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九十二話

お待たせしました!



 舞踏会の大広間に怒号と悲鳴の不完協奏曲が響き渡る。幸い音楽隊の元は此方がいる場所から反対側を今少し猶予がある。


 しかし不幸な事に彼は今、彼の最も信頼する物を持っていなかった。いや正確には持ち込めなかった。依頼主からも禁じられ、当日ボディーチェックがあるからだ。


「リンクス、パッケージを連れてこい!ここから離れるぞ!」


 状況不明、目的不明。なにが起こっているのか分からない今、守孝に出来る選択肢は一つしかない。


『セカンド状況報告』


『……ザザッ……し……匠!ザ~ザッ……不味いよ……!』


 無線を使い離れているソフィアに連絡をとろうとするが。彼女が焦っているのか雑音が酷く聞き取れない。


『落ち着けソフィア。ゆっくりとでいい状況を報告してくれ。それとフィーネさんを連れて此方に来い。離脱するぞ』


 数旬の間の後無線が入る。今この時にも不完協奏曲は広がり続ける。


『……師匠!なんだか白い布を被った人達が【貴族を殺せ!】とか【神が持ちたる国を!】叫びながら暴れている!人数、多数としか言えない!』


 白い布を被った者達?神が持ちたる国?いやな単語がボロボロと零れてくる。


『……合流はできそうか?』


 耳元のインカムから一段と大きな悲鳴が聞こえた。


『……ごめん無理そう』


 ゴッ!と硬い音が鳴ると無線が途切れた。恐らく……いや間違いなく捕まったのだろう。銃を取り出して助けるべきか?いやこの状況で銃を使っても更に状況を悪化するのは目に見えている。


「なんですか!?この状況は!?」


 ベランダから戻ってきたルドガー、カーラそして王国王女たるマルガリットはこの大広間に響き渡る不完協奏曲に戸惑いを隠せない。


「……クーデターと言うやつですよこれは。フィーネ様とセカンドは捕まりました。ここももう間もなく賊が来ます離脱しましょう」


「いやしかし……父上にフィーネそして陛下も居るんですよ!ましてや君の部下だって……助けなくては……!」


 喧騒の元へ走ろうとするルドガーの手を掴む。その力は強く抜け出せない。


「俺は貴方を護衛するのが仕事だ。俺は貴方を守る義務があるが、貴方は守られる義務がある。聡明な貴方なら分かるはず。もう無理だ……今出来る最善はこの場を離脱することだけなんです!」


 その手は少し震えていた。


「……分かりましたお任せします」


 目を向ければ喧騒の元はもうそこまで来ていた。これが最後のチャンス。今を逃せばもう逃げるすべは残されていない。


 仲間を見捨てる。何時の時も最悪な気分だ。


「殿下も一緒に行きましょう。俺は前衛につく。リン……ああもう面倒だ!インは後衛につけ。カーラはお二人をお守りしろ。取り敢えず東の塔まで行くぞ」


 東の塔はこの場所から一番離れた場所にある。ルドガーが泊まる客間も其所だ。事前に決めていた脱出路も何個か王城内にあるが、東の塔にも一つあった。


「分かりました。レイヴンさん先導よろしくお願いしますね」


 先頭に守孝。二番目ルドガー、三番目にカーラ、四番目マルガリット、最後にインの五人で一番近くの扉へと走る。


 敵は居る。しかし反対側よりは少ない。反対側には国王がいた。不幸中の幸い。これならば押し通れる。


「マルガリット殿下!ご無事ですか!」


 人の波を掻き分けながら二人の剣を帯刀した老兵が現れた。守孝、カーラ、インの三人がさっと二人を守るために壁となる。


「誰か!所属を言え!」


「ワシらは国王直轄軍の兵じゃ!今は王城警備をしておる!殿下にも拝見したことはあるぞ」


 チラッと王女殿下を見る。彼女はコクンと頷いた。


「お二人は覚えています。パウルじいとエーミールじいですね。お散歩の供廻りをしてもらった記憶が御座いますわ」


「殿下のお許しが出た。殿下とその夫のルドガー様をお守りしろ!だが俺の指示には従って貰うぞ!」


 新たな仲間を加え扉へと着く。だがそこには扉を守る白ずくめの賊が三人、それぞれ短槍や剣を持っていた。


「俺が一人やる。貴官達は両脇の二人を頼む」


 落ちていた皿と短剣を拾う……短剣は綺麗に装飾されていた。


 皿を扉の前に立つ賊に対して投げつけ、それと同時に守孝と老兵達の三人は敵に向かって走り出す!


