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六十話



「なんで……なんでよりにもよってその選択をするんだ。お前にはもっと他の選択があるだろう」


 守孝は怒りが滲む声色でまるで独白の様にポツリと言った。


「俺は子供に銃を持たせたくない、子供は銃を持っちゃいけないんだ。こんなくそったれな物を持つのは大人の役目で、子供は重荷を背負わせたくない。それなのに何故だ……!」


 彼は怒りを露にし彼女に詰め寄る。表情は地獄の悪鬼すら逃げ出す様で。だがソフィアは身動ぎもせず、一心に彼を見ていた。


 インは何も言わず彼の後ろで黙ったままだ。口を出す権利を彼女は使おうとせず。ただ己の主人の答えを待つ。


「なんで態々自ら太陽が光で照らされてる道から、薄汚れた影の道に行こうとする。あれか?復讐でもしたいのか……!?」


「違う!!」


 彼が言った()()という言葉に彼女は絶対にありえないと言わんばかりに大声で否定した。その行動に彼は意外だと思いならばと意地の悪い質問をする。


「本当か、本当にそうのか?己の心に嘘をつかず『私は恨んでない』と言えるのか?聖人君子の様に許せると言えるのか?復讐で武器を持つものは、己もまた復讐という名の刃が己の喉に突き立てられる事になるぞ……!」


 底冷えする様な口調で彼は大仰な手振りを加えながら彼女に迫る。まるで自分が見てきたかの様に或いは、己自信の事を言っているのか……?


 真に迫る彼の口調は彼女を恐怖させるには十分であった。彼女の瑠璃の様な目には涙が滲み出している。


 だがその目の奥はまだ炎の様な輝きが瞬きが残っていおり、彼女は目を瞑り深く考える。彼等も彼女の答えを待つべく何も喋らない。


 待つこと数分間彼女は口を開く。


「確かには僕はアイツ等を許してない。アイツ等と出会ったら僕は私が何をするか想像できないし仮に出来たとしても止めれないと思う」


 成る程当たり前だと彼は思う。あんなことをされて腸が煮え滾らない者は居ない。


「でも……あれは僕が弱かったせいだ。僕が弱くなければああは為らなかった。だから僕は強くなりたい」


 この世界で弱者というのはそれだけで食い物にされる弱肉強食社会、だから弱者で居たくない。


「つまりは強者になりたいという理由か。そんな理由では銃は渡せん」


 やれやれといった風に彼は立ち上り部屋から出ようとする。それを彼女は必死に止めようとした。


「待って待ってよ!モリタカ!お願いもう嫌なんだ!誰かに何かを獲られるのも、受け身で誰かに救ってもらうのも、誰かの食い物にされるのももう沢山だ!だからお願い……私を見捨てないで」


 彼女は大粒の涙を溢しながら彼に縋り付く。まるで見捨てられた仔犬の様だ。


 確かにその例えは間違いではないだろう。両親は死に自らも死ぬと同時に一人でこの世界に来た。知らない街に知らない場所、身を寄せる場所は無く、身を預けれる人居ない。


 正真正銘の一人ぼっち。


 其所に現れた人種は違うが同じ地球に暮らしていた同胞。しかも顔見知りで自身の死を見届けた人物でもある。離れたくないと思うのは人の性なのだろう。


 でもだからこそ。


「……もう一度答えろ。お前の目の前にお前をいたぶった者達が居たとする。その時お前はどうしたい?復讐はな……楽しいぞ。気分もスッとするし、何より達成感した時の快感は一生心に残る……お前の答えはなんだ?」




 打って変わって今度はまるで優しく語りかける様な口調であった。まるで悪魔の囁きの様に彼女の心を絆ににかかる。


()はアイツ等を……殺したい殺したくて堪らない」


 やはりかと彼はそう思った。あんなことをされたのだそう簡単に許せる訳がないのだ。


「それじゃあ……」


「でも……!」


 教える事は出来ない。と拒否しようとする前に彼女は彼を遮る。


「でも……僕はその時になったら必死に殺意を押し留める。僕の欲しい力は、僕と僕の周りの人を守る力……復讐に使う物じゃない!」


 その目に迷いは無かった。瑠璃色に輝く目の奥には炎が見えた様な気が彼はした。


「……良いんじゃないですかマスター。ソフィアちゃんに銃の扱いを教えても」


 その時、今回一度も話さずただ己の主人と獣人の少女の会話を見ていたインが彼女の側につく。


「何故だイン答えろ」


 彼は彼女を睨み付けた。その言葉は短いながらも明らかな怒りが滲み出ている。彼女はそれに臆せず彼の目を見た。


「私達にはソフィアちゃんに対して責任があります。ソフィアちゃんを死なせないという責任が。その責任を果たすためにはソフィアちゃん自身が強くなる必要があります」


 確かに彼女が言ってることには一理ある。助けた後は他人に任して自分達は知らぬ存ぜぬを決め込む。それを自己満足と呼ばずなんと呼ぶ?


 それならばまだ見捨てる方がまだ己の気持ちに正直だ。一時の感情で助け、助けた後は面倒を見ずに捨てる。これこそ傲慢だ。


「……っ!お前は銃の恐ろしさを知ってるはずだ何故取ろうとする!」


 その声は完全に怒号に変わっていた。だが彼女はそれに臆せず彼の目の前に立つ。


「私は銃の恐ろしさを知っている。だって僕はそれに殺されたからね。それでも僕は銃の頼もしさを強さを知ってる。僕の様な非力な者にはあの力しかないんだ!」


 ああくそ。彼女は覚悟を持つ目をしている。もうどんな事を言っても彼女は意思を変えることは無い。その目を彼は幾度も見てきた。


「くそったれが!ああ分かったよ!()()()()!お前に生きる術を戦い方を銃の扱い方を教えてやる!」


 その言葉に彼女の顔には安堵と嬉しさが入り交じる。


「ありがとうモリタカ!」


 そう言って頭を下げようとする彼女の頭を彼は腕力で押し止める。ギリギリと音を立てているのは空耳では無いだろう。


「これだけは言っておく。俺の下に付いて学ぶのなら俺の命令は絶対に守ってもらう。それと呼び捨ては良いとしてせめて丁寧語を使え。分かったな?」


 彼女は刻々と頷く。だがその行為に気が食わないのか彼はまるで新兵に対する訓練軍曹の様な振る舞いをする。


「なに頭を上下している?返事は!返事ぃ!!」


 彼女はその気迫に押され大声で返答する。


「は、はい!分かりました!」


 その了解の声を聞き、ふんっと彼は手を彼女の頭から離す。はぁと彼は溜め息を付くと彼女の頭を撫でる。今度はまるで父親の様に。


「先ずは体を休めろ。訓練や実戦の前に体が動かないと何も出来ん」


 彼はそれだけ言うと部屋から出ていった。


「それじゃあソフィアちゃん。一緒に頑張っていきましょうね」


 彼女の手を握り微笑むと彼の後に続き部屋を後にする。残された彼女はまだ昼を過ぎた頃だったが、これから自分自身の師匠となる人物の言い付けを守る為にベットに潜り込んだ。


「強くなろう僕は僕でいたい……そして私、せめていい夢を見れます様に」


 彼女はスゥスゥと寝息をたて始めた。部屋の外で彼女の独白を聞いた元傭兵とその従者の存在を知らずに。



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