七十四話
お待たせしました!今回は洞窟での戦闘会です。
冒険者ギルドの依頼を受けた彼等は一路、ゴブリンの元巣穴に赴いた。車で時間にして五時間程であったが、その間共に乗車した王国騎士のカーラはあっという間に過ぎ去る景色に目を回していた。
で、その件の元巣穴にたどり着く。そこは一見普通のほら穴であった。特に事前に説明された状況と変わっていない。
『これなら直ぐに帰れそうだ』
女騎士がボソリと呟きに彼も心の内に同意しながら内部に入って行く。しかしそれが大きな間違いだった。
蓋を開けて見れば、そこは地獄の様相を呈していだったのである。
そして物語は前話の冒頭へと戻る……
「リロード……マガジンが後二つ!」
地底に潜れば地上の静けさとはうって違って、狂騒に満ちていた。
「ソフィア、俺の背中のポーチに予備マガジンが二つ入ってる。これを使え!」
それはこの洞窟から消え去った筈であった、緑色で子供の様な体格でありながらその顔には醜悪奸邪が張り付いている小鬼……ゴブリン。
本日のメインアーム、HK416Cがフルオート射撃でその銃口から死を吐き続ける。四発に一発赤色の曳光弾が洞窟の奥へと消えていき誰かしらに命中する。
しかし止まらない、奴らは前方から緑の津波の様に此方にやって来ているのだ。着実に距離を詰められてる。同胞の屍を踏み越えて。
「マスター!そろそろバルカン砲の銃身が焼けそうです!」
対して後方はインが独力で支えていた。M61バルカン砲が正に鉄の嵐と言わんばかりに咆哮を上げ、守孝達が何とか防いでいる緑の津波の更に倍の物量を押し留めていた。
後方から来るのは暗闇の中で更に一層黒く塗り潰す様に洞窟内全てを多い尽くしていた。ガサガサッと耳障りな足音が洞窟内に響き渡る。
虫だ。後ろからやって来るのは体長30cmを越え、六本足で、頭には触角と大きく進化した顎。細い円筒形の体に腹部に針を持っている……この虫は地球では蟻と呼ばれている生物だ。
唯の蟻と侮る無かれ、体長30cmを越える昆虫の時点で驚異であるが、この蟻は更に針に毒を持っている。
蟻に毒?と思うだろうが、日本に住む蟻の殆んどは毒性が無いか弱い。しかし地球全体で見ると毒性が強い蟻が多く存在している。その毒性は強く雀蜂と同等とも更に強いとも言われている。彼等は元々が蜂と同じ仲間なのだから。
そんな蟻が鉄砲水の様に押し寄せてくる。前方のゴブリンが全てを押し流す津波であれば、後方の蟻は全てを呑み込む鉄砲水だ。
「焼けてもまだ撃てるから安心しろ赤熱してから教えろ!」
銃は火薬によって弾丸を放つ、その為にバレルは熱を帯びる。弾丸を撃ち続けると、その内バレルが真っ赤に赤熱してしまうのだ。そうなると銃は使えない。
(不味いな……)
今回完全に彼等は劣勢に立たされている。なんと言っても物量が桁違い。持っている弾丸よりも単純に敵の量が多いのだ。
想像していた数を遥かに越えていた。何時も同じ位のマガジン数に一応で持ってきていた追加の予備マガジンが今は有り難い存在だった。
「わ、私はまだ死ねんぞ!私にはやらなければならない事があるんだ!」
不安材料はもう一つあった。監視に来た女騎士カーラである。
正直、役に立ってない。これはただ単に交戦距離の違いなのだからまあいいだろう。銃と剣じゃどちらかが遠くの敵を屠れるかは明白だ。まあ色々グチグチと喚くのは鬱陶しいんだが。
くそ、この依頼を受けなければ良かった。そうすればこんな目にあわずに済んだのに。ああいや……その内こんな状況になっていたか……?
結構バカスカ勢いよく使っていたからなぁ。
「……ッ!マスター!右!」
彼は愚行を犯してしまった。戦闘の真っ只中で一番犯してはならない事の一つ。他の事を考え、目の前の戦闘に集中しない。それをしてしまった。
故に……土によって隠されていた側道から飛び出してくるゴブリンに反応できなかったのである。
「なっ……しまっ……!」
それでも鍛え抜かれた兵士としての本能は、何とか反撃しようとホルスターからグロックを抜こうとする。しかし間に合わない。
「GYAGYAAAGAAAAA!!!」
勢い良く飛び出したゴブリンは石斧を振り上げ、彼の頭に向かって今まさに振り下ろそうとして……
「ハアアアアァァッ!!」
彼に当たる寸前、ゴブリンの首にロングソードが突き刺さった!
