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四十三話



 インの耳は部屋から聞こえてくる窓の割れる音をとらえていた。それは恐らくマスターである守孝が放った弾丸であると瞬時に理解する。


(マスターの身に何かあったのでしょうか……?)


 しかしインに内蔵されている高性能センサーは、部屋に入ってから今までの守孝の行動を追跡しており、彼が現在であると示していた。


 心配だがインは部屋に入ることはしない。何故なら己の主人はこんな所で死ぬような人ではない。そう確信しているだ


 窓が割れた音で不審に気付いたのか、一気に邸内そして庭が騒がしくなる。幾つもの光点が忙しく動き回っている。その矢先、守孝が部屋から出てきた。その姿は部屋に入る前と同じ姿であった。


「マスター!ご無事でしたか!」


「インか此方は大丈夫だ。そっちは変わりは無いか?」


「邸内及び庭が騒がしくなっています。恐らく約五分後にはここに来ます」


 インの言葉に守孝は小さく舌打ちする。原因は分かっていた、先程のM45A1から放った弾丸が窓を割った事だろう。勿論守孝はクリーズが起きてるのを知ってからこうなるのは想定済みだ。だが原因は彼である。


「……良しじゃあ手短にこれから流れを話すぞ。先ずインは入ってきた入り口からコレを持って脱出だ」


 守孝は背負っていた証拠入りのバックをインに渡した。彼女はそれを受けとり背負う。これで証拠となる裏帳簿などは確実に届ける事が出来る。彼女は先程やった様に、この館のメイドに成り済まして脱出すれば良いからだ。


「了解ですマスター……あれ?マスターはどちらから?」


インの疑問は守孝が[ピースメイカー]を取り出し、あるモノを取り出すと彼女は直ぐに理解した。


「俺はインの囮になる必要があるからな。正面から堂々とコレで行かしてもらう。お前は俺が庭に出た瞬間、門を破壊してほしい」


 それはあまりにも大胆過ぎる作戦であった。何時もの守孝では考えられない。何時なら慎重に正確に……なのだがとインは思ったがそうでもない。


 守孝は本来こう言う男なのだ。何時もは慎重に行動するが、ここ一番は大胆にそして一つは保険を作って行動する。そう言う男なのだ。


「はぁ、分かりましたマスター……いえ守孝様。絶対無事に帰って来て下さいね」


「勿論だ。勝算が無いとこんなマネはしない。さてイン、そろそろ行動開始だ」


 守孝はそれに跨がりエンジンをスタートさせる。外中騒がしい館の中に重く体の中に響くような爆音が響き渡った。


「さて、派手に行こう」









「おい!急げ!賊を討ち取ったら褒美が貰えるかもしれないぞ!」


「分かってら!おら!お前ら急げ!急げ!」


 男達は剣やボウガンを携え邸内に入っていた。薄暗かった邸内は蝋燭やカンテラが置かれ明るくなっている。


「賊はどこにいるんだ?」


一人の外で警備に就いていた男が近くにいた奴に状況を聞く。


「分からん。だが、音が聞こえたのは2階からだ。恐らくだが二階にいるんだろ」


「じゃあ何故二階に向かわん?」


「人数が揃ったら行くつもりだ。あいてが何人か分からんからな」


 その言葉を聞くと男は心の中で舌打ちした。相手が何人かなんて大体想像がつくからだ。


 相手はこそこそと中に居た間抜けな奴らをやり過ごして二階に侵入している。だから大人数な訳がない。多くて三四人、恐らく一人か二人だろう。


 (だからこのまま今居る人数……約十五人で押し入ってしまえば、数の暴力で簡単に畳んじまう事ができるのに……!)


 だが、この場に集まって者達はこの場から行こうとする者は居ない。


 もし俺達よりも大人数なら……!もし俺達よりも強かったら……!もし捕まえられても相手が抵抗して怪我……もしかしたら死ぬかもそれない……!


 自己愛……自己保全。要するに"自分は手を汚したくないが手柄が欲しい"そんな人間の集まりなのだ。


(俺だけで行くか……?いやそれは他の奴等に何て言われるか……)


 そう言う男もさっさと行けば良いのだが、行かない。結局は同じ穴の狢だ。


 そしてそんな時に邸宅内で爆音が響き渡った。


「な、なんだ!?この音は!?」


「に、二階からだぞ!?」


 男達は狼狽え困惑する。こんな音は人生で一度も聞いたことがない。その音は段々と此方へと向かってくる……!


