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八話



朝、納屋の隙間から届く光と冷たい風で目が覚めた。瞼を開き起き上がろうとするが……


何かがいる。それも目の前だ。


納屋の扉を開ける音もしなかった。一体どうやって入ってきたんだ!?


毛布の中でグロックを握り込み、スライドを静かに引いて初弾を込める。目を見開いて勢い良く毛布を翻し、グロックの銃口をその何かに向けた。


目の前にいたのは………


「……は?」


「おはようございます。鴉羽守孝様。よい朝ですね」



メイド服を着た銀髪の美しい女性だった。



グロックを構えてポカンとした顔で固まる俺、いや誰だってそうだろう。一人で納屋で寝て起きたら目の前に銀髪メイドが立っている。信じられるか?いや、異世界に来てる俺が言うことではないのかも知れないが……。


俺の困惑を無視する様に、銀髪メイドは話を続ける。


「守孝様。 まず顔をお洗いになってはどうでしょうか?その後、朝食をお取りになりませんか?困惑していらっしゃる様ですし、よろしければ朝食の時にご説明させていただきます」


「あ、はい」


銀髪メイドの言われるがままに、外の井戸で顔を洗い口を濯ぐ。冷たい水でさっぱりするが、まだこの状況に頭はフリーズをしていた。


そのまま一緒に酒場に向かい、銀髪メイドと一緒に朝食をとる。朝食は、昨夜食べたのと同じパンとスープだった。夜ほどではないにしても朝から賑わいを見せる店内のアチコチから、チラチラと俺達を伺う視線を感じる。


朝食が一段落し、コップに注がれた水で口の中に残る朝食の味を洗い流す。ついでに頭の中も洗い流す。よし、落ち着いた。


先ず状況を把握しよう。目が覚めたら銀髪メイドが居た。現在は朝食を一緒に食べている。………うん、意味が分からん。この銀髪メイドは何者なんだ?何故俺の名前を知っているのだろうか?何が目的なんだ?……それもこれも話を聞かないと分からないな。


俺は意を決して、小さく千切ったパンをもそもそと食べている彼女に話かけた。


「まず、君は何者なんだ?」


彼女は持っていたパンを皿に置き、口に含んでいたパンを慌てて飲み込んで言った。


「話を聞いてないのですか?」


「誰からだ?」


「守孝様をこの世界に連れてきた張本人にですよ」


この世界に連れてきた張本人……あの女神か?


「そのご様子だと本当に聞いて無いようですね」


彼女は一つため息をついた。


「はぁ、仕方ありません。私の口からご説明します」


少し間を置いて、彼女は言った。


「私は守孝様をサポートするように女神から送り込まれた自動人形OT-8b74です」










「自動人形……ロボットか!?君がか!?」


ロボットと言えば某青色のタヌキ型ロボットやサムズアップして溶鉱炉で溶けていく殺人機械を想像するが……


彼女はそんなものとは比べるのが失礼になるほど美しかった。……いや、確かに彼女は彼女自身が言う通りロボットなのかも知れない。何故なら彼女は"美しすぎる"のだ。


人間は何処かしら身体的な特徴を持っている。鼻の形だったり、唇の大きさ、小さいものだと黒子もそうだ。だが彼女はどうだ?整い過ぎた美貌、すらりと伸びた手足。絹糸の様な銀髪。黒子やシミの一つも無い雪の様に真っ白な肌。まるで絵や空想の中から取り出してきたかの様な、どこか人間離れした”美しさ”を有している。


俺は頭を抱えてしまう。あの女神、頼むから重要な事は最初に教えてくれ。報連相は社会に生きる者として重要だぞ。


「……あの、私何か粗相をしてしまいましたか?……もしかして私は要らないんじゃ?」


悩み続ける俺に、彼女は少し震えが混じった声で聞いた。


「いや違うんだ。ちょっとあの女神の事を考えていたんだ。……これは仮定の話なんだが、もし俺が君の事を要らないと言ったら、君はどうなるんだ?」


少しの好奇心で聞いた質問。その質問に彼女の顔は曇った。


「その時は……守孝様の見えない所まで向かい、自らの電脳を破壊。そして身体の物理的破壊のために自動発火し、この世から永遠に消えます。……守孝様はそれがお望みですか?」


先程からの彼女の曇り顔と声の震えは、この事が原因だろう。このロボットがどれ程の思考能力を持つかは分からない。だが、ただ生まれ、ただ死ぬのはきっと耐えられないのだろう。


