四話 行商人の義?
色々立て込んで、やっと完成……時間が有ればよろしければ見てやってください。
「申し訳ないが、色々と話はできるだろうか?」
本来であれば異世界などという場所に飛ばされ、其処の住人と対話を試みると言うのは途轍もないストレスだろう。まず言葉が通じるかどうかという疑問、次に文明や文化の違いによるタブーなどの違い、特にこの様な街でも無い場所となると襲われでもしたら助けを呼ぶ事など出来ない。その前提から考えればファーストコンタクトなど動悸が激しくなったり猛烈な吐き気を催しても可笑しくないレベルと言える。
しかしながら、空は会話をする事にした。コレが一人ならばまた違っただろう、彼は一人でサバイバルを行える術を叩き込まれていたから。だが、今は桜井という同級生が同行している。現代文明の最先端の町で生活してきた彼女に先の見えないサバイバル生活は気が狂う可能性がある、発狂でもされれば彼女だけでなく共倒れになりかねない。
故に、空はコンタクトを取る。万が一の事を考え、咲を隠しながら……
「まて、其処で停止してもらおうか?」
商隊護衛だろうか? 装備一式を纏った男から槍を向けられる。
「こんな場所で武器も持たずにいる。実に怪しいじゃないか、貴様何者だ?」
誰何である、お決まりの展開の誰何である。空は会話が出来たと言う状況に安心しながらもお決まりの展開に気分が高揚しつつあった。しかしだ、個々で返答を間違えたら向けられてる槍が無慈悲にも突き刺さるだろう。
「不用意に近づきすぎたかな? すまない、俺はソラ。武器に関しては村が魔物に襲われてね、必死に逃げてつつ反撃して、使い物にならなくなって手放したんだ。それこそ落ちてる石でも何でも使える物は使って此処まで着いてみたら人が居たって所かな」
「落ち着きたまえクラウド君、どう見ても彼は我々に危害を加えるような感じもなかろう? 服装をみても……ね。そうそう私は行商人のアルクーノだ、よろしく」
話をかけて来た人は武器を持った男、クラウドの行動を制止する。四十台ぐらいの年齢だろうか? 貫禄がつき始めた感じのする男であった。
しかしクラウド……どこぞのゲームに出てきそうな名前なのに槍使い、そこは大剣だろうといいたい。それとアルクーノ、歩くのが好きだから旅商人をしているのだろうか?まぁ歩くは日本語だから違うだろうけどネタに困らなさそうな人達だ。
服装の話が出た事で内心はドキドキな空。少しでも怪しくないようにと学ランを脱ぎ桜井に渡した後、来ているのは当然カッターシャツと学生ズボンになる。怪しくないようにとあえて汚してはいるのだが、それでもカッターシャツやこのズボンはこの世界の文化からしたら異質なのだろう。
「服装ですか……コレは家のご先祖様の物だったそうですが、珍しいものなんですかね?」
よくもまぁ、顔色を変えず嘘八百をぽんぽんと並べれるものだ。
「ふむ……どこぞの村落、しかも魔物の襲撃をされたとなると知らない事もあるか。その服は珍しいと言えば珍しいものになるだろうな。その手の服を着ている人間は〝渡り人〟と呼ばれている特殊な人種だよ」
渡り人、又は迷い人と呼ばれている人々、彼等は何処からとも無く現れ高いスペックを持ち色々な事を残した。魔物狩りとして研究者として料理人と様々な分野においてこの世界に貢献した。ただ、どこの国の人々も言う事は常識がないとの事。
空はコレだと思った、森の奥の村で村人以外との交流が殆ど無く、しかも渡り人の子孫と言う事にすればある程度この世界の常識が無くても相手から話が聞けるだろう。騙される可能性もあるので注意は必要なわけだが。
「渡り人ですか……だとこの服装のままと言うのは少々目立ちそうですね、渡り人として見られたら色々と面倒になりそうですし……あぁそうだお聞きしたい事があったのですが?」
「そういえば、聞きたい事があったのだったな。服装に目が行ってしまい話がそれてしまったか。で、何が聞きたいのかな?」
「街の位置を、ソレと服装に関して気になるので外装的な服二着と多少の武器等があれば」
「街の位置か……それなら私達が来た方向で人の足だと二日ほどの場所、それと我々が向かう所だな人の足ならば四日ぐらいの距離になる、どちらも道からそれず進めば辿り着けるな。後は外装と武器に関しては……申し訳ないが資金はあるのかね? 旅商人として用意してないわけじゃないのだがね? 先ほどの話だと急いで逃げてきたそうじゃないか」