「ハァハァ……しっかりしろ冒険者!お前達が要なんだ!」
ゴブリンは数秒もがいた後、だらりと息絶える。たが側道からは続々とゴブリンが躍り出てくる。
「良くやった女騎士!」
側道に向けてHK416Cを掃射しながら彼は叫んだ。この絶望的な状況に一つの光明がさした。
「私を女騎士と呼ぶではない!私にはカーラと……ひゃっ!?なに今の音!?」
彼女が抗議の声は彼が側道に投げ込まれた手榴弾の爆発に掻き消される。中々可愛らしい悲鳴を彼女は上げるが、彼はそれを無視して指示を飛ばす。
「イン、ソフィアこれより側道に突入する!順番はソフィア、女騎士、イン、俺だ」
更に側道に手榴弾を二つ投げ込み、爆発する。これで側道内のゴブリンどもは一掃されただろう。
「了解、先行くね!」
ソフィアは素早く側道内へと潜り込む、一人分の投射火力が減ってしまいゴブリンどもの圧力は更に増した。早くここから待避しないと、両方から圧殺されるのもそう遠くない。
「だから私を女騎士と呼ぶでは……って、うわあああぁぁぁっ!?」
「申し訳ありませんが早く行ってください」
女騎士が抗議の声を上げきる前にインが彼女を側道へと蹴りこんだ。側道は地下へと下っているため、女騎士は転がるように側道へと消えていった。
「おい……はしたないぞ」
「マスターの言動を鑑みればしょうがない事です」
何だかどちらとも会話の内容が噛み合ってない様ではあったが、修正する暇は無く彼等は撃ち続ける。
少しでも減らし此方にやって来る時間を稼ぐ。そうでもしないと側道に逃げ込んでも、直ぐに追い付かれてしまう。
「そろそろ俺達も入るぞテルミットを投げろ!」
彼はポーチから円筒形のワインレッドで塗装された手榴弾を取り出して、ゴブリン達の方に投げ込む。放物線を描き闇の中、蠢く緑の津波の中に埋もれた。
ゴブリン達は投げ込まれた当初それが何か分からなかった。分かる筈も無い。それが鉄をも溶かす炎を生み出すなど。
「Gyu……!!Gaaaaa!!??」
投擲されてから二秒後とてつもない熱量がゴブリン達の中から吹き上がる。それは燃焼温度四千度に迫る化学の炎だ。
鉄すら容易に溶かす炎はゴブリンどもを焼き殺す。同様の炎が後方でも上がった。
彼等が投げたのはTH3焼夷手榴弾であった。数秒間、四千度の炎を生み出す焼夷手榴弾の一種である。
ブスブスと生き物が燃える嫌な臭いが洞窟内を満たす。しかしゴブリンも、蟻も、彼等さえ気にしてない。気にする余裕が無い。
ゴブリン達は侵略者を屠るため、蟻達は餌を獲るため、守孝達は逃げるため、三者三様の理由で彼等は戦い続ける。
守孝達は更にテルミットを投げる。燃える内は銃弾を撃ち続け、消えたらまた投げる。
そして……
「頃合いだな、イン待避するぞ」
テルミットの灼熱に阻まれゴブリンも蟻も此方に来れずに居た。これを逃す守孝とインではない。
「了解です先行きますよ」
また一人側道の中へと消えて行く。残るは烏羽守孝ただ一人。ほんの少しの限られた時間で追撃されないようにブービートラップを仕掛ける。
「ここで俺を残して先に行けって言えればカッコいいんだがなぁ。まあ、それをする状況でもないしなっ……!」
テルミットの火が消えまた両方から軍勢が押し寄せてくる。HK416Cから放たれた弾丸が蟻を数匹倒すが、止まらない。たった一人の火力ではあっという間に呑み込まれるだろう。
彼も直に側道へと入る。すると中では先に行った者達が待っていた。仲間達はまだしも女騎士も待っているとは驚きだったがそんなことを気にする暇は無い。
「走れ奴等が来るぞ!」
その一声に彼等は弾かれたかの様に駆け始める。後方で爆発がした。彼等が設置していたクレイモアが起爆したのだ。恐らく数百個の鉄球によってその場はミンチになっているだろう。しかし奴等は来る。来ているのだ。
「こうなっては仕方ありません。マスター、側道を途中で崩させ潰します!」
ここで側道を潰せば奴等は追ってくる事はないだろう。しかし反面、此方の脱出路が潰される。
「よしやれ……いつのまに仕掛けたんだ?」
彼の判断は早かった。今追い付かれるより新しい道を探すほうが生き延びる可能性が高いと。そして気付いた。何時そんな仕掛けを仕掛けたのかと。
「走っている時にC4を少し落としときました」
彼女の手には起爆装置が握られていた。と言うよりも既に何時でも発破できる状態だった。
「……走れぇぇ!潰されるぞぉ!」
ここに来てまさかの味方最大の脅威がここぞとばかりに自己主張を始めて来るとは誰も想像出来なかった。
女騎士など何を言っているか分からないと言う顔をしている。やはり無知は罪とは良く言ったものだ(暴論)
「発破まで……起爆!」
「全員伏せろぉ!」
秒数を数えるまもなくノータイムで起爆された。




