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八十二話

お待たせしました!



 三日と言う日にちはあっという間に過ぎて行き、伯爵家嫡男ルドガーの護衛に着く日が来た。


 三日間何もせずに唯、時が経つのを待っていた訳ではない。貴族の慣習や有力貴族の情報を教えてもらったり、王都の各地にセーフティハウスを設けたりしていたのである。


 と言っても三日と言う日にちは準備期間としてはあまりにも短期間であり、率直に言って付け焼き刃と言うしかない。


 情報も三割程しか理解できてないし、セーフティハウスは一軒しか作れなかった。現在マルクスが自らの商会を通じて目ぼしい何軒かに交渉を行っているのが現状だ。


 準備不足は否めないが必要最低限度の準備は整っている。なんとか二週間後には交渉を終わらせておくとマルクスは言っていたし、情報面は伯爵家の令嬢にして冒険者ギルド職員のフィーネがサポートに回る手筈になっているからなんとかなるだろう。


 さて、現在守孝達一行はマルクス邸でヴィトゲンシュタイン家の迎えを待っていた。因みに今彼等はマルクス邸の離れを間借りしている。情報漏洩と減らす為と情報伝達を少しでも早くする為だ。


 間借りする件で、マルクスは元よりその妻のミリィと愛娘のミシェルは温かく迎えてくれた。特にミシェルは良く守孝達に懐いており、ミシェルとソフィアが仲良く遊んでいる光景は何とも愛らしいものであった。

 

 あんな景色がこの世界でもそのうち来るのだろうか……


「お待たせしました。モリタカ様とイン様ですね」


 しばらくすると伯爵家からの迎えの馬車が邸宅前に乗り付けた。馬車の扉が開き一人の壮年の男が現れる。恐らく伯爵家の使用人の一人だろう。


 当然の様にソフィアの名前は無い。


 一人名前が無いのだが?……なんて言っても彼は取り合わないだろう。彼女を見るともう慣れっこと普通にしている。


 それならまぁ余計な諍いを起こす事もないと口を噤む。


「馬車にお乗り下さい我が主人がお待ちです……おいそこの獣人、何乗ろうとしている。お前の様な汚らわしい存在が乗って良い代物ではないぞ!」


 順次乗り込もうとしたその時だ。使用人……なんて事を言われて黙らない者がいるのだろうか。


「おい貴様、俺の部下に……仲間に対してなんて言い草だ撤回しろ」


 その言葉に使用人を何を言っているのか理解出来てなかった。文化の違いとはやはり残酷な物だ。


「貴様は使用人とは言え伯爵家の迎えとして来ている。だが貴様は俺の仲間を侮辱した。それではヴィトゲンシュタイン伯爵家に泥を被せているのと同等……もう一度言う、今の言葉を撤回しろ!」


 何を……!と使用人は此方に詰め寄る。別に彼は間違ってる事を言ってる訳ではない。この国では極上当たり前の事を言っているだけなのである。


「何を貴様、所詮は冒険者の癖に何の言い草。更には伯爵家を愚弄するとは何事だ!」


 双方が詰め寄り一触即発の空気が漂い始める。今まさに胸倉を掴まんとした時だ、馬車の中から声が響き渡る。


「止めなさい!彼等は此方が依頼した方々ですよ」


 声の主はヴィトゲンシュタイン家の令嬢にして冒険者ギルド職員のフィーネ・フォン・ヴィトゲンシュタインだった。


 彼女に窘められ使用人はスゴスゴと馬車の御者台へと向かう。無言の抵抗という所だろうか。


 彼等が乗り込むと馬車は出発し、馬の蹄鉄の音が重なり歩く。彼等の対面に座る彼女はこれぞ令嬢と言わんばかりに着飾っていた。


「申し訳ありませんモリタカさん家の者が無作法をしました。ソフィアちゃんもごめんね」


 スッキリとした暖色を中心とした色合い、冬の寒さの中に暖かさを感じるそんな服装だ。


「良いよ気にしてないし」


 ソフィアはにこやかに笑う。強い子だと思う。メンタルが地球人の筈なのに、此方の世界に慣れてしまったのだ。


「しかしフィーネ様、直々に迎えにいらっしゃるとは何かありましたか?」


 そんな言葉に彼女は顔を赤らめて首を振る。


「や、止めてくださいよモリタカさん。様付けなんてしなくていいんですよ?」


 とは言うものの相手は今回の依頼人の一人で伯爵家令嬢である……流石に無理と言うものだ。


「仕事ですから……まぁギルドの受付嬢のフィーネさんとしてなら良いが。だが公の場合ではちゃんとお呼びしますから慣れて下さいよ」


 そう言われて彼女は苦笑いを溢した。


「分かりましたよ……あ、そうそう私が来た理由ですが、モリタカさんに少しお聞きしたい事がありましてね」


 馬車の車窓から見える王都は既に冬模様だった。屋根には雪がうっすらと積もり、道端には積み上げられた雪が無造作に置かれている。


「答えれる範囲であれば」


 道は綺麗に除雪されていた。この除雪は王国軍王都駐留軍の雑務任務の一つであり、一部冒険者に委託されている。


「これはまだ一部の者しか知らされてない情報なんですが、あの教皇国からある宣言が出されました」


「確か……閉鎖的な国家の筈でしたか。その教皇国は何の宣言をだしたんです?」


 久しぶりにその単語を聞く。あれは確かまだマルクスと共に王都に来る時だったか。何でも国境を壁で物理的に遮断しているとかなんとか言っていた記憶があった。


「えぇ……なんでも{異世界から勇者が現れた。我らは彼等を支援しこの世界の悪を駆逐する。勇者の名はセイヤ ミツルギ}と。名前がモリタカさんに近いですし何か知っていますか?」


 異世界、勇者と言う単語に守孝はなんとか驚きの表情を表面に出さずにすんだ。いや確かに別に異世界から転生、転移されるのが一人だけと決まっている訳ではない。


 実際、彼の隣には獣人として転生されたソフィアがいる。インは……別枠だろう。彼女は女神が彼に贈った物である。


 そういえばと彼は隣に座るソフィアを見る。


「え……それっtむぐむご……!」


 彼女が何か喋ろうとした寸での所で口を押さえる。大方自分達の仲間がいるとでも発言しようとしたのだろう。


「ソフィアちゃんがなにか?」


「寒いですからね、ソフィアちゃんがくしゃみをしそうなのをマスターが押さえたんです。フィーネ様に飛沫が掛かったら失礼ですからね」


 彼がなんと言おうか迷っているとインが助け船をだす。ありそうな理由にフィーネは納得した。


「いえ……全く知りませんな。お役に立てずに申し訳ない」


 内心インに感謝しつつソフィアに嘘をつく。


「いえ……こちらも急に聞いてすいません。何か分かれば教えてくださいね……あ、屋敷が見えてきましたよ」


 大きな立派な屋敷が見える何処かで鴉が鳴く。それは今から始まる一連の出来事の始まりの合図でもあった。


















 そこは壮麗な場所だった。全てが白で覆われているが目が痛いとは感じない。逆に優しさを感じさえする場所だった。


「こ……ここは!?」


 横たわる少年は目を覚まし起き上がる。まだあどけない顔立ちには驚きと困惑があった。


「お目覚めですね勇者様良い朝ですね。先ずはお顔を洗いましょう。お話はその後からです」


 彼の目には美しい銀髪が映った。



新しく現れた勇者の話はこれからの話が終わったらやりたいと思います

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