閑話 噛み合い始める歯車
お待たせしました!
その日守孝達一向は休みを取ることにした。働き詰めの彼等(特にソフィア)には休息が必要だ。
と言うわけでインとソフィアは王都の繁華街に出ているのだ。守孝?……この男、またもやインとの約束をすっぽかしたのである。
(女との買い物は長いから疲れるんだよぁ……アーニャもそうだった……)
まぁ、と言うことで……いや良くないのだが、兎に角、守孝は一人宿屋の一室で現在の装備一式を床に並べていた。
マルチカムにプレートキャリア、HK416Cとグロック19。それのマガジン達に、カラテルナイフと“色々”と詰め込めんであるバックパック。
そう、この装備は前回依頼を受けたゴブリンの巣穴……もといゴブリンの渡り通称〈旅団〉とメルバラと呼ばれた蟻どもの生存戦争を繰り返していた所に赴いた時の装備だ。
「やっぱり火力が足りてないよなぁ」
そうやって見るのはHK416Cとグロック19。メインウェポンであるHK416Cと言うよりは、アサルトライフルは必要に応じて何時も変えている。
だが、サブウェポンは何時もグロック19を使用し時々、他のに変えていた。しかし今回、グロック19が……いや、その使用している9×19mmパラベラム弾で通用しなかったのだ。
勿論人に対しては遺憾なくその威力を発揮している。だがことモンスターに対しては威力不足が目立った。あの蟻に対してはそもそも貫徹が出来なかったのである。
そうなってくれば例えサブウェポンとしても役立たず、何か新しいサブウェポンに変えるのは当然の帰結と言えよう。
で、現在それの選定中なのだが、中々決まらずにいた。9mmが駄目なら軍用拳銃ならば45口径にするのが当然と言えるのだが……
「……どうにも45口径は好かん」
勿論、緊急時ではそんな甘っちょろい事は言わない。しかし今は余裕があり、好きに銃を選べる事ができる状況。選り好みしても良い……良いのだ。
45口径は確かに威力は高くストッピングパワーに優れているが、その反面反動が強い。それに最近の45口径のハンドガンは大型化しており、手がそこまで大きくない彼にとっては扱いにくい。
扱いにくいのを無理に使ってもその先は死だけだ。なら自分に合った代物を使いたいのが兵士の本音。
「ハンドガンを二丁持つものなぁ」
ならば何時もは9mmを使用しそのサブとして45口径のハンドガンを装備するのはどうなのか?
答えは否だ。サブウェポンのサブを持つ?お笑いも良いところだ。それをするならメインウェポンの他にもう1つ、単発擲弾発射器かソードオフした散弾銃を持つ。
その方が火力が上がるし応用性がきく。それにハンドガンのマガジンを二種類、普段持つマガジンの数を半分にに分ける事になるのは、手間の一言に尽きるだろう。
「さてどうするか……」
使いやすいが威力は心もとない9mmか扱いにくいが威力は抜群の45口径かこのどちらかだ。悩んだ末、やはり45口径の方がよい気がしてきた。多少の不便があったとしても一撃で仕留めれる方が良い。
そうと決まれば45口径ハンドガンの選定に移ろうとしたその時だ後ろ方でゴトッと物音が響いた。
「誰だ!」
守孝は瞬間的に一番手元に置いてあったカラテルナイフを抜き後ろを向く。
「誰もいない……ん?」
しかしその場には誰も存在しなかった。だが先程まではそこに無かった物が置かれていた。それは材質は固めだが金属や木材と言った固さではなく、どちらかと言うとプラスチックに近いがそれも違う。結論は材質不明、形状は箱。大きさはシューズボックス程度。重さは1~2kg。
