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七十五話

お待たせしました。



 爆発した瞬間、体を伏せていても吹っ飛ばされそうな感覚を彼等は受けた。


 とてつもない爆風と共に砂塵や石ころが彼等の頭上を通過していく。このまま棒立ちで立っていたら、体は吹っ飛ばされ、高速で飛翔する石に体をグチャグチャにされていただろう。


「ゲホッゲホッ、あ゛ーくそっ喉の奥がジャリジャリする」


 やっと爆風が収まり、失速した小石や土くれがパラパラと体に降り注いでくる。身体中が砂まみれ、立ち上り口をゆすぐと、黒く着色された水が地面に落ちていった。


「お前ら大丈夫か?」


 彼はポーチに入ってるライトを点け、周囲を見渡す。


「問題ありませんマスター」


 インは先程までと全く変わらずもう、立ち上り副についた砂埃を払っていた。


「大丈夫だよ師匠」


 次にソフィア。彼女はまだ地面に座り込んでいた。服も体も砂まるけ、彼は水筒を彼女には投げ渡した。


「……身体中凄いことになっているが此方も問題ないぞ」


 最後にカーラ?女騎士?……もう女騎士で良いだろう。


 彼女もインと同じように立ち上がって装具を整えていた。胴鎧の留め具を弛めるとザーッと砂がこぼれ落ちる。あれだと他の所も砂が入り込んでいるだろう。


 彼はライトを仕舞い、衝撃で切れてしまったHk416Cのハンドガード装着されているフラッシュライトを点け直す。


 真っ暗な洞窟での光源を守孝、インにソフィアはライトに、女騎士ランタンに頼っていた。彼等は暗視スコープでも良かったが、そうすると女騎士のランタンの光源が暗視スコープに干渉を起こし悪影響があるため控えた。


「完全に塞がってるな」


 ライトの向こう、そこには崩落し道が完全に岩に塞がれていた。これでは向こうからゴブリンや蟻どもが来ることは無いだろう。此方の出口へと通ずる道も無くなったが。


「師匠どうしよマガジンがこれだけしかない……」


 やっとこさ立ち上がったソフィアが此方にやって来る。見れば弾が装填されているマガジンは一つしか無かった。


「仕方ない俺のマガジンを渡そう」


 そう言うと彼は、ポーチに残されていたマガジン4つを彼女に渡す。


「え、師匠大丈夫?これ師匠の残りだよね?」


「大丈夫まだコレがある」


 彼は背中に背負っていた銃火器を手に持つ。それは何時も使用してるアサルトライフルとは違い、箱形マガジンが無く銃口を見れば明らかにアサルトライフルよりも大きく、まるで杖の様に長い。


 それは俗にショットガンと呼ばれる代物だった。名をM1014。イタリア、ベネリ社が製造するM4 スペール90の米海兵隊モデルである。


 今回、近接戦闘があるかもと装備の中に含めていたのだ。まさか使うとは思わなかったため、弾も二十発ほどしか用意していなかった。


「グロックのマガジンを二つ此方に寄越してくれ。それでなんとかするさ」


 彼等は謎機構で無限の様に20mmを撃ちまくるインと違って、最初に出しておいた分のマガジンしか無い。


 もちろん彼が神から与えられた幾らでも銃火器を取り出せる[ピースメイカー]と言う存在があるが、出来ることなら戦闘中には使用を控えておきたいと彼は思っていた。


 戦闘中によそ見をするなど自殺に等しいと言う理由もあるが。何時でも取り出せるとなると、心に変な余裕を持ってしまい、それが隙を生んでしまうに違いない。だから武器を取り出すのは最低限にしていのだ。


