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本当の目的

…………………


 ──本当の目的



 私たちは帝都ヴェジアの街を進軍し、ノイエ・ヴェジア城に辿り着いた。


 城門は閉ざされているが、ジェノサイドスワームが抉じ開けた。そして、内部に向けてジェノサイドスワームとケミカルスワームの大軍が一斉に押し寄せていく。


「抵抗はなし、か」


 敵はほぼ全ての兵力を使い尽くしたのか、組織的な抵抗はもうなかった。あるのは1個分隊程度の歩兵による抵抗だけで、ジェノサイドスワームとケミカルスワームは易々とそれを片付けていった。


「セリニアン、ライサ、ローラン。私たちは皇帝マクシミリアンの首を取らなければならない。早急にマクシミリアンを見つけ出して、私の前に引き摺りだしてくれ」

「了解しました、女王陛下」


 この戦争を終わらせるには皇帝マクシミリアンの死が必要だ。


 そのために私はセリニアンたちにマクシミリアンを探させる。


 その間スワームたちはこのノイエ・ヴェジア城で生き残っていたものたちを皆殺しにする。民間人も、軍人も分け隔てなく、スワームは皆殺しにしていく、牙で両断し、毒針で肉汁にする。


 マクシミリアンが早々に降伏していれば、こういう事態は避けられただろうか。いや、避けられなかっただろう。相手にはゲオルギウスがいて、私たちはハルハとエルフの森の報復に燃えていたのだから。


 どうあってもこうなった。後はマクシミリアン次第だ。


『女王陛下。マクシミリアンと思しき人物を捕捉しました』

「今行く、セリニアン」


 セリニアンの集合意識からの呼びかけに私は応じて、ジェノサイドスワームに腰かけたままセリニアンの報告した場所へと向かう。


 途中通るノイエ・ヴェジア城の廊下は死体で満ちていた。その中には私を監禁中に私の世話を見ていた使用人や近衛兵の姿もあった。だが、私はそれに無関心だった。監禁は一方的なものだった上に、私にとって屈辱だったんのだ。


 ジェノサイドスワームは走り続け、やがてひとつの部屋の前で止まった。


 ああ。この扉には見覚えがある。皇帝マクシミリアンの執務室だ。ここに招かれて話をしたことを私は覚えている。


「セリニアン。入るぞ」

「どうぞ、陛下」


 私が声をかけるのに、セリニアンがそう返す。


「……確かに皇帝マクシミリアンを捕まえたようだな」


 私の眼前には切り殺されたベルトルトの死体と、セリニアンに長剣を突き付けられているマクシミリアンの姿があった。セリニアンはついに奴を捕らえたのだ。


「皇帝マクシミリアン。いろいろと話はしたが私から聞きたいことが残っている」

「なんだ、アラクネアの女王。今の俺は生かすも殺すもお前の判断次第だ。それに国も滅びたも同然。何だろうと答えてやろうではないか」


 セリニアンに長剣を突き付けられているというのにマクシミリアンは余裕だ。気に入らない。


「何故、大陸の各地を侵略した。理由があるはずだ。こうも早急に大陸の全域を手に入れようとしたことには」


 私が疑問だったのは、ニルナール帝国が急速に拡張政策に転じたことだ立った。大陸諸国会議では連合国を離脱したにもかかわらず、私たちアラクネアを相手取り、大陸諸国を制圧しようとしたのは訳があるはずだ。


「ああ。それか。それは新大陸の脅威からこの大陸を守るためだ」


 返ってきたのは野心でもなんでもない純粋な好意からの言葉。


「新大陸の脅威からこの大陸を守るとは? ネクロファージの件と関係があるのか?」


「その通りだ。ネクロファージは新大陸で拡張を続けている。ポートリオ共和国も、神聖オーグスト帝国も直に敗れ去るだろう。そのときだれが、この大陸を守るのか。それを俺は明白にしておきたかっただけだ」


 そうか。ネクロファージか。奴らがこの大陸に攻め入るまでに大陸の覇権争いにケリをつけておきたかったのか。


「私たちが来たせいで大陸の覇権争いは混沌と化した。だから私たちをまずは排除する方向で動いた。そういうわけだな?」


「そういうことだ。突如として現れ、マルーク王国、シュトラウト公国を滅ぼしたお前たちはこれから我々が大陸の指導者となるのに邪魔だった」


 マクシミリアンは素直にそう告げた。


「では、何故東部商業連合を敵に回すような首都ハルハの焼き討ちを行った。大陸を纏めようというならば、東部商業連合には融和策をとるべきではなかったのか?」


「あの国はこれまでの融和に一切応じなかった。故に排除するより他なしとなった。あの国が少しでも我々に理解を示せばそのようなことはせずともよかったのだかな」


 皇帝マクシミリアンの言い分は自分勝手な分もあるが、ある意味では理解できた。私たちも東部商業連合の力を借りられたのはニルナール帝国の脅威があって初めてのことだ。ニルナール帝国が存在しなかったら同盟はありえなかっただろう。


「それで、アラクネアの女王。他に聞きたいことは?」

「……お前たちはエルフを最終的にどう扱うつもりだった?」


 私はマクシミリアンの問いかけにそう尋ねる。


「服従せぬならば皆殺しだ。まあ、連中が服従するなどありえないことなので皆殺しになっただろうな。弱いものは滅び、強いものが生き残る。世界とはそういうものだろう、アラクネアの女王?」


