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三十六話



 隠れ家の中は閃光と爆音に支配される。その原因は、守孝が隠れ家の中に投擲したフラッシュバン(閃光手榴弾)だった。


 閃光と爆音を撒き散らすフラッシュバン。こう言う時に大いに役に立つ。


「良し……じゃあ行くか……!」


守孝は隠れ家から漏れる光が収まるのを確認すると、暗視スコープを装着しドアを蹴破った。


「ぎゃあぁぁ!?目が!?目がぁ!?」


「どうなってるだ!?耳鳴りがひでぇ!」


「くそ……敵襲か!?」


「うお!?……誰だ何か振り回している奴は!?」


「おい!お前ら落ち着け!敵襲!敵襲だ!」


 隠れ家の中は混沌と化していた。目を押さえて転げ回る男。耳を押さえてフラフラと歩いている男。手にもっている剣をやたらめったら振り回している男。状況が理解できず立ったままの男。そして、何とか他の奴らを落ち着かせようとしている男。恐らく最後の男がこの誘拐犯達のリーダーだ。


(リーダー以外要らないか……)


 彼は部屋に踏み込んで直ぐに冷静に……そして冷徹に判断した。


 大抵情報を持っているのはリーダー格で、他は情報を持ってないと言うのはざらにある。と、なるとリーダー以外は邪魔になる。運ぶのも邪魔であり……生きていても困る……そう、彼は判断したのだった。


 MP7を構え彼は引き金を引いた。


 剣を振り回す男は胸に二発、頭に一発命中し男は前のめりに倒れる。耳を押さえている男と突っ立てる男は、頭に一発弾が当たり、脳髄を撒き散らせながら後ろに倒れた。


 リーダー格の男には右の太股に一発撃ち込み、倒れ右の太股を押さえている隙に鳩尾を蹴りあげた。リーダー格の男は息が出来ないのか、苦しみながら藻掻く。


「ヒッ……ヒィィィ!?た、助けて……!」


 最後の一人……床を転げ回っていた男は、目は霞んで見えず、耳は耳鳴りが酷くとも現在の状況が理解できた。ナニかが俺達を殺してる……!


「た、頼む……!助けてくれよ……な!見逃してくれたら何でも言うことを聞く……!」


 男は手探りで後ろに下がりながら、そのナニかに懇願をした。彼の心には"死にたくない"その気持ちしか無い。その行動が他の男達を裏切ろうとも知ったことではなかった。ただ助かりたいそれだけだ。


 守孝はその男腹を蹴り動けなくすると、冷徹にMP7の照準を男の頭に定めた。


「……お前らは助けてくれって懇願した奴を見逃した事があるか?」


「は……?……そんな事する訳が……」


「それが答えだ」


守孝はMP7の引き金を引いた。男の目の下に出来た新たな穴から血が垂れ、後頭部からは頭の内容物が吹き出る。そしてピクピクと痙攣をした後動かなくなった。

 

「……さて、後はお前だけだな」


 腹と右の太股を押さえ苦しむ……リーダー格の男に話し掛ける。


「ハァ……ハァ……て、テメェは何者なんだ!?」


 流石に時間が経ったのか朧気ながらリーダー格の男は、自分が率いてる集団を皆殺しにした男の姿を捉えた。


 全身黒の服で顔すらも布で隠し目に何やら付けているこの男。一見すれば武器の様な物は持ってない。持つのは変な形をした黒色の物体。だか、リーダー格の男は本能で理解していた。あのヘンテコな武器が俺達を皆殺しにしたのだと……


「お前らに名乗る価値は無い。さて、拘束させて貰うぞ。抵抗するなら……分かってるな」


 守孝の脅しに男はコクコクと必死に頷く。彼の脅しには"本当にする"と言う凄みがあった。彼はポーチから一本の、一般的に言えば結束バンドの様な物を取り出す。


 これは簡易のハンドカフ(手錠)であり、それで男の腕を後ろで縛った。更に口に猿轡をさせ、頭にはズタ袋を被せる。


「お前、ここから一回でも暴れたり、逃げようとするなら……お前の頭は腐ったトマト見たいになるぞ」


「は、はい!分かりましたぁ!」


守孝は死なれても男の太股を止血すると、「動くなよ」と念押しをし、後ろに在る寝室へと続く扉に手をかけた。


「イン、入るぞ」


「マスター。入って大丈夫ですよ敵はどうですか?」


「大丈夫、無力化した」


 インは寝室にある窓から忍び込みミシェルの確保と保護、そして守孝が誘拐犯達の排除。それが今回の役割であり、それは成功した。


 彼が寝室に入ると、インがマルクスの娘であるミシェルの拘束を解いているところだった。目隠しを外され見えるようになっていたミシェルはいきなり入ってきた変な格好の男に吃驚してしまった。


