたらいいかと悩み続けました……」


 私がそっとセリニアンを抱き締めるのに、セリニアンが嗚咽を漏らしてそう告げる。


「私は無事だ。それで大丈夫だろう?」

「はい。今は安心しております」


 私の言葉にセリニアンが頷く。


「それじゃ、私たちの軍勢を作ろうか。肉は大量にある。ひとまず1000体は行ってみよっか」


 私は既に完成した受胎炉5つを前にそう命じた。


 5つの受胎炉から蟲が這い出てくる。


 ただし、それはジェノサイドスワームでもなければ、ケミカルスワームでもない。


 新ユニット、ハイジェノサイドスワームだ。


 その名の通りジェノサイドスワームの上位互換であるこのスワームはニルナール帝国戦役では間に合わなかったが、その後アンロックできて今や私の配下にある。


 ハイジェノサイドスワームは攻撃力が上昇したのに加えて、移動力とタフネスが増大している。レイスナイトの騎兵突撃程度ではびくともしないだろう。


 次に私が生産したのは、フレイムスワームだ。フレイムスワームはファイアスワームの上位互換であり、自爆の際の威力も火炎放射の威力も向上している。大量に群がる傀儡を吹き飛ばすにはもってこいの代物だ。


 ケミカルスワームはというと、アンデッドには毒の効果が薄く、霊体系ユニットに関しては無効なために他のユニットの回復役として配置しておく。願わくばはあまり出番がないこととありがたい。


 私はとにかく、ハイジェノサイドスワームとフレイムスワームの量産に勤しむ。


「こんなところか?」


 ハイジェノサイドスワームが800体とフレイムスワームが400体完成したところで、私は肉臓庫の資源残量を見る。まだ増やせそうではあるが、いざという場合に取っておかなければならないし、それに飛翔肉巣から生産する大型ユニットがまだだ。


「ワーカースワーム。追加で大型受胎炉を生産だ」


 後はドレッドノートスワームがいれば私たちを屠ることはできはしまい。


 ワーカースワームたちが大型受胎炉を作っている間、私は飛翔肉巣を弄ることに時間をかけた。アンロックされているはずのあのユニットがあれば、戦いはかなり楽になるというものだ。


「女王陛下。今回の作戦の算段は?」


「飛翔肉巣から作る支援ユニットを前提に、ドレッドノートスワームで押しつぶしながら進む。ネクロファージがドレッドノートスワームを撃破するのはとても難しい。不可能ではないが、困難であることは間違いない」


 ドレッドノートスワームと正面から戦えるユニットと言えば、グレゴリアではベヒモスだ。ネクロファージもそれに匹敵するユニットを持っているが、私たちならば突破できるはずだ。そう願いたい。


「それに飛翔肉巣から生み出されるユニットに関しては、ネクロファージはほとんど対抗策を持っていない。こちらのワンサイドゲームになるだろう」


 そうはいってもネクロファージに対空ユニットが存在しないわけではないし、ワイバーンなどに比べるとこちらの飛行ユニットは脆弱だ。


「それに関しては女王陛下にご報告することがあります」

「なんだい、セリニアン?」


 私の把握していないことなどあっただろうか?


「ニルナール帝国の地下でワイバーンを生み出していた施設を発見。生み出されていたワイバーン数体を転換炉に入れてスワーム化しました。グリフォンスワームと共に新大陸に到着するはずです」


「なんだって? そうだったのか。それはこちらの戦力が大きく向上するな……」


 ニルナール帝国もいい置き土産をしていってくれた。ワイバーンスワームが手に入るとは。これで航空優勢はアラクネアのものだな。


「セリニアン。航空ユニットが到着したら教えてくれ。直ちに戦闘に投入したい」

「畏まりました、女王陛下」


 さて、これで若干とは言えどこちらが優位になったはずだが。


『女王陛下!』


 そのときライサからの声が響いた。


「どうした、ライサ?」

『敵です! 敵が接近中! 既にワーカースワームは退避させました! こちらで応戦を開始します!』


 クソ。このタイミングで敵か。


「分かった、ライサ。すぐに向かう。こちらの増援の準備はできている。すぐにでも投入可能だ」

『お待ちしております、女王陛下!』


 さて、ついに本格的にネクロファージと交戦することになった。


 願わくば、誰も脱落せず勝利できることを。


…………………


…………………


 迫りくるネクロファージの軍勢。


「逃げろ! ネクロファージだ!」

「逃げるってどこに!?」


 混乱する避難民の声。


 そこに私たちは立っていた。


「レイスナイトはまだ傀儡たちと速度を合わせているな。レイスナイトだけが突撃してきていたら酷い被害だっただろうが」

「敵はそこまで戦闘に長けた指導者ではないようですね」


 それを言うなら私だってへっぴり腰の指導者だよ、セリニアン。


「さて、連中を歓迎してやろう。盛大にな」


 私はそう告げてハイジェノサイドスワームを前方に押し出す。ハイジェノサイドスワームはカチカチと牙を鳴らし、毒針の詰まった尾を立てながら、ネクロファージの大軍勢に立ち向かう。


「ハイジェノサイドスワーム──」


 私はレイスナイトが加速し、突っ込んでくるのを確認した。


「攻撃開始!」


 スワームたちががざがざという足音を立て、レイスナイトたちに襲い掛かる。


 レイスナイトたちも加速してランスを手に突撃してくる。正面対決だ。


 そして、衝突。


 ハイジェノサイドスワームはレイスナイトを食い千切り、灰に変えた。


 やはり。やはりだ。ゲーム中にそうであったようにゲームのユニットの攻撃は霊体系ユニットにも有効だ。ハイジェノサイドスワームはレイスナイトに串刺しにされながらも、レイスナイトのほとんどを屠った。


