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閑話

今回のお話は[クリーズ商会]の後処理と……ある一人の少女のお話です。後半胸くそ注意


 こうして守孝はマルクスから依頼された[クリーズ商会]への報復は終わった。しかし守孝達の仕事が終ったからと言って、まだ[クリーズ商会]に降りかかる受難はまだ終わっていなかったのだった。


 守孝達が襲撃し奪取した証拠類は翌日……正確には同日朝方には王国の司法機関に渡った。


 勿論、匿名希望であり今回の襲撃事件と関連付けられない様に幾つかのクッションを設けた。これを行ったのはマルクスでありこう言う裏ルートを知っているのはやはり、蛇の道は蛇と言うことだろう。


 王国の司法機関。名をレヒト=シュヴェールト。通称、"法の剣"が証拠類を元にその日の昼には、[クリーズ商会]店主アドルフ・クリーズ及び商会幹部達の身柄の拘束。そしてクリーズ邸宅と王都の商会本部にガサ入れが入った。


 そして出るわ出るわ長年裏で行っていた悪行の数々が。貴族の御用商人と言うある種の特権階級で無くなり、守ってくれる後ろ楯も無い。[クリーズ商会]の未来は決まった。


 商会幹部達はその殆どが奴隷に落ちたか……処刑された。その中、店主アドルフ・クリーズは他の幹部達と比べ圧倒的に少ない刑罰が課せられた。罰金と数ヶ月の労働従事である。


 本来なら幹部達と同じ刑罰が課せられる筈だが、"自らは裏の事を辞めさせようとしたり、知らない間に行われていた"と言う証拠を自ら提出し、その証拠は本物と判断されたからだ。


 幹部達からは怒号や怨嗟の声が聞こえて来たが当の本人はどこ吹く風と言う感じであった……時より警戒するように周りを見渡していたが……


 そう言う事で[マルクス商会]と[クリーズ商会]との抗争は[クリーズ商会]の敗北。それも仕掛けた側が一方的に叩き潰される結果となった。


 これによって[マルクス商会]は更に躍進する事となる。同規模……いや[クリーズ商会]の方が規模が大きい、その[クリーズ商会]は無くなり、彼等が座っていた椅子は空席になった。そして[マルクス商会]はその椅子に座る事となったのだった。


 守孝とインが起こした……いや正確に言えば彼等は降りかかる火の粉をはたき落としただけなのだが。


 まあ此処まで大事になったのは彼等が居たからというのは事実であり、彼等が居なければマルクス一家は一家離散、部下達もバラバラになると言う最悪の結果になっていたのも事実である。




 さて、この短いながらも濃い二日間の事件の他に、王都の北地区ではとある小さな事件が起きていた。


 それは今回の事件に比べれば、本当に本当に小さな事件であり、王都全体でいえば路傍の片隅で起きた細事にもならない物であった……しかし関係する者達も居る……例えばあの二人とか……
















