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四十九話



 大凡の行動を決めた彼等は直ぐ様、 出発の準備に取り掛かった。守孝とインはふた手に分かれ、守孝がギルドに行き依頼の受注、インが食料等の必需品の調達を行う手筈だ。


 幸いにも狩猟区"ローシェン渓谷"でのホーリビリッス討伐の依頼があり彼はそれを受けた。ギルドの受付は何処か必死そうな、数日前に一悶着起こした後は一度もギルドに足を運ばなかった男を少し不審に見るが、訳も知らないし来たばかりの新人に興味も無いのかそのまま依頼を発行した。


 そして今も意識が戻られないソフィヤはマルクスの家で預かる事となり、ヴィムはそのまま彼女の容態が悪化しない様に見てくれる事となった。


 出発する前、守孝はマルクスを訪ねていた。ソフィヤの事を今一度頼み、ある事をマルクスに依頼する為だ。


「あの獣人の子の事を調べてほしい?……つまりは犯人探しをしてほしいと言うことか」


 急ぎだからと言うことで店先に態々出て着てくれるマルクス。彼にも迷惑をかけていると守孝は申し訳ないと思う。


「まあ、そう言うことだ」


「守孝の頼みなら調べておこう。だが、何故だ?復讐でもする気か?」


 その問いに彼は首を振った。


「それは俺の仕事じゃないあくまで調べておくだけ、復讐するかどうかは彼女が決める事だ」


 今、実現可能な事は全て実行し、後は彼等が薬の材料をとってくるだけ。彼等は王都西の城門に集合し出発した。


 多くの人だかりや門の内や外へと行き交う中、彼等は徒歩で外へと出る。門外に出るときに番兵に行く先を答えると馬車で一週間ほど掛かる狩猟区なのを聞き奇妙な目をするが……彼は新人の冒険者は基本的に貧乏なのを知ってるので、単に所持金が少ない冒険者なのだなと思うぐらいだった。


 彼等は城門を出ると三十分程歩き人や馬車等が居ないかを確認すると守孝はピース・メイカーからある車両を取り出す。


 彼が取りだしたのは四人から六人程乗れるだろう車だった。名称はM1151、一般的にハンヴィーと言われる四輪駆動車だった。


 ハンヴィーはAMゼネラルが開発した四輪駆動車であり現在世界各国で使用されている。優れた走行性能と世界中の過酷な環境でも使用できる耐久性を備えている。彼等が今回使用するM1151はハンヴィーの装甲強化型である。


 彼は本当はこう言った目立つ物を使いたくは無い。馬もいない荷車単体で動いている様に見える変わった物など直ぐに噂になるものだ。銃の様な変わっていてもまだ武器に見える。これはボウガンの様な近いものがあるからだ。しかし車両となるとそうもいかない。長距離を短時間で行ける物などがあると発覚すれば軍事的、経済的にその影響は計り知れない。


 しかし今はそうとも言ってられない事態であり、彼にも負い目があった。少し考えれば分かることなのだ。貧民窟の貧乏な少女、その少女が始めて自分の力で手に入れた報酬。その額は貧民窟では大金、浮かれて隙が出来るのは当たり前だ。


 慢心があった……物語でしか知らない異世界に来て、好きなことをやっている自覚はある。しかし既にこの世界は自分にとって"幻想"ではなく"現実"なのだ。その事を彼は思いしった。


 彼等は素早く荷物をハンヴィーに積み込む出発した。馬車で一週間掛かる所でも車ではぶっ続けで走らせたら一日、休憩などを考えると二日で行ける。彼女の事を考えれば速い方が良い。


「待ってろよ速く助けてやるからな」


 彼等を乗せたハンヴィーは人知れず道を駆けていった。









 ハンヴィーは快調に狩猟区迄の道を駆けていった。流石は軍用車といったところであろうか、舗装されていない道をスイスイと進んで行く。


 道程は既に六割を過ぎところであるが、既に日は沈み始めていた。明日の朝に出発すれば目的地に昼には着くので今日はもう休息を取ることとなった。


 車のライトを頼りに進めば夜どうし進む事も出来たのだが、地形を知らない所での夜間行軍は危険だ。暗闇だと崖があっても気付けないしぽっかりと穴が空いているかも知れない。ここで急いでも仕方がないのだ。

 

 彼等は周囲から薪となる物を集めると燃やし暖を取り、守孝とインは手早く食事を終える。


 それ以降はただ眠るだけなのだが、まだ日が落ちて数時間も経っていない。彼は焚き火で暖まりながら星を見ていた。


 どんな時でも星々は変わらず輝いていた。地上の事を知りも知らずに。双子の様に肩を並べる月は前に見た時よりも欠け三日月に……やはり夜空は美しい。どんな時でも……


「マスター少しよろしいでしょうか?」


 彼が無言で空を見ていると。インが改まった様子で対面するかのように座った。


「どうしたイン。そんな改まって」


 彼女は真面目な時や誰かが居る時と彼と二人きりの時では口調が違う。彼女自信が意識的、若しくは無意識にそうやってるのかは知らないが。


「お聞きしたい事があります。"死ぬ"とは"殺す"とは……なんなんでしょうか?」


「中々難しい事を聞くな……お前が聞きたい問いは千差万別あるものだ。そうだな……お前が聞きたいことは"何故、人間は死ぬのか。何故人は殺し会うのか"……違うか?」


 その言葉にインは正にそれだと頷いた。それは霧の中を歩く少女の様。


「何故死ぬのか、そんなものは簡単。それは俺らが生きてるからだ。これは生物学上として生きとし生きるものは須らく死ぬ。それは逃れる事が出来ない必然とした決定事項なんだよ」