 確かに世界は弱肉強食だ。強いものが弱いものを食らって生きる。


「ならば、強者である我々が何をしようと貴様は認めるわけだ」

「しかり。好きにするといい。強者の特権だ」


 私が尋ねるのに、マクシミリアンが二ッと笑った。


「もっとも、この俺の死を見世物にさせる気はないがな」


 そう告げると、マクシミリアンがサーベルを抜いた。そのことにセリニアンが瞬時にサーベルを構えるが、マクシミリアンの狙いは私たちではなかった。


 奴は自分の喉にサーベルの刃を突き立てたのだ。


 口から気泡の混じった血を吐きながらマクシミリアンは二ッと笑うと、そのまま息絶えた。巨大帝国の皇帝として大陸制覇を目指した男の呆気ない最期だった。


「マクシミリアンはこれで死んだ。各地の軍閥を掃討すれば戦争は終わりだな」


 私はそう告げ、セリニアンと共にマクシミリアンの書斎を去った。


 皇帝マクシミリアンの死から7日間かけて各地の軍閥を私たちは撃破していき、最後の軍閥が投降したところで戦争は終結した。


 マルーク王国侵攻から始まった私たちの戦役には一応の終止符が打たれ、大陸はようやく平和というものを享受するにいたった。


 シュトラウト公国の復興には東部商業連合も力を貸すということで、ローランはそのことにかかりきりになっている。ライサはエルフの森に一度帰って、今回の戦いで犠牲になったものたちを弔っている。


 そして、私とセリニアンは──。


「女王陛下」

「なんだい、セリニアン」


 私が征服したノイエ・ヴェジア城のバルコニーから地平線を見渡していた時にセリニアンが声をかけてきた。


「新大陸には行かれるのですか?」

「新大陸、か」


 新大陸。私の嫌うネクロファージが存在する大陸。その脅威から大陸を守ろうとしてマクシミリアンは戦争を始めた。


 マクシミリアンに代わって大陸を征服した私はどうするべきだろうか?


「行こうか、新大陸。この大陸を守るためにも、さ」


 私はそうしなければならないような気がしていた。


「女王陛下がどこに行かれようと私はお供します」

「助かるよ、セリニアン」


 私の思い付きのような言葉でもセリニアンはまじめに受け取ってくれる。


「まずは船が必要だ。船を用意したら航海士を雇って出航しよう。目指せ、新大陸。何が待ち構えているかは知らないけれど、私たちはアラクネア。敵は蹂躙し、征服する!」


 こうして私たちの新大陸行きは決定した。


 ようやくシュトラウト公国の復興を始めることのできたローランにはこの大陸の管理を任せて、私たちは新大陸で勝利を獲得してこよう。


 だが、本当に私たちは勝てるのだろうか。


 ネクロファージというあのゲームでも指折りの凶悪な文明に。


…………………


…………………


 私は目が覚めた。


 いや、違う。これは例のあれだ。


「────さん」

「サンダルフォン」


 やはりそうだった。見覚えのある私の部屋にいる白装束の少女はサンダルフォン。つまりはこの部屋は作り物で、私の本当の部屋ではないということ。


「────さん。勝利なされましたね。敵は強大だったというのにあなたは勝利された。まだスワームに完全とあの世界に完全に魂を吸収されずにいて、それを成し遂げられた。素晴らしいことです」


「神の使いが私を褒めてもいいのかい? 私は大勢を殺したよ?」


 サンダルフォンが微笑むのに、私が苦笑いを浮かべた。


「もちろん、殺人は忌避されるべき行為です。ですが、やむを得ない場合もあります。例えば、敵が戦争を仕掛けてきた場合など。そのための自己防衛は認められることです。やりすぎはいけませんが」


「私のはやりすぎだと思うけどな」


 サンダルフォンが困った表情でそう告げるのに、私は意地悪をする。


「そうでもありませんよ。主はあなたのことを罰するつもりはないのですから。主は慈悲深いのです」


 主、か。相当のお人好しなんだろうな。


「それでサンダルフォン、どうやったら私が元の世界に戻れるか分かったかい?」

「……あなたにはそのことを伝えなくてはなりませんでしたね」


 私が尋ねるのに、サンダルフォンが険しい表情を浮かべる。


「────さん。あなたは元の世界には戻れません。もう戻れないのです」

「え、どうして……?」


 悲しげに告げるサンダルフォンに私の表情は固まった。


「あなたが自らあの世界と別れたのです。もう二度とあの世界には戻れません」

「そんな。そんなことをした覚えはない。私は元の世界に帰りたい」


 サンダルフォンが俯くのに私は彼女の肩を掴んだ。


「私もその願いをかなえて差し上げたいと思います。ですが、もう無理なのです。あなたがこの世界で何を成しても、もう元の世界には戻れないのです」

「じゃあ、ずっとあの世界にいるということ?」


 サンダルフォンが告げるのに、私はそう問いかけた。


「いいえ。時がくれば我々があなたを救済します。あの世界から救い出します。ですから、今はどんなことがあっても人の心を忘れないでください。そうすれば、必ず救いはあります。あの世界から救い出されるのです」


「……分かったよ、サンダルフォン。けど、ちょっと泣いていいかい?」


「ええ。構いません」


 私はサンダルフォンの胸に顔を埋めるとぐすぐすと泣いた。セリニアンのことを泣き虫だってからかってたけど、私だって十分に泣き虫だ。私はサンダルフォンの胸の中で、父さんや母さん、友達のことを思ってわんわんと泣いた。


 もう二度と彼らと会えないなんて、会話することもできなんて。


「今は思いっきり泣いてください、────さん。救いの時に笑顔でいられるように」


 サンダルフォンは優しく私の頭を撫でてくれて、それだけで心が落ち着くのを感じた。


…………………

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