 彼女は北地区を歩いていた。足どりは軽く、鼻歌を歌うぐらい気分が良かった。ベレー帽の下では耳がピョコピョコと動く。


 彼女の名前はソフィヤ、名字は無い。この北地区の更に奥の貧民窟に暮らす獣人の孤児である。


「フフン、今日はお肉入りのスープが飲めるや」


 ソフィヤは嬉しそうそう言うと懐から二枚の金貨を取り出した。盗んだ物では無い。正当な働きをし、正当な報酬として受け取ったものだ。もっとも普通の相場よりは多い。


 と言っても彼女がその金額を提示した訳では無く……あの変な二人組……守孝とインが提示したのだ。


 彼等も何も知らずにこの金額を渡した訳では無い。口止め料としてこの金額を渡していた。


 そんな事はつゆ知らないソフィヤは彼女にとって大金を手に入れ小躍りしたいぐらい嬉しいかった。


「あっ……」


 だが、その気持ちは直ぐに消え失せた。あるものを見つけたからだ。彼女の目に映る者、それは……家族だった。


 逞しい肉体的をした男性とその妻であろう女性。そして彼女とと同じ位の少女が仲良さそうに歩いている。


「あなた今日一日ご苦労様。ですが良いんですか外食なんて?」


「良いんだよ今日位……遂にな、親方から鍛冶の腕を褒められたんだ……!『お前の作る刃……中々良くなってきた』って……!」


「ほんと!おめでとうお父さん!」


 それは仲睦まじく微笑ましい光景であり。王都でもごくありふれた光景であった。


 だが、そんな光景はソフィヤには願っても手に入らない。何故なら彼女は孤児だからだ。


 彼女は父の強い心を知らない。彼女は母の暖かい心を知らない。彼女は家族という存在を知らないのだ。知らないと言うのは……それは恐怖や嫉妬へと変わってく。


 『何で私だけ……』『どうして私にはお父さんもお母さんもいないの……?』『どうして、どうして……ドウシテ……!』『知らない……怖い怖い……コワイ……!』


 そんな感情が彼女の頭の中を駆け巡る。こんな所に居たくない。そんな気持ちで頭が一杯になり……路地まで走った。


 走って走って走って、北地区大通りの喧騒が聞こえなくなる程離れると、ソフィヤは壁にもたれ掛かり体操座りの様な風に座った。


「何で僕は捨てられたんだろう……」


 そうポツリとソフィヤは呟いた。いや、彼女も分かっている。自分の両親も捨てたくて捨てた訳ではないと。もし、本当に"要らない"なら自分は生まれた瞬間に"処分"される。彼女は"そういう"光景を何度も見ていた。


 赤ん坊では生きて行けない、貧民窟では自分の事は自分でやる。隙を見せてはいけない。相手に向けた優しさは……刃で返ってくるそんな世界だ。


「……あれ?」


 その時、ソフィヤの中にふとある疑問が浮かび上がった。何時もは食料の調達をするので忙しく、気にも止めなかったが、改めて考えてみると明らかにおかしい。


「……じゃあ何で生きているの……?」


 彼女の記憶には両親の姿は無い。だから彼女は物心つく前、赤ん坊の時に捨てられた事になる。


 だが、赤ん坊ではこの貧民窟では生きられない。そうなると誰かに預けられたと言う可能性も有るが、それも彼女の記憶には無い。


 つまり彼女の出生からこの貧民窟に捨てられる迄に大きな穴が存在しているのだ。記憶には存在しない大きな穴が。


 まるで"誰かしらの力によってここに連れてこられた"様で……。


「そんな訳……ないよね」


 彼女は自分の言葉を歯切れ悪く否定した。普通そんなことはあり得ない"普通"なら……。


 「……はぁ、止めよ。そんなことを考えたってお腹の足しにはならないよ」


 彼女は立ち上りパンパンと衣服の汚れを払うと、懐から二枚の金貨を取り出した。これを見るたびに彼女の頬を自然と緩む。


「にへへっ……」


 自分の力で手に入れた正当な報酬。自分の力で初めての手に入れた報酬。それが堪らなく嬉しいのだ。


「……変な人達だったね」


 そうポツリと彼女は呟いた。思い浮かべるのはあの変な二人組。人形の様な、この世の物とは思えないメイド服を着た少女イン。そしてあの黒髪で顔に大きな傷がある男、鴉羽守孝。


(おの人達は何者なんだろ……)

 

 彼女の様な孤児、それも獣人と普通に喋る人間は稀であった。大抵の人間は獣人と喋るのを忌避する。


 彼等曰く『獣人と喋ると体が穢れる』だそうだ。本当はそんな事は無い。だが長い年月流れた嘘は真実に変わるものだ。


 そして貧民窟ではそれが更に顕著になる。人と言うのは自分よりヒエラルキーが下の者を作りたがる習性を持っているからだ。


 だが、あの二人はそんなの関係が無いとばかりに優しくソフィヤに接した。それが彼女には不思議で……そして嬉しかった。


 それこそ彼女の周りに居る人は……他を見下す人か他に見下される人。他を食い物にする人と他に食い物にされる人しかいない。


 そこに人間と獣人の違いは無い。ここでは気を抜いてはいけない。弱肉強食、それが王都北地区貧民窟だ。




 ……そしてそれは有象無象関係なく訪れる。




「さてそろそろ……!?」


「おっとここは通行止めだ……!」


 ソフィヤがそろそろここを離れようとしていた時だった。男が彼女の前を塞いだ。身形はみすぼらしく貧民窟の住人である。彼女は彼に見覚えは無かった。


「……何か用?」


「用って事でも無いんだがな……お前が持ってる金貨を寄越しな……!」


 その言葉にソフィヤは心の中で舌打ちした。見られていたのだ。自分が金貨を見て笑っていたのを。何時もならそんな事はしない。だが今回は気が緩んでいた。


「僕はそんな大金は持ってないよ」


 彼女はジリジリと後ろに下がった。何とか気をそらして逃げる。金を渡すなんて絶対に嫌だ。これは僕のお金だ……!