「手持ちはありませんが……魔物の素材で幾つか交換できそうなものでもあればと」
そう言いながら、蔦などで編んで作った風呂敷もどきから石をごろごろと二十個ほど出す。
「魔石か、ギルドで売ればある程度の資金を作れるだろうな。どうせ騙しても後でばれるんだクラウド君、これらはギルドだと幾らで買い取ってくれるか判るかね?」
「そうですね、魔石は相場が変わりやすいので何とも……ただこのサイズとなれば大体一つ三百といった感じでしょうか?」
「全部で六千だな、武器は……まぁ幾つか見てもらって選んでもらうか、其の間にフード付きのマントを二着用意しよう」
言うと同時に武器を出す、ショートソードにロングソードな剣シリーズ、棍棒やメイスと言った鈍器シリーズに弓矢、長さが短い物から長い物まである槍に盾。
さてここで、お約束を選ぶのであればショートソードかロングソードに盾だろう。しかし空はお約束なんて関係ないと言わんばかりの思考を廻らせる。
剣シリーズ、無双する勇者や転移者の主人公と言えばコレだが、武器を扱ったことが無い人間がなんの練習も無しに振り回したら自分を傷つけるだけ、さらに継戦能力の無さが問題になる、刃こぼれや脂の付着による切れ味の低下、どこぞのゲームみたいに三回研いだら切れ味復活などない、ならば剣はない。
次に野戦で活躍すると言えば槍だろう、なによりそのリーチが魅力的な武器であるが、ゲームやアニメみたいに振り回せるかと言えば否である。実践の槍といえば隊列を組んで突き出すか振り下ろすといった数を揃えて使う物、考えてみて欲しい横に仲間が居るのに縦横無尽に振り回す槍一体どうなるのだろう恐怖でいっぱいだ。人数が少なければと思うがそうなるとソロなら未だしもパーティーとなると……コレも訓練がないと無理だろう。
鈍器シリーズ、継戦能力では随一を誇るだろう、しかし問題は重さだろう兎にも角にも大きい物であれば振り回される、そうなればバランスを崩し隙となる。ならば小さいものであればどうだろうか?今度はリーチが短い点が出てくる。ただしその破壊力は魅力である。
弓は現時点では問題外、矢が消耗品で数を揃えれる状況でない。只その射程は使えれば間違いなく有利なので何時かは選択肢に入るだろう。
思考の中で利点と欠点を上げていき、後は妥協点をと言ったところであるものが目に入る。狂った戦士さんが振るうような余りにも大きすぎる剣……ではなく、大体百五十センチほどの円柱、木製でなく鉄製であり一体どうやって作ったのか謎の一品。そんな棒を空は手にとって軽く叩いてみたり振ってみたりする。
棒を使うといえば、棒術や杖術といったものが上げられるだろう、諸説あるが戦場において薙刀や槍が折れた後でも戦えるようにした技術等いわれている物。時代が流れてからは、武器を持てない人たちの護身用だったり、犯罪者を殺さず取り押さえる為の技術として発展したりしている。
武器として技術として、入りやすく奥が深い物。なにせ護身用にと覚えると言った素人向けから、戦場において〝殺せる技術〟という玄人向け。現状の空と桜井を見ればおあつらえ向きの武器だろう。軍用ショベルやバールのような何かでもない限り。
「アルクーノさん、コレ幾らですか?」
「バトルスタッフですか、使い手が絶滅危惧種並ですから処分品価格でして、一本二千ですね」
「結構いい品だと思うんですけど、処分品とは?」
「バトルスタッフのコンセプトが、〝近接戦闘をする魔術師の武器〟でして、現在の魔術師の主流は大魔法主義と言いますか……距離を置いて前衛の後ろからドーンっとぶっ放す人以外は、魔術師じゃないという風潮があるのですよ」
どうやら魔法がある世界らしい。これは是非ともやり方を調べなくてはと思う空だが、今ここでソレを聞くのは悪手だろう。渡り人の子孫という建前を使っている以上、下手に墓穴を掘るのは良くない幾ら交流が殆ど無かった田舎の出という事にしておいてもだ。どこかの街の図書館でも探して調べるべきだろうと方針を決める。
「んー……バトルスタッフ二本とフード付きマントを二着に解体用の短剣一本でいくらになります?」
「バトルスタッフ二本で四千G、マントは二着で百G、短剣は一本五百Gですので、合計四千六百Gですね」
魔石を売って手に入れた六千Gから五千Gを渡し、お釣りの四百Gを受け取る。
