八十五話
お待たせしました!
あれから暗殺者の影は見る事すらなく護衛としての日常が淡々と過ぎていっている。暗殺者とその裏にいる人物は現在、ヴィドゲンシュタイン家の手の者が調査中である。
何故守孝達がやらないかと言うと理由は簡単、それが彼等の仕事ではないからだ。彼等の仕事はあくまで護衛、戦闘能力は高いと言う自負は有るが、諜報やら調査能力と言うのは本職に対して数段劣る。
なら本職の人達に任した方が良い。例えそれが文明差違が離れていてもだ。逆に彼が知る諜報の知識がこの世界では通用しない可能性だってある。要は適材適所そう言う事だ。
……とでも言って何もしないのは理屈しか論じえない者の言い分だ。守孝は……はっきり言おう愚者である。意地汚く汚泥を啜っても任務を……生きる道を探す兵士だ。己の方でも何か行動を起こしときたい小心者でもある。
だが彼自らが情報を求めて彷徨い歩くのは到底現実的ではない。彼の今の任務は護衛であり、その義務を放棄することはできない。
であるのなら彼個人で動かせる諜報員達をつくるしかない。しかし個人規模とはいえ諜報部隊を立ち上げようと言う話、先立つものがなければ何も始まらない。
先立つものとは金、暴力、s……と言うのは半分冗談で、資金と武力、それと人員だ。
幸いにも資金と武力……というよりは武器だが、は比較的簡単に用意できる。支援を約束しているマルクス商会とヴィドゲンシュタイン伯爵家の両者が出してくれるのだ。
では最後に残る課題である人員なのだが、ソフィアが名乗りを上げた。
「僕の知り合いを使ってみない?」
彼女の知り合い=貧民窟の住人しかも子供が多いだろう。
「みんな王都を知り尽くしているから役に立つと思うよ」
確かにある程度の年齢で転生したソフィアを別にして、この歳まで貧民窟で生きていた者たちだ。一芸も二芸も持っているだろう。
「……良しソフィアお前のお友達に声を掛けてみろ。ちゃんと報酬はちゃんと払うとな」
と、言うことで彼女は貧民窟に出向いた。流石に彼も一人で行かせるのは良くないと思いインも行かせた。
で現在守孝はどこにいるかと言うと……
「ルドガー様。此方のお部屋でお待ち下さい」
所作にまるで隙がない女官は早々に立ち去り、部屋には守孝、ルドガー、女騎士ことカーラがいる。珍しく女騎士は鎧姿ではなくちゃんと着飾っていた。帯刀はしているが。
「久しぶりに登城しましたよ……貴様は緊張などしないのだな」
そう言うと彼女は襟首を正すその色に緊張が隠せてない。
「そうか?これでも少し表情が固くなっていると思うのだが」
彼は見回りついでに部屋の調度品を見て回る。どれも豪華そうで、下手に触るすら憚れる程だ。
「……触るなよ?そこに飾ってある壷だけで屋敷が立つ」
その言葉は不用意に壷に触ろうとした手を引っ込めるには十分な説得力であった。
そんなことをしていると女官が戻ってくる。
「お待たせいたしましたご用意が出来ましたのでご案内いたします……殿下も楽しみにお待ちになっておりますよ」
そう彼は今王城に来ていた。
悪徳蔓延る王都が北地区貧民窟。そこに彼女達は居た。
少し前ならここが終の住居になっていた筈だ。日々食べ物を求め、しょうもない悪事を働いて小銭を稼ぐ。そして誰かの食い物にされて誰からも看取られず無惨に死ぬそんな運命だった筈だ。
実際自分は死ぬ一歩手前まで行った。しかし奇跡的、ほう本当に奇跡的な確率によって彼女は助かった。しかも前世の記憶まで戻って。
「久しぶり……元気してた?」
記憶が戻ったと言っても長年ここで暮らした性か彼女はあちら側とこちら側……更にここ最近はある男の考えまで彼女の心理に影響を及ぼしている。
「お、お前ソフィアか!?生きてたのか!?いままでどこに!?」
だから……だからこそ彼女は思う。
「落ち着いて……それは後で話すよ。それよりも良い話があるんだ……乗る?」
せめて自分の手の回る範囲の仲間を助けようと。
王都の何処かの名もない酒場。ゴロツキ、傭兵やら何か怪しい輩が屯う場末の酒場。その最奥、一角を占拠する輩どもがいた。
「くそっ!中々にあの伯爵家はなんであんなに固いんだ……!」
酒を飲み気分が良くなれば悪態の一つでも付きたい所。
「おいっバカっ!大声出すんじゃねぇ……!」
壁に耳あり障子に目あり何処から情報が漏れるか分かったもんじゃない。
「す、すまねぇ……しかしだ彼処はどうするよ?もうすぐ指定された最終日だろう?」
じゃあどうするか……!とやいのやいのと話し合いが続く。
「おい……あんたはどうするんだ?」
そう話しかけられるのは鼻をガーゼで保護する男。
「そうだな……やはり確実に殺るには奇襲しかあるまい。仕入れた情報では近々一度遠乗りを行う様だ。その時が最後のチャンス……」
おぉと周囲からはどよめきが上がる。ルートさえ分かれば殺り様は幾らでもある。
だがこの鼻を折られた男は一抹の不安が残っていた。この鼻を折った奴らはまるで魔法の様に敵の位置が分かるのは判明した。
しかし敵の戦闘力は全く分かっていない。この人数ならば簡単に殺せるはず……しかし不安なのだ。
だが周囲はもうその気でいる。もうどうしようもない自分が言った手前止める事も出来ない。
(保険を掛けておく必要があるな)
周囲が沸き立つ中、彼はその抜け出し行動を始めた。
どうでしたか?面白かったなら幸いです!




