七十八話
お待たせしました!
結果と言うのは時として伴わないものである。
ゴブリンどもはその数を大いに減らしていた。元々が蟻との生存戦争で数が減り、守孝達一行によって金おろしに様に……実際ミンチの様になったモノが多い。
ゴブリンの巣穴に再突入するとゴブリンと怒り狂ったメルバラは死闘を繰り返していた。それを脇目に奥に進み、
巣穴の最奥にやって来た。
そこには既にメルバラの群れの一部が到着しており、玉座らしき所にいる一等大きい体を持つゴブリン……恐らく頭目だろう。
それが喚き散らしながら残り少なくなった仲間を指揮、と言うよりも後で大降りの戦斧で脅しつけながら戦っていた。
彼等はそれを無視し居るであろう要救助者を探す。見れば……右方に蟻どもに半分喰い散らかされた女性であろう死体が転がっていた。
そう彼等がしようとしていた事、いや蛇足と言うべきかその行動は無駄に終わったのだ。
現実と言うのはあまりに残酷だ。どれ程頑張ろうが結果が伴わない事などざら、それを眼前と見せつけられるのだ。だがそれから目を逸らす事は出来ない、いや許されない。
死はそこで、彼等はその死の一端を知らずながら背負っている。蟻どもから逃れる為にゴブリンどもが何をしたのかなど、そこらの童でも分かる事なのだから……
彼等はその遺体を置いてこの魑魅魍魎が住まう巣穴から脱出した。せめてもの救いは遺髪を一房持ち帰ったことだろうか。あの死体は、メルバラと呼ばれた蟻どもがゴブリンの遺骸と共に幼体の餌になることだろう。
女王が既に死んだ。あの蟻どもは今後も餌を集めこの巣を守るだろう。既に存在しない女王の為に。
それを確認した守孝はまるで憑き物が落ちたように脱出を進言。他の者達も了承し、巣穴から脱出した。脱出した後は巣穴の出入口を埋めて(爆破)帰還した。
王都に帰還した彼等は直ぐ様今回の顛末を冒険者ギルド本部に説明報告を行った。これは女騎士の指示でもあった。
曰く『ゴブリンの旅団が現れたとしたら報告しなければならないと言う義務がある。それにあの数のメルバラが街道近くにいるならば、駆除せねば交通と通商に打撃を受けるから王国軍も動く筈だ』とのことだ。
そして報告してみれば……報告を受けた受付嬢のフィーネは話を聞けば聞くほど顔を青ざめていく。
「ひ、一つ確認しますが……その報告は本当なんでしょうか?」
確かに聞くだけだけだと荒唐無稽な話だろう。元々討伐されたゴブリンの巣の再調査を依頼したら、規模を拡大したゴブリンの渡りの集団、通称〈旅団〉が住み着き、更にメルバラと呼ばれる地下に住む蟻どもが沸きだしているのだ聞いた者は話した者の正気を疑うだろう。
「それは私と家名、そしてこの剣に誓って保証しよう。この話は真だ」
しかし保証者がこの王国の騎士であるならば話は別だ。この地を守護しこの地の権益を追及する者が、こんな荒唐無稽な話を保証するか?
「……直ぐに上に報告させて頂きます。一先ず元々の依頼金が支払われますが、恐らく追加報酬が出される事になるでしょう。カーラ様、守孝さん今回はありがとうございました」
そう言うと彼女は深々と頭を下げるそれを女騎士……カーラと言う名前だったか、が止めようとするが寸での所でやめた。
元々の関係がどうであれ、今のフィーネの立場は一冒険者ギルド職員に過ぎない。それの感謝の意を止めようとするのは色々と不味いと理解したからだろう。
「了解した。一応関係者として後の顛末を知りたいので後で教えてくれるとありがたいんだが」
「分かりました。私がお話しできる範囲でご報告しますね」
これで今回の一件は守孝達一行から離れた。だからこれからは彼等から手が放れたその後を話そう。
先ず報告を受けたのは冒険者ギルド本部のグランドマスターだった。本来ならば、企業で言う部長や専務と言った位の者達の手に行って社長の手に渡るのだが、今回は王国騎士の家名が保証である最重要案件の為に直にグランドマスターに渡った。
その書類を受け取ったグランドマスターは先ず一読し……目を疑い、そして頭を抱えた。
討伐した筈のゴブリンの巣穴に旅団が住み着き、更にはメルバラの大群がその中に蔓延っている。幾らかましなのは、その二種が敵対関係にあり、メルバラの女王は死に、ゴブリンの方も大打撃を受けていると言うこと。
……まあ、それをしたのがたった一組の冒険者達と言うのは頭痛の種の一つではあるが。
何はともあれこれは冒険者ギルドが単体で処理できる案件ではない。前回のゴブリン討伐も数が多く、街道沿いと言うこともあり、王国軍との共同討伐であった。
今回も彼は王国軍と冒険者ギルドの共同討伐にしようと考えた。王国軍のみで対処可能だろう。だが冒険者ギルド王国内の治安維持の一部とはいえ委託されてる団体として、何もしない訳には面目が立たないのた。