「嘘を吐け"俺達"は見ていた。お前が笑いながら金貨を握っているのを……な!」


「"俺達"……しまっ!?」


 ソフィヤは男の言葉の意味を理解すると、踵を返して走り出した……だが遅かった。


「きゃう……!?」


 後ろの路地に隠れていた男二人にソフィヤは捕まれ地面に押さえつけられてしまった。彼女は何とか抜け出そうとするが、動けない。彼女の非力な腕では大人二人の力には抵抗が出来なかった。


「おい、財布あったぞ……!」


「返せ!それは僕のだぞ!」


男達に財布を盗られる。財布の中には彼女が持っている殆どの金が入っている。何処かに隠すと絶対に盗られる。だから常に全財産を携帯していた。それが仇となった。


「返せ!返せよ!」


「うるせえぞ!ガキが!」


「きゃあ……!?」


男の一人が彼女の顔を殴り付ける。その拍子に彼女が被っていたベレー帽が飛び……彼女の頭から伸びる可愛らしい猫の耳がピョコんと跳ねた。


「こ、コイツ獣人の女じゃねえか……!?」


「げ、穢らわしい……!」


男達はソフィヤが獣人と分かると瞬間的に手を話してしまった。その隙を彼女は逃さすに逃げようとするが……


「待ちやがれ!」


男の蹴りが彼女の腹に入る。体重が軽い彼女は体が浮き上がり、腹の中にあった内容物が口へと逆流する。


「ゲホッゲホッ……!?」


「てめぇ様な穢らわしい獣人でしかも女のガキが何でこんな大金を持ってんだ?正直に話せばこれ以上の事はしねぇ」


 男達の中で唯一冷静な行動をする恐らく頭目であろう男は、ゆっくりと近付き彼女の髪を引っ張ると顔を無理矢理上げさせる。


「し、知らない」


 彼女は拒否した。約束だからだ。自分と対等に接してくれた二人を裏切りたくは無い。


 男は彼女の髪から手を離すとまるでボールを蹴るかの様に、彼女の腹を蹴った。その勢いで彼女は壁まで吹っ飛ばされる。


「何て言った?よく聞こえなかったなぁ!?」


 壁まで吹っ飛ばされた彼女を頭目の男は胸ぐらを掴み持ち上げる。彼女は足をバタつかせて抵抗するが……足は空を切るのみだった。


「最後の警告だ。お前が金を手に入れた方法を教えろ。お前の様な穢らわしい獣人が手に入れたんだ。どうせ薄汚い事でもしたんだろ?」


 男は舐めるように彼女を見る。彼女はこの目を知っている。何人もこの目をした男に連れ去られる女性を見てきた。


 何をされるかも知っていた……このまま言ってしまおうか……嫌だあの人達を裏切りたくは無い……!


「……ない」


「なんだって?」


「……言う訳無いだろこの○ンポ野郎!」


 彼女は投げられ踏みつけられる。この時彼女の運命は決まった。


「よく分かった覚悟しろよ……!おい連れてくぞ!」


 彼女は髪を掴まれ引き摺られる様に連れてかれる。彼女は必死に平静を保とうとするが……恐怖で歯が鳴る。


そして、ソフィヤを連れた男達は貧民窟の暗闇に消えていった。









嫌だ



嫌だ嫌だ嫌だ



嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ



嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ







嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤだ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ痛い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ痛い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいたい嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだ嫌だ嫌だ嫌だイヤだ嫌だイヤだ嫌だイタイいやだイヤだ嫌だ嫌だイヤだ痛い嫌だイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ痛いイヤだイヤだイヤだイヤだイタイいやだイタイイヤだイヤだいやだイタイいやだ




































































































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