 まるでゲームで縛りプレイをする理由みたいだが、それで今の所は上手く行っているからよいのだろう。尤も、彼自身も本当に危機的状況になったら躊躇なく使うつもりでいた。


 流石に命か心情かと問われれば否応なく命をとる。誰だってそうする、彼だってそうする。


「とりあえず前に進むぞ。こんなくそったれな地底から早く抜け出そう」


 闇が支配する洞窟からの脱出を開始した。


 前衛に守孝と女騎士、中衛にソフィア、後衛にインの順に彼等は洞窟内を慎重に一歩一歩確実な歩みで前へと進む。今の彼等には人を遊ばせておく余裕など無い。


 その洞窟は想像していたよりも遥かに広く複雑であった。ゆるい登り坂だからと地上の方向に進んでいると思いきや、結果的に更に地下に進んでいたり、複数の分かれ道があったりと、地下を、景色が全く変わらない場所を延々と歩き続け方向感覚が狂ってゆく。まるで迷路だ。


 更に……


「……居たな今度はゴブリンが二体だ。」


 ライトの光に照らされ二匹のゴブリンが闇の中からヌッと現れる。人工的な光に照らされ二匹は煩わしそうに手で光を遮る。


「俺は右をやる女騎士は左を殺れ」


 その言葉を合図に守孝はグロック19を構え女騎士はロングソードを構えは駆ける。インとソフィアはライトでゴブリン達の目を潰す、これで奴等は今何が起こっているのか理解出来ずその場を動く事はない。


 最初にゴブリンを倒したのは守孝だった。3発放たれた9mmパラベラム弾は心臓部分に1発、頭部に2発命中し、ゴブリンはその内容物を撒き散らしながら仰け反り倒れた。


 もう一体のゴブリンはその時何が起こっているのか全く理解が出来なかった。眩しい光によって全く視界が利かず、何か大きな乾いた音が鳴ったと思うと自分の身には何も起こっていない。

 

「Gyagya?……GagyugagaGyugyega!!」


 そこでコイツは隣に居た仲間にどうなっているのかを聞こうとした。しかし返事がない。何度も罵ろうが返事は無く、ただ目の前が眩しいだけ。


 ここにきてこの哀れなゴブリンはようやく己が攻撃されていると気付いた。しかしもう遅い。


「ハアアアァァァアッ!!」


 女騎士の渾身の突きによって喉をひき裂かれる!


 ゴブリンの喉からブクブクと紅い泡が溢れ、藻掻いて息絶えた。


「これで十二匹目ですね」


 先程までの津波の様なゴブリン達の攻勢は。嘘の様に無かった。あの洞窟内の闇を更に黒く染めていた蟻どもなど見る影もない。


「しかし結構な数を倒してるんだが、どんだけ数がいるんだよ」


 彼はM1014の銃先で斃れたゴブリンの死骸を弄る。後頭部は吹っ飛ばされているが、体の方は無傷であった。


 確かにグロックの放たれた9mm×パラベラム弾はゴブリンの体にも命中していた。つまりは何かに防がれたのだ。見ると、ゴブリンの胸には光沢のある昆虫の外皮の様な奇妙な鎧を纏っていた。


「これは蟻の……メルバラの外皮だな」


 女騎士がゴブリンの奇妙な鎧を検分する。どうやら洞窟内に溢れていた蟻どもの、メルバラと言うらしいが、その外骨格をゴブリンどもは鎧として利用しているらしい。


 9mmを受けとめる事が出来るのだ。鎧として充分、いや上出来だろう。大抵の鉄鎧と呼ばれる存在のその多くは薄い鉄板によって作られているのだから。


 しかし、と彼はもう一体、女騎士が斃したゴブリンを見る。首のちょうど中央部分、気管や脳へと続く血管を綺麗に一刺しで突いていた。


 流石、騎士と名乗るだけはあるだろうか、剣の扱いは中々のものであった。彼女が持つロングソードでは上段から振りかぶれば、剣は洞窟の天井にぶつかり、それだけで死に繋がる隙となるだろう。


 だから彼女は閉所での戦闘を意識して突きを主軸に敵に攻撃を加えていた。全身鎧にロングソード、本来は盾も使っているのではないだろうか。癖なのか左腕で体の前方を防ぐ様に位置している事がある。


