帝都ヴェジア決戦
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──帝都ヴェジア決戦
私たちは蹂躙する。
村を蹂躙する。街を蹂躙する。市民を蹂躙する。軍隊を蹂躙する。
私たちと合流した2体目のドレッドノートスワームはあらゆるものを蹂躙しながら前進してきた。平和だった街のパン屋も、堅牢な要塞も、逃げようとする市民も、可能な限りの時間稼ぎをしようとした兵隊も。
全てに平等な死を与えた。
踏みつぶし、踏みにじる。ドレッドノートスワームの通った後にはキャタピラのような軌跡が刻まれ、それにべっとりと血を纏わらせていた。轢き殺したばかりの軍隊の血だ。彼らは避難民を脱出させる時間稼ぎをして全滅した。
私たちは蹂躙する。
大義はある。
敵はアラクネアに奇襲攻撃を仕掛け旧マルーク王国領を奪い、更には東部商業連合に侵攻して首都ハルハを火の海にし、加えてエルフの森のエルフたちを虐殺した。
私たちはやられたことをやり返してやっている。それに加えて二度と敵が私たちに害を及ぼさないようにしている。そう、もうニルナール帝国が他国を侵略したり、我々を脅かしたりしないように徹底した無害化を実行している。
だから、軍隊は蹂躙する。軍隊を支える都市は蹂躙する。
私は今晴れ晴れとした気分だ。これまでの報復がなされているかと思うと晴れ晴れした気分になってくる。
私は忘れてはいない。首都ハルハで焼け出された市民と家族を失った市民たちの嘆きを、エルフの森で家族友人と虐殺されたエルフたちの怒りを忘れてはいない。それらは私が引き継いだ。
さあ、ニルナール帝国には報いを受けてもらおう。これまで好き放題やった代価はちゃんと支払ってもらわなければ。それが敗北というものなのだから。
「間もなく帝都ヴェジアですね、女王陛下」
「ああ。間もなく帝都だ。敵はまだワイバーンやリントヴルムを残しているかな?」
流石に生産コストの馬鹿高いベヒモスのお替わりがそうそう短期で来るとは思えない。そこまで早急に作れるのであれば、2体作ってから送り出す。私だって戦力の遂次投入はやってはいけないことのひとつだと知っている。
恐らく首都ヴェジアで待ち構えているのはひとりだ。
ゲオルギウス。彼が帝都で私たちを待ち構えている。
「女王陛下。少しよろしいでしょうか?」
「なんだい、セリニアン?」
セリニアンが尋ねてくるのに私はそう尋ね返した。
「私の次の進化形態はどのような姿なのでしょうか?」
「セリニアンの次の進化形態か。ホワイトナイトスワーム“セリニアン”だ。全身が真っ白な鎧で覆われた綺麗な姿だよ」
セリニアンもそろそろ進化かな。何せベヒモスにトドメを刺したのは彼女だ。相当な経験値が入ったはずである。もう進化してもおかしくない。
「さあ、見えたぞ。帝都ヴェジアだ。中央に見えるのはノイエ・ヴェジア城。あそこまで一直線に進んでいこう。立ち塞がるものは全て押しつぶし、蹂躙してしまえ。連中がこれまでやってきたように」
私が命令を下し、ドレッドノートスワームが前進する。
そのドレッドノートスワームの背後には数十万のジェノサイドスワームとケミカルスワーム。これで巻けるなんてありえない。
だけれど、私は心配だった。
何せ敵はあのゲオルギウスなのだから。
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「帝都防衛隊はどうなっている!」
「ワイバーンは? ワイバーンの飛行隊はどうなっている!?」
ノイエ・ヴェジア城の城内は大混乱に陥っていた。
次から次に入ってくる敗北の報告。都市が陥落した。軍隊が壊滅した。
現在徹底中という知らせを最後に連絡を絶った部隊は数知れない。あまりにも多くの部隊が壊滅した状況に、軍務大臣の顔色は青ざめ、将軍たちも青ざめた表情で辛うじて生き残っている部隊を帝都に向かわせようとしていた。
「そもそもベヒモスはどうなったのだ。魔道省はあれならばアラクネアなど倒せるといったではないか!?」
「いいえ! 可能性があると申し上げただけです! 絶対に倒せるよ保証した覚えはありません! 敵もベヒモス級の巨大生物を繰り出しており、戦況は予想できないものだったのです!」
