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新大陸に向けて

…………………


 ──新大陸に向けて



「船はこれでいいですか?」

「ああ。こんなに用意してもらえるとは思わなかった」


 大陸での戦争が終結してから4日。


 私は東部商業連合の船着き場で、東部商業連合が用意してくれた艦隊に近い商船の列を眺めた。大型商船5隻、中型商船8隻からなるアラクネアの新大陸進出のための艦隊だ。東部商業連合が無償で準備してくれた。


 彼らは新大陸における脅威を説明すると、既に情報を握っていたのか即座に納得し、アラクネアがこの大陸を守ってくれることに感謝するとともに、新大陸進出のための用意をしてもいいと申し出てくれた。


 彼らもマクシミリアンが恐れたように新大陸で蠢く何かが恐ろしいのだろう。交渉はスムーズに進み、私の要求するものはほぼ揃った。


「我々としても途絶えている新大陸との交易が再開されれば利益になると判断しています。そのためのアラクネアに対する支援です。新大陸で待ち構えているものがなんであるにせよ、アラクネアならば打ち破れると信じています」


「その期待に沿えるように頑張るよ」


 ケラルトが告げるのに、私は肩を竦めてそう返した。


「新大陸までの航路は航海士が知っています。彼らに任せてください。では、健闘を祈ります、アラクネアの女王グレビレア」


 ケラルトはそう告げると私たちは出航するのを見届けに桟橋を離れた。


「さて、また船旅か……」


 私はうんざりとした気分になりながら船を見上げる。


 この世界の船には首都ドリス制圧の際などに乗ったものだが、揺れは酷いし、船酔いは死にそうだったし、酷いものだった。


 今回もそうなるだろうと思うとうんざりさせられる。


「女王陛下。ご支度はできましたか?」


 そう話しかけてきたのはセリニアンだ。


「私はいつでも準備できているさ、セリニアン。私が持っていくものなど何もないのだからね」


 私のドレスと日用品はライサが持ってきてくれる。女王なのだからこれぐらいのことは任せておいてくださいと押し切られて任せることになっていた。


「新大陸とはどのような場所なのでしょうか?」

「さあ。この大陸と交流はあるのだから、そこまで奇抜な文化のある場所ではないと思うけれど。行ってみなければ分からないね」


 新大陸とはどのような場所なのだろうか。


 この大陸にはない珍しいものがあったりするのだろうか。それともこの大陸の丸写しのような世界なのだろうか。


「ひとつ言えるのは新大陸にはポートリオ共和国と神聖オーグスト帝国のふたつの国家が存在しているということだ。我々はまず東部商業連合に救難を出していたポートリオ共和国に向かう」


 新大陸にはふたつの国家がある。いや、ふたつだけになってしまったというべきか。


 ネクロファージの侵略を受けて新大陸の国家は2ヵ国まで滅んだ。それまでは6か国が存在していたらしいが。ネクロファージは私たちと同じように、戦えば戦うほど強大になる陣営だ。4つの国家を飲み込んだネクロファージは育ち切っているだろう。


「ポートリオ共和国に向かうまではナーブリッジ群島を経由していく。あの革命が上手くいって新しい国家体制が回っているらしいから、多少なりの支援は期待できるかもしれない。食料などは買い込んでおきたい」


 ナーブリッジ群島は今はどうなっているのだろうか。革命後も成功しているとは聞いているが、どこまでを成功と呼ぶかは個人の判断によるものだからな。


「ポートリオ共和国ですね。彼らは素直に我々の支援を受け入れるでしょうか?」

「受け入れてくれなければスワームたちに脅してもらうさ」


 異形の死体の集団に襲われている国家が異形の蟲の集団で構成される国家に助けを求めるかって? そんなこと私が知るはずがないじゃないか。


「その時は私の尽力いたします」

「なるべくならそうならないことを願いたいんだけどね」


 やる気満々のセリニアンに私はそう告げて返す。


「なあ、セリニアン。君はどうして船には酔わなかったんだい?」

「え? 私には船で酔うというのがいまいち理解できないのですが……」


 セリニアンに聞いても無駄だったか……。


「女王陛下ー!」


 と、私とセリニアンがそんな話をしているとライサがやってきた。自分の荷物に加えて私の荷物も準備してくれている。本当にありがたい限りだ。


「そろそろ出発ですか?」

「その前に一応スケジュールを決めておこうと思う」


 ライサが尋ねるのに、私はそう告げて返す。


「まずはこの東部商業連合から貰った紹介状を持って、ポートリオ共和国のトップに面会を求める。それからポートリオ共和国で空き地を提供してもらい、そこに新大陸における拠点を構築する。それから神聖オーグスト帝国にも一応連絡を取り、共同戦線が構築可能かを尋ねる」


 私はポートリオ共和国を中心に活動するつもりだったが、神聖オーグスト帝国を完全に無視するわけにはいかないだろう。彼らとも連絡を取り合い、情報を交換し、できれば戦力を出してもらいたい。戦力が限界なら資源を。


