七話
狼との死闘を終えたその後は、特に問題なくパックルの街に着くことが出来た。さて、獲物の買い取りをしてもらおう。
冒険者ギルドから指定された買い取り場所は、街の端の方に有るカマボコ形の体育館の様な建物だった。入り口近くに窓口がある。
買い取りの窓口で応対したのは、中年で髭面の男性だった。
「おう、何の用だ」
「獲ってきたモンスターを買い取ってもらいたんだが。これは依頼書だ」
冒険者ギルドで渡された書類を中年の男に渡す。男性は書類を見て何度か頷いた後に、顔を上げた。
「あんた、その年で冒険者ギルドに登録したんだって?」
「まあ、元々は他の職業だったんだが今は旅人でね、金が無くなったから登録したんだよ」
「ふーん、まあ、人生は色々だからな、何も言わないさ。そこの荷車があんたが獲ってきたモンスターか……結構量が有るな。よし、そこの入り口から運び入れてくれ」
男の言葉に頷き、荷車を入り口から建物の中に運び入れる。中は屠殺場と倉庫が合わさったような様相だった。木箱や樽が山積みになっており、今もモンスターを作業員達が解体しているのが見える。
「よし、そこに置いてくれ、今から査定をするからちょっと待っていてくれ、その辺の物には触るなよ」
「了解だ。大人しく待っていることにするよ」
そこから二十分程で待たされたが、モンスターが綺麗に解体され枝肉にされていく様子は中々面白い光景だった。
「査定は終了したぞ。荷車にあったシルクウルフはあんたが?」
「シルクウルフ?……あの狼の事か?それなら俺が殺ったが何か問題が?」
「こいつらの推奨ランクはCランク。しかもパーティーを組んでの討伐が推奨されている。それを一人の、しかも今日ギルド登録した新人が猟ってきたんだ。驚くに決まっているさ」
「驚く?……怪しむの間違いじゃないのか?」
俺がこの男と同じ状況なら、きっと他の冒険者からの横取りを想像するだろう。
「伊達に何年も、ここの管理とモンスターの解体をしている訳じゃないさ。あんたの武器か魔法かは分からんが……恐らく弾き出した”何か”を目標に当ててるだろ?ホルンラビットとシルクウルフに同じ様な穴が有ったし、穴が多かったシルクウルフを少し捌いたら、こんなのモノが出てきたしな」
そう言って男は9ミリ弾を俺に放り投げる。しまった。角ウサギの方は7.62ミリ弾は威力と貫通力に優れ角ウサギに当たっても貫通していたが。9ミリ弾はいくら貫通力が高くとも所詮は拳銃弾。狼の体は貫通しなかった。
「……ああ、確かに俺はこの弾を撃ち出す。これのお陰で幾つもの危機を脱したのさ」
「なるほど。あんたの前の職業が分かったぜ。魔法関係だろう?こんなことを出来る武器は存在しないしな」
「まあ、そんな所さ。……それで?査定はどうなっているんだ?」
勝手に勘違いしてくれたか、助かった。こんな危険な武器を持っていると分かったら何される分からんからな。
「おっとそうだった、そうだった。ホルンラビットは一律で銀貨ニ枚。シルクウルフは二匹の毛皮の状態が悪いので一匹銀貨五枚。残りの一日は首を折って有るだけで他に外傷が無い。こんな状態が良いのは久しぶりだ。こいつは金貨三枚だ」
この世界は金貨や銀貨で取引が行われている。大まかに言うと。金貨=1万円 銀貨=千円 大銅貨=百円 小銅貨=十円となっており、十進法で金をかぞえている。金貨以上の貨幣も存在するが殆ど表に出ることは無く。専ら大きいお金が動く時は為替を使うそうだ。
それで、今回の報酬は街からの依頼で銀貨二枚。角ウサギが十匹で銀貨二十枚=金貨二枚。狼で金貨三枚と銀貨十枚=金貨一枚。合計すると金貨六枚と銀貨二枚だ。
「初仕事としたら結構儲けてるんじゃないのか?」
男が言うには、新人の初仕事など俺の3分の1儲ければ良い方らしい。
「まあ、俺としたら良い状態のモンスターを持ってきてくれるんなら何でも良いがな。ほらこれをギルドに持ってけ。こっちでの取引と確かに討伐してきたと言う証明書だ。買い取りの報酬はギルドで受け取ってくれ」
「どうもありがとう、助かったよ」
「礼を言うぐらいなら、次も良いモンスターを頼むぜ。じゃあな」
