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四十四話

今回は少し少なめ(当社比)



「さて、マスター今日はどうしますか?」


 そう目をキラキラしながらインは切り出した。時効は朝、場所は彼等が寝泊まりしている宿屋併設の酒場である。


 朝と言いつつ酒場は溢れかえっていた。昨日泊まっていた者達や、今朝王都に着いた者達。食事をする理由は色々だ。


「そうだな……昨日はあの件で徹夜した疲れか、一日寝てたからな」


 パンを食べコップから水を飲んだ守孝は首を揉む様に叩いた。


 そう、あの[マルクス商会]と[クリーズ商会]との間にあった、[マルクス商会]店主マルクスの娘ミシェル誘拐事件。そして報復である[クリーズ商会]店主クリーズ邸襲撃事件から二日ほど時は経っていた。


 無事に仕事を終わらせた守孝達はマルクスに礼を言われると、その足で宿屋へと帰り眠ってしまった。守孝は限界であった。一日中王都内を走り回り、徹夜で仕事を完遂させる。彼はクタクタだった。


 勿論彼が現役の時は二徹三徹は当たり前だった。しかしその体は既に三十路が見え、体力錬成をしていると言っても現役時代よりは体力は落ちていた……そしてブランクもある。もう少し速く動けた……そう思う場面が幾つかあったのだ。


 そんな己の主人とは違いインは対照的に元気であった。流石は銀髪美少女メイド自動人形(自称)と言えよう。


「うーむ、流石に仕事をする気にはなれんしな……」


 彼はそう言うとテーブルに置かれているカリカリに焼かれたベーコンを食べる。流石にそれは同意と言う風に彼女も頷いた。


 そもそも彼等が王都に来た理由は前に倒した赤竜の素材売却の為だった。その為彼等の口座には一年ならのんびりと暮らせるだけの貯蓄がある。と言っても彼はのんびりと暮らす気は無いだろう。


 ……一度飛び立った鴉は羽を休める事はあってもそこに定住する事は無いのだから。


「……では!今日はのんびりとするで良いですね!では!では!マスターどうしますか!」


 そう言うインはやけに嬉しそうで。目は爛々と輝き、足はテーブルの下で綺麗なテンポ振られていた。


「お、おう。どうしようか?」


 その喜び具合いに彼は圧倒されてしまう。そう、彼女は待っているのだ。彼の口から『デートでもするか』と言う言葉が出るのを。


「……あっ」


「どうしましたマスター?」


 しかしそんな事を露知らない守孝は今日の予定を首をひねりながら考えていると、一つ約束を思い出した。


 それをインは嬉しそうに聞いてくるが残念がながら彼女が思っていた回答とは違っていた。


「いや、北地区の嬢ちゃんとの約束を思い出してな」


「嬢ちゃん……ああソフィヤちゃんの事ですか」


 ソフィヤとは今日から二日前、マルクスの娘であるミシェル救出時に、北地区及び貧民窟の案内をしてくれた獣人の少女である。


 貧民窟でミシェルが囚われている場所を探す数時間の間の事だったが二人は彼女と仲良くなり、数日後に食事をする約束をしていたのだ。


「あ、あ~そう言う約束もありましたね……」


 予想と違った彼の回答にテンションが急降下の彼女は、不満そうに答えた。


「さっきからなんだよお前は……あっそう言うことか」


 テンションMAXだったりしたとたんテンションが急降下したインを不審に思っていた彼は何事かと思い、己の言動を過去へと振り返り、そして思い出した。


「お前な~デートしたいならそう言えよ」


「ふぇ!?な、何を言ってるんですかま、マスター!?わ、私はそんな事思ってませんよ!?」


 そんな端から見てももろ分かりの狼狽の仕方に、守孝は苦笑いをしながらインは見ていた。


(もげろ……!)


(もげちまえ……!)


(爆ぜろ……!)


(あの男……中々やるな……!)


(あんな時が私達にもあったわね~)


 朝っぱらから美少女とおっさんのイチャイチャを見せられた酒場の客達は心の中で怨嗟の声が響く……一部既婚者は暖かい目で二人を見ていたが……。


「こ、コホン!それではマスター!きょ、今日は結局どうするんですか!?」


 気を取り直す様に彼女は咳払いを一つする。尤も顔の赤面はそのままだった。


「そうだな……今回は嬢ちゃんの方に行くぞ」


 その瞬間酒場はシンッと静まり返える。別に守孝の言動のせいでは無い。インが音を立てて立ち上がったからだ。


「ど、どうした。イン?」


「マスターの……」


「マスターの?」


「マスターのバカー!」


 涙目になったインの綺麗な一撃が守孝の頬を襲った。その時、酒場にいた客達の心の声は一つに集約された。



(((ザマァみろ………!!)))






 そんなこんなで守孝とインの新たな一日が始まるのであった。そして彼らはこの時。あんな事をなっているとは思いもしなかったのだった……。



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