 加えて、ハイジェノサイドスワームは押し寄せてきた傀儡たちを攻撃し始める。


 だが、そう簡単にはいかない。傀儡の数はハイジェノサイドスワームが対応できる数よりもはるかに多い。それに加えて、どこかに隠れているネクロマンサーが死んだハイジェノサイドスワームを傀儡として蘇らせ、友軍を襲わせる。


 だから、ネクロファージは嫌いなんだ。


「フレイムスワーム、突撃!」


 私は切りのない消耗戦になる前にフレイムスワームを投入した。


 フレイムスワームはひたすらに突撃していき、火炎放射で傀儡の集団を焼き払う。傀儡は炎の塊になり、薪が焼けるように燃え落ちていく。


「焼き払え。塵は塵に、だ」


 フレイムスワームは再び一斉に火炎放射を浴びせかけ、群がる傀儡たちを燃やしていく。炎の海が地表を覆い、火炎放射を浴びた傀儡たちが呻き声を発しながら地面に崩れ落ちていく。


「こうしてやるのがせめてもの慈悲だろう。この国では死者を火葬にするそうだからな。傀儡として操られ、ネクロマンサーのいいようにされるよりは、生まれた故郷の土に帰ることの方が慈悲深い」


 私はそう呟きながらもある程度はハイジェノサイドスワームに倒させようと考えていた。傀儡を肉団子にして資源にする必要があるからだ。死んでいる人間を肉団子にするのには文句は言われないだろう。


 そう、この国は死者の埋葬についてとやかく言っているような状況にないのだ。


 死者は起き上がって生者を襲い、首都間近の場所まで敵の軍団が迫っている状態で死者を丁重に弔うような余裕があるというものか。


「セリニアン」

「何でしょう、女王陛下?」


 私の傍に待機しているセリニアンを呼ぶ。


「ここら辺にネクロマンサーが隠れているはずだ。骸骨のような恰好をしてローブを纏った怪しげな人物だ。そいつの首を刎ね飛ばして持ってきてくれ。そうすれば、死者たちは動かない静かな死者に戻る」


 私は傀儡の勢いが減退したのを見計らってそう命じる。


 ネクロマンサーはどこかに隠れて私たちの様子を観察しているはずだ。奴らの首領にここでの情報を持ち帰らせるわけにはいかない。ここで仕留めてしまわなければ。


「畏まりました。ではっ!」


 セリニアンは翼で空に飛翔すると傀儡ど真ん中に飛び降りた。


「はああっ!」


 セリニアンが長剣を振るい、傀儡たちを切り裂いて道を切り開いていく。


 その先にいるのは──。


「あいつだ」


 骸骨のような風貌に黒いローブ。ネクロマンサーだ。


 セリニアンは傀儡を切り捨てながら一気にネクロマンサーに向けて迫る。ネクロマンサーは自分が狙われていると理解したのか逃げ出そうと、セリニアンに背を向けた。


 だけれどね。私の騎士は狙った相手を逃がしたりしないよ。


 私たちに背を向けて逃げ去ろうとしたネクロマンサーにセリニアンが追い付き、糸でその足をからめとる。足を取られたネクロマンサーが無様にも地面に倒れ、ひいひいと喘ぎながら必死に逃げようとする。


「女王陛下の名において、死ね」


 セリニアンは長剣を振り下ろし、ネクロマンサーの首を刎ね飛ばした。


 それによってここにいた傀儡の半数が動かなくなり、ただの死者へと戻っていく。だが、半数だ。これはまだ倒せていないネクロマンサーがいることを意味する。


「セリニアン! まだネクロマンサーはいるぞ! 探し出してくれ!」

「了解しました、女王陛下!」


 私の命令にセリニアンが周囲を見渡し、私とライサも周辺を探る。


 いた。


 レイスナイトの馬に乗ってこの場から逃げようとするネクロマンサーの姿を私たちは捉えた。だが、追い付くにはもう遠すぎる。


「ライサ、追跡用の矢はあるか?」

「ありますよ、女王陛下! 当ててみせます!」


 私の言葉にライサが応じ、追跡用の香水が塗られた矢を長弓に番える。


 そして、放つ。放たれた弓矢はネクロマンサーの足に刺さり、ネクロマンサーは声にならない悲鳴を上げると、レイスナイトにしがみ付いて戦線から離脱していった。


「住民の被害は?」

「皆無です。みんな無事ですよ」


 私の問いにライサが答える。


 避難民は皆無事だった。このフォトンという城壁に守られた都市の外で襲撃されても、彼らはひとりも死なずに済んだ。


 ジョン。約束は果たすぞ。避難民は殺させない。君の妹も。


「ライサ。リッパースワームを率いて、臭いを追ってくれ。この近くに奴らの前進基地があるはずだ。見つけても手出しはしないように。気付かれずに、そっと帰ってきて報告してくれ」


「了解」


 さて、これでネクロファージの前進基地のひとつでも潰せれば、フォトンの安全も確保できるんだが。


「セリニアン。君はライサの代わりに防護壁建造の警護を。建造現場以外でも何かあったらすぐにそこに向かってくれ」

「了解しました、女王陛下」


 ひとまず敵の出鼻は挫いてやった。


 だが、敵はこれぐらいじゃ諦めないだろう。


 本格的な攻撃が開始される日は近そうだ。


…………………

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