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五十四話



 その咆哮する姿を守孝とインはつぶさに観察していたその姿は正に威風堂々としており、この渓流の王者に相応しい立ち振舞いである。



 しかしそれは彼等には関係ない。



「標的を発見。立ち止まり、立ち上がる。ヘッドショットエイム」


 インの無機質な言葉を聞きながら守孝はアンチマテリアルライフルで標的に定める。それは先程彼女が使用していたGM6 Lynxであった。


「距離800……風速西から0.8m/s……」


 風速、距離等の調整を施し後は彼等が引き金を引くだけ。彼は肺にある空気を全て外に吐き出し息を止めた。呼吸による銃のブレを極限まで下げる為だ。


 上部に据え付けされているスコープのレティクルを熊の頭部に合わせ、引き金をゆっくりと引く。引き金には遊びが存在し、思いっきり引いてしまうと照準がぶれる。


 引き金は後退しあるところで止まる遊びが終わったのだ。


 灰染熊は今も悠々と己の勝利を疑わずにそこに立ち続けている。これからどうなるかも知らずに。


 彼は照準を更に再調整し引き金に掛かる人差し指に力を込め……引いた。


 その瞬間とてつもない衝撃と音が渓流内に響き渡った。


 その銃声は二つ。


 ほぼ同じだが同時では無い。ほんの少し秒数にすれば1秒も満たないのだが遅れている。


 誰が撃ったのか?勿論インだ。守孝の隣で同様に対物ライフルを構え、同様に灰染熊に狙いを定めていたのだ。


 狙い澄まされた音速を遥かに越える二つの弾丸はまるでレールに乗っているのかように一直線に灰染熊の額へと進む。


 そして……


「先ずは初弾……」


 彼女その言葉と同時に渓流内にまたしてもガーンッ!という金属音が響き渡った。またしても初弾は弾かれたのだ。弾かれた12.7×99mm弾は灰染熊の額から前頭部の皮や肉を空中に巻き上げながら弾丸は明後日の方向に飛んで行く。


 だがしかし彼等の本命は別、この次の弾丸だ。


 第二の矢たるインが放った弾丸は寸分狂わず先程彼が放った弾丸の後ろ通っていた。それはさながら魔弾の射手が放つ悪魔が造りし弾丸の様。


「そして第二撃……!」


 12.7×99mm弾は第一撃目を喰らい身動きが出来ない灰染熊の頭蓋骨露出した額に命中し……灰染熊は叫び声もなく倒れた。


 「……命中。貫徹しましたね」


 守孝は高倍率スコープから灰染熊を観察する。後ろに崩れる様に倒れた灰染熊はピクリともしない。死んだ……死んだのだ。


 一度ならず二度までも対物ライフルを防ぎきった"灰染熊"ホーリビリッス。しかし今はもう物言わない骸に成り果てた。


 呆気ない最後ではある。だが生物の死など大抵そう言うものだ。


「ふぅ……終わったな」


 彼は緊張が切れたのか大きく息をつく。成功するとは思っていたが不確定要素が多すぎるためどうなるか分からなかった。


「上手くいって良かったですねマスター」


 そう言う彼女も嬉しそうに笑っている。これでやっと終わるのだ王都に来て直後の一連の騒動も。


「それにしても凄いですねこのNM140は」


 そういって彼女は弾倉から先端に緑色と白色が塗られている12.7×99mm弾を取り出した。この弾丸が灰染熊の額を穿ったのだ。


 この弾丸の名前はMN140。これはノルウェー軍での名称でありアメリカ軍ではMk.211 Mod 0。この弾丸を生産、販売しているノルウェーのNAMMO社での正式名称はRaufoss Mk 211。HEIAPと呼ばれる種類の弾丸だ。


 HEIAPとは"High Explosive Incendiary/Armor Piercing Ammunition"の頭文字をとったもので直訳すると高性能徹甲炸裂焼夷弾となる。


 簡単に説明すれば、徹甲弾、榴弾、焼夷弾の三つの機能を持った弾頭である。主な標的は対装甲用。


 NM140は弾芯にタングステンと呼ばれる高い硬度を持つ重金属を用い、高い装甲貫通力を持つ。さらに貫通後に内蔵した爆薬が炸裂して被害を拡大させる事ができるのだ。



 さて今回彼等の作戦を簡単に説明するとしよう……と言ってもやってる事は至ってシンプル。


 12.7×99mm弾を使用するアンチマテリアルライフルでの連続精密射撃である。


 まず初撃である守孝が放った弾丸は最初にインが狙撃した時に使用した通常弾であった。効かないと分かってる筈の通常弾による狙撃。これは灰染熊の表皮、毛皮に厚い脂肪と肉を削ぎ、灰染熊の表皮などによって弾丸を反らしている可能性を無くす為である。


 そしてインの放った第二撃これが本命。露出した頭蓋骨に対してMN140で狙撃。


 先程も説明したがMN140は本来の用途を対装甲用に位置付けられている。たとえ異世界のモンスターでもあくまで生き物。飽くなき殺戮の末に産み出された魔弾に抜けない道理はなかった。


 露出した頭蓋骨をタングステン弾芯が穿ち。貫通後、内蔵されている高性能爆薬が爆発し灰染熊の脳を破壊する。これで死なない存在はそうそう居ない。と言うか居てたまるか。


 これは簡単な話だ。一撃で殺せない相手に対して二撃を与えたまでの話。ただその二撃目が、異世界の異国が造りし魔弾だっただけの話なのだ。



「さあイン回収に行くぞ」


彼はそう言うとその場を片付けを終えて立ち上がっていた。もう既に目的は達成している長居は無用だ。


「あ、ちょっとマスター待ってくださいよ~」


 既に歩き始めている主人に遅れること数泊。彼女も立ち上り後ろに付く。彼等は渓流に向かうために森の中に消えていった。













「……そうえばこの熊をどうやって運ぶんですか?」


「……川に流すか」



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