 皿はまるでフリスビーの様にくるくると回りながら一直線に賊の足に当たる。顔になんてそうそう当たる物でもない。所詮は虚仮威し、ただし相手の注意をそらすには十分な虚仮威しだ。


 磁器製の皿が足に……運が良いことに脛に当たり賊は悶絶した。この気を逃すわけがない。


「いてぇ!この……ぐあっ!?」


 姿勢を低く体重を乗せて足を刺す。足を刺されて倒れない者は早々居ない。この男も常識に従って倒れ落ちる。


 倒れた男に馬乗りになるとその喉に短剣を突き刺す。骨に当たる感触、肉を引き裂く感触。それを無視し短剣を捻る。


 賊はゴボゴホッと血の泡を吹きながら絶命する。見ると老兵達も難なく賊を仕留めていた。


 流石は戦場をくぐり抜けた者達。普通に戦えば賊に勝ち目はなかっただろう。だが奇襲を受け更に首脳陣を捕らえられてしまえばその程度の不利はなんとでもなる。それがクーデター側の強み。そしてそれを今まともに受けているのだ。


「扉を保持する!貴官達は扉の向こう側で殿下達が来るのを待っててくれ!」


 賊の持つ剣を剥ぎ取りカーラに投げ渡す。


「お前が殿下達を守る最後のラインだ頼むぞ」


「当たり前だ。ルドガー様とマルガリット様は私の命を代えてお守りする」


 王女殿下も扉を抜ける。残るは守孝とイン。彼らもここから出ようとしたその時、彼女は叫んだ。


「左ですマスター!」


 左を見れば、ボウガンを構える賊が三人。しかし狙いは彼を狙っていない……!


「イン!」


 バッと走りだし彼女を庇うように抱き抱える。とその同時にボウガンは発射された。


「ぐぁ!?」


 撃ち出されたボルトは一直線に彼の右腹に命中した。彼は崩れ倒れる。


 熱い。まるで火箸を体に突けられた様な感覚。久しく忘れていた戦傷の感覚。血が流れ目の前がチカチカしている。


「マ、マスター!だ、大丈夫ですか!?」


 目の前にぼやけたインが見える。なにやら温かな液体が顔に当たる。もう四の五の言ってる暇は無い。


「……くそっ……銃だ!……銃をくれ!グロックで良い!」


 彼女が取り出したグロック19……サプレッサー付きを奪い取るかのように受けとると、倒れている状態から銃を撃つ。潰れかけのビニール袋を勢いよく潰した音が響く。


 装弾されてる15発を全て撃ちきりスライドオープンとなった。三人の賊は数発づつ9mmパラベラム弾を受け倒れる。


「ああ、くそ!いてぇ……」


 フラフラと立ちあがり彼は立ちあがり、彼女は肩を貸す。


「何故私を庇ったんですか!?マスターはそのせいでこんな負傷を……!」


「……いてて……体が勝手に動いたんだ。仲間を助ける当たり前の事だ気にするな、」


 扉をくぐり直ぐ様扉を閉めた。腹にボルトを受けた守孝を見て全員が驚くが彼は至って冷静に答える。


「腹に当たったが貫通してない。タネは後で教えるから今すぐ移動しましょう。次の行動を何にするかにしても先ずは安全を確保するのが先決です。」


 新たなマガジンをグロック19に装填しスライドストップを下げる。キンッ!と甲高い金属音と共にスライドは本来の位置へと戻る。


 彼は己の義務を遂行しなければならないからだ。護衛対象を守る。仲間を守る。腹には違和感があるが、まだ動ける。仕事はまだ終わらない。終われない。


 必ずこのふざけたクーデターモドキの首謀者に鉛玉を食らわせて終わらせてやる。



どうでしたか?面白かったなら幸いです!

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