「こ、此方に来るぞ……!」


 ある一人が他の男達に警告した瞬間……濃い緑の様な色をした鋼鉄の馬が二階から手すりをぶち破って男達が集まるエントランスへと降りてくる。


「な、なんだ~!?」


「チッ……やっぱり二階から飛び降りるのは馬鹿だったな。衝撃でちょっと辛い」


困惑している男達を尻目に鋼鉄の馬に乗りし男。鴉羽守孝はエンジンを吹かす。そうすると心地良い重低音がエントランスに響き渡った。


「……あ!ぞ、賊め!大人しくお縄につけ!」


 我に返った男が一人が鋼鉄の馬……バイクに跨がる守孝を捕らえようと近付く。だがその瞬間、守孝は思いっきりエンジンを吹かして発進し男達を振り切って庭へと出る。


「流石はハーレーだな。余裕の音だ馬力が違う」


 守孝が[ピースメイカー]で取り出したのはアメリカの大手バイク会社ハーレーダビッドソン、日本ではハーレーの名で有名な会社の ハーレーダビットソンWLA だ。


 軍用バイクでハーレーダビットソンWLAは主に第二次世界対戦時にアメリカが使用したモデルで民間モデルであるWLと殆ど変わらなく、泥除けや弾薬ボックスが増設されている位だ。


 しかしその中で大きな特徴なのが前輪部分に革製のサブマシンガンケースがあり、軍用バイク独特の装備品と言える。


 彼がコレを選んだ理由は……はっきりと言えば"趣味"だ。


「やっぱりハーレーだな。この力強い重低音……!流石はV型エンジン。そして何よりもこの厳つさよ……!正にバイクって感じだ……!」


 V型エンジン排気量750ccの大型エンジンは唸りを上げ、ハーレーは守孝を乗せて一目散に門の近くまで駆けて行く。


 彼の持論から言えば……これはバイクファンから怒られるかも知れないが、"根本的な性能面で言えばバイクに大きな差は生まれない"との事だ。


 勿論、オフロードモデル、オンロードモデルやタウンユースモデルでは走る場所、用途や排気量も違うのだが……人を乗せて二輪で走ると言う根本的なものは変わらない。要は人それぞれの趣向の問題なのだ。


 自分がカッコいいと思うモノに乗れば良い、ざっくり言えばそう言うことだ。


 そう言う事で小さな村では広場になりそうな程の庭をハーレーダビットソンWLAは駆けて抜けていく。大きな庭と言ってもあくまで庭。重低音を轟かす鋼鉄の馬には小さすぎる。


「……おっと、そろそろか」


 守孝は片手をハーレーのハンドルから放すと、無線の送信ボタンを押す。


『イン。そろそろだやってくれ』


『了解しました。今から三秒後です……さん……』


彼は無線を切るとスロットルを更に入れる。エンジンは呼応するかの様に唸りを上げスピードを上げる。


 そして間もなく門に差し掛かろうとしたその瞬間……シューッと言う空気を切る音と共に彼の横を横切る飛翔物。


 それは門に着弾すると……轟音と破片を撒き散らし彼の前を立ちはだかっていた門を破壊したのだ。


「命中確認……さて、私も離脱しましょう」


 そういい放つのは邸宅の屋根の上に立つ、メイド服の銀髪美少女自動人形(自称)のインだ。手には彼女には不釣り合いな巨大な大穴が空いた……大砲と言っても差し支えない銃だ。名はM4カールグフタス。スウェーデンが開発した多目的無反動砲だ。


 スウェーデンはサーブ・ボフォース・ダイナミクス社が開発した無反動砲であり、1946年に初期型が開発された息の長い兵器である。


 本来は戦車やトーチカを破壊する兵器であり門を破壊する兵器ではない。


 故に門は意図も容易く崩れ落ちた。


 インは屋根の上から下を睥睨する。主人の守孝は既に門を抜け。走り去り後にはV型エンジンの重低音が余韻の様に残されていた。


 門は煌々と炎上げて燃え、庭では怒鳴り声が響く。正に戦場のそれである。彼女は身震いした。これの情景を生み出したのは……たった一人の男。己の主人、鴉羽守孝が起こしたのだ。


(マスターはどうも思っているのでしょうか?)


 彼女には訳が分からない。知識は有っても経験が無い。


「一回マスターに聞いてみましょう」


 分からないなら聞く。それが成長に繋がるのだ。彼女は一応の納得をつけると屋根から飛び下り闇の中に消える。


 これを持ってこの日の守孝とインの仕事は終わったのだった。



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