置いてあった場所もあり得ない所であった。彼は扉の方を向いて作業を行っていた。置いてあった場所は唯一の入口の真後ろと言うことだ。窓は彼から見て左側にある。それにここは三階だ。少しの物音程度でこの箱を入れるのは不可能に近い。
つまりはこの箱は何も無い空間から現れたとしか考えるしかない。そんなことが出来るのは、まだ見ぬ魔法使いと呼ばれる者達か……あの女神か。
十中八九あの女神の仕業だろう。守孝に対して新たな何かを渡したのだろうか。彼自身は既に、女神が祝福と呼んだこの〈ピースメイカー〉と呼ばれるこの能力を持て余しているのだが。
何はともあれ開けて見なければ分からないと彼は蓋を開けて……それを落としかけた。
手の震えが止まらない息が上手く吸えない。彼は心をなんとか落ち着かせる為に一度箱をベットに置き、深呼吸して息を整えると……意を決して再び蓋を開いた。
「なんでこれが此処に……!」
箱の中身は一丁のハンドガンとそのホルスターだった。古き良きリボルバーと革製のホルスター。これは……彼の銃だ。
震える手で彼はそのリボルバーを手に取る。クルミで作った彼の手に合ったグリップ。その要所には布張りで滑り止めがしており、握るとまるで手とグリップが一体化したような感覚になる。中心には鴉の意匠が施されていた。
材質はステンレスで軽量化を図っておりサイトも見やすい様に調整していた。ホルスターもこの銃に合うよう調整をしている。彼の為だけの銃。
名をS&W M19 コンバットマグナム。その名の通り.357マグナム弾を使う強力なリボルバー。ガンマン気取りと仲間内に笑われたがそれでも愛用していた銃。
彼女が彼に送り、彼が最後の仕事で紛失し……そして彼女を殺した銃だ。
『ウッドペッパー……どうして!?』
『言葉は不要と言った筈よレイヴン……撃ちなさい』
脳裏に嫌な記憶が鮮明に甦る。焼け落ちる街、対峙する二人、重なる銃声……
「チッ……だがこれが一番有効か」
渋々と言った風だがその手の動きは早い。素早くレイヴン仕様と言えるM19とホルスターを箱から取り出す。取り出した瞬間箱はまるで露の様に消える。
それに気にせず彼は黙々とホルスターを腰に取り付けて、M19をホルスターに仕舞い。彼は何度かガンマンの早撃ちの様にM19を抜きホルスターの位置を微調整した。
忘れたモノを取り戻す様に……
死せる者は死に強き者が生き残る。それはどこの世界でも変わらない自然の摂理であるが、ここ王都、貧民窟は一層顕著である。
物乞いに隙を見せれば後ろから刺され、身ぐるみを剥がされるそれが貧民窟。
そんな一角、廃棄された倉庫は貧民窟とは似つかない空気が流れていた。周囲は綺麗に清掃され、腐乱死体など1つも無い。更には倉庫の目の前では小規模ながら炊き出しが行われているではないか。
「此方にお並び下さぁい~ちゃんと皆さんのパンとスープはありますよぉ~!」
黒いゆったりとした服装の髪まで頭巾で隠した女性が貧民窟の住人に手渡しでスープとパンを渡していく。
その姿はまるで聖女のようであった。パンとスープを施された者の中には涙を流す者さえいる。
「皆さん主は必ず我々を見ています……善い行いをすれば必ず救われますよ」
彼女は優しげな笑みを浮かべて教会となっている廃倉庫に戻っていった。
「状況はどうなっています?」
「はいシスター。既に準備の方は整いつつあります。決行前日までには完了します。」
仮の礼拝堂には少なからず人がいた。全員が帯刀している。
「よろしいディアーチルから何か連絡は来てますか?」
「いえ何もこのまま」
礼拝堂に最奥には十字架が掲げられている。粗末な木材で作られてるがしっかりと。
「ではそろそろ動き始めましょう……主よ御許に近づかん」
扉は開かれ歯車が噛み合い始めた。
生暖かい目で見てくださると幸いです!




