六話
場所は打って変わってパックル郊外の平原である。何で此処に来ていると言うと、冒険者ギルドの依頼を受けたからだ。
依頼内容はパックル周辺に生息しているモンスターの討伐。報酬は銀貨二枚だ。依頼はパックルの街から常時出されているため、冒険者ギルドに登録して間もない初心者によく斡旋されると聞いている。
銀貨二枚と言われてもピンと来ないかも知れないが、その事は後で話すことにしよう。
さて、討伐の依頼内容だが、モンスターを最低四匹は倒せとの事だ。多く倒した場合は報酬に上乗せされる。倒したモンスターについては、大抵の冒険者が冒険者ギルドへ買い取ってもらう様だ。買い取られたモンスターは肉が食用になったり、毛皮や鱗が防具や装飾品等になるらしい。
モンスターの肉か……どんな味がするのだろう?今日の依頼で報酬を得ることができたら食べてみたいな。そう思うと沸々とやる気も出てくる。そう言えば、今日の昼にこの世界に来てから何も食べて無いか……夕飯は大盛りで食おう。
そんな決意を胸に、既に三十を超えたオッサンながらやる気満々な俺は獲物となるモンスターを探す。
探すこと十分程で目的のモンスターに出会えた。
「あれか、フィーネさんに聞いた通りだな」
視線の先には、角が生えたウサギの様な生物が三匹たむろっていた。遠目で分からないが体長は30センチ程だと思う。距離は約200メートル。早速仕留めるとしよう。
肩に吊り下げていたAKMを手に取り構える。セレクターはセミオートになっている。倍率三倍ほどの低倍率スコープだが、近~中距離だとこれぐらいが丁度良い。
息を一つ吸い息を止める。しっかり目標をレティクルに納め、引き金を引いた。
静かな平原に甲高い音が響き渡った。
音速を越える速度で目標に向かう鉛弾。その弾丸は一秒も掛からず、ウサギモドキの命を奪った。
いきなり仲間の一匹が死んだウサギ達は一匹が逃げ、もう一匹はその場だ固まってしまった。いきなりの出来事でフリーズしてしまった様だ。人間にも良くある。
固まっているウサギに銃弾を叩き込み、続け様に逃げたウサギにも銃口を向ける。角ウサギは意外と足が速く、僅か数秒で既に50メートルも離れた場所を懸命に走っていた。だがそこは有効射程内。
逃げる角ウサギに銃撃を加えるが外してしまう。再度、見越しを修正し銃撃を加えると今度は上手く当たり、ウサギの体は何かにぶつかる様に倒れた。
倒した角ウサギを回収する。三匹で合計30~40キロと言った所だろうか、意外と重い。リュックと共に置いてある荷車にウサギを乗せる。
荷車はギルドで貸し出しをしていて、今回はそれを使わせて貰っている。
さて、三匹獲ったからからノルマ残り一匹!まだ弾には余裕が有るし、どんどん獲っていこう。
そこからは作業の様に正式名ホルンラビット……まあ、俺の中での呼び方は角ウサギのままなのだが……を穫り続けた……気がつけば荷車の角ウサギの合計は十匹にもなっていた。
マガジンを一つ使い切ったので、重くなった荷車を引っ張りパックルの街に向かって帰ることにする。
しかし十匹獲るのにマガジンを一つ使い切るとは腕が落ちたな。勿論狩猟用のライフルではないので精度の問題はあるが、もう少し射撃の腕は良かった筈だ。これは訓練が必要だな。
そんな事を考えながら街に向かっていると、何かの視線……殺気に近いモノを感じた。近くの草むらからだ。
直ぐに荷車から手を離し、AKMを構える。そして姿勢を低くし荷車から離れた。
何かがソロリと寄って来る音がする。それも複数だ。
音がした方にAKMの銃口を向ける。
何かがいきなり走りだし向かってくる!
「くそ!」
AKMの銃弾を浴びせるが、”何か”に弾が命中した様子はない!
何かが大きく跳躍する!跳躍の力が加わった体重によって俺は地面組伏せられた。首めがけて突き立てられようとする何かの牙をAKMから咄嗟に離した両手で何とか防ぐ!この瞬間、”敵”の正体が判明した。
狼だ。”敵”は狼の群れだった。きっと、獲った角ウサギの血臭を追ってきたのだ。
「GaRuuuuu!」
狼はもがくが、俺は両手で狼の顎を必死に掴んだまま外されまいと踏ん張り続ける。ここで拘束が解けようものなら、牙でズタズタに引き裂かれるだろう。早く何とかしなければならない、敵の狼はこいつ一匹だけではないのだ。
流石にもがき疲れたのか、一瞬狼の動きが遅くなる。今だ!
俺は両腕に自らが出しうる最大の力を込めると、一気に狼の首をへし折った!
ボキッと言う鈍い音と共に首をあらぬ方向に向けた狼は、ネジが切れたかの様に俺の上へとドサリと崩れ落ちる。俺はそこから這い出すが、手を離したAKMは手が届かない位置にあった。この状況……隙を見せたら殺られる。
レッグホルスターからグロック19を抜き出す。接近戦は苦手だが、この際使える物は全て使う。グロックを構えながら、空いている左手で破片手榴弾を取り出し、グロックを握ったままの右手の中指でピンを抜く。
俺はすかさず手榴弾を”敵”の気配を感じでいた場所に向かって放り投げた。キッカリ3秒後、轟音と共に爆発が起き、白い毛皮が吹き飛ぶ。
そして!
「Gyau!?」
派手な手榴弾の轟音に驚いたのか、最後の一匹が声を上げた。それは俺の真後ろだった。
直ぐ様振り向き、グロックをマガジン内の弾丸が切れるまで連射する!
「Gya……ru………!」
流石に異世界と言えど、9ミリを何発も食らって無事とはいかないらしく、狼は既に虫の息だった。グロックのマガジンを交換し、頭に照準を定める。これ以上苦しませる事もない。
「お前らは強かったよ。じゃあな」
草原に一発の乾いた銃声が響いた。