と言うことで彼は必要な書類諸々を持つと王城へと登城する王国の官僚と打ち合わせをするためだ。彼は元々はある子爵家の三男だった。
守孝達一行と女騎士からのゴブリンの巣穴の再調査の結果が王都に伝わった時から数日後。ある屋敷の一室。
「カーラ今回はご苦労だった報告書は読んだ。中々の死闘のだったようだな」
「いえ伯爵閣下……私が出来たのは微々たるもの。大半はあの冒険者達の成果です」
談話室の様な空間に四人の人間がいた。その中の一人は女騎士と呼ばれ続けたカーラである。彼女は椅子に座らず下座に膝を折って頭を伏せている。
その対面には椅子に緩く座る初老の男が居た。長らく貴族社会に身を置く彼からは貫禄と言っても過言ではないオーラを身に纏っていた。
「ちょっと待って下さいお父様。報告書は一部の関係者にしか渡してないんですけど?モリタカさん達にも口頭報告だったんですが」
その隣に座る女性、冒険者ギルドの受付嬢であるフィーネは少し不満そうな顔をしている。その報告書を書いたのは彼女自身だった。
「ワシにも冒険者ギルドへのコネ位は持っておる。アレはワシと王立学校の同輩だ。あやつはフィーネ、お前が冒険者ギルド一般採用枠で入ったのを知っておったぞ。この前会ったらえらく笑われたわ」
そんな言葉を発するが彼自身の顔は笑っていた。
「成る程流石は父上良い御友人をお持ちだ……それでカーラ。彼等の動きはどうだった?君と彼等では戦い方は違うだろうがその力は分かるだろう?」
フィーネの反対側に座る二十代位の青年は彼女に問いかける。
「はい御嫡男様。冒険者達の一人であるインと呼ばれる少女はその戦闘力は恐らく王国……いや周辺各国の中でも随一だと感じました。恐らく宮廷筆頭魔術師殿や王立学校学長殿などと言った高位魔法使いが必要になるでしょう」
彼女の発した言葉に彼等は驚きを隠せなかった。
「そ、そこまでなのか……まさかそんな者が在野に居るとはな尚更敵側には着いて貰いたくない」
しみじみと御嫡男と呼ばれた男は言葉を盛らす。今出てきた二人はいざ戦争が起きようならば、戦局を左右しかねない者達だ。
「次に獣人の娘であるソフィアですが、練度は新兵同然ですが彼等の訓練によるものか戦闘に支障はなく、探索兵の様な動きを見せてます。彼等には劣るでしょうがあれも戦力にはなると思います」
「しかし獣人だぞ……あの卑しい奴等を使うのか?」
伯爵と呼ばれた男は少し顔色が渋る。為政者としてまた領地を預かる領主として、此方への攻撃に使えるモノは極力減らしたいのである。
しかしそれに彼は待ったをかけた。
「ですが父上。獣人と言えど姿かたちは人間と変わりません。戦力や労力には変わりないのです。これを試金石にしてみるのはどうでしょうか?」
「ふむ……まあその話はまた今度だ話を戻すとしよう。それで最後のモリタカ・カラスバだったか……その男はどうなんだ?」
彼は話が長くなるだろうと、息子の話を切り上げさせた。彼は前々から獣人達への職の斡旋、定住化政策を始めようと薦めているのだ。
「はっ……頭目のモリタカですが、戦闘力はインには劣りますが指揮能力や状況判断能力は高く、恐らくですが高等教育を受けた面も見られます……劣ると言いましたが並みの騎士では一方的に殺られるでしょう。最低でも魔法使いが必要と考えます」
最低限でも希少な魔法使いが必要。つまりは対等と言っている。それだけで彼の戦闘力は中々のものなのだろう。
「うむ……決めたぞ。やはり彼等に任せるとしよう。獣人が居ると言うマイナス面もあるが、それを引き換えにしてもプラス要因が多いからな」
「分かりました。早速手配を始めます。我らが新たな御用商人はそのモリタカと御友人の様です。そこから上手く話を通しましょう」
彼等の知らぬ間にこの国の何かしらに巻き込まれようとしていた。
「フィーネその時はお前も列席してもらうぞ。知り合いの様だからな」
「その為に……私はここに残されてるんですね…」
彼女は兄に向けて少し恨めしそうな目線を向ける。体の良いダシに使われるのだ良い気分などしない。
「いやそれは降嫁の儀に親族として出てもらうからだぞ……なんで儂の娘はこう育ったのやら」
「いや……父上の血ですよ」
やれやれと彼は首を振った。
「それでカーラ何でまた御嫡男様なんて呼んだんだ?私と君の仲だよな?」
「一応任務の報告ですから……」
「マスター結局どうなったんですかあの巣穴?」
「なんでも冒険者達と王国軍に王国に属する魔法使いで潰したそうだ。聞いた話では煙で燻して出てきた所を狩ったそうだ」
「それって魔法使いの意味は?」
「……さあな」