 慣れない攻撃方法に攻撃スタイル。しかしそれでも動けているのだから、日々の努力を欠かせてない証拠。彼女は立派な戦士だ。


 その事を彼女には言う気は彼にはない。正直、彼は彼女の事を戦死としては信用に値する人物だと思っていたが、一個人としては信頼していない。


 ハッキリと言って彼女は何処から指令を受け此方の戦力の確認に来ている。それがどこの誰だかは彼は知るよしもないが、易々と情報を全て曝け出すつもりはない。


 だからそこ、ピースメイカーの使用を控えている側面もあった。


「なんだこの紋様……これは刺青か?」


 彼はそんな思いを面には出さず女騎士を呼ぶ。剥ぎ取られた鎧の下、緑色の肌の右胸に何やら紋様な物が入れてあった。


「……確かに刺青がある。と言うことはコイツら旅団か……?」


 その形と言うのが中学生が若気の至りで彫ってしまった様な劣悪な物で、縦にグニャリと捻れた線が三本掘ってあった。


「旅団……なんとも物騒な名前だが何なんだ?」


「旅団とはゴブリンの渡り……その集団の事を言う」


 渡りとは特定の巣穴を持たない者達をさし、旅団はその渡りが100~500、多いと1000を越える一つの部族をつくり大陸を遊弋している事をさしている。


 奴等は略奪部族。各地の小さな集落を襲っては享楽な浸り力を付ける。


 なんでも昔、ある国の大きな街が複数の旅団が集り総数が万を越えた旅団……ここまでくればもう軍団と呼称しても良いほどのゴブリン達の軍勢に襲われ、陥落した事があるそうだ。その後の惨劇は言うまでもない。


 そして各旅団のゴブリン達には其々の紋章となる刺青が彫ってある。恐らく各所属を示しているとみられる。


「今この洞窟を占拠しているのはその旅団と言う奴等か。コイツらが元のここの主と言う訳ではないんだな?」


 その問いに彼女は首を振る。


「ああ……前回の群れは200人の兵士と30人の冒険者達の合同で完全に殲滅した。それに奴等には刺青は無い。そう報告書には書いてあった」


 前回殲滅されたゴブリン達の巣穴をここの旅団が占領したと言うことになる。


「じゃああの蟻……メルバラでしたっけ?アレは何処から来たんですか?」


 インはコテンッと首を傾げる。


 確かにそうなのだ。モンスターが露から誕生している訳ではない。地球と同じ様に生命サイクルがある。だからあの蟻どもも何処からか発生源がある筈。


「ねぇ……ふと思ったんだけど良い?」


 何かを思い付いた様におずおずとソフィアは手を挙げる。


「言ってみろ」


 女騎士はキッと睨み付けるが彼はそれを無視し続きを促す。


「あの、旅団ってゴブリンの数は多いんだよね?巣穴のゴブリンの数は分からないんだけど……狭くなかったのかなって」


 要するに彼女が言いたいのは巣穴のキャパシティの問題であった。


 成る程、言われてみれば旅団として旅していたのならばそれ相応の数はいる事になる。あの時、戦ったゴブリン達は優に百を越えている。あれが全てと言う訳ではない、必ず更に多いゴブリンどもが奥いる筈なのだ。


「なあ女騎士……前回の討伐で殺したゴブリンの数は?」


 嫌な予感がした。


「……確か100匹と少しだったと記憶している」


 足りない旅団が巣穴のキャパシティを越えているのだ。奴等は間違いなくこの巣穴を拡張している。側道を掘れる位の知能はある。ならば居住区を増やそうと言う頭も無いわけがない。


「蟻……メルバラか。まあどっちでも良い。アレの巣は何処に基本あるんだ?」


「……巣は地面の下にある。あのモンスターは基本的に地下で生活し獲物を獲るために地表に出ることがごく稀に有るようだが殆んどは地下だ。詳しくは知らん」


 蟻の巣は地下、ゴブリンの巣も地下。そしてゴブリン達は巣を拡張していた。そこから導き出される答えは……


「ゴブリンが巣を拡張していたら……メルバラの巣にかち合った。それしかねぇよなぁ……」


 ここは現在ゴブリンとメルバラの生存戦線の真っ直中だ。



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