男と別れ買い取り兼解体場を後にする、既に外は夕方だった。その足でギルドに向かう。ギルドの方でもフィールさんに驚かれたが、昔取った杵柄と言うことで納得して貰った。
今は酒場で夕食を頼んでいるのところだ。頼んだのはホルンラビットの串焼きとエール。それとパンとスープだった。頼んだ品は直ぐに来た。料理を持ってきたウェイトレスに料金を払う。金額は合計で銀貨二枚だった。酒場の喧騒をBGMに食事を楽しむ。
「おお、角ウサギ、意外といけるじゃん!」
海外で何度かウサギは食べた経験は有ったが独特の臭みがあった。だが、この角ウサギは臭みが無く食べやすい。そして、この油がエールと良く合う。エールは少し気が抜けたビールと言った感じだが十分に上手い。パンは麦の匂いが高く、スープも野菜が崩れる位良く良く煮込まれていた。俺は腹が減っている事もあって、あっという間に平らげてしまった。
「ふう、満足だな。さて今日寝る所を決めないとな」
近くのウェイトレスに礼を言い酒場を出る。そのままギルドに併設されている宿屋に向かう。この冒険者ギルドの建物が大きいのは、酒場や宿屋が併設されているのが理由の様だ。
宿屋のカウンターに座っていたのは、中年で小太りの女性だった。
「すいません。宿を一晩とりたいんだが、空いてますか?」
「あら~ごめんないね~。今日はもう満室なの~。次から宿泊したい場合は夕方までに声をかけてちょうだい。んー見ない顔ね~新人さんかしら?」
「金に困ってね。今日、冒険者ギルドに登録したんだ。何処でも良いんだ泊めさせてくれないか?」
「あら~そうなの?貴方も大変ね。ん~そうね~納屋だったら泊まる事が出来るわよ~。低料金でよく新人さんが泊まってるわよ~」
納屋か……雨風が防げれば今日は何処でも良いか?今日はそこに泊まって、明日はベッドで寝よう。
「じゃあそこでお願いしたい」
「わかりました~。料金は大銅貨五枚よ~」
大銅貨五枚、確かに安い。宿屋の一番安い部屋のさらに4分の1だ。金の無い新人の冒険者が泊まるのも頷ける。俺は受付のおばちゃんに銀貨で支払い釣りをもらう。
それでおばちゃんに場所を教えてもらい、その場所に向かう。途中、酒場に寄りエールとカリカリに焼いた肉を包んで貰う。どちらも素焼きの陶器に入っており、使いきったら割って捨ててくれとのことだ。納屋は外に有るから空でも見ながら一杯やろうと思う。
冒険者ギルドの裏手にでる。外は既に月が浮かんでいた。それも2つ。白い月と蒼い月が同じ所に浮かび、その周りには星々が煌めいていた。
「月は双子星なのか。人里から離れて夜営するときの星空はさぞ美しいだろうな」
陶器を両手に抱え、冒険者ギルドの裏手を進む。物品の搬入口、馬車置き場、馬小屋、そして納屋は一番奥まった場所にあった。
納屋前に座ってエールと肉で呑み始める。薄暗いが空に浮かぶ月のお陰で真っ暗と言うことは無い。ましてやこの美しい月を見ながらの酒精は格別だった。
酒を呑むうちに、自然と考えることは今日一日の出来事となった。今日最も反省すべき点は街に帰る時の警戒感が薄かったことだ。依頼が達成されたと言っても、此処は危険なモンスターが蔓延っている世界だという事を忘れてはいけない。"警戒を怠った者から死ぬ"これはどこの世界でも変わらない不変的な事実だ。
それに……ここら辺にいるモンスターはAKMで十分対応可能そうだが、狼が9ミリ弾で倒せたところを見ると弾の口径を小さくしても良いかもしれない。明日試してみよう。
酒と肉を食べ終わりそろそろ眠りに着くことにする。宿屋で貸して貰ったシーツを納屋の中にある藁に直に敷く、これで少し寝心地がマシになるだろう。リュックから毛布を取り出す。正直もうリュックはいらないかもしれない。……いや、採集の依頼を受けたらいるか?
そんなことをぼんやりと考えながら、身に着けた装備品を外して、粗末な寝床に入る。一応、グロックは毛布の中に忍ばせておいた。勿論セーフティは掛けて……。初めて藁のベッド……意外と寝心地は悪くなかった。
今日だけで色んな事が有りすぎたせいだろう……俺は直ぐに寝てしまった。
………[ピースメーカー]起動。………地点Zから地点JにOT-
8c74を転送………転送終了まで残り七時間三分四十ニ秒………




