九十話
お待たせしました!今回から王都編の最終節が始まります!
寒い冬のある日、王都はまるで夏の様な熱気に包まれていた。皆が王都のメインストリートに並びそれが通るのを今か今かと待ち望んでいる。
暗くどんよりとした冬の日常の中で、王から宣告された唯一のどんちゃん騒ぎ。この日だけは身分の差はありしも無礼講。大抵の事は許される。勿論ルールは守ってね。
「ねぇ、まだ来ないの?」
人の群れの一角に立つ家族。少年は何もなく場所で立たされて居るだけで飽きが涌き出る。
「もう少し待ちなさい。もうすぐだから」
母はそう言うが、熱気が凄いと言っても季節は冬。指は冷えるし暇だし彼は速くも家に帰りたくなってきていた
「あっ!おい!見えてきたぞ彼処だ!」
誰かが叫び、誰かが指を指した。段々とざわめきは歓声へと変わっていき……遂には周囲が震えていると思えるほどの歓声があがる!
「見えないよ~」
そんな歓声の先を少年は見れてなかった。周囲を全て人の壁によって遮られている。だから父親は彼を抱き上げ肩車をしてあげた。
「うわぁ!すごーい!」
眼下の先、そこには整然と列を成し行進する兵士達の姿があった。長槍を天に掲げ行進する兵。重装で華美な全身鎧を纏い騎馬に乗る騎士達。正に兵どもの晴れ舞台だ。
また更に歓声があがる。今度は馬車の車列だ。豪華絢爛な馬車が列をなす。め
「姫様だ!」
車列の中央、一際豪華な馬車にこの国の姫君は座っていた。まるで冬の太陽の様な笑顔を街道に侍る国民達に送った。
それだけで男達は頬を赤らめる。女達はそんな男達の膝を蹴る。
姫君の反対側には正装の男が座る。この美しい姫君の心を射止めた唯一の男。ルドガー・フォン・ヴィトゲンシュタイン伯爵……いや今日のご成婚を期に辺境伯に陞爵されるのが決定済み。
王国一の美女を嫁にする。皆の祝福の声色には怨嗟の声が混じっているのは多分気のせいだろう。
結婚パレードの列は未々続く。行き先は王都の中心部王城だ。
さて、我等が傭兵、鴉羽守孝はどこにいるかというと……
「凄い人だかりだなぁ」
姫君と婚約者たるルドガーの後ろの馬車。ヴィトゲンシュタイン伯爵家の馬車の御者席にいた。服装は燕尾服を纏っている。
「行事中は静かにしろ。貴様が乗ってるのはヴィトゲンシュタイン家の馬車なんだぞ」
馬車の隣を騎馬で進む女騎士、カーラは彼をたしなめる。確かに馬車の御者がフラフラしていたら示しがつかない。というわけで彼はキリッと前を向く。目線は色々動かすが。
流石に王族の馬車に乗ることは出来ず、後ろから全体を見る。装備は全く持ち込んでいない。いや正確には持ち込めれなかった。
拳銃もナイフの一本すら彼は持っていない。下手に持ち込もうなら此方が捕まりかねない。
なら護衛の仕事はどうするのか?
彼は首に手を当てる。
『インそっちからの様子はどうだ?』
骨伝導のマイクにより言葉を発する事なくイン達に連絡をとれる。
『此方からは問題なしです。いま、マスターの姿を捉えましたよ』
彼女達は今王都の鐘楼に陣地を構えている。他よりも一等高い建物故に遮る建物はなく狙撃ポイントとしては最適だからだ。ソフィアが狙撃手、インは観測手。
『ねぇイン。任務中だよしっかり見張って』
無線越しにソフィアの声が聞こえてくる。全くもって正論なのだが、彼女はそんなことをしていても全ての事を把握している。
『あ、マスター右手に人が脇道に隠れています。攻撃することはないでしょうが、お気をつけてください』
顔は動かさず、目線だけを右に向ける。確かに右手の脇道へと続く所に男が此方の様子を伺っている。男の目の前を姫君とルドガーの馬車は通りすぎるが何も起こらない。ただ見ているだけだ。
『OK。大丈夫そうだ』
末恐ろしき探知能力。敵に居なくて良かったと改めて彼は思う。
『さてそろそろ時間だ集合地点に集まってくれ』
パレードの終わりは近づく。彼等が行き着く先は唯一つ……
王城だ。
さぁさぁお立ち会い、今宵王都は血に染まる。惨劇に満ちる王城。吊るされる者。十字架を掲げる狂信者ども。
そして鴉は舞い降りる。周囲に死を振り撒きながら。
どうでしたか?面白かったなら幸いです!




