三十七話
守孝がライトで合図してから数分後、手代達を乗せた馬車が来た。手代達は救出されたミシェルの姿を見ると全員が歓喜の声を上げる。
守孝はそれを止めはしなかったが、手代達に指示をする。今の最優先事項は、直ぐ様この場を後にしてミシェルを、マルクスまで送り届ける事だ。
それを手代達も分かっている様で彼が指示をすると、直ぐに撤収の用意を進めた。
先ずはミシェルを毛布で保護をし手代達と一緒に馬車にのせる。次にあのリーダーの男を乗せ。最後に守孝達が馬車に乗った。
隠れ家に残された他の死体はどうするかを考えていると、同行しているマルクスの子飼いの冒険者カールから提案が出された。
「アレらは別に放おって置いて大丈夫だと思うぞ」
「その理由は?」
「ここは貧民窟で死体なんてもんはありふれている。大方明日の昼には死体も処理されて新たな住人が住んでるだろうな」
王都の闇を感じながら、守孝達が乗せた馬車は出発した。馬車が離れると、何処からか複数人の影が蠢くのが見える。
彼等は待っていたのだ。自分の取り分を得るために。
「……ふむ?」
「どうしたイン。何か捉えたのか?」
「今、知っている様な人が居たのですが……見間違えですね」
そうして馬車は隠れ家から走り去り、北地区を抜ける。しかしこの時、インは一つ嘘をついた。インは知っていたその少女を。だが、彼女は拒否した。その姿は余りにも己の主人には言えなかったからだ。
その少女はベレー帽の様な帽子を被っていた。
馬車は月明かりの中、王都を走り抜け[マルクス商会]にたどり着く。馬車は商会裏の馬車乗り入れ口に入るとマルクスが出迎えた。
「マルクスお前、ずっと其処で待っていたのか」
「娘の事が心配でな……それで首尾は?」
マルクスの問に守孝は馬車の方に手招きした……すると、奥からマルクスの娘、ミシェルが現れた。
守孝がミシェルを馬車から降ろすと、彼女は父であるマルクスを見ると泣きながら駆け走る。
「お父様ー!」
「ミシェル!大丈夫か!?怪我は無いか!?」
駆け寄ったミシェルをマルクスは確りと掴まえ抱き締めた。この場にミシェルの涙がこもる声と、マルクスの安堵、心配など色々感情がこもった声が響く。
「うん大丈夫!インのおねいちゃんとモリタカのおじさんが助けてくれたの!」
「そうか……そうか……!お前が無事で本当に良かった!」
マルクスはミシェルを更に強く抱き締めた。
「もう、お父様。強く抱き締めないでよ。痛いわ」
「……おお、済まない。だが、本当に助かって良かった。さあ、ミシェル家に入ってあ母さんにもその顔を見せてあげなさい。お母さんもお前が心配で心配で大変だったんだぞ」
「分かったわお父様!」
マルクスはミシェルを抱き締めるのを止め、一人の女中を呼ぶ。その女中に彼女の事を任せて、彼は守孝達の方に向かった。
「モリタカ……インちゃん。今回は本当に助かった……!この恩は一生忘れない……!」
マルクスは守孝達の前まで来ると深々と礼を言う。
「お互い様さマルクス。俺はお前にこの国に来て、色々と助けて貰ってるそのお返しさ」
「そうは言っても、俺もお前に色々と助けて貰ってる。お前が何と言おうと、俺はお前に恩を返したいんだ」
「その気持ちは素直に受け取っておく……それよりもだマルクス。これからどうするか……だ」
守孝は後ろを指差す。それをマルクスが見るとそこには今まさに馬車から降ろさせる、ズタ袋を被せられた男の姿があった。
「……あいつは?」
「今回の誘拐事件のリーダー格の男だ。他の奴等は排除した。こいつはお前が好きにしていいぞ」
「そうか……コイツが今回の犯人か。色々とお返しをしてやりたいが、それよりも背後にいる奴を突き止めるが先だな」
そう言うマルクスの目は据わっていた。単独の犯行ならこの場で物言わぬ死体になっていただろう。
「……モリタカ、アイツから情報を抜き出してくれないか?」
「俺はマルクス。お前にミシェルちゃんの救出を依頼された。だが、報復まで依頼を受けた覚えは無いぞ」
守孝はマルクスがしようとしていることを拒否した。別にやりたく無いからではない。だが、契約が全てである傭兵の世界の流儀に則っている。それだけだった。
「ああ、守孝お前の流儀は分かってる。これは新しい依頼だ。ちゃんと依頼料も払う。お前も分かるだろう。この商人の世界は……"舐められる"のだけはダメだ。それは商人的な意味で死を意味する」
そして守孝自信が持つ傭兵の流儀を理解したマルクスはそれに合う返答をした。どちらにも守るべき流儀がある。だからこそ、この様な回りくどい会話になってしまうのだった。
「OKマルクス契約完了だ。内容は……"今回の黒幕に対する報復"。報復内容は此方が決める。それでいいな?」
「ああ、それで良い。存分にやってくれ」
そうと決まれば守孝の行動は早かった。手代達にリーダーの男を防音が出来る場所に運ぶ。その場所は[マルクス商会]の地下室だ。本来は物置として使ってる部屋を使用する事になった。
「マスターお手伝いしましょうか?」
「お前はしなくて良い。マルクスや他の皆と一緒に待ってろ」
既に男は地下室に運び込まれ、守孝はインと共に地下室への入り口前にたっていた。手には様々な……大工道具を持っていた。
「ですが……」
「心配するなイン。直ぐに終わる」
そう言って彼は笑い、インをポンと一撫ですると。地下室へと降りていく。インは彼に言うことが出来なかった。その笑顔と後ろ姿が妙に寂しそうだった事を…………
暗闇の中に一筋、蝋燭の弱々しい光が灯っている。それに映し出され椅子に縛られた男と、それに向き合う全面黒ずくめの男。
「さあ楽しいお話し合いの時間だ。お前がちゃんと話す事が出来たら、俺"は"お前を殺すことはしない」
「へっお前なんかに話す事なんて無いね」
黒ずくめの男……守孝は椅子に縛られた男の手の甲に五寸釘を合わせ、金槌を振り上げる。
「じゃあ喋りやすくしてやるよ」
守孝は金槌を振り下ろした。