将軍のひとりが吠えるのに竜の巣を管理している魔道省の役人が騒ぐ。
「と、とりあえず、ここから逃げた方がいいのではないか? どの部隊の報告も敵はここを目指していると報告している。まずは撤退し、それから状況を立て直すべきではないだろうか?」
軍務大臣は将軍たちを見渡してそう告げる。
「それを判断されるのは陛下です、大臣閣下」
将軍のひとりがそう告げると、王座からこの混乱を見渡しているマクシミリアンに視線を向けた。マクシミリアンの脇には皇帝官房長官のベルトルトが無言で待機している。
「撤退はなしだ。ここを捨ててどこに逃げようと言うのだ? 大陸のどこに逃げても敵は追いかけてくるぞ。大陸から逃げ出して、余計に危険な新大陸にでも逃げ出そうというわけか? 愚かしい」
マクシミリアンは軍務大臣の言葉を鼻で笑った。
「ですが、もうここは危険です! 皇帝陛下に万が一のことがあれば……!」
「自分に万が一のことがあれば、の間違いだろう。敵前逃亡は絞首刑だぞ。軍務大臣とて例外ではない」
軍務大臣が告げるのに、マクシミリアンはそう告げてベルトルトに視線を向けた。
「刑の執行の準備はできております」
「そういうことだ。逃げずに戦え。最後の一兵まで戦って、この帝都ヴェジアを守り抜いてみせよ。それが今求められている」
ベルトルトが告げ、マクシミリアンが平然とそう言い放った。
「で、では、兵力を再編して……」
「再編するような兵力は残っていない! どの部隊も壊滅した! 今手元にあるのは1個歩兵師団と非正規の民兵隊が1個連隊だけだ! これが我々の全戦力だ!」
将軍たちは軍議を進めようとするが、罵倒の声ばかりが響いて進まない。
もう帝都ヴェジアをアラクネアの蟲の津波から守れるだけの戦力は存在しないのだ。あるのは1万3000名の戦力。そのうち3000名は素人の民兵部隊だ。近衛兵などは城の警備のための部隊ぐらいしか残っておらず、壊滅している。
「では、将軍たち。なんとしてもこの帝都ヴェジアを守ってくれることを期待するぞ」
「……了解しました、陛下」
マクシミリアンは将軍たちの揉める無意味な軍議には興味を示さず、王座から立ち上がると部屋から出ていった。
「皇帝陛下。本当に疎開はお考えでないのですか?」
「あの女が我々を逃がしてくれるとでも思っているのか、ベルトルト。我々はあの女に屈辱を味わわせた。その礼は必ずするだろう。大陸のどこに逃げようともな」
ベルトルトが小声で尋ねるのに、マクシミリアンが鼻を鳴らしてそう返した。
「ベヒモスには期待していたが、あれもだめとなるといよいよ末期だな」
ベヒモスの生産を命じたのはマクシミリアンだ。ベヒモスならばドレッドノートスワームの進撃を、アラクネアの進撃を止められると思って投入された。
「だが、巨大な蟲の1体は仕留めたことが確認されている。残りの1体は我らが英雄に倒してもらおうではないか」
マクシミリアンはそう告げて執務室の扉を開く。
「ゲオルギウス。アラクネアがくるぞ」
「知ってる。倒せって言いたいんだろう?」
マクシミリアンの言葉に執務室の来客用の椅子に腰かけていたゲオルギウスが立ち上がって、磨いていたクレイモアの刃を鞘に納める。
「倒してきてやるよ。でかい蟲は1体なんだろう。なら、やれる。だが、それでお終いだ。それ以上は戦っても無意味だろう。敵は群れだ。俺は1体、1体、ちまちま敵を倒すのは趣味じゃない」
「ゲオルギウス! 貴様、皇帝陛下のご命令を……!」
ゲオルギウスが肩を竦めて告げるのに、ベルトルトが噛みつく。
「構わん。どうせ国は滅ぶ。最後にアラクネアに一泡吹かせてやれればそれでいい」
マクシミリアンはそう告げて小さく笑った。
「健闘を祈ろう。竜の国グレゴリアの英雄ゲオルギウス。汝の刃が蟲を八つ裂きにするのを待ち望んでいるぞ」
「まあ、待っているといいさ。それほど悪いニュースは入ってこないと保証してやってもいいからな」
マクシミリアンとゲオルギウスは最後にそう言葉を交わして別れた。
アラクネアによる帝都ヴェジア攻撃まで残り30分。
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