彼女の事を凝視する。彼女は俺の目をしっかりと見返していた。自らに与えられる言葉を理解するために。


「……ふう、正直言うと最初に君に会った時はびっくりしたし、君から聞いた話で俺はまた面倒な事になったと思っている」


俺の言葉に彼女の顔が強張る。


「では、私はやっぱり要らな……」


俺は、彼女の言葉を遮って話続ける。


「だがな、この世界に来る前から俺には一つ信条が有るんだ」


「それは何でしょうか?」


俺はニヤリと笑った。


「簡単な事さ。"人生楽しまなきゃ損"だ。俺はこの世界に来てから楽しいんだよ。何が起きるか分からないこのドキドキ感が堪らない!自分勝手な理由で迷惑だと思うが、君にも手伝って欲しい。まあ、目の前で死ぬって言ってる奴をほっとく程外道に堕ちてないしな」


彼女は一瞬キョトンとした表情を浮かべるが、直ぐに微笑を浮かべて言った。


「はい!勿論でございます。私は元々、守孝様のためだけに創られた存在。迷惑だなんて、とんでもございません。むしろ嬉しいです!」


「じゃあ宜しく頼むぜ。ロボットの……えーと、そう言えば名前を聞いて無かったな。君は何て名前なんだ?」


「私には名前は有りません。守孝様が決めて下さると嬉しいです」


いきなりそんなことを言われても困るんだが……名前なんてポンポンと出てくる物ではないし……。だが、期待を込めた視線を送ってくる彼女の様子を見てしまうと、そんなことも言ってられない。


目につくのはやはり絹糸の様にさらりとした銀髪だよな。出会ったのは宿屋……。


「……よし、決めたぞ。君の名前は『イン』だ。意味は中国語の(イン)。それと英語のinn、古い意味は家の中、今の意味は旅人が訪れる場所、宿屋もあるな。……どうかな?」


(イン)……私はイン……はい!ありがとうございます!守孝様から頂いた名前、大切にしますね!」


彼女……インが浮かべた表情は花が咲くような笑顔だった。


安直に決めてしまった名前であるが、結構気に入ってくれているみたいなので良しとしよう。


「じゃあこれから宜しく頼むぜ、イン。それと最後に良いか?」


「何でしょうか守孝様?」


「そう、それだよイン。頼むから人前で俺の名前を様付けで呼ぶのはやめてくれ。目立ってしょうがない」


周りからの此方を見る視線が痛い。先ほどまではインを盗み見る目が多かったが。今は俺を見る目の方が多い。まあ、こんなおっさんが銀髪美少女メイドに様付けで呼ばれているのだ。好奇の目で見られるのは仕方がない。だが、俺も恥ずかしいのだ。変えれるなら変えて欲しい。


インは少し考えるような仕草をし、口を開く。


「分かりました。では、今後は「ご主人様」とお呼びすれば、よろしいでしょうか?」


「よろしい訳がないだろう!もっと悪化してないかそれ!?」


「んー中々、我儘なお人なのですね守孝様は……では、マスターでどうでしょう?」


言葉の意味は変わってないが、俺の精神的負担という意味合いでは大きく変わる。ここら辺が妥協点だろう。


「よし、じゃあ今度からはそれでいこう」


「一つよろしいでしょうか?」


「なんだ?」


「……二人きりの時は、お名前をお呼びしても良いでしょうか?」


先程に増して、花の様な笑顔で言ってくるイン。


「いや、それは……」


プライベート空間でも小っ恥ずかしいので言い淀む俺に……


「……ダメでしょうか?」


上目遣いで目を潤ませながら聞いてくる。こんな事をされて断れる男はいない。何でこんなに男の扱いが上手いんだ。


「はあ、分かった。分かった。二人きりの時だけだぞ」


「はい!ありがとうございます!あ、それと、もう一つだけ良いでしょうか?」


「なんだ?」


「マスターは先程からロボットと言われますが、私は最初に申し上げた通り自動人形です。お間違えの無いようにお願いしますね」


「……それは重要なことなのか?」


「はい!とても重要なことです!」


女……自動人形心?は中々難しいものである。





















「そう言えば聞き忘れていたが、その姿は女神の趣味なのか?」


「いえ、創造者様の趣味でいらっしゃいます」


「……?女神じゃないのか?」


「ふふっ、それはどうでしょう?」


謎は更に深まるのであった。



これがやりたかった(小並感)



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