「それからはネクロファージと戦う。ネクロファージは強力な陣営だが、倒せない相手ではない。必ず倒して勝利を手に入れよう」


「ええ。勝利を手にれましょう」


「勝利しましょう!」


 私の言葉にセリニアンとライサが頷く。


「我々が留守中のことはローランに任せることになっている。ローランがニルナール帝国跡地で死体を集めて肉団子にする作戦の指揮を執るだろう」


 ニルナール帝国で収穫される肉団子の数はとても多いものになるはずだ。これまでの戦いで損耗してきた戦力や新大陸での新戦力の生産に使えることだろう。


「では、そろそろ出発だ。あまり東部商業連合の航海士を待たせては悪い。船に乗り込み、出港準備を」


 そして、私たちは船に乗り込む。


 私たちの他にもジェノサイドスワームが100体。ケミカルスワームが100体と大所帯での出発だ。これは万が一、ポートリオ共和国が既にネクロファージの手に落ちていた場合を考えてのことだ。


 新大陸での作戦は上手くいくだろうか。


 それは私の手に掛かっている。責任重大だ。何としても成功させなければ。


 しかし、ネクロファージか。嫌な敵が相手になったものだ……。


…………………


…………………


 私たちは東部商業連合とローランの見送りを受けて出航した。


 連合議長のケラルト、傭兵団のコンラード、銀行家のホナサン。彼らからは今回の出発に当たっていろいろと支援を受けた。またホナサンからは資源として肉を大量に提供してもらった。肉臓庫は潤っている。


 そんな私たちの航海の最初の滑り出しは順調で、嵐にも魔獣にも遭わずに進むことができた。私も揺れが最小限なことに安堵している。そういえばこの前ナーブリッジ群島に向かったときも海は穏やかだったな。いいことだ。


 そして、私たちはナーブリッジ群島に到着した。


「ようこそ、我らが革命の戦友たち!」


 私たちをそう言って出迎えてくれたのは全く知らない顔ぶれ。


「やあ、諸君。久しぶりだね」


 私はちょっと驚きながらも歓迎を受け入れた。


「我々はあなた方を歓迎する! 我らがナーブリッジ群島革命に力を貸してくれたあなた方への恩は忘れてはいない! どうか遠慮なく滞在していってほしい!」


 そう、やたらを熱気にあふれる歓迎をするのが、私がナーブリッジ群島の革命に手を貸したときの指導者であるラーロではなかった。あの時の革命に参加していた別人がラーロの代わりのようにそこにいた。


「私もナーブリッジ群島から受けた恩は忘れていない。ナーブリッジ群島からは貴重な魔女の一撃に対する解毒剤を受け取っている。その恩は忘れるものではない」


 私がラーロたちがいないことを疑問に感じながらも、歓迎の言葉にそう返す。


「あれから私たちの暮らしぶりはよくなりました! これもあなた方が革命に手を貸してくれたおかげです。本当に感謝しています」


 革命陣営にいた女性のひとりがそう告げて深々がと私に頭を下げた。


「それはよかった。ところでラーロたちはどうしている?」


 私がそう尋ねるのに、周辺の空気が固まった。


「……ラーロは革命が成立してから政治への関心を失ってしまった。本来ならば国家元首にでもなるべき立場だったというのに、彼は全てを捨ててまた宿屋の店主の地位に戻ってしまった」


 そうか。ラーロにはそんなことがあったのか。


「頼みたいことがある。この船が新大陸に行きつくだけの食料と水を補給してもらいたい。船倉の中は積み荷なので私たちと航海士たちが過ごせるだけの食料と水でいい。頼めるだろうか?」


 私はナーブリッジ群島の新指導者たちにそう尋ねた。


「もちろんだ! すぐに補給を行おう!」

「それから革命の戦友たちが戻ってきたことを祝わなければ!」


 新指導者たちは大慌てでそう告げると、私たちの目の前から去っていった。


「本当に補給は受けられるんだろうか?」

「受けさせなければ切り捨ててやるだけです」


 私が心底疑問に感じるのにセリニアンがそんな答えを返す。


「そう物騒なことにならないことを願うだけだ。私たちはせっかく獲得した同盟者を失いたくはないからね」


 私の言葉は事実だ。私はせっかくできたナーブリッジ群島という同盟者を失いたくなかった。この島には様々な価値がある。新大陸に進出するための橋頭保の一部という意味も含めて。


 しかし、ラーロはどうしてしまったのだろうか?


 人一倍革命に熱意を持っていた男はどうして、革命後の政治に興味を示さなかったのだろうか。


「セリニアン、ライサ。ラーロの店に向かってみよう」


 私は自然とそう口にしていた。


 私は本当にラーロがどうしてしまったのかを知りたかったのだ。


…………………

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