「ヒッ!お、おじさん……だれ?」


「誰って……俺だよミシェルちゃん。君のお父さんの友人の鴉羽守孝だよ……あぁ、そうかバラクバと暗視スコープで分からなかったな。驚かせてごめん、今外すよ」


そう言って守孝はバラクバと暗視スコープを外した。


「あ!昨日のおじさん……!」


「おじさんって……もう、おじさんと言われても可笑しく無い歳だったな俺」


 既に三十路を越えている守孝。朝起きると体の重さを感じるこの日頃……彼はおじさんでは無いと言い切れない自分に悲しくなった。


「そ、そんな事よりもマスター!早くここから退散しまして、ミシェルちゃんをマルクスさんに会わせましょう!」


「……ん?ああ、そうだな。直ぐに馬車を来させよう」


 インが強引に話を変え、気を取り直した守孝はミシェルを連れ寝室から出ようとドアに手をかけるが、ふとある事に気が付いた。


「どうなさいましたマスター?」


「無力化した誘拐犯達が、ミシェルちゃんには刺激が強すぎると思ってな」


 そう、このドアの向こうには一名を除き全員、二度と覚めない眠りにつき。床や壁には赤や白っぽいナニかが散乱している。今は夜で室内はカンテラが有るくらいで薄暗いがそれでも確りと分かる。


こんなものを見せられたらミシェルは一生もののトラウマになってしまうだろう。


「良いかいミシェルちゃん。これからおじさんが言うことを確りと守ってくれないかな?」


彼の言葉にミシェルはコクンと頷いた。


「ありがとう、それでお願いと言うのは。外に出るまで絶対に目をつぶっている事。いいね?」


「うん。分かったわ」


「良し、良い子だ。イン。俺は先に軽く片付ける。俺が合図するからミシェルちゃんを連れて此方に来い」


「了解ですマスター」


 守孝はミシェルの頭を一度軽く撫でると、誘拐犯達の骸が散乱している居間へと入る。


 生き残りの男はちゃんとそこで待っていた。守孝はそれを確認すると、骸を端の暗く見えにくい所にどかし男を家の外に出した。


 彼も一緒に外に出て、ライトを三度点滅させる。これで一緒に来ている手代達が馬車と一緒に来る手筈だ。それを終えると彼はイン達に声をかけた。


「イン。此方の準備は終わった。ミシェルちゃんを連れて此方に来てくれ」


「分かりました。今向かいます!」


 インは外に居る己の主人に返答すると、ミシェルを見た。


「じゃあミシェルちゃん。今から行くけど、私の手を握って目は絶対に開けないでね」


「分かったわインのおねいちゃん」


 ミシェルはインの手を確りと握り、目をギュッと瞑った。それをインは確認すると、守孝と合流するべく骸転がる居間へと入った。


 居間へと入ったミシェルが先ず感じたのは、咽返る程の血の臭いだった。酒精が混じり、そしてよく分からない臭いもある。


 その臭いはミシェルの鼻孔をくすぐる。まだ、幼い彼女にもこの場で何かあったのかが否応にも理解でき、そして恐怖した。あの、自分の父の友人が何をしたのかを。


 彼女は泣き出しそうになるのを必死に押さえた。幼いながらも、自分のせいで手を汚したあの男の人に失礼と感じたのだった。


「……ミシェルちゃん。もう目を開けても良いですよ」


 ミシェルが手を握っている。あの美しい女の人から、鈴の様な美しい声が届いた。それに応答するかの様に彼女は目を開けた。


「……凄く綺麗……」


 彼女の目に写ったのは、天高くこの地を覗き込んでいる。双頭の満月だった。



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