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シュトラウト公国戦線

…………………


 ──シュトラウト公国戦線



 私はエルフの森の中にあるアラクネアの陣地に戻ってきた。


 エルフの森では負傷者の治療が行われていた。


 ニルナール帝国によるエルフの森の襲撃では多くの村の戦士が戦いに赴きそこで負傷し、後方にいた非戦闘員もニルナール帝国の攻撃を受けて負傷した。死んだ者は数え切れないほどいる。


「ケミカルスワームの回復薬はエルフにも有効か?」

「はい。彼らは回復の兆候を見せています」


 ケミカルスワームは毒で攻撃するのに加えて、味方ユニットの回復が行える。それがエルフに有効なのかは正直なところかなりの疑問だったが、有効ならば言うことはない。少しでも早くエルフたちが回復するのを待つばかりだ。


「ライサはどこに?」

「向こうでバウムフッター村の生き残りの看病を」


 私が尋ねるのに、セリニアンが奥の方を指さす。


 ライサはセリニアンが言った通りにバウムフッター村で生き延びたものの看護を行っていた。包帯を替え、エルフ製らしい軟膏を傷口に塗っている。あまりに真剣に看病しているので私が来ても気づかないぐらいだ。


「ライサ。ただいま」

「女王陛下! お戻りになったのですね!」


 私が告げるのに、ライサが顔を上げてぱあっと笑顔を浮かべた。


「ああ。セリニアンに助けてもらった。セリニアンは私の誇る騎士だよ」

「女王陛下が計画された脱出計画に従っただけです。真に優れていらっしゃるのは女王陛下です」


 私の言葉に、セリニアンがそう返す。


「そんなことはない。セリニアンがいなければ脱出計画は絵にかいた餅だった。セリニアンが私の計画を実行する能力を有していなければ、私は今もノイエ・ヴェジア城に閉じ込められていただろう。セリニアンのおかげだ」


「うう、そう言っていただけるのは本当にありがたいです……」


 セリニアンが嬉しさのあまり涙目になっている。可愛い。


「ともかく私は無事に脱出させてもらえた。ここで困っていることはないか?」

「エルフたちが自分たちの住む場所に帰れるかどうかを心配しています。またニルナール帝国が攻めてきて、自分たちの住処を追われるのではないかと」


 そうか。そういう心配もあるか。


「大丈夫だ、と言いたいところだが、暫くはここに隠れていてくれ。ニルナール帝国は何をするか分からない。またエルフの森に侵攻してくる可能性もある。私たちが完全に防衛できるのはこの陣地ぐらいだ。だから、今は我慢を」


「分かりました。皆にはそう伝えておきます」


 私たちの戦力は先のニルナール帝国の侵攻軍をたいらげたおかげで増強されたが、まだまだエルフの森全域に安定をもたらせるほどのものではない。私たちが攻撃に転じれば、ニルナール帝国側が防衛線を守るのに必死になるだろうが、それはもう少し先だ。


「セリニアン。他にこの付近で気になることはないか?」

「ありません。今もエルフの森とニルナール帝国の境界線はリッパースワームが警備しており、異常があればただちに報告されるはずです」


 よし。エルフの森はひとまずのところ大丈夫、と。


「ならば、シュトラウト公国戦線に向かうぞ。ローランと会うのも久しぶりだ」

「ええ。シュトラウト公国戦線に向かいましょう。グリフォンスワームの準備はできています」


 私はエルフの森がこれ以上傷つけられることがないことを願いながら、グリフォンスワームに乗り込む。


「あれ? 女王陛下が前に乗られるのですか?」

「こういう乗り物ではこうするのが普通なんだよ、セリニアン」


 私はゲオルギウスから知った知識を早速披露する。


「分かりました。では、そのように」


 セリニアンは私を抱え込むようにしてグリフォンスワームの手綱を握ると、空に舞い上がった。セリニアンの胸に抱かれて飛ぶというのはとても安心できた。彼女の柔らかな香りが私を安心させてくれた。


 だが、私は大きな課題を抱えている。


 グレゴリアの英雄ユニットである“竜殺しのゲオルギウス”にセリニアンがどのようにして勝利するのかという課題が。


…………………


…………………


 私が直接シュトラウト公国戦線を訪れるのは初めてだった。


 これまでは土地鑑のあるローランに全てを委ねていたから、私はシュトラウト公国戦線の心配をしなくてよかった。だが、今回ばかりはシュトラウト公国戦線で起きることについても気を配っておいた方がいいだろう。


 私に迂闊にも計画を漏らしたニルナール帝国のワイバーンの騎手は、近々ワイバーン部隊を増強して、それを以てしてシュトラウト公国戦線を突破するのだと告げていた。それに対応するには私が直接戦線を見る必要があるだろう。


「久しぶりだな、ローラン」

「お久しぶりです、女王陛下。無事にノイエ・ヴェジア城を脱出されたようで安堵しています。私も女王陛下が捕虜になったと聞いた時には戦争に負けたかと思いましたので」


 そこまでアラクネアは軟じゃないよ、ローラン。


「これまでひとりでシュトラウト公国戦線を支えてもらってご苦労だった。敵の動きに変化はあるか?」


「敵の動きは現在低調です。これまでは夜襲を仕掛けるなどしてきたのですが、今はそのようなことは行われていません。ですが、これで敵が諦めたとは思えません。エルフの森の突破に失敗した敵は間違いなく、こちらの方面からの突破を目指すはずです」


 なるほど。嵐の前の静けさというところか。


「私が手に入れた情報は既に知っているな?」


「はっ。ワイバーンを中心とした部隊で突破を図るとのことでしたね。こちらも対空攻撃が行えるポイズンスワームとケミカルスワームを配置し、迎撃の準備を進めているところです」


 私が手に入れた情報は集合意識にあげられている。ローランももうワイバーン部隊が攻め込んでくる可能性については知っている。


「問題はワイバーンを全て迎撃するのが非常に困難だということだ。ポイズンスワームとケミカルスワームは地上軍への支援攻撃にも使用しなければならない。それでいてワイバーンの迎撃まで行うとなると、地上は苦戦を強いられるだろう」


 ポイズンスワームとケミカルスワームは後方支援を行うユニットでもある。友軍の前衛ユニットの頭上を飛び越えて敵に攻撃を叩き込むユニットでもあるのだ。


 それを全て対空攻撃に当てるとなると、地上軍がかなりの苦戦を強いられる。


「それからこの戦線では未だにリッパースワームが前衛の3分の1を占めているのも問題になっています」


「そうか。ジェノサイドスワームはまだ完全には配備されていないのか。ここは第二戦線だと思って油断していたからな」


 リッパースワームは全てが斥候や監視に転用されたかと思ったが、シュトラウト公国戦線ではジェノサイドスワームの供給不足により、未だに前衛ユニットをになっていた。


「流石にリッパースワームでは前衛はもうこなせないだろう?」

「それなりには戦えていますよ。敵もこの険しい山道を登るのに、全軍を重装歩兵にすることはできないようですから」


 そうか。この山道は東部商業連合の湿地帯と同じで、重装歩兵の展開が難しい場所なのか。それならリッパースワームもそれなりの脅威になりえるな。


「敵はワイバーンの圧倒的航空戦力を活かして攻撃してくるものと思われる。我々には残念だがまだ航空戦力はない。迎撃はポイズンスワームとケミカルスワームに任せるしかない。だが、こちらには地の利がある。それを活かそう」


 私はそう告げて、地図を見下ろして深く考え込んだ。


…………………

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