この世界の金銭は渡り人が普及したらしい。らしいとなぜ不確かなのかと言うと、普及した人物は一度も渡り人と断言しなかったが、周りがその天才的な発想を見て渡り人に違いないと言い広めた。しかし、通貨単位がゴールドだなんて……安易すぎるだろう。きっと昔のゲームユーザーだったに違いない。
ちなみにこの世界の貨幣は硬貨であり、銅貨を始めとし銀や金などがある。ここら辺は地球と変わらないらしい。銅貨百枚で銀貨一枚となり、さらに銀貨百枚で金貨一枚。先ほどの六千Gならば銀貨六十枚になる。金の上もあるらしいが……普通に生活して行くならばお目にかかることは無い。
「良い物を手に入れる事ができました、色々と教えて頂きありがとうございます」
「いえいえ、此方こそ在庫処分できました。道なりに進めば街までいけるのでお気をつけてください」
少年と別れてから暫くして槍を持った男、クラウドが商人に声をかけていた。
「アルクーノさん、よろしかったのですか? 服と短剣は定価、バトルスタッフに関しては原価割れしてるじゃないですか」
「いいんだよクラウド君。気がついてたよね?」
気がついていたと問うアルクーノ。もちろん一つだけの事じゃない。
「えぇ、木の裏にもう一人隠れてましたね。まぁ購入した物の数を考えれば……最低は一人ですが」
「それだけじゃないよ? 君も私の専属ならもう少し考えないとね。ここ数ヶ月に渡って起きた情報はてにいれてるでしょう?」
少々棘のあるアルクーノの言葉に、一つしか答えれなかったクラウド。下手を打ったと言う顔をしつつ、ここ数ヶ月起きたとされる信頼できる情報から噂話などの記憶を辿っていく。
そして何か思いついたかのように「あっ」と声を出すクラウド。
「そういえば、三ヶ月ほど前にアルタス王国で英雄を呼んだと言う話があったかと」
「そして呼ばれたと言う英雄達は、男なら皆と彼と同じような服を着ていたそうだよ? となれば、幾つか考えうる事ができるね」
「はい、一つは彼等が王国から逃げてきた可能性があるかと」
「ただ、ソレには少しオカシイ事がある、まず彼の服が綺麗過ぎる事、それと王国から此処までの日数が歩きだと合わない」
「確かに、王国からこの公国までは距離がどう頑張っても……歩きになると半年以上は必要かと」
「それと服に関しては先祖の遺品と言ってたけどね、ソレにしては保存状態がいい。ならば彼の話は恐らく嘘だろうね、何も知らない所に何も情報がない状態ならば身を守るためにも仕方ない嘘といえるけど」
どうやら、空はアルクーノの誘導に乗せられたようだった。そしてアルクーノの仮説はまだまだ続く。
「そうなると彼等は何者だろうね? 幾つか考えるのであれば、英雄を呼んだときに事故が起きた? もしくは英雄を呼んだことによる障害が発生した? 別口で呼ばれたかもしれないね? はたまた偶然にも渡り人がタイミングよく来た可能性もあるかな? ……それとも女神様が今回の王国が行った英雄を呼ぶ行為を認めずに対抗として呼び出した?」
「ちょ! アルクーノさん一気に考えすぎですよ!」
暴走気味のアルクーノの仮説話に追いつけないクラウド。
名前によらず思考すらも走らせるのが好きなようでニコニコと笑みを見るアルクーノ。そしてその仮説は何気なく当てている、恐ろしいまでの勘である。
「どちらにしろ、世界が荒れますよ? そしてその荒れは私達商人にとって……稼ぎ時です」
「はぁ……確かにそうですね、コレは護衛が大変になりそうだなぁ」
「クラウド君言いたい事は解りましたね?恐らくですが嵐の中心の一つは彼等でしょう。ならば恩を売っておくのも悪くない。それに行商人のジンクスは公正であれです、大都市に拠点を構え貴族ご用達の商人の様なアコギな商売はしない方がいい」
「そのジンクスを守ってる行商人はどれだけいるんでしょうね……私はアルクーノさんを守るのが仕事ですから、そういうのはアルクーノさんに従いますよ」
上手く波に乗れば大儲けできるだろうと、来る嵐に金を見る楽しげなアルクーノ。代わって嵐により護衛が大変に為りそうだと溜息を吐くクラウド。
彼等の未来への感情は対極の様だ。
武器考察、コレはソラの考えです。正しいも間違いもありません。
なんせ魔力がある世界ですし、幾ら斬っても切れ味が変わらない剣や撃っても減らない矢なんてあっても可笑しくないですよね?
ただソラは此処に着たばかりで知識なんぞありません、コレから色々知っていき……使う武器も変わるかも?