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八十一話

お待たせしました!今回は少し短めです



 事の発端はヴィトゲンシュタイン伯爵家、嫡男、ルドガー・フォン・ヴィトゲンシュタインにある。


 いや、発端と言っては語弊がある。彼はごく普通に王立学校に入学し、講義を受け友人達と友誼を交わした。


 そして彼はそこで出会った女性と恋をした。はじめての恋だった。それは彼女もそう。両者は学生らしい初々しい恋をし、卒業後もその愛は確かであった。そしてやっと結婚にすることが両家で決まったのだ。


 ただその婚約者はこの国の第四王女だったのである。


「婚儀は別にどうでも良い。逆に嬉しい位だ。この堅物で優しい位が取り柄の息子がちゃんと女を射止めたんだからな」


 そう言って伯爵はお茶を啜る。隣でその息子は嬉しそうにはにかんだ。


(良くわからんが一国の王女と伯爵家嫡男が自由恋愛で結婚っていいのか……?)


「まぁ、王もこの件に関しては了承済み。陛下とは共に轡を並べた仲だ。喜んでくれたよ」


 一国の王女とその臣下たる伯爵家との結婚。何かしらの動きがない筈がない。


「それでこの降嫁を期に我がヴィトゲンシュタイン家は爵位が伯爵から辺境泊となる……のだが」


 そら来た。唯の護衛を頼むためにこの様な場所で我々の様な者達に依頼をする筈がない。


「王国には四つの公爵家が存在する。辺境泊は公爵と同等だ……それを良しとしない勢力が存在する」


 爵位が上がればそれだけで色々な妬みや恨みを買うのだろう。それが王族との縁戚となれば……


「色々と影で言われておるぞ。息子が王女を誑せたとか、これを期に隣国に鞍替えする……恐れ多くも独立を企んでおるとか……ふざけておる」


 伯爵は手を固く握り締める。


「ワシは王がまだ王太子だった頃、御付武官をしておったのだぞ。あの方への忠誠の心は誰よりも有ると自負しておる……すまない少し熱くなってしまった」


 彼の隣に座るマルクスが首を振る。


「いいえ閣下。閣下の国王陛下への忠誠がどれ程の物か知れて嬉しい限りです。なぁモリタカ?」


 その問いに彼は頷く。


「ありがとう……ワシの事はこの際どうでも良い。言わせておけば良いからな。重要なのは息子と殿下の婚儀をつつがなく終わらせることにある」


 その言葉にその場にいる全員が頷く。ルドガーを守る、それが今回の依頼だ。


「王家と我ら臣下が交わした古の盟約によって王都に兵を入れる事は出来ない。勿論ある程度の例外はあるがな」


 その例外とは王家が許可した時のみ。その許可が出たのは戦争時以外では出たことがない。


「そもそも"暗殺が怖いので護衛の兵を王都に入れさせて下さい”など貴族としての面子が立たん。そこで君達に護衛を頼みたいのだ。ワシの知る限り君達は在野の中では最高峰の人材だと思っている」


 そう言われて嬉しいと思わない人間は少ないだろう。勿論彼はその大勢の方だ。だがそれがお世辞を含まれているのは理解している。


「分かりました閣下。非才なる身では御座いますが微力を尽くしましょう……それでは先ず日程とそれに伴う護衛計画を詰めていきましょう」








 ヴィトゲンシュタイン伯爵家は要件を伝え終えると早々にマルクス邸を後にした。


「ではよろしく頼むよ。三日後、迎えの者を寄越す」


 後に残された者達、守孝一行とここの家主であるマルクス。


「お疲れ様だなモリタカ」


 守孝の前に新しく暖かなお茶が置かれる。


「マルクス……今回の様な事は二度とないようにしてくれ。流石に疲れた」


 深くソファに座り込こみ、彼の方をジロリと睨む。彼は申し訳なさそうに頭を下げた。


「すまないモリタカ。俺としてもお前を巻き込むつもりは無かったんだが……あの方達はお前の事を事前に知っていたようなんだ。あの方は色々な所にコネクションを持ってるからな。恐らく俺がお前に依頼したのを何処からか察知したようだな」


 頭が痛くなる話だ。つまり裏では彼等が王都に来た当初に起きたあの一連の事件は既に筒抜けなのである。


 此方は首輪を付けられている状況に等しい。


「安心しろ。あの方達があの事でお前を揺する事はない。一応半分被害者側、公言はしない」


 確かにと守孝は頷く。


「マスターよろしいので?」


 彼女の言葉に体を起こしソファから立つ。体の強張りをほぐしため息を一つ吐く。


「よろしくはないが仕方がない。俺達はこの国の政争に身を投じるぞ」


 その顔は憮然な面持ちだったが、その目だけは確かに笑っていた。



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