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六十七話



 そう言うことで彼等は王都から一路、野盗どもが潜んでいる峠に出発することとなった。


 前回と同じように王都から徒歩で外に出てある程度進み人通りが少なくなったら[ピースメイカー]から車両、前回と同じハンヴィーを取り出し、乗り込んで出発した。


 因みにソフィアの様な獣人の扱いは物と同等であり人権は存在しない。


 そも人権と言う権利が生まれたのが地球では17世紀の終わり頃である。人権は資本主義と人民主義が深く関わってくるため、いまだ専制政治であるこの国、いやこの世界にはまだ存在しない。


 だが自然権。即ち人が生まれもって有している権利は勿論保有している。例えば健康である。生命を保持する等だ。


 この権利を獣人達はこの国に保証されていない。何故なら名目上彼等はこの国の国民ではないからだ。偶々王都に住み着いている人語を話す獣。その程度にしか認識していない。


 だから守孝達がソフィアを王都の外に出す時、番兵に変な目で見られはしたが何も言われなかった。これが人間の子供ならば直ぐに止められていただろう。


 彼らの認識では傷だらけの変な男とメイド服の少女が薄汚い犬を外に持ち出した。その程度なのであった。


 その事について守孝は思う所はあっても口には出さなかった。この地では彼は異邦人、ましてや異世界人だ。文化も文明の発展も違う。そんな地で己の思想だけで国を荒廃させる行為をするのは間違っていると彼は思っている。


 何も権力を持っていない守孝に出来る唯一の行為は武力しかないのだから。


 そしてこの問題は他者から兎や角言われて達成出来る問題ではない。国が世界が動かなければならないのは当たり前として個人の思想も変わっていかなければならない。


 勿論マルクスやヴィムの様な獣人に差別的な思考を持っていない者達は(一方は従業員。もう片方は患者としてだが)存在する。そう言う者達が増えていく事を彼は願うのみだ。


 彼らの認識が改められ獣人が大手を振って外を出歩けるのは数百年後になるだろう。そもそも人の事は言えないのだ。地球でもその問題は完全には解決されてないのだから。


 さて話が大幅に逸れてしまったので話を戻すとしよう。


 ハンヴィーを運転するのは守孝であった。助手席にはソフィアが、インは上部ハッチから身を乗り出して周囲の警戒とハンヴィーに据え付けられているM134"ミニガン"の操作を担当する。


 今回の装備はインはメイド服なのは当たり前として、他の二人は野戦装備と言える格好であった。


 銃器はメインウェポンにHK416、サイドアームは何時ものグロック19。マルチカムの迷彩服にプレートキャリアを身に付け各自HK416マガジンを六本、グロック19マガジンを三本マガジンポーチに収納されている。


  HK416にはホロサイトにサプレッサー、フォアグリップが追加装備として装着されていた。グロックの方は素早くホルスターから抜く為に何も追加では装着されていない。


 他にカラテルナイフを腰に着けハンドグレネードにフラッシュバン、スモークグレネードも持ってきていた。


 こんな装備中々お目に掛かれる物じゃない。ましてや自らが使うなんてな。彼はそう思った。こんな装備を使えるのは特殊部隊ぐらいだからだ。


 改めて思うと前は一度か二度使った程度の高額兵器を無制限で何も心配することなく使えると言う状況は、不謹慎ではあるが正直楽しいと言う気持ちがある。それは新しく貰った玩具を好き勝手にできる少年の気持ちにそれは似ているのだった。


「ねぇ師匠……あとどれぐらいで着くの?」


 ふと運転中にソフィアが聞いてきた。走行中なのだがチラリと横を見るとその表情は不安と緊張が入り混ざっている。


「そうだな……もう間もなくって所だ。ソフィア、何もそんなに不安がる事はない今までの鍛練を思い出せ」


 彼の言葉は今までとは違い甘く優しげだった。始めての実戦の時を思い出す、彼もこんな感じだった。


「でも……やっぱり怖いよ」


 優しげな言葉を掛けられ少しだが落ち着きを取り戻したソフィアであったが、尚も不安は残る。これから人生の岐路に差し掛かろうとしているのだ無理もない。


 いや既に彼女は自ら進む道は選んでいるのだ。


「甘ったれるなソフィアお前自身が選んだのだ。殺人と言う行為はお前が選んだ道には必ず存在する。その初めてが遅いか早いかだけだ」


 だからこそ今度の守孝は厳しく罵る様な声色だった。そんな覚悟でお前はそれを持ちたいのかと叱るように。


「まぁまぁマスター誰だって最初は怖いんですよ。ソフィアちゃん大丈夫です。危険な事からはマスターと私が守りますからね」


 上部ハッチから降りたインがなだめる様に優しげな声色で言う。彼も勿論そうするつもりだが、何もかも全てはソフィア自身の心の持ちようなのだ。


「……聞き忘れてたんだんだけどインってさ何者なの?」


 そうえばとすっかり聞き忘れていた疑問は彼女はインに投げ掛ける。言って良いのだろうかとインは己の主人の顔色の伺うと、彼はウンと頷く。


「えっとですねソフィアちゃん。私は自動人形なんです」


「…………なんて?」


 ちょっと何を言ってるのか分からないと彼女は首を傾げる。


「私は自動人形のイン。名前は守孝様に名付けて貰いました。そうですね……分かりやすい言葉で言うのなら私はロボットなのです」


 ニッコリとインは笑う。ただぼうっと話を聞いていたソフィアは数秒遅れて、この目の前にいる月光の様な美少女が話した意味を理解した。


 その後に何が起こったのかは話す迄もないだろう。


 そんなこんなでハンヴィーは途中休憩を挟みながらも目的地までやってきたのだった。



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