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八十四話

お待たせしました!



 当初の考えは良い意味で外れ……万事上手く行っていた。何かしらの妨害、特に件の四大公爵から来ると思っていた。


 しかしその考えは大きく外れ護衛についてから数週間が過ぎ……その影すら現れる事はなかった。肩すかしとは正にこの事なのだが、安全を考えるなら障害は来ないことに越した事はない。無論警戒レベルを下げる事もしない。


 と言う訳でこの数週間、彼等はこの国の上級貴族の実態を家令やメイドの仕事として肌で感じていた。


 貴族の生活と言ったら……民に重税をかけ食べて遊んで寝るの酒池肉林を思い浮かべる者も多いだろう。


 端的に言ってそんな事をしてる貴族など殆どいない。貴族の、特に領主と呼ばれる貴族は、言うならば国内の一地方や地域の行政、法務、治安等を一手に任されている者達だ。


 朝起きてみれば領民から訴状が来ているなどザラにであるし、野盗の類が出れば兵を率いて討伐。そこに通常の業務、則ち書類仕事がある。大袈裟に言えば麦の一粒使うにすら書類が必要になってくる。


 例えば川に架かる橋が壊れたとしよう。


 壊れた橋を直す為の資材、人足を用意するためのお金は領主が払い臣下の一人が現地で監督をする。これでは領主は仕事をしてない様に見えるが、裏では予算の決算や日々上がる報告書に目を通し監督官が不当な利益、所謂ピン撥ねをしてないか確認したりするのだ。


 更に小川を挟んで東が此方の領地、西が他方の貴族の領地とする。古来から水あるところに争いあり。水は人が生存するのに必要な最低限な物だ。多い事に越した事はない。


 故に争いが起こる。小さなイザコザならその場で収まるだろう。だが事が大きくなったら彼等貴族が出ばらなければならない。つまり常日頃、水利権を得る為の紛争の可能性はらんでいるのだ。他にも色々と紛争が起こる可能性はある。


 つまりはだ。こと領主貴族は酒池肉林などと言ううつつに耽る暇がないのだ。無論政務を補佐する臣下も数多く存在し政務の量は多少減るだろうが、それでも並みの貴族よりも多く働いているだろう。


 だが、現在ルドガー含めヴィドゲンシュタイン伯爵家の人間は政務をしていなかった。しかし政務をしていない=仕事をしていない。と言う訳でもなく、彼等は精力的に動き回っていた。


 貴族としての仕事の一つ……そう外交を。











「ヴィドゲンシュタイン様、昼食まで此方のお部屋でおくつろぎ下さい。それでは失礼いたします」


 腹の探り合う和気藹々とした話し合いはやっと一段落すみ、伯爵家嫡男ルドガーと同家令嬢フィーネはある一室に案内された。


「ルドガー様、フィーネ様少しお待ちください。部家が安全かチェックします。イン、ソフィア素早くすませ」


 その掛け声と共に三人は素早く部屋中をチェックする。ベットの下から額縁の裏まで確認する。小さな物まで気が抜けない。


 五分程かけてチェックを終えルドガーとフィーネは改めて椅子に座る。


「すまない助かるよ。しかし椅子のクッションまで調べる必要あるのか?」


「椅子のクッションに小さな針を仕込んで置けば中々バレないものですよ。そこに遅効性でも即効性でも良いんで毒でも仕込んでおけば……」


 ああ成る程とルドガーは頷く。人間座る時は何も考えずに座るもんである。通常、座るときにゆっくり静かに何かに警戒して座る者などそうは居ない。


 でブスリッと刺さり即効性ならその場で倒れ死に、遅効性なら帰り道辺りで死ぬ。悪どい手だが暗殺としてはアリな手だ。


「お水をどうぞ……ご心配なく調べた所毒は入ってないようです」


 インはコップに水を注ぎテーブルに置く。


 因みにこの場に女騎士ことカーラは居ない。何でも実家の方に呼び出しを受けたようである。


「お兄様話し合いはちゃんと決まったんですか?」


 その問いの前に彼は水を一口飲む。


「ノルデン侯爵は今回静観を約束してくださった。これで隣接している四人の領主達で反対派は居ないことになる。それと今度合同でテルズ川の川湊を整備しようと言う話になったこれで益々民が潤う」


 その言葉に彼女はホッと胸を撫で下ろす。下手に反対派が領地が隣接している領主がいるのでは長い間留守に出来ない。それなら明確な味方ではない中立であっても反対派でないのならOKだ。


 川港の件だって両者の利益が侵害されず、共に益があるから出来るのだ。民が潤う?確かにそうだろう。だが同時に彼等も潤うのだ。世の中そう言う風に出来ている。


「良かった……でもお兄様、私が手伝えるのはここまでですよ。今回だってノルデン侯爵のご息女が私の王立学校の後輩だったから出来た事なんですから……」


 彼女とノルデン侯爵のご息女が後輩なのだってそう。勿論、両貴族が態々同時期に計画して子を作った訳ではない。年齢が近い貴族は殆ど王立学校に入学するからこそ、こう言う事が出来るのだ。


 横の繋がりだけではなく縦の繋がりも作る事ができる王立学校は貴族だけではなく、新たな商機を狙う商人達も数多く活用している。


「マス……レイヴン、誰か来たようです」


 その言葉に瞬間的に空気がピリッと張り詰めた。彼女が今回の依頼で戦闘時に使う其々のコードネームを発したのだ。


 レイヴンはもちろん守孝、イン、ソフィアの二人はリンクスとセカンドとなっている。


「リンクスは窓の外を警戒しろ。セカンドはお二人の側だ」


 二人に指示を出し自らはカスタムM19を抜き扉に近づく。すると同時に扉がノックされた。それに続く言葉はない。


「誰か?用件を言え。ここはヴィドゲンシュタイン伯爵家が借り受けている居室ぞ」


 遅れること数秒返事がくる。


「……申し訳ありません私はこの家の家令の者です。主人が急遽伝えたいことがあると開けて頂きたい」


 扉越しに聞こえたのは男の声。チラリと後ろを見るとルドガーはウンと頷く。


「分かった今開ける」


 鍵を開けドアノブに手を掛けようとした瞬間……!勢いよくドアが開かれた!


「ぐぁっ……!?」


 だが守孝が一枚上手だった。彼は顔面に迫るドアをドアノブに伸ばしていた手で受け止めると足蹴の要領で蹴り返す。家令と名乗った男は顔面を蹴り返されたドアに強かに打ちつける!


 今度は逆にと彼はM19を構え外へと飛び出した。


「ちっ……逃がしたか」


 しかしそこには誰もおらず床に小さな血痕が残されているのみだった。


「リンクスどこに行ったか分かるか?」


 扉を閉めリンクスことインに暗殺者であろう敵の居場所を探らせる。その時だ何処からかパリーンッ!と窓が割れる音が屋敷に響き渡った。


「ダメですね……もう既に屋敷の外に出てすごい速さで逃げてってます。恐らく馬に乗ってるのかと」


 逃げ足の速い相手と言うよりは引き際を心得ている暗殺者だ。前の様なそこら辺のチンピラを雇っているのではなく本物の暗殺者かなにかだろう。


「敵は引きました。とりあえずは安全です」


 しかし敵を殲滅したわけではなく何処かでまた現れるだろう。その後は何もなく昼食を食べ終え、ノルデン侯爵の屋敷を後にしたのだった。



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