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八十九話

お待たせした!



 王都は貴族の邸宅が建ち並ぶ筋の一つ。そこにルドガー・フォン・ヴィトゲンシュタインは居た。


 珍しくその姿は鎧に覆われていた。伯爵家の嫡男に相応しい全身金属鎧には装飾があしらっている。


 その傍らにはこれまたフルプレートの鎧を纏ったカーラが侍る。その周囲には剣や盾、ボウガンを持った兵士が整列していた。


 その人数約五十ほどだろう。伯爵家の手勢がたったこれだけというのはなんとも可笑しな話だ。


「ヴィトゲンシュタイン卿、準備が整いました」


 彼の隣に立つ胸鎧に"天秤と剣"のシンボルを着けた男が脇に立つ。


「今回はありがとうございます。【法の剣】の皆様のお陰で悪徳を一つ滅せることができます」


 彼はこの国の司法機関、レヒト=シュヴェールト。通称【法の剣】に所属する騎士の一人だ。兵士は王国軍王都駐留部隊から貸し出されている。


「それが我々の仕事ですから。しかしヴィトゲンシュタイン卿ほどの身代なら我々の手など借りなくとも良いのでは?」


 そんなことを言ってるが王都では無理な話である。彼個人が動かせる軍や部隊が存在しない事になっている……表向きには。


「私は陛下に忠誠を誓う忠実なる臣下ですよ。王国の、王都の法を破る事はできませんからね」


 前にも記したが王国の古の法で諸侯の軍は王都に立ち入る事は出来ない。入ることが認められているのは、緊急時……例えば王都が敵軍に包囲されている時。王都で開かれる観兵式……軍事パレードの時と王族が降嫁するときも認められている。


 軍事パレードの時や降嫁の際の祝賀パレードには諸侯の参列が義務付けられているが兵数は厳しく規制されているのだ。


 厳しく制定されている法ではあるが、どんな法にも共通して抜け穴が存在する。例えばヴィトゲンシュタイン伯爵家は現在は強力な戦闘力を保持する護衛を雇っている。


 これはあくまで護衛としてそして家令、女中として雇っているので黙認される。


 またその王都に構える邸宅の家人や家令、下男に至るまで地方領主であるならば、その者達はその領地の人間であることが多い。


 領地の人間であるなら。この時代、兵役についているか、若しくは兵役についていた人間であると言うのは想像に難しくない。それも領主の供廻りが家人として来るのも想像の範疇だろう。


 と言うわけで地方領主に限れば邸宅の家人=兵士と言っんても過言ではなく事実である。だが、あくまでも邸宅の家人だからこれも黙認されている。


 だからと言って家人を数百人、数千人も連れてくるのはいかにも可笑しな話だ。その場合は謀反の疑いありと【法の剣】がやってくるのだ。


 さて話がそれたので本流に戻るとしよう。


 ヴィトゲンシュタイン家ももちろん家人の殆どは彼等の供廻りの者達ばかりだ。だからと言って彼らを出すわけにはいかない正当性が無くなるからだ。


「準備が整いました!下知をお願いします!」


 王国軍の兵士の一人がルドガーとカーラ、そして【法の剣】所属の騎士に近付き準備が完了を告げる。


「それでは下知をお願いします。我々はあくまで情報提供者なので」


 ルドガーは一歩下がり【法の剣】の騎士に任せる。


「それでは失礼して……皆の者!突入せよ!畏れ多くも我らが王の法に背く者を捕らえよ!」


 その号令と共に兵士達は包囲していた貴族の邸宅へとなだれ込む!


 家人達が入れさせまいと抵抗するが多勢に無勢、抵抗する者達は捕縛されていった


「我等はレヒト=シュヴェールト【法の剣】なり!貴卿にには王国法を犯した嫌疑がかかっている。ご同行を」


 【法の剣】の騎士は羊皮紙の書状を全員に分かるように広げ宣言した。


「き、貴様ら!こんな事をしても良いと思っておるのか!?そもなんの嫌疑をもって我を捕まえんとするのか!」


 邸宅の入口に立つこの屋敷の主人は剣を持ち真っ向から相対す。


「我は正式に抗議をさせて貰う。【法の剣】は腐敗し言われもない罪で無実の者を投獄せんとしているとな!」


 堂々とした立ち振舞いに兵士はたじろぎ一瞬の膠着状態がつくられた。


「言い訳が見苦しいですね、プフリューガー卿」


 その膠着はルドガーが邸宅へと入ると共に打ち破られた。邸宅の主人、プフリューガーは驚愕の色が隠せない。


「ル……ルドガー……フォン・ヴィトゲンシュタイン……卿。どうしてここに……」


 なぜなら彼は遠乗りに行った時に不幸にも賊に襲われ死ぬ筋書きだったからだ。


「おや?私が居てはおかしいですか?」


 おかしい話ではある。如何に伯爵家嫡男であっても完全な別系統にある【法の剣】と共に来る筈はない。


「ヴィトゲンシュタイン卿は今回の件の情報提供者です。貴卿の悪事もここまでですよ」


 まさか目論みが露呈したかとプフリューガーと呼ばれた冷や汗が背中を伝う。だが、何も証拠は残していない……つまりはブラフ。


「ふ、ハハハッ……ヴィトゲンシュタイン卿、君の何かの勘違いではないのかね?君の周りで起きてることと私は何も関係ないぞ」


 その言葉を待ってましたとばかりに彼はニヤリと笑った。


「ふむ……プフリューガー卿。貴方は何か勘違いしておりませんか?自分の罪状を」


 バッと彼に罪状が書かれている羊皮紙を見せる。その紙を見て男はサーッと顔から血の気が引いた。


「貴方の罪状は国に納めるべき税の横領ですよ?……だが貴方は何か他にも罪を重ねている様だ……さぁお願いします」


 俗にいう別件逮捕である。


「……うむ!罪人プフリューガーを捕らえよ!彼には聞かなければならない事が色々とあるようだな」


 両脇から抱えられプフリューガーは連行されていく。


(後は別行動中の彼等が戻ってくれば万事解決)


 彼がプフリューガー邸の外に出るとちょうど向こうから件の彼等がやってくる。


「おや、もう終わってましたか」


 白ずくめで色々なポーチを服に縫い合わせている奇妙な服を着た男、守孝が此方にやって来た。


「ちょうど終わった所ですよ。そちらの首尾は?」


 服は所々土で汚れているが、外傷は見当たらない。


「庭掃除は終わりました。猫はゲージに入れてあります」


 作戦は成功した後は事後処理のみ。彼の本当の仕事はこれから始まるのだ。


「では帰りましょう」


 彼は颯爽と馬に跨がると自らの邸宅へと帰宅する。


「中々積極的な人だな嫡男殿は」


 本来は彼がこの場にいなくても多少の遅れはあるものの、この件は終わっていた筈だ。


「そうでなくては王族と婚約などできるものか」


 たった一人、護衛として来ていたカーラはハァッと軽くため息をついた。


「……だからこそ私の剣も身体も……操さえをも捧げるに値するお方なのだ」


 ボソッと呟いた独白に彼は気付いてない様に振る舞った。


 それぐらいの優しさは彼の心にも存在している。



どうでしたか?面白かったなら幸いです!

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