 死は最後にやって来るもの。それに逃れる術は無い。だからこそ生きるものは全力で今を生きている。それは権利でもあり義務。


「何故死ぬのか、それは分かりました。確かに人間も生物なんですから死ぬのは当たり前ですもんね。じゃあ何故同種族である人間同士で殺し会うんですか?」


 彼は焚き火に薪を入れる。パチパチと音を立て薪は燃え上がる。


「何故殺し会うか……そんなの俺が知りたいよ」


「マスター何か言いましたか?」


 消え入る様な小さな声、その声はインには届かず風によって消え去った。


「なんでも無い。それで何故殺し会うか……か。それは時と場合によって変わってくる。イン、お前も確か一人殺った筈だ。状況とその時思ったことは?」


 彼女はいつの間にか彼の隣に座っていた。


「マルクスさんの娘であるミシェルちゃんを救ける時、敵対組織の監視者を消音銃で射殺しました。思ったこと……特にありません。するべきことをしただけでしたから」


「そうだあの時、俺とお前はミシェル救出するために動いていた。邪魔者は排除すべきものだった。」


 彼は事も無げに話を続けていたが内心、彼女に驚嘆していた。人を殺して何も思わない人などいない。彼など最初に人を殺害した時、任務後に2~3日は寝込み食欲が無かった程だった。改めて彼女は人間ではないとそう思う。


「目線を変えよう。今回の一件であるソフィヤをあんな風にした奴等をお前はどうしたい?」


 彼女は一瞬全ての動作が止まったかと思うと直ぐ様話始めた。


「……どうしたいんでしょう?確かにソフィヤちゃんをああした人達には怒りを覚えています。しかしそれだけです、相手に何かをしようとは思えません」


「なら俺がそいつらを"撃て撃ち殺せ"と言ったらどうする?」


 その言葉に先程とはうって変わって彼女は即座に反応した。


「撃ち殺します。マスターの命令ですから」


 フムと守孝は彼女を一瞥すると目線を落とした。つまりは命令されたら動く、正に人形だ。今思い返せば彼女は自らの意思によって動いた事が無い。いや、確かに自らしたい事も行ってはいたが、先ずは彼に了承をとっていた。


 では、と彼は思いついた事を聞いてみた。


「じゃあイン。もし俺が……マルクス一家を、いやマルクス商会の全員殺せと言ったらどうするんだ?」


 主人からの唐突なあり得ない質問に彼女は狼狽えた。


「……嫌です」


 彼女は小さな……蛍の光の様な小さな声で答えた。


「ほう……何故だ?」


「だって……マルクスさん、奥さんのミリィさん、娘さんのミシェルちゃんも商会の皆さん全員すごくいい人達なんですよ!それを殺すなんて……!」


 彼の言葉に抗議するかの様に彼女は叫んだ。それを見た彼は満足そうに頷く。


「それで良いんだ。イン、命令されたからってそれが全て正しいなんて思うな疑え。命令されてただ殺す、それはもう唯の機械だ」


「ですが私は機械で……」


 寂しそうにポツリと話す彼女の頭を撫で、彼女の額に己の額を当てた。唇が当たりそうな距離、彼女の目の中には一つの星空があった。


「俺はお前を機械扱いしない、俺は一人の少女"イン"として扱う。インはインがしたい事を、成すべき事をしろ」


 彼女から離れると彼女は名残惜しそうな顔をしたが、その表情も直ぐに消えた。


「分かりましたマイマスターいえ守孝様。改めて私は貴方に忠誠を誓います」


 何か、いや大いに間違っていると彼は思ったが、彼女が満足そうだ。これで何か言うのは野暮と言うものだろう。


「さて、話はもう終わりだ。そろそろ明日に備えて眠るとしよう」


 彼はそう言うと自分の分と彼女の分の寝具を取りだし、地面に敷く。


「あ、待ってくださいマスター。まだ質問に答えてもらってないですよ」


「じゃあそれはお前の宿題だ。少し考えてみろ」


 彼はそう言うと彼女に毛布を投げる。彼女はそれを難なくキャッチした。


「分かりました考えてみます。ではマスター私が火の番と寝ずの番をしますので御休みください。マスターが私を一人の女性扱いして下さいますのはうれしい限りですが、それでも私は貴方の自動人形なのですから」


 彼女は華やかに笑った。
















 結局、彼女に言い負けてしまい彼は毛布に包まった。しかし中々寝付けるものではない。何度か寝返りを打ったりして10分程たった時だろうか、すぐ近く具体的に言うとずく横に気配を感じた。インだった。


「マスター寝てますか?」


 小さくボソッと聞こえた声、それに反応しようと思ったが、もうそろそろ眠りそうでウトウトと船を漕ぎだしそうだった為にスルーした。


「寝てるんですね……」


彼の横に座るイン。彼女は一回、回りを見渡し誰も見てないのを確認し、元々人っ子一人いない平原の中だから居るわけないのだが……彼の頭を撫でた。


「うふふ……マスター私は貴方の従僕になれて幸せです。これからもどうぞ良しなに」


 彼女は彼に己の唇を近づけそして……



最後はまあ、読者の皆様